その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
ノイントをトドメに蹴り飛ばして地上に叩き落とす。蹴り飛ばされた瞬間のノイントの瞳は、相変わらず機械的な冷たさをたたえたままだった。ただ、それでも、どことなく恨めしそうな、悔しいような雰囲気が混じっているように思えたのは気のせいだろうか。
とりあえずノイントを追って地上に降り立ち、念のため眉間をイクサライザーで撃ち抜こうとしたところで……轟音が鳴り響いた。何やら神山付近で大爆発が起こったらしい。
大方ティオのブレスだろうが……もしかしたら愛子先生が可燃性ガスのような物を出してブレスの威力倍増を狙ったのかもしれない。愛子先生ならそのぐらい可能だろう。しかし自分が原因で大量の人を殺したとなれば、先生の心はぶっ壊れてしまうだろうに。
「あ~、ハジメ。聞こえるか?」
〝聞こえるが……なんだ?〟
「先生とティオが神山付近に居るから迎えに行ってくれ。俺は雫と露葉さんとユエを迎えに行くから」
〝分かった〟
変身を解いて宙に飛び出し、念話で今度は八重樫姉妹とユエに呼びかけて神山付近で集合と伝える。三人は俺の声を聞いた途端に雰囲気が変わったが、特に気にしてはいない。
「音也、無事?」
「おうユエ。ピンピンしてるぞ」
「なら血を吸わせて。魔力使いすぎた」
「YES」「NO」を答える前にユエが首筋にかぶりついてくる。別に「NO」ではないし元より吸血させるつもりだったので軽く頭を撫でてやる。最近は忙しくてユエとは中々くっ付けなかったのでご褒美も兼ねていたり。
やがて八重樫姉妹も俺の元へ集まってきた。来て早々、ユエが俺に引っ付いていることに対して雫は文句を、露葉さんは微笑みながらもさり気なくアピールしてくるので心安まらない。が、悪い気分はしない辺り、俺も末期である。
「ん……ご馳走さま。すっかり馴染んでる」
「おう? それは……そういう事か」
馴染んでる。きっとファンガイアの血が、だろう。覚醒から一週間弱だが俺の体はあっという間にファンガイアの血が馴染んだらしい。もう人間へ戻ることは出来ないだろう。いや、元から人間ではないか。
それにしても、神山にある聖教会聖堂は酷い有様だ。原型という物は一切留めていない。遺体も見当たらない。辺り一面がれきの山だ。俺と聖教会聖堂は数キロ離れていたのだが、その位置でさえ耳をつんざく程の大爆発音が聞こえたのだ。如何に凄まじい物だったのかが分かる。
「あれ? 音也くん。人がいるよ? 明らかに様子がおかしいけど」
「は?」
まさか、あの爆発で生き残った者がいるのかと驚きながらも露葉さんの視線を追うと、そこには確かに、白い法衣のようなものを着た禿頭の男がおり、俺たちを真っ直ぐに見つめていた。しかし普通の人間ではなさそうだ。なぜなら、その体が透けてゆらゆらと揺らいでいたからである。一言で言うならば「幽霊」だろうか。
禿頭の男は俺たちが自分を認識したことに察したのか、そのまま無言で踵を返すと、歩いている素振りも重力を感じている様子もなくスーと滑るように動いて瓦礫の山の向こう側へと移動した。そして、姿が見えなくなる直前で振り返り、俺たちに視線を向ける。付いてこい、とのことだろうか。そういえば神山にも大迷宮があったはずだ。その手がかりなのかもしれない。
「付いて行ってみるか」
「大丈夫なのかしら? 罠とか……」
雫の懸念は当たり前だ。唐突に廃墟から現れた透けている禿頭の男など、怪しいに決まってる。しかしこれを逃せば、大迷宮の手がかりは一切見つからないかもしれないのだ。危険を冒してでも付いていくべきだろう。
そんな俺の意思を読み取ったのか、雫は表情を緩めて、掌を俺の両頬にピタリとつけてきた。
「貴方の意思だと言うなら、私はどこまでも従うわよ」
「雫……」
「あら、雫ったら大胆ね。でもそれは私も同じよ。音也くんが決断したことなら文句は言わないからね」
「んっ。私も」
一本取られた。どうやら俺は、この先こいつらに敵うことはなさそうである。
行くと決まった以上はチンタラ歩く意味はない。俺たちはサッサと禿頭の男の後を付いていく。そして、五分ほど歩いた先で、遂に目的地についたようで、真っ直ぐ俺たちを見つめながら静かに佇んでいた。さらに、瓦礫の一部分を指さしている。義眼で覗いてみると、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれていた。
邪魔な瓦礫を破壊して紋章へ足へ踏み入れた次の瞬間には全く見知らぬ空間に立っていた。それほど大きくはない。光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれている。どうやら、いきなり大迷宮の深部に到達してしまったらしい。
何時ものように魔法陣へ足を踏み入れると、普段以上に脳内の奥深くまで探られる感覚があったが……それもすぐに終わった。手に入れた神代魔法は魂魄魔法らしい。
と、ここまで来たところでハジメたちの存在を思い出した。神代魔法を手に入れられる場所を見つけたことなので報告して皆で手に入れようぜ!と声をかけようとしたのだが……それは阻まれる事になった。
〝香織、嘘だろ? おい……返事をしろよ〟
「……は?」
