※この作品はR-18です。

その音色は異世界まで響き   作:誰かさん

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最終決戦の構想がとりあえず完了しました。まだまだ先ですが楽しみにしていてください。
ちなみに題名はZ旗の意味から抜粋しています。知る人は知ってる……はず()


第四楽章 興廃は此の一戦に有り

とある一室。リリアーナはパーティーに向けて、ってお付の侍女たちとドレスの選別をしていた。彼女が結婚する相手である皇太子、バイアス・D・ヘルシャーは彼女からすれば最悪の結婚相手である。しかし、これは政略結婚なのだ。いくらこれが政略結婚であり、バイアスが父親に似た極度の女好きで、過去何度か会った時も、まだ十にも届かない年齢のリリアーナを舐めるような嫌らしい視線で見やったとしても、姫として皇太子に恥をかかせる訳にはいかないのである。

 

リリアーナも女の子であり、最悪の状況から救ってくれる白馬に乗った王子様を夢見たこともある。しかし、彼女は王女としての役割を痛いほど理解しており、故に甘えることは出来なかった。

 

何十着ものドレスを試着しては首を振って侍女に渡し、また新しいドレスを身につけること数十分。ようやく納得のいくドレスを見つけ出し、侍女からお世辞抜きの賞賛を受けているリリアーナの元へ、突然ノックもなしに扉が開け放たれた。そうして入ってきたのはバイアス本人である。

 

「ほぉ、今夜のドレスか……まぁまぁだな」

「……バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ」

「あぁ? 俺は、お前の夫だぞ? 何、口答えしてんだ?」

 

粗野という文字を体現したかのような佇まいのバイアス。国民からは当然のこと、側近にすら一部を除いて嫌われているバイアスだが、彼はそんなこと意に介していない。と、いうのも彼は帝国内ではガハルドの次に強く、逆らうことが実質不可能なのである。逆らえば即刻極刑だって有り得るのだ。下手なことは言えないというのがバイアスを嫌っている人の意見である。

 

突然の来訪に驚いた侍女や近衛騎士を追い払ったバイアスは、「飼い犬の躾ぐらいしっかりやれ」と実に嫌らしい笑顔で言い放つ。当然、リリアーナは反論しようとするが……その前に、彼女は押し倒されていきなり胸を鷲掴みにされた。

 

乱暴に胸を触られて思わず声を上げるリリアーナ。しかし、皮肉なことに現在リリアーナが居る部屋は特殊な防音処置を施されている。外に居る騎士たちに声が届くことは決してない。

 

バイアスは言う。自分に盾突く奴を嬲って屈服させるのが何より好きなんだと。必死に足掻いていた奴等が、結局何もできなかったと頭を垂れて跪く姿を見ること以上に気持ちのいいことなどないのだと。そして、小さい頃から品定めをするバイアスのことを睨みつけていたリリアーナの事をめちゃくちゃにして快楽と絶望の色に染め上げたいと。

 

逃げ出そうとするリリアーナの腕を押さえ込み、選び抜いたドレスを躊躇うことなく破り捨てる。シミ一つない玉の肌が晒され、リリアーナは羞恥で顔を真っ赤にした。両手を頭の上で押さえつけられ、足の間にも膝を入れられて隠すことも出来ない。八方ふさがりである。

 

彼女は思った。望まない結婚なのは理解していたけど、これはあんまりだ、と。本当は、好きな人に身も心も捧げて幸せになりたかったと。それは、王女という鎧で覆った心から僅かに漏れ出た唯の女の子としての気持ちだ。雫と同等レベルに心は乙女なリリアーナにとって、この現実はとても辛く、出来ることなら死んでしまいたいとすら思える物だった。

 

有り得ないと分かっていながらも、彼女は祈る。友人から聞いた、まるで御伽噺のような出来事が起こることを、ひたすらに願った。迫り来る理不尽を更なる理不尽で押し倒し、意図せずとも多くの人物を救ってきた一人の男が助けてくれることを、願った。

 

――助けて

 

と。

 

すると次の瞬間である。リリアーナやバイアスにとっては聞き慣れない、プロペラの回る爆音が突如部屋に響き渡った。リリアーナにキスをしようと顔を近づけていたバイアスは、思わず立ち上がって辺りを警戒する。

 

しかし、彼がプロペラの回る爆音を鳴らす正体を見ることはなかった。何故なら、爆音の正体は……既にバイアスの斜め後ろから急降下を開始していたからである。

 

