その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
それと文と文の間隔も変えてみました。今回はお試し的な部分があるのでよろしかったら感想を頂けると嬉しいです。
「………」
「あんた本気なの?!この女がどうなってもいいの!?」
「黙れ」
「私が消滅すれば、この女の魂も壊れるのよ! それでもいいの!?」
「黙れと言っている」
徹底的に言葉を封殺していく。何も聞きたくない。特に目の前にいる亡霊の言葉など、何も聞きたくない。
どうやら人間は一度吹っ切れてしまえばただ殺すだけでは満足しないらしい。殺しても殺しても満たされない。むしろ殺すよりも苦しんでいる顔を見たい、と。
痛めつけたい。苦しめたい。絶望を味わってもらいたい。ただその一心で亡霊の女に近づいた……その刹那。
「グウウ……ガアア……」
俺の耳に人間ではない声が入ってきた。熊のような、虎のような……獣の鳴き声にそっくりだ。しかもその声は俺から発されているらしい。
ハッとしてその手を見れば、真っ黒な掌に魔女のような長く鋭い爪が伸びている。腕は真っ赤に染まり手首には盾にも似ている鉤爪が装着されていた。俺はこれに嫌というほど見覚えがある。
「コレハ……ナンダ?」
片言ながらも日本語を話す。突如自分の身に起きた異常事態に脳の処理が追いついていない。いや、理解するのを拒んでいるだけかもしれない。
が、理解していることも当然ある。この姿はキバの鎧を装着し続けた代償であること。そして消えることのない負の感情。途切れぬ殺意、残虐な願い。
「……オマエハユルサナイ」
溢れんばかりの魔皇力と殺意を一気に解放。魔皇力の波動がエネルギー波となって腕から射出された。
赤い、紅い魔皇力のエネルギー波は外れることなく亡霊に直撃した。まるで首吊りと皮剥、水責めに根性焼きを同時に受けたような顔の歪め方をしている亡霊を見て気分が何故だか高揚してしまう。もっとその顔を見たい。もっと苦しめ。もっと。もっと。もっと……。
片手から出していたエネルギー波を余っていたもう片方の手からも発射する。より一層苦しそうな顔をする亡霊に嘲笑を浴びせながらさらに出力を上げようとした。
しかし……
「……ナニカッテニキエテイルンダ?」
そう、亡霊の姿が透き通ってきたのだ。見た目も最初の時よりしわくちゃに感じる。追い打ちをかけるようにエネルギー波を撃ち込んでも反応しない。
俺はまだ満足していない。これっぽっちも満たされていない。足りない。全然足りない。誰が、誰が俺を満たしてくれるのだろう。
「グガガ……! ギィヤアアアア!!」
やり場のないこの気持ちを周りにぶつける。エネルギー波の衝撃で帆船内にある造形物全てが叩き壊され、天井が崩れ落ち、俺と露葉さんは生き埋めに近い形になってしまった。
しかしそこまでやっても満足出来ない。崩れ落ちてきた木材目がけて俺はエネルギー波を発射しようと……。
「お、音也くん……」
「……!」
「ダメ。それ以上は……ダメ!」
フラフラしながらも立ち上がり、俺の目の前に立ち塞がる露葉さん。その瞳は金剛力士像のように鋭く細められ、一つの動きでも許さないという不動の意思を感じさせる雰囲気だ。
「貴方の気持ちは全てではないけど分かる。やりきれない気持ち、満たされない気持ち……」
「ナラ……!」
「でもこれ以上はダメ! 巨大な力に飲み込まれて音也くんが壊れる所を見せられるぐらいなら……ここで死んでも貴方を止めてみせる!」
思い出される一つの記憶。力に溺れて目の前の女の子一人も守れず、俺自身も殺されかけたあの日。間一髪救援が入って事なきことを得たものの、俺は深く実感させられたではないか。
力に溺れた人間は、何一つ守れずにその身を滅ぼしていくだけだと。そして俺は約束したはずだ。二度と力に溺れて誰かを救えないなんてことが起きないようにする、と。
「グ……アア」
「私が……全て受け止めるから。その気持ち、全部受け止める。だから、元の姿に戻ってよ……」
俺が化け物の姿になっても変わらず抱き締めてくれる露葉さん。その変わらぬ優しさに安心し、俺も抱き締め返そうとした。
するとどうだろう。先ほどまでは真っ黒だった手が人間らしい物に戻っている。吐き出される息も獣のような物ではない。
「音也くん! 姿が元に……!」
「ありがとう……露葉さん。大事なことを思い出させてくれて」
激しく体力を消耗しているが、そんな様子は一ミリも見せずに露葉さんを抱き締めた。それほどにまで露葉さんは大切な存在であり、決して離れたくない人でもあるのだ。
それ故に露葉さんを傷つけられたと判断した俺は我を忘れるほど怒り狂ったのだが……。
「ううん。戻ってくれたなら良いの」
どうやら俺の堪忍袋は露葉さんが握っているらしい。その証拠に憎しみだの怒りだのが露葉さんに抱き締められることでスルスル抜けていった。きっと俺は生涯、露葉さんには敵わないだろう。
お互い抱き締め合って見つめ合い、恥ずかしくなって照れ笑いして。そんなことを何十回も繰り返していたので目の前に魔法陣が現れたことに気がつくのがかなり遅くなった。
もう一度お互いに見つめ合って頷き合う。そのまま俺たちは戸惑うことなく魔法陣へと足を踏み入れるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔法陣に足を踏み入れた瞬間に発生した光の爆発が収まり、目をゆっくりと開ける。俺たちは神殿のような場所に転送されていた。どうやらメイル・メルジーネの住処に到着したらしい。
