その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
──うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
──ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「な、なんだ!?」
「音也くん! 周りが……!」
突然大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。驚いて足を止めた俺たちは何事かと周囲を見渡すがそうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり……気が付けば俺たちは大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。
何百隻もの帆船が一斉に動き出す。どうやら俺たちは幻覚で昔の海戦を見せられているらしい。しかも敵側(カッコカリ)から飛んできた魔法を迎撃してみるに、直接作用が可能な幻覚のようだ。
ゴォオオオオオオオオ!!
ドォガァアアン!!
ドバァアアアア!!!
竜巻が船端を吹き飛ばし水流が船底に穴を開けマストが石化する。さらに甲板には炎弾が飛来し瞬く間に大火災が発生した。
その間に俺は幻覚相手に物理攻撃が通用するかどうかを確かめた。結果は不可能。ただし魔力を通した攻撃なら可能と。
「露葉さん。こいつらに物理攻撃は通用しない。魔力さえ通せば普通に攻撃可能だが……」
「どうする? 出口探すにも敵が多すぎるし……全部沈めちゃう?」
「賛成だ」
普段は殆ど使う必要がない魔法の準備をする。こう見えても無詠唱で魔法を発動させられるしユエ並みの魔法を発射することだって可能だ。
「〝豪驟雨〟」
初っぱなからオリジナル魔法発動。俺を中心として水属性の魔法弾が蜘蛛の子を散らすように拡散される。その一つ一つの魔法弾が鋭い刃のようになっており、本来なら触れた瞬間に大量出血で死に至らせるのだが……今回は着弾の瞬間に光となって霧散している。どうやら俺たちの攻撃で幻像を倒すと光になって露散するらしい。
そのことを理解した俺は魔力発動から魔皇力発動に切り換えた。範囲、威力、発動速度全てが倍増するので使わない理由がない。
露葉さんはというと〝纏雷〟をまるで雷のように飛ばしている。さらにはエレクトロファイヤーのように地面を伝って広範囲に放電しているし……やっぱチーターだ。
「死ねええええ!」
「おっと……」
「全ては神の御為にぃ!」
「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」
「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」
「我が魂は……エヒト様と共に有りいい!!」
「……ひでえ」
「世も末って感じだね」
いつの間にか露葉さんと背中合わせになっていたので俺の呟きにすぐ返答してくれた。いや、ホント世も末って感じである。
血走った眼に唾液を撒き散らしながら絶叫を上げる口元。まともに見れたものではない。
狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者や、死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神に捧げようと天にかかげる者もいる。他にも俺たちを殺すために弟ごと刺し貫こうとした兄とそれを誇らしげに笑う弟もいた。
戦争というのはこうも狂気が生まれる場所なのだろうか。あるいは妄信から生まれた災いなのだろうか。俺には分からない。
とはいえこのまま狂気に飲まれて尻込みする訳にはいかない。俺は露葉さんと一度目を合わせて頷き合い、再度狂った幻像たちに立ち向かうのだった。
────────────────
「うへえ……これで終わりか」
「流石に気が滅入るよ……人はあそこまで狂うことが出来るんだね」
「やっぱり人間は滅ぶべきだろ……」
最後の一人を船ごと沈めた途端に俺たちは元の世界……即ち現実に戻ってきた。
あまりにも多くの狂気に短時間で触れたことによって露葉さんの顔色が悪い。まあ俺でも吐きそうだし仕方のないことだろう。
が、悠長に休憩するわけにもいかないので俺は露葉さんの手を握って目の前にある一際大きな帆船へと近づいた。中々に豪華な見た目をしており、木造でかつ時間が経っているのに感動を与えられるその見た目に、何か物を作る人間として当時の職人たちに敬意を払いたくなる。
とりあえず露葉さんを抱えて跳び上がって豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立った。すると先ほどと同じように周囲の空間が歪み始める。
「またか……」
「気をしっかり持たないとね……気が滅入るのは仕方ないし」
そうこうしている内に周囲の景色は完全に変わり、今度は海上に浮かぶ豪華客船の上にいた。
時刻は夜で満月が夜天に輝いている。豪華客船は光に溢れキラキラと輝き、甲板には様々な飾り付けと立食式の料理が所狭しと並んでいて多くの人々が豪華な料理を片手に楽しげに談笑をしていた。
