その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
ところで…ゆかりときりたんって、なんぞ?()
「オアシスを!? 本当ですか!?」
「ああ。試す価値はあると思うんだわ」
「そうでしたか! でしたら今すぐにでもお通しします! 既に、領主様には伝令を送りました。入れ違いになってもいけませんから待合室にご案内します。音也様の来訪が伝われば、領主様も直ぐにやって来られるでしょう」
……現在、俺たちはエリセンを離れてアンカジ公国に居る。香織が再生魔法を使えば【アンカジ公国】のオアシスを元に戻せるのかもしれないと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
再生魔法は文字通り、あらゆるものを〝元に戻す〟という効果がある。なので、回復魔法による浄化の効かない汚染されたオアシスでも元に戻せるはずと踏んだのである。アンカジ公国は【ハルツィナ樹海】の通り道である。目的地が樹海なので試してみようということになったのだ。
さて、待合室に通されてはや十五分。突然ドタドタという音が聞こえたと思うと、扉がバタンッ!と開かれた。
「久しい……というほどでもないか。無事なようで何よりだ、音也殿。ティオ殿に〝静因石〟を託して戻って来なかった時は本当に心配したぞ。貴殿は既に我が公国の救世主なのだからな。礼の一つもしておらんのに勝手に死なれては困る」
「それはすまなかったな。で、話は聞いたか?」
「……その話は本当なのか?」
「おう。ちょっくら特殊な魔法をかけるだけだ」
特殊な魔法=神代魔法である。実際のところ、かなり特殊な魔法には違いないので俺は嘘を言っていない。そのぐらいに神代魔法は凄まじい力を持っているのだ。ちなみに再生魔法は所持しているだけでオートリジェネのような自動回復効果がもたらされる。中々に便利だ。
と、そんな事を考えているうちに俺たちはオアシスの前に連れてこられた。オアシスの様子は以前と大して変わりない。人の気配はまるでなく、どこか廃れてしまった印象を受ける。それを見て領主は思うところがあるのか、少し遠くを見るような目をしている。前まではもっと賑わっていたのかもしれない。そのことを思い出して寂しくなったのだろうか。いずれにせよ、早いところ戻してやった方が良さそうだ。
「始めるか……」
オアシスの畔に立って魔法の構築を開始する。魔皇力が徐々に体の外へ溢れだし、俺の体は少しずつ宙に浮き始める。髪が風に吹かれてパタパタと揺れ動き、義眼が爛々と光り輝く。
俺は一度腕をクロスし、ゆっくりと横に広げていく。腕が通った後を光の粒子が辿っている辺り、中々に神々しい。そのまま腕を正面から見たら三時に見えるように固定。右拳に魔皇力を集中し……俺は魔法発動のトリガーを引く詠唱を唱えた。
「〝絶象〟」
右拳をオアシスに向けて突き出す。すると俺の右拳から天の川のような光の奔流が発射された。やがて、緩やかな速度で光の奔流はオアシスの中心に着水。その次の瞬間、オアシス全体が輝きだして淡い光の粒子が湧き上がって天へと登っていった。さらに俺の右拳から発射された光の奔流は、オアシスから光の粒子が湧き上がった数秒後に光が爆ぜた。その余波はアンカジ公国全土を駆け巡り、毒によって引き起こされた魔力暴走で死亡した人間を生き返らせ、これまた毒にやられた作物を全て廃棄用から出荷できるように戻した。
あまりにも非現実的な光景であり、発動した俺自身が驚愕してしまうレベルに再生魔法は強力な物だった。いや、正確に言えば魔皇力を用いた再生魔法が、であるが……。
やがて、領主の部下の一人が我を取り戻したらしく、水質調査を始めた。検知の魔法を使いオアシスを調べる男。固唾を呑んで見守る領主に、検知を終えた男は信じられないといった表情でゆっくりと振り返り、ポロリとこぼすように結果を報告した。
「……戻っています」
「……もう一度言ってくれ」
「オアシスに異常なし! 元のオアシスです! 完全に浄化されています!」
その瞬間、領主の部下たちが一斉に歓声を上げた。手に持った書類やら荷物やらを宙に放り出して互いに抱き合ったり肩を叩きあって喜びをあらわにしている。町の彼方此方からも悲鳴と歓喜の声が巻き起こっている。二度と会えないと思っていた人に再会できた気持ちはどんなものなのだろうか。
と、その時である。不意に不穏な気配を俺は感じ取った。視線を巡らせば、遠目に何やら殺気立った集団が肩で風を切りながら迫ってくる様子が見えた。アンカジの兵士ではない。あれは別の兵士だ。どうやらこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団らしい。俺たち傍までやって来た彼等は、すぐさま、俺たちを半円状に包囲した。そして、神殿騎士たちの合間から白い豪奢な法衣を来た初老の男が進み出てきた。
「ゼンゲン公……こちらへ。彼等は危険だ」
「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険? 二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ? 彼等への無礼はアンカジの領主として見逃せませんな」
