その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
ステータスプレートを貰って俺たちの能力が分かってから二週間ほどが経過した。
俺はヴァイオリニストということで国宝級のヴァイオリンとファンガイアスレイヤーのようなナイフを貰った。必要に応じて鞭にも変形するためリーチは比較的長めだと思われる。
一方ハジメは無能の烙印を押されてしまい陰湿ながらも過激なイジメを受けるようになってしまった。
見つかれば香織や雫が諌め、光輝や友だちの龍太郎が責め立てるが‥‥なくならないものはなくならない。しかも光輝はハジメが無能からある程度の有能になるために手を貸してくれたとまで思ってるし。
とりあえず今日は公式の実戦訓練だ。なんでもトーナメント方式で勝ち上がり戦をやっていくらしい。ハジメと当たった檜山が狂喜乱舞してた。
「一回戦の相手は‥‥檜山とつるんでる近藤ね」
「あ、音也くん」
「ようハジメ。どうする? 使うか?」
「使うよ。五分で片付ける」
「お前も怖いなあ」
ベルトとナックルを手渡す。毎日のように変身してある程度耐性が付いたのか、五分は変身を保てるようになったハジメ。無茶すればあともう一分はいけるだろう。
「あ‥‥でも戦いは同時進行だよね? 借りたら音也くんは変身できないんじゃ‥‥」
「舐めるな。ヴァイオリンとスレイヤーモドキがあれば十分だよ」
「ああ‥‥そういえばヴァイオリンを使って魔法を撃ってたよね」
「無詠唱でなぜか撃てるから便利だわ」
「演奏始める前に宣告してるから詠唱はそれなんじゃないかな。本には魔力操作ができないと無詠唱での魔法発動はほぼ不可能みたいだし」
「流石図書館に篭ってるだけはある」
「イクサがなかったら無能だからね。少しでも知識が欲しかったんだ」
「錬成使って落とし穴やトラップ仕掛けることぐらいならできそうだろ」
「あ‥‥」
「あれ、新発見?」
「ありがとう。少しいい案が浮かんだ」
「そりゃどうも。んじゃ、行ってくるわ」
ヴァイオリンを手にして武舞台のようなところに立つ。目の前にはニヤニヤとうざったい笑みを浮かべている近藤。
「ヴィヴァルディ『四季』より。『秋』」
「なにをブツブツと言ってるんだ!」
槍を片手に突貫してくる近藤。俺は今日まで訓練の時間には抜け出して独学で訓練してきた。きっと無能だと思ってるのだろう。
だが‥‥それは間違いだ。
♪〜 ♪〜 ♬♬〜
「うぐっ?! か、体が‥‥!」
♬♪〜 ♪♪♪♬〜
ヴァイオリンから神々しい光が溢れ始める。その光はまるで鎖のように近藤の体へ纏わりついた。
さらにその鎖から誰しもが持っている心の音楽へと訴えかける精神攻撃のようなものを開始した。
「くそっ! 離しやがれ!!」
胴体に、腕に、脚に、首に。光の鎖が纏わりつく。少しずつ締め付ける力を強くしていき直接大量の魔力を流し込んでいく。
魔力を外部から大量に摂取すると毒のように体を蝕んでいくという。これはハジメ情報だ。普通なら魔力回復するだろうと思うかもしれないが‥‥なぜか体に毒だそうだ。
「あぐあ‥‥頭痛がっ」
〜♪♪ 〜♬♬♬
第一楽章、第二楽章、第三楽章。時間にして10分超えである。まあいつものように演奏してるだけだが。
「ストップストップ!」
「団長。なんで邪魔を‥‥」
「いや気絶してる! オーバーキル!!」
「‥‥やったぜ」
「とりあえず休んでろ。次の出番になったら呼ぶから」
「はいさー」
武舞台から飛び降りる。楽勝だな。
『レ・ディ・ー』
「変身」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「はあ? お、おい南雲‥‥それはまさかっ」
『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「エイヤアアアアアアアア!!」
ズドバンッ!