話を盗み聞いてみるに、どうやらこの海上パーティーは終戦を祝う為のものらしい。長年続いていた戦争が敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。船員たちも嬉しそうだ。よく見れば甲板にいるのは人間族だけでなく、魔人族や亜人族も多くいる。その誰もが種族の区別なく談笑をしていた。
しかし……とある人間族の初老の男とフードを被った人間が甲板に用意された壇上に上がったのを見てこれはヤバイと直感的に察知した。
「──こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ……実に、愚かだったと。そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君たちのことだ」
ここまで来れば何が起こるのかは分かる。その予想通りに船員の格好をした兵士たちが甲板を包囲する形で攻撃を開始。またたく間に甲板は絶望と血で塗り尽くされることになった。
そしてその地獄が終わって元の世界へ引き戻されるほんの短い時間の切れ目で、俺はフードから銀色に輝く髪が一房見た……気がした。
「……またまた気が滅入る光景だったよ」
「そりゃ仕方ないだろ。でも異世界人だったから気が滅入るだけで済んでいるんだ。この世界の人々は神とやらをかなり盲信してるからな……これを見せられたらかなり心がやられるだろ」
「それもそうね」
「さて、恐らくこれからこの船を探索することになるが……サッサと終わらせるか」
念のためファンガイアスレイヤーを取り出して俺は甲板に飛び降りて最後に王が入っていった扉を開けた。妙に寒い空気だが無視である。
船内は闇に閉ざされている。外は明るいので朽ちた木の隙間から光が差し込んでいてもおかしくないのだが……何故か全く光が届いていない。
仕方がないので俺はハジメが制作した懐中電灯を取り出して闇を払った。その矢先に俺たちの前には白いヒラヒラとした物が現れた。どうやら女の子らしい。
が、こんなとこに女の子がいるのはおかしいので速攻で纏雷を通したファンガイアスレイヤーで貫いた。その後も貞子モドキや生首と斧を引きずっていられる山男、口裂け女を瞬殺しながら先へ進む。怪奇に出会うたびに露葉さんの顔色が青を通り越して白になっているのが心配である。
「こういう怖い物は苦手か?」
「……逆に得意な人っているの?」
「さあ?」
「うう……雫はこういうの得意なんだけどね。私はどうしても苦手。お母さんと訓練した時に幻術で怪奇現象をひたすら見せられたことがトラウマでね
「何やってるんだ霧乃さん……」
左腕をガッチリホールドして離れなくなった露葉さんの話を聞いて思わず呆れてしまった。くノ一になる訓練はどうやらとんでもなく厳しいらしい。
そりゃあおかわりで剣術を習おうだなんて思わないだろう。くノ一でお腹いっぱいのはずだ。
とはいえ涙目になりながらも怪奇を撃退している姿には感心せざるを得ない。撃退ごとに頭を撫でてあげると少し復活するのでなんだかんだで前に進めている。
気がつけば最奥にある船倉まで辿り着いた。船倉内にはまばらに積荷が残っているのでとりあえず積荷方面へ向かおうとすると……扉がバタンッ! と勝手に閉じた。
さらにさらに深い霧が発生。もういっちょとばかりに暴風も吹き始めて露葉さんと離れ離れになってしまった。
「くそ……そこを動くなよ!」
気配を探そうにも霧には認識阻害効果があってアッサリ見失ってしまった。舌打ちしながらも声を張り上げる。と、同時に現れた歴戦の騎士みたいな幻像をファンガイアスレイヤーで片付ける。なんか剣技を俺に繰り出してきたが雫の絶技を見ている俺からしたらお遊びに過ぎない。
その後も武闘派の連中が襲いかかってくるが全て瞬殺した。全員雫よりも遅いので目で追うのは余裕だし破壊力もシアより下である。こんなのでピンチになる訳がない。
「露葉さん……どこだ?」
最後の男を倒すと同時に霧が晴れたので露葉さんを探すことに全神経を集中……する必要はなかった。
「ここだよ。音也くん」
「……良かった。無事だったか」
「うん。でも……すごく怖かったよ」
「そうか……」
「だからね、慰めて欲しいな」
微笑みながら近寄って俺に抱きつく露葉さん。鼻と鼻が触れ合いそうなほど間近い場所で俺の口元を見つめている。やがて、ゆっくりと近づいてきた露葉さんを俺は……
ズガア!
殴り飛ばした。
「な、なにをするの!?」
「……テメエ、やりやがったな。露葉さんが心を弱らせた所を狙いやがって。全部見えてるぞ? 露葉さんの体を巣食ったゴミ野郎の姿がな」
俺の義眼には露葉さんと重なる形で一人の女の亡霊が映っていた。
普段なら面倒くさそうな顔をしながらも何とかするが……今回ばかりはそれで気が済まない。魔力と魔皇力を全力展開して吹き飛ばした露葉さんにゆっくりと近寄る。
……俺の頬にスタンドグラスのような模様が浮かび上がっているとはつゆ知らずに。
さて、察しの良い人ならもう分かるとも思いますが……次回は事が大きく動きます。お楽しみに!
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)