なお、爆音の正体は九九式艦上爆撃機のミニチュアである。正確に言えばアーティファクトだ。これは音也が城のトラップを解除させるために飛ばしている物であり、ラジコン機並みの速度はでる他、ハジメの遊び心で爆弾の代わりになる物を搭載している。先ほどまではトラップを超精密な爆撃で破壊していたのだが、リリアーナの気配を感知した音也が部屋に向かわせたのである。ちなみにこの一機以外にも城内には九九艦爆がトラップを破壊して周っている。なお、代替爆弾の中身は爆薬と麻酔薬に細胞破壊薬がミックスされており、一度食らえば火傷を負い被弾箇所の細胞を壊死させながら眠りにつくことになる、処置が遅れれば死に至るぐらい強力な物だ。

 

九九艦爆は音に気がついて振り向いたバイアスに固定脚をぶつけて地面に倒し、一度宙返りすると真っ逆さまに降下。仰向けになったバイアスの股間に一寸の狂いもなく代替爆弾を投下した。代替爆弾は吸い込まれるようにバイアスの股間に命中し、不発することなく炸裂した。一瞬でバイアスは気絶し、大事な一物は細胞が壊死してボロボロと焼け落ちた。それを見届けた九九艦爆は一周だけリリアーナの周りを旋回すると、そのまま何処へと去ってしまった。

 

リリアーナは追いかけようとはせず、バイアスに最低限の応急処置を施してからため息をつき、破れてたドレスをギュッと握り寄せてポツリと呟くのだった。

 

「ありがとう……」

 

と。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

夜

 

パーティーだというのでタキシードのような物を着込んだ俺は、ヴァイオリンを持って会場に入った。重そうな扉を開けると視線が一気に俺に集中する。俺はニヤッと笑いながら髪の毛をかき上げ、義眼を露わにしながらヴァイオリンを構えた。選曲は「母のヴァイオリン」。階段を降りながら弓を引く。寂しげなヴァイオリンの音色が心まで響き渡ったのか、既に涙ぐむご令嬢が見受けられる。もしかしたら母親が早死したのかもしれない。

 

余韻をたっぷり残しながら俺は最後の音を紡ぎ出す。完全に弓を引いて軽く一礼した。すると会場から割れんばかりの拍手を頂戴した。俺はもう一度、頭を下げるとパーティーを盛り上げるために呼ばれたであろう音楽隊の元まで歩いた。ガハルドから事情は聞いているらしく、俺の姿を確認すると全員が頭を下げてきた。そして渡された楽譜を見て、俺は驚くことになる。

 

「おいおい、これって俺がこれまで弾いた曲じゃないか」

「貴方が弾いた曲は作曲家によって楽譜にされているんですよ。我々音楽業界では稀代のヴァイオリニストと言われてますし」

「知らなかった。まあ……知らない曲を弾くよりこっちの方がやりやすい」

 

驚いたものの、舞台は自分のためにあるような状況に俺はいたずらっぽい笑みを浮かべる。どうやら音楽隊は最初から俺がこれまで弾いた曲をやるつもりだったらしく、特に打ち合わせはしなくても俺のヴァイオリンに合わせられるらしい。なんなら最初から主旋律は俺がやる前提で考えていたというのだから驚きである。俺が居なかったらどうしたんだろうか。

 

まあ、これ以上詮索するのは止めておこう。今もこうしてヴァイオリンを弾けるということは幸運でしかない。人外に堕ちたとしても、これだけは変わらない……。

 

「お、あれはハジメとシアか」

「亜人と、ですか。珍しいですね」

「確かに髪色は珍しいが……」

「いや、絶望に染まった目をしていない亜人、それも兎人族は初めて見ましたからね」

 

その言葉だけで俺は察した。帝国内で兎人族がどのように扱われているかを。帝城に来るまで、シアたちは見ていないが……俺はしっかりと発見していた。兎人族専門の娼館が存在している事を。看板娘として外に出ていた兎人族の目は死んでおり、心の音楽は聞こえてこなかった。そのぐらい絶望していたのだろう。

 

ちなみにその間、俺の耳には地下や外で暗躍しているハウリアの声が聞こえている。彼らは奴隷商の家を襲撃して暗殺したり、兵宿舎で出される食事に強力な睡眠薬を仕込んだり、至るところに爆弾や戦車を仕掛けている。その戦車というのは一つ一メートル程度の小さい戦車である。ティーガーIIやマウスと比べれば能力の低さは否めない。しかし速射性の優れる砲である事、小さいので持ち運びが容易な事、そもそも人が相手なら十分な威力という理由があるため、今回採用したのである。

 

準備は順調。そのことにほくそ笑みながら俺はヴァイオリンを構えると……にわかに会場がザワザワし始めた。扉付近を見ると、主役であるリリアーナ姫とバイアス殿下がいた。大仰に開けられた扉から現れたリリアーナのドレス姿に、会場の人々が困惑と驚きの混じった声を上げる。それは、リリアーナが全ての光を吸い込んでしまいそうな漆黒のドレスを着ていたからだ。本来なら、リリアーナの容姿や婚約パーティーという趣旨を考えれば、もっと明るい色のドレスが相応しい。その如何にも「義務としてここにいます」と言わんばかりの澄まし顔と合わせて、漆黒のドレスはリリアーナが張った防壁のように見えた。