「ぐおあ?!」
「しょ、勝者‥‥ハジメ!!」
「やりやがったあの野郎」
ブロウクン・ナックルを使用して檜山を一発KOしやがった。しかも直アテ。あれじゃあ檜山は再起不能だろう。これまでの恨みつらみが溜まっているであろうとはいえあそこまで容赦なくやるか?
ハジメの深層心理を改めて見た気がして寒気がしたが‥‥俺は実戦訓練に戻るのだった。
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夜。結局実戦訓練は中止となった。その理由は間違いなく俺とハジメである。俺は手加減なして気絶させてるしハジメは一撃必殺の勢いで屍のようなクラスメイトを量産していくし。
少々やりすぎたと反省している。イクサはやはり恐ろしかった。
まあ死ぬ気でやれってメルドに言われてたのでお咎めはなしだった。ハジメに対してはむしろ褒めちぎってた。まあ戦力化できたのが嬉しかったのだろう。
ちなみに訓練中止と言われたのは夕方だ。本来なら夜までやる予定だったらしい。とはいえ中止してしまったのは仕方ないのでメルド団長に明日の指示を出されて解散となった。
「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」
と、伝えられた。オルクス大迷宮というと全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。
にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。
この魔石というのは説明が難しいのだが‥‥簡単に言うと魔法陣作成に使える素材だ。良質であればあるほど強力な魔法を出しやすくなる。なんだかんだで日常生活に便利なので多く市場に出回ってるとかなんとか。
ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。
バカの一つ覚えの究極形態と言っても良いのではないだろうか。口めちゃくちゃ悪いけど。
俺たちはオルクス大迷宮に挑戦するということで挑戦者のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。
気絶して未だに目を覚まさない人間を背負いながらここまでやってきたので俺はもうクタクタだ。早くベッドにダイブして眠りたい。
「やれやれ‥‥ここ二週間で大分力はついたがまだまだ一人旅するには力不足だな」
ベッドに腰掛けながら独り言ブツブツ。俺の目的は元の世界へ帰ることだ。戦争だなんてする準備してる暇があったら一つでも多くの力を手に入れてしまいたい。
ちなみに今現在の俺のステータスはこんな感じだ。
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紅音也 16歳 男 レベル:3
天職:ヴァイオリニスト
筋力:160
体力:400
耐性:250
敏捷:150
魔力:200
魔耐:150
技能:ヴァイオリン演奏技術・共感覚・絶対音感・生命力増強・毒耐性・全属性適正・言語理解
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軒並み成長はしているし強くなった実感もある。魔法を扱うのにも慣れてきた。
俺の場合はヴァイオリンを使った演奏攻撃かファンガイアスレイヤーモドキを使った近から中距離戦闘が主だ。よくある異世界物の小説みたいに魔法弾を撃つようなことは殆どない。
こっちには科学の結晶であるイクサスーツがある。遠距離攻撃もできなくはないからなんとかなるだろう。
「ま、なんとかなるよな‥‥寝るk」
コンコン
「‥‥誰ですかい」
睡眠しようとしたのに妨げられてほんの少し不機嫌になる。寝る時はパタリと寝たいのになあ。
「夜遅くにごめんなさい‥‥紅くん。八重樫よ。入っていいかしら?」
「うん?」
鍵を外して戸を開ける。そこには‥‥寝間着姿の雫が立っていた。寝間着姿といってもだらしない物ではなく浴衣のような物だ。
「なにか連絡事項でもあるのか?」
「いえ‥‥ちょっとお話したくて」
「はあ‥‥」
「その‥‥迷惑だったかしら」
「いや別に。ここで話すのもあれだし部屋入れ」
「ありがとう」
追い返すのも面倒くさいので部屋に入れることにした。何用だろうか。
「大したもんないけど‥‥紅茶モドキと茶菓子、いるか?」
「お願いできるかしら」
「はいよ」
ティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキを淹れて窓際に設置されたテーブルセットに座った雫に差し出す。
雫は無言で、しかし笑顔でコップを受け取り静かに飲み始めた。窓から差す月明かりが雫を照らし、まるで天使のようにも見えた。
「それで‥‥話したいことってなんだ? 明日のことか?」
「‥‥ええ」
先程の笑みは消えて思い詰めたような表情になった雫。どうしたのだろう。
「あのね‥‥私、凄く怖いの」
「‥‥‥」
「皆の前では怖がってた人を助けたりなんかしてたけどね。昨日も言ったけど、私も怖いのよ」
「‥‥お前も女だもんな」
今にも泣きそうな顔で訴えかけてくる雫。この子だって女の子だ。俺は何度も露葉さんから聞いている。
『雫はね。剣を持つよりもお人形やキラキラしたアクセサリーを持っていたかったのよ。道着や和服よりもフリルの付いた可愛い洋服を着たかったの』
どこまでも乙女で、どこまでも人を思いやれる優しさの二面を持った八重樫雫。自分に素直になりたい一方で他人を思いやれることから苦しんできたのだろう。特に家族を傷つけたくないと。究極のジレンマに苦しめられて葛藤してきたのだろう‥‥。
「‥‥俺に何かできるかって聞かれても正直答えに困るな。怖いのは勿論理解できるしそう思って当然だ」
「ううん。少しだけでも分かってくれる人がいて嬉しいわ‥‥」
「できることと言えばこうして話を聞いてやることしかないなあ」
「‥‥‥」
「後は‥‥何かあるか? てかやってほしいことあるか?」
「そうね‥‥」
「できる範囲で頼むぞ」
「‥‥抱きしめて」
「は?」
「抱きしめてほしい‥‥かな」
「待て待て待て。なせ抱きしめる必要がある?」
「あら、知らないの? 人って抱きしめられると多少は落ち着くのよ」
「異性だよな? 俺は男でお前は女。このまま抱き合ったりなんかしたらThis is 不純異性交友って見られかねない」
しかも雫は超絶美人。俺なんかが抱きしめたらいけない気がする。
※見た目は紅音也そっくり。
とはいえ‥‥少しでも不安を取り除くことができるならそれで良いのだろうか?
「俺なんかで良いのか?」
「‥‥できることなら貴方以外は嫌ね」
「それってそのまま受け止めていい?」
「そうね‥‥」
「マジ?」
そのまま受け止めるとこれは完全に告白なんですがそれは。え、いいの? 俺みたいなヴァイオリンバカで良いのか? ねえねえ。
「その言葉、しっかりと責任持てよ?」
「その覚悟はできてるわよ」
「‥‥はあ。まさかこうなるなんてな」
カリカリと頭を掻く。ここで受け止めてしまえば俺も覚悟を決めなきゃいけない。
「‥‥ん」
「‥‥それは」
「‥‥覚悟決めた。受け入れよう」
両手を広げて雫の目を真っ直ぐ見る。俺も覚悟を決めた。
「‥‥良いのね?」
「あまり長引かせるな。羞恥心MAXで寿命が縮まる」
「‥‥ふふ。分かったわ」
月明かり照らす部屋の中。覚悟を決めた二人の男女がお互いの肌と肌を触れ合わせて静かに笑い合うのだった。
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オマケ
「あっ……ふあ」
「ここまで顔が近いのは初めてか?」
「当たり前よ……」
音也に抱き締められたことによってあっという間に骨抜きにされた雫は、されるがままになっている。互いのおでことおでこをコツンとぶつけてキスの次に近い位置から話しかける音也に見惚れているようだ。一切の抵抗を見せない雫に音也の心拍数は跳ね上がる。
しかし翌日は命を賭けることになるだろう。そのことを十全に理解している音也は、雫のことを再度抱き寄せて耳元で呟く。吐息が雫の耳にかかり、彼女に言いようのない快感が奔った。
「明日は命を賭けることになる。ここで現を抜かす訳にもいかないのは分かるな?」
「ええ……分かってるわ」
「それなら、膝枕で我慢してくれねえかな。寝ても一緒に居てやる」
「それなら……お願い」
「あいよ」
月明かりが差す一室。稀代のヴァイオリニストである紅音也は、たった一人の少女の心の安心を守るために己の睡眠を削るのだった。
実は今構想が二つあるんですよね‥‥原作通りハジメが奈落に落ちて魔王化、助けに行った音也も魔王化っていうテンプレかハジメを死亡させるか、あるいは別の案か‥‥。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)