〝お前か? 檜山、お前がやったのか? 俺の一番大切な人を殺したのはお前か?〟
明らかに様子がおかしい。ここ最近のハジメから考えられない程の怒りが籠もった声である。あくまでも念話越しなので詳しい事は分からないのだが、兎に角、様子がおかしいのだ。
間違いなく良くない事が起こっている。そう直感した俺は、険しい表情を一瞬で作り出して真上目がけて大ジャンプした。慌てて雫たちが後を追うが、後ろを振り向くほどの余裕はない。
俺は焦っていた。香織の事を口に出してる辺り、事は王都で起こっている。王都自体がぶっ壊されるのは正直どうでも良い。ハジメが大量の魔物を、躊躇なく殲滅兵器で殺したとしても焦りはしない。
なら何故、ここまでして俺は急いでいるのか。その理由は、数分後に明かされることとなる……。
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ハジメは、かつてない程に激情していた。奈落の底へ落ちた直接的な原因を作った人間と再開した時も、自分勝手など物言いで己の進む道を否定されても激情しなかったハジメが……文字通りブチ切れたのである。
ティオと愛子、そしてシアと合流し、心が折れかけていた愛子の事を何とか慰めて落ち着かせたハジメは、何の気なしに王都を振り向いた。今頃、王都には大結界の外から多くの魔物が流れ込む寸前で大パニックだろうな~、なんて呑気に思いながらも、音也たちと合流すべく神山に降り立とうとした時だった。
香織から「ハジメくん、助けて!」と要請が届いたのである。曰く、生気のない自分たちの知り合いが何故か襲いかかってくる。数が多すぎてリリアーナと二人では苦しい。クラスメイトは何故か動けなくなっている。だから助けて、手伝って欲しいと。
世界で一番愛している人からのお願い事だ。長い間、離ればなれだったハジメとしては何でも聞いてやるぐらいの心構えだった。神山の捜索は後回しにして、今は香織を助けに行こう。そう考えて、全員を連れてハジメは王都へ舞い戻った。
王都、特に王宮近くにある一定の場所で数多くの気配を感じ取ったハジメは、その場所に急行した。
そして目的地に到着したハジメがまず見た物は、クラスメイトたちが全員、背後から兵士や騎士たちの剣に貫かれた挙句、地面に組み伏せられている姿だった。兵士や騎士の顔に生気を見ることは出来ず、この時点でおかしいと察したハジメだが……その次に見た物が彼の感情を爆発させてしまった。
やけに明瞭に目に入ってきた光景。それは、檜山に抱き締められながら剣を突き刺され、命の鼓動を止めている香織の姿だった。
日本に住んでいた頃から、自分の事を気にかけてくれた少女。その真っ直ぐな思いは異世界へ来ても変わらず、長い期間、離れていても彼女の気持ちは変わらなかった。ずっと彼女の気持ちは悟っていたが、どこか怖くて避けていたハジメ。しかし、再開して想いをぶつけられて、彼も決意したのだ。彼女の想いを受け止めようと。
それからの生活はとても幸せだった。シアというムードメーカー兼大切な人がいて、香織という愛おしい存在がいて。異世界へ来て一番満たされていた。
今、この瞬間。彼女の死体を見るまでは。そして、心の奥底では一番憎む人間が、最愛の人を刺し殺したと認識するまでは。
「香織、嘘だろ? おい……返事をしろよ」
「ひひっ、お前なんかよりも俺の方が香織とはお似合いなんだよ。お前はもう用済みなんだ」
「お前か? 檜山、お前がやったのか? 俺の一番大切な人を殺したのはお前か?」
「お前の一番大切な? 違う……〝俺の〟一番大切な人、だ」
その言葉を聞いた途端、ハジメの表情が変わり始めた。最初は憤怒の表情だったのが……色が抜けていくかのように落ちていく。と、同時に見る者、感じ取る者全てが恐怖する程の殺意を纏い始めた。その殺意は檜山一人に向けられており、他の人間は心底どうでも良いといった様子である。仮に、近くに事を起こした主犯格が存在したとしても、だ。
しかし当の本人である檜山は、焦りを一切見せない。勝ちを確信し、精神的に余裕があるのだろう。それとも、正気を失ったが故に、怒らせてはいけない人を怒らせた事に気がついていないだけなのか。
なんにせよ、彼の運命は決まった。これ以上変わることはなく、絶対的な運命しか待ち受けていないだろう。
「おいキバット」
「……なんだ」
「俺にも力を貸せ!」
「異常なまでの憎しみと、悲しみ……未だかつて見たことがない程だ。良かろう。ガブリッ!!」
「ッ……変身!」
満月が地を照らす夜。ここに一人の〝魔王〟が降臨した。己の一番大切な人をこの世で一番憎んでいる人間に殺されて、復讐の炎を静に燃やす白髪義手の少年。相対するは、人生全てにおいて他人にも〝自分にも〟負け続け、結果として自分の魂を悪魔に売った哀れな少年。
復讐と欲望。二つの負の感情が衝突し、互いに奴を殺すと決意し、この場を絶対零度の空気で包み込んだ。その直後である。
皆の希望の象徴であり、絶望の象徴にもなり得る一人のヴァイオリニストと、その人を心から愛する人たちが集まってきたのは。
次回はハジメvs檜山と音也vs恵里です。アンケートや感想にあったように、片方は救済の道を進みますのでお楽しみに!
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)