「ふん、英雄? 言葉を慎みたまえ。彼等は、既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞めることになりますぞ」
「異端者認定……だと? 馬鹿な、私は何も聞いていない」
異端者認定。どうやらクソ神はいよいよ俺のことが邪魔になってきたらしい。それに教会も俺たちの管理しきれない巨大な力を気に入らないのだろう。まあ、どうせクソ神の差し金だろうが。とりあえず殺意を見せてくるなら答えは一つである。なんなら実験に丁度良い。
「露葉さん、頼みがある」
「なにかしら?」
「黒のイクサに変身する。あいつら片付けたらすぐに糸でベルトを外してくれ」
「しれっと難しいことを……まあ、他ではない音也くんのお願いだから頑張るわね」
シュルッとベルトを腰に巻く。それを見たフォルビン司教は嘲笑いを浮かべながら近寄ってきた。心の音楽があまりにも狂っているので聞くのを止めたぐらいに頭が逝かれてやがる。
「さあさあ、相当凶悪な男だという話だが……果たして神殿騎士百人を相手に、どこまで抗えるものか見ものですな?」
「………」
『レ・ディ・ー』
「果たして……相手になるのかな?」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「ま、相手になるならないよりも……実験結果が取れればそれで良いんだけどな」
ライザーフエッスルを躊躇うことなくベルト内に放り込んだ。そして……ナックルを内にガコンと動かす。するとスーツ内の電圧が一気に高くなり、頭には針のような物が突き刺さった。さらに脳内に直接異物を注ぎ込まれる。思わず頭を抑えようとしたが……中程まで腕が上がった所で俺の意識は消え去ったのだった。
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『ジェ・ファ・ー・ヴェ・テ・エ・ゴ・ン』
まるで焦げ付いたかのように真っ白なイクサスーツが黒く染まる。普段のイクサが聖職者の法衣だと言うならば、黒のイクサは黒魔術師の戦衣である。私こと露葉は、そんなことを思った。
そういえば音也の母である文音さんは、私にイクサライザーを渡してきたときにこんなことを話してくれた。
現在音也が使用しているイクサは所謂プロトタイプなのだが、試験的に様々な機能を盛り込んでみたらしい。彼は気がついていないが、プロトイクサには高速移動装置、脳内活性化装置が仕込まれていたりするらしい。さらに裏オプションとして黒いイクサが存在している。ライザーフエッスルは元より黒いイクサを発現させるためのアイテムだったらしいが、イクサを装着した被検体が死亡してしまったために隠していたらしい。
黒いイクサに変身している間は、脳内活性化装置から麻薬が絶えず送り込まれるらしく、下手をすれば薬物中毒で死に至る。しかし幸運なことに、音也の生命力が並みではなかったことに加えて毒物耐性もあったので死亡こそしていない。しかし麻薬による意識喪失と暴走までは止められていないのが現状だ。
「な、なんだこいつ!?」
「気をつけろ! 一度距離をグエッ!?」
「や、やめろ! 死にたくなガア!?」
どうやら意識は既に喪失しているらしい。人間の急所を的確に、たった一撃で撃ち抜いて殺害していくその姿。まるで戦闘マシーンである。事切れた人間には興味を示さず、生ける者全てを抹殺せんと動き回る音也に、雫たちですら顔を青ざめていた。当然領主さんたちの顔面は蒼白どころか真っ白になっている。
百人は居たであろう兵士たちをものの数分で全滅し、司教の頭を握りながら宙に持ち上げる音也。それを見て私は懐から糸を取り出した。
「は、離せ! エヒト様の意思に歯向かおうなどという無謀なことをするぐらいなら大人しく死ね!」
「………」
『ヴァ・シュ・タ・ク・ト』
「ぐああああああ!?」
イクサナックルを内に動かした直後、電撃が司教の体を駆け巡った。見た感じヴァシュタクトは放出する電気の量を増やしているみたいだが……それだけではなさそうだ。イクサはスーツ内を巡る電気量によって強化されたり弱体化したりする。スーツ内に蓄えられた電気が枯渇すればイクサの変身も強制的に解除される。
しかし、逆に考えてみよう。放出する電気が多いということは、スーツ内に収まりきらないレベルの電気が流れているということだ。つまり放出されている電気は副次的な物であり、ヴァシュタクト本来の効果はイクサその物の強化……ということになる。
『ラ・イ・ズ・アッ・プ』
ドゴオ……
「ぐえっ……」
首元に最小限の力を入れたかと思うと司教が絶命した。死体が地面に落ちて這いつくばる。その間に私は糸をベルトに巻きつけて思いっきり引っ張った。
ベルトが宙を飛び、私の手元にクルクルと回りながら渡る。変身を解除した音也はそのまま崩れ落ちるように倒れ込み、ユエに膝枕される形で眠っている。今回は上手く行ったらしい。
私はほんの少し安堵のため息をつき、愛してやまない音也の元へと歩み寄るのだった。
次回は長らくやっていなかった(忘れてた)キャラクター紹介を挟もうかと思います。ついでに次次回は音也の保持するアーティファクトの説明もします…ちょっとモチベが落ちてきてるので気分転換させてください()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)