その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
あれから一晩が経過した。俺たちは香織の魂をノイントの体へ移す作業を一日がかりで行い、今日、ようやく完了した。なぜノイントなのかと言うと、香織がこれ以上足を引っ張りたくないからとの希望があったからだ。たとえ姿形が変われど、ハジメのことを守れるぐらいの力を手に入れたかったらしい。
結果から言うと、大成功だった。俺の一日がかりのヴァイオリン演奏によって香織の魂は、見事ノイントの体に定着したのである。
ちなみに香織の本当の体は、ユエの魔法により凍結処理を受けて〝宝物庫〟に保管されている。巨大な氷の中に眠る美少女といった感じで非常に神秘的だ。解凍時に再生魔法で壊れた細胞も修復してしまえるので、戻ろうと思えば戻れる可能性は極めて高い。
とりあえず生き返ったには変わりないので、俺たちは王城にいる先生やクラスメイトに顔出ししにいった。生きてると分かったときの先生の喜びようや、恵里の安堵したような表情は中々に見物だったと思う。
「香織……あの、本当にごめんなさい。僕の自分勝手など行動で……」
「ううん。悪いのは光輝くんだから気にしないで。私としては恵里ちゃんが前よりも素直になった事がとても嬉しいのだから」
「実行犯は檜山のバカだしな。中村が気にすることはねえよ」
本人と彼氏にアッサリと許して貰った恵里。ハジメに関して言えば興味がない、というのも一つの理由だろうが、恵里にとっては形だけでも許して貰えるのはとても有り難いことだろう。
一通り香織と抱き合い、気分が落ち着いたらしい恵里は、今度は俺の元へやってきた。
「あの、改めてお礼を言わせてよ。本当にありがとう」
「いや、気にするな。だが一つ気になったことがあってな……〝お父さん〟ってなんだ?」
「あ、それは……うん。紅の物言いに父親的な何かを感じてね……思わず、ポロッと出てきたんだよ」
「勘弁してくれ。海人族の娘の義理の父親なら体験してるが……流石に同い年の女を娘と見ることは出来ないぞ」
魂魄魔法を使った対話の時に俺の物言いが父親っぽく感じたらしい。この世界にやってきて半年ぐらいだが、まだまだ俺は年齢的に高校一年生だ。未熟な所だって多い……はずである。
しかしまあ、恵里の心が弱ってるのは事実だ。鈴が居るので基本は丸投げしたいところだが、出発するまではカウンセリングをやっても良いかもしれない。今回は魂魄魔法を使って深層心理に直接入り込み、そこで説得したのだ。見方を変えれば洗脳とも取れる行為なのである。その責任ぐらいなら取るつもりだ。
だから雫さん。そんな怖い視線でこちらを睨みつけないで欲しい。俺は恵里のことを手に入れようとはこれっぽっちも思っていないからな。そしてその事は、恵里も分かってるはずだ。
「雫、そんな怖い顔しないでよ。僕が君たちに敵うだなんて思ってないし、紅とそういう関係になろうとも思ってないから」
「ふーん……本当かしらねぇ?」
「雫、お前は今夜寝かせない。覚悟しろ」
「へ、へえ? どうしたのよ急に」
「純粋に愛したくなった」
雫を落ち着かせるためにも咄嗟に今夜は寝かせない発言をする。最近、忙しくてゆっくり構えなかったしある意味で丁度良いとも思った。
ちなみに以前、八重樫姉妹と一晩過ごしたことがあるのだが……どうして露葉さんがあそこまでテクニシャンなのか分からなかった。雫なんて誰かに見せられないような顔してたし。
とりあえずこのままだと恵里が首を取られかねないので助け船を出した訳だが……雫の目が猛獣を狙うハンターの目に変わったので俺は今夜、本当に寝られないだろう。合掌。
「あ、あの……紅くん」
「先生か。なんだ?」
「私が攫われた原因になり得る話、やっぱり皆さんに……」
「おう、早く話せよあくしろよ」
説明しろと先生に圧力をかける。先生コホンッと咳払いを一つすると、俺やハジメから聞いた狂神の話と俺たちの旅の目的を話し、そして、先生自身が攫われた事や王都侵攻時の総本山での出来事を話し出した。
全てを聞き終わり、真っ先に声を張り上げたのは光輝だった。
「なんだよ、それ。じゃあ、俺たちは、神様の掌の上で踊っていただけだっていうのか? なら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ! オルクスで再会したときに伝えることは出来ただろう!」
「いやお前な。よく考えてみろよ。仮にオルクスの時点で俺が話したとして、お前は俺の話を進じたか? 答えは分かりきってる。ノーだ。で、繰り返し何度も説明する気にはならない。なんで俺が、わざわざお前等のために骨を折らなけりゃならないんだよ? まさか、俺がクラスメイトだから、自分たちに力を貸すのは当然とか思ってないよな?」