神殿は四本の巨大な支柱に支えられていた。支柱の間に壁はなく、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。また、周囲を海水で満たされたその神殿からは海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。
これまでの大迷宮と比べるとかなり楽だな……と、思ったがすぐに考え直した。まず海底洞窟はクリアするまで魔法を使わなければならない。俺たちは潜水艦があったので楽に突破できたものの、本来ならこの時点で大量の魔力を消費して辛くなる。下手したらそのまま溺死だ。
そしてその後に現れたクリオネモドキは十分強かったし亡霊に関しても物理攻撃が通用しないのでまた魔法頼みになる。ましてやこの世界の人間は神への信仰心が非常に強い。そんな人があの凄惨な現実を突きつけられたとしたら……どうなるかはお分かりだろう。
要は俺たちが神のことなど何とも思っていない異世界人であり、チーターだったから楽に攻略できた。それだけである。
そんな考察をしていると、他のメンバーも魔法陣から現れた。どうやらクリア出来たらしい。香織に関してはハジメに背負われているが。
「あれ、香織どうした?」
「心配するな。こいつは甘えてるだけだからな」
「ずるいですぅ。変わってくださいよぉ」
どうも香織はハジメに甘えてるだけらしい。シアが抗議の声をあげ、香織がドヤ顔をして火に油を注ぐ。何時もの光景だ。
「……姉さん。くっつきすぎじゃない?」
「あら、嫉妬?」
……こちらも何時もの光景。姉妹でお互いにメンチを切り合う状況はこの旅の間に何度も見てきた。最近、露葉さんが遠慮をしなくなったので雫が拗ねやすくなったが……それも頭を撫でて軽く抱き寄せるだけで解決するのだからこちらとしては複雑な気分である。
変わらぬ光景を見せられて安心した俺だが、そろそろ神代魔法を手に入れたいので全員を促して祭壇の中心にある一際大きな魔法陣へと足を踏み入れた。いつもの通り脳内を精査され、記憶が読み取られた。しかし今回はそれだけでなく、他の者が経験したことも一緒に見させられるようだった。つまり雫たちが体験したことを共有することになったのである。
雫、ユエ、シア、ティオは戦争に勝利した人間族が、魔人族の女を徹底的に恥辱した上で殺害する光景や俺たちと同じように実際の戦いの幻を見せられたらしい。
ハジメと香織は他の四人と似たような光景を見せられたようだが……こちらは男や女関係なしに虐殺される光景と、神に捧げるための生け贄と宣った大虐殺を見せられたようだ。さらに膠着状態にある戦争にも巻き込まれたらしく、その様子は一言で表すと『泥沼』であった。
流石の雫たちでも大量虐殺を見せられるのはかなりメンタルに来たらしく、顔を青ざめている。
ようやく記憶の確認が終わり、無事に全員攻略者と認められたようである。俺たちの脳内に新たな神代魔法が刻み込まれていった。
新たに覚えた神代魔法は〝再生の力〟。俺は解放者の意地悪さに心底呆れ果ててしまった。再生魔法は【ハルツィナ樹海】の大樹内へ入るために必要な魔法であり、初めに樹海へ来た者は面倒な事に東の果てにある大迷宮を攻略するには西の果てにまで行くはめになるのだ。俺たちには四輪や二輪があるので比較的マシではあるが。
と、その時である。魔法陣の光が徐々に収まってきたという所で床から直方体がせり出てきた。小さめの祭壇のようだ。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやらオスカー・オルクスと同じくメッセージを残したらしい。
人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ。
雰囲気的にはオンモードの露葉さんに似ている。おっとりとした女性のようだが、どこか芯の通った所を感じさせる彼女はオスカーと同じようにこの世界の真実を語り、こう締め括った。
「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」
その言葉と共にメイル・メルジーネの姿は光となって露散し、代わりにその場には攻略の証であるコインが残された。
そして証をしまった途端、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。
速攻で潜水艦を取り出して全員を中に放り投げて潜水艦が水没する直前に俺も乗り込む。それと同時に天井部分が【グリューエン大火山】のショートカットのように開き、猛烈な勢いで海水が流れ込んだ。その竪穴に流れ込んで下から噴水に押し出されるように猛烈な勢いで上方へと吹き飛ばされる。
めちゃくちゃ強引で大雑把ななショートカット方法だ。メイル・メルジーネはおっとりとした女性かと思っていたが……残念。そんなことなかった。彼女はどうやら優しいお姉さん的な見た目に反して過激で大雑把な性格をしていたらしい。
俺は次から次へと起こるまさかの事態に思わずため息をつくのだった。
音也がブチ切れて変化した姿はバットファンガイアと同じ姿物です。能力等は後々説明していくつもりです。
恵里の処遇はどうする?
-
勇者バカ之河の被害者だから救おう
-
消せ(無慈悲)