その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
メルジーネ海底遺跡から放り出された俺たちは、海中に叩き付けられることとなった。そこまでは良いのだが……すっかり存在を忘れていたクリオネモドキが襲ってきた。
豪速で伸びてきた触手を何とか躱して俺はカウンター的な形で魚雷攻撃を仕掛けた。とりあえず搭載されている魚雷五十発全てを叩き込んで全速後退したので多少なりとも時間は稼げる。
「ご主人様。どうするのじゃ?」
「……海の中じゃあいつの思う壺だ。空間転移して空中に出る。空に出たらティオは竜になって俺たちを乗せてくれ」
「しかしご主人様よ。其方の顔色が悪いのじゃが……」
「黙ってろ。今はそんなこと気にしてられるか」
彼女たちを連れて『生きて』日本に帰るために俺の体調など気にしてはいられない。俺はすぐさま空間魔法の構築に取りかかるべく、キバットを呼び寄せた。
「行くぞ、コウモリモドキ」
「良かろう。ガブリッ!!」
「変身……!」
キバの鎧を纏って空間魔法の構築を開始する。空間魔法は扱いが非常に難しく、ユエですらも発動までに四十秒はかかる。俺だと素の状態なら一分以上かかるのは間違いない。
しかしキバの鎧を装着すれば発動までの時間を半分以下まで短縮することが出来るのだ。キバの鎧には強力な機能が多数備え付けられているが、何だかんだで魔法の発動までにかかる時間を大幅に短縮出来る機能が一番恐ろしいかもしれない。
「……行くぞ。〝界穿〟!」
ものの数秒で魔法の構築を完了。空間の二つの地点に穴を開けて二点の空間を繋げた。要するにワープゲートを作ったというわけだ。俺は潜水艦内に片方のワープゲートを作成した。その理由は簡単である。
「全員飛び込め!」
「あ、あの……潜水艦は?」
「囮だ囮。シアも無駄口叩いてないで早く行け!」
そう、潜水艦は囮だ。俺は触手がかなり正確に潜水艦を狙ってくるのに気がついたのだ。これを利用する以外有り得ない。
移動した先は既に空中だ。そのすぐ下にはティオの背中があった。そこに着地して一息つこうとしたところで……背筋が凍り付いた。
ドォゴオオオオオオオ!!!
ザバァアアアアアア!!!
なんと背中側から巨大な津波が接近してきたのである。いや、巨大というのもおこがましいだろう。もはや、壁、そして空だ。上空百メートルほどの高さを飛ぶティオの遥か天に白波を立てながら襲い来る津波は優に高さ五百メートルを超えているだろう。そして直径は一キロメートルくらいありそうだ。まるで神が起こした災厄である。
「ティオ!」
〝承知っ!〟
ティオが真っ直ぐ津波へ突貫する。上下左右への逃げ場はない。連続で空間魔法を扱うことなど不可能。ならば突破するのみ。その意思を言葉ではなく心で理解してくれたティオは凄まじい速度で飛行を始めた。
「ユエ、香織。障壁を頼む」
「……音也はどうする?」
「紋章に決まってるだろ?」
未だに破られたことのないキバの紋章をティオの飛行速度を上回って先行させる。さらにユエと香織が左右と後ろ側に障壁を展開。結果としてティオはバリアに包まれたような状態となって津波内へと突入することになった。
「……! 危ない!」
「そこ!」
「危ねえ!」
「見え見えですぅ!」
さらに障壁を展開していないメンバーが障壁を突き破ってきたクリオネモドキの触手を剣だの銃だの忍術だの大槌だので迎撃。破られた障壁は即座にユエと香織が修復していくため実質損害はゼロだ。
だがこちら側からも決定打を与えることは出来ないためかなり苦しい状況ではある。クリオネモドキはどうやら海を操ることも可能らしく、津波に重ねて水系攻撃魔法〝破断〟に近い攻撃を繰り出してくる。海の水は人間からしたらほぼ無限と言っても良いぐらいあるため攻撃手段が尽きることは有り得ない。しかし俺たちは触手を迎撃することで精一杯であり、肝心の本体への攻撃はままならない状態だ。つまり防戦一方。このままではユエと香織の魔力が切れて障壁がなくなり、俺たちは海中に沈んだあとに嬲り殺されるだろう。