当然というか、分かりきっていたが光輝が俺に詰め寄ってきた。が、元より説明は先生に任せていたし、俺自身こいつとは関わりたくなかったのでバッサリ切って捨てる。
「でも、これから一緒に神と戦うなら……」
「〝一緒に〟……? 一緒にと言ったのか……ククク。フハハハ……ハァーッハッハッハッハッハッ!!」
「な、何がおかしいっ」
「いやいや、おかしすぎるでしょ。何でお前は俺が神と戦うと思うんだ? 彼方から来るなら勿論迎え撃つぞ? だがな……わざわざ此方から向かうつもりは一切ない」
「なっ、まさか、この世界の人たちがどうなってもいいっていうのか!? 神をどうにかしないと、これからも人々が弄ばれるんだぞ! 放っておけるのか!」
「勝手にやってろよ。俺は俺の大切な人のためにしか力は使わない」
この世界が滅びようが、人々が弄ばれようが……俺からすればどうでも良い。滅んでいくのは確かに気の毒だが、それでも自分から助けに行こうとはやはり思えない。
が、善意(笑)の塊である我らが勇者は納得が出来ないらしい。机をバンッ!と叩き、俺の元へツカツカと歩み寄ると、ビシッと指をさして声を張り上げた。
「紅音也! 俺と決闘しろ! 道具はなし、素手でタイマンだ!」
「見ろよ中村。これがお前が思い続けてきた男の実態だぞ」
「思ってた以上に酷かった」
「おい紅! 聞いてるのか!!」
「うるせえよ。ヴァイオリニストにとって聴覚は三大重要能力なんだぞ」
心底面倒くさいです!という雰囲気を隠そうともせずに俺は立ち上がる。ちなみに力の差はどのぐらいかというと、普通に月とすっぽんぐらいある。それに気がついてないのはある意味で呪いな気がしてならない。
俺は簡潔、かつ威圧的に明日にはハルツィナ樹海へ向けて出発する。金輪際関わることはないから安心しろとだけ伝えて部屋を出ようとした。しかしそれに待ったをかける人が一人。
「では、帝国領を通るのですか?」
「そうなるな……」
「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?」
「ん? なんでだ?」
「今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山ほどあります。既に使者と大使の方が帝国に向かわれましたが、会談は早ければ早いほうがいい。紅さんの移動用アーティファクトがあれば帝国まですぐでしょう? それなら、直接私が乗り込んで向こうで話し合ってしまおうと思いまして」
随分とまあ、フットワークの軽い姫さんだ。ちゃっかりしてるとも言えるのだろうか。しかしその程度のお願いだったら断ることもない。あくまでも通り道だし、送って降ろせばそれで終わりだ。
故に、俺はリリアーナに「構わない」とだけ伝える。が、そこにもツッコんでくるのが勇者クオリティだ。
「だったら、俺たちもついて行くぞ。この世界の事をどうでもいいなんていう奴にリリィは任せられない。道中の護衛は俺達がする。それに、紅と南雲が何もしないなら、俺がこの世界を救う! そのためには力が必要だ! 神代魔法の力が! お前に付いていけば神代魔法が手に入るんだろ!」
「もう黙ってろ」
思いっきり鳩尾を殴って光輝を気絶させる。こいつと旅を一緒にするなんて俺はゴメンだ。第一、クラスメイトたちが大迷宮に足を踏み入れたところで十中八九死ぬことになる。オルクスやライセンなら可能性があるが……大迷宮を攻略するごとに仕掛けが面倒になってるので光輝たちにはハルツィナ樹海の大迷宮など攻略不可能だろう。
仮に俺たちに寄生したとしても、俺と雫が光輝の物言いに耐えられる気がしない。俺なら殴って気絶させるに留まれるが、雫に関しては首を飛ばしかねないのである。
まあ俺としては、行くなら勝手にしろ。ただし命の保証はない。死にたきゃ勝手に死ね。その旨を伝え、今度こそ俺は部屋を退出するのだった。
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オマケ
「ねえ音也。なんで光輝を連れて行くことをあそこまで拒否したの?」
「分かりきってるだろ?」
「……ふふ。それもそうね」
「これ以上、お前が壊れるところを見たくないし……何よりあいつと一緒だと俺も堪忍袋の緒が切れかねない」
「本当に流石ね。私のこと、何でも分かってるんじゃない?」
「そんなことないぞ。というかな、その人のことを何でも分かってるとか言えるわけがない。俺だって人間だ。たとえ一番近くに居る人のことだって、全てが分かる訳ではないんだ」
「……ふふふ。これは一本取られたわ」
「さて……始めるぞ。今夜は寝かせないからな」
「あっ……ふふ。それはこちらのセリフよ」
光輝たちクラスメイトは王都に置き去りです。理由は八重樫姉妹とだけ言っておきます()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)