何か策を考えないと生還は難しい。あのクリオネモドキはゼリーがあればゾンビのように復活してくる。しかしあのゼリーをどうにかしようにも、こちらの魔法が溶かされるのが先だろう。ゼリーの溶解速度を上回って攻撃を仕掛けなければなるまい。
しかし、ハジメの超兵器たちもあのゼリーには無力だ。そのことはメルジーネ海底遺跡に来てすぐにクリオネモドキと対局したときに把握している。ユエやティオの魔法もあのゼリーに溶かされてしまう。露葉さんの忍術だって少しの足止めにしかならなかった。シアと雫の近接戦闘はもってのほかだろう。魔皇力を使った魔法攻撃なら多少は効くかもしれないが、あまりにも不確定要素が多すぎる。
残された手段は……イクサでの自爆だろうか。いや、それでも足りない可能性が高い。あいつの再生能力と防御力は異常だ。もっと、もっと凄まじい破壊力を持つ攻撃手段は……あった。
「おいコウモリモドキ」
「なんだ?」
「……腹括れよ」
「待て、何をするつもりだ?」
黙ってウェイクアップフエッスルを取り出す。それを見てキバットの雰囲気が変わった。必死に俺のことを止めようとし、あくまでも反対だと訴えてくる。
無論死ぬつもりはない。必ず生きて帰るつもりだ。危険なのは重々承知しているが、残念なことに今の俺たちにはこの策しかないのだ。その事を必死に伝えると、渋々。本当に渋々といった感じでキバットが納得した。
「……やるぞ!」
「ウェイクアップ・II!」
「ティオ、ブレスを!」
〝承知!〟
「後の全員は張れるだけ結界を張れ! 限界まで、だ。頼むぞ!」
ティオの背中から飛び出して両足蹴りを繰り出す。ティオは俺に合わせて漆黒のブレスを口から発射した。こいつは怪人撃破率100%を誇るあの技の再現である。こいつだけで倒せるとは思っていないが高速で、かつ攻撃をしながら近づくには最適の手段だ。
さらに移動しながら先ほど発動させた空間魔法を紋章に付与しつつも回収。一つはティオの直上に固定し、もう一つは俺と並走させる。
そうこうしているうちに、俺はクリオネモドキの腹の中に突入した。腹の中、と言っても壁は透明なので不思議な感覚である。しかし悠長に感想を述べている時間はない。腹の中に獲物が来たと分かった途端、クリオネモドキは周囲に張っていたであろうゼリーを全て回収してきたのだ。俺は再びウェイクアップフエッスルを取り出した。
「お利口な奴だ。実に賢い判断だよ。だが……賢さが時にはその身を滅ぼすことまでは頭が回らないようだな!」
「ウェイクアップ・III!」
……そう。俺が思いついた最後にして最強、いや、最凶の手段はウェイクアップ・IIIことキングスワールドエンドを使用することだ。こいつは内包する魔力と魔皇力、全てを一気に解放することによって発生する大爆発によって攻撃する技だ。文字通り自爆技であり、普通のプロセスで発動すれば死亡は免れない。
天が震えて稲妻が奔る。海水は竜巻のように宙を舞い、先ほどクリオネモドキが起こした津波など比較にならない大津波を巻き起こしている。月は紅く染まり、常闇のに辺りは真っ暗となった。簡単に言うならば「世界の終わり」だ。
限界まで高められた魔皇力と魔力がキバの鎧から溢れだす。赤黒い光が滲むように辺りをドーム状に包み、絶対零度の殺意が周囲を満たした……その次の瞬間である。広がった光が一気に収束を開始。半径数キロにも及んだ光のドームは俺の胸元で小さな球体へと姿を変えると……俺の手の動きと共に光が爆ぜた。
ドォガガガガアアアアアアアン!!!
全てを無に返す最凶にして最悪の一撃。視界が紅に染め上げられ、耳は爆音の影響で役に立たなくなっている。今現在、雫たちが無事かを確認することは出来ないようだ。
全員の無事を祈りつつ、俺は目を閉じるのだった……。
キングスワールドエンドはそうホイホイ使うべきではないですが…今回は敢えて使いました。案としてはバットファンガイアを使った魔法攻撃ぐらいしか他には思いつかなかった…()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)