 

バイアス殿下も苦虫を噛み潰したような顔だ。まあ、その理由に関しては知っている。九九艦爆による股間スマッシュによって困惑と怒りを感じているのだろう。ちなみにわざわざ股間を狙ったのは九九艦爆を操った日本人が正確無比な爆撃を行ったことに由来している。爆弾が比較的当たらないあの時代に90%近くの命中率を誇ったなんて逸話もある。

 

リリアーナはチラッと俺の事を見ると、ほんの少しだけ微笑んだ。全て分かっているらしい。俺も内心を察して軽く微笑んだ。

 

司会の男は困惑を残したままパーティーを進行させる。リリアーナとバイアスの様子を見て、今にも笑い出しそうなガハルドの挨拶が終わると、俺たちは音楽を奏で始めた。リリアーナたちの挨拶回りとダンスタイムだ。

 

選曲は「音也のテーマ」と「渡のテーマ」をミックスさせた物だ。全力でバックアップしてくれる音楽隊に感謝しつつ、俺は俺のやるべき事を成し遂げる。

 

魔法を込めなくとも、心に直接訴えかける音楽を奏でることは可能だ。音の強弱を大げさに表現し、体も大きめに動かして全力で音を奏でていく。ここまで本気で弾いたのは……久しぶりかもしれない。

 

音楽に合わせて踊っているリリアーナとバイアスの様子はさておき、俺は心から満足できる演奏を終え、久しぶりに満たされる気分になった。

 

会場から再び、割れんばかりの拍手が巻き起こる。恐らくそれは、二人の踊りにではなく音楽に対して。それを十全に理解した俺は、軽く頭を下げて雫たちの元へと向かった。

 

ちなみに雫たちは、パーティーの主役は私たちだ!と言わんばかりに着飾っている。特に雫は、純白のウェンディングドレスに身を包んでおり、本当の花嫁はこちらだと言っても難なく騙せるレベルに綺麗だ。

 

「お疲れ様」

「おう。それにしても……何回見ても綺麗だな」

「うふふ……ありがとう」

 

ドレスをキュッと摘まんでいる姿が愛らしい。俺は微笑みながら、折角だし踊らないか?と誘おうとした。その次の刹那である。

 

「紅音也様、一曲踊って頂けませんか?」

「へ?」

 

リリアーナが声をかけてきた。思わず声をもらしながら後ろを振り向く。どうやら挨拶回りは済んだらしく、バイアスは愛人らしき人と既に踊り始めている。

 

とはいえ、主役がパートナーと離れて良い物なのか。そう聞くと、

 

「今は、パーティーを楽しむ時間ですよ。もともと、何曲かは他の人と踊るものです。ほら、皇太子様も愛人の一人と踊っていらっしゃいますし」

「またあっけらかんと……」

「ふふ。それより、そろそろ手を取って頂きたいのですが……踊っては頂けないのですか?」

「うーむ……」

「音也。行ってあげなさい。リリィに恥をかかせたらダメよ?」

 

雫から背中を押された。ならば俺の答えは決まり切っている。

 

「分かった。喜んでお相手致します。姫?」

「……はぃ」

 

普段からは考えられないような恭しい態度でリリアーナの手を取る。そのまま会場の中心まで歩き、お互いに向き合った。

 

ゆったりした曲調の旋律が流れ始める。ゆらりゆらゆらと優雅に体を揺らしながら密着してくるリリアーナ。俺の肩口に顔を寄せながらリリアーナがそっと囁くように話しかけてきた。

 

「……先ほどは、ありがとうございました」

「やっぱり気がついてたんだな」

「非現実的な光景を見たら貴方を想像するのは当たり前ですよ?」

「やれやれ……」

 

俺=非現実的な現象を起こす人間の図式が出来上がっているのを知って苦笑いする。しかし否定は出来ないのであくまでも苦笑いするに留めた。

 

とはいえ、今回助けたとしてもその場凌ぎに過ぎない。今後は恐らく………いや、皆までは言うまい。良くも悪くも、バイアスは皇帝の息子なのだろう。

 

「それにしても引っ付きすぎじゃないか? 皇太子が茹でたこみたいな顔で見ているぞ?」

「いいじゃないですか。今夜が終われば私は皇太子妃です。今くらい、女の子で居させて下さい。それとも、近いうちに暴行されて、愛人達に苛められる哀れな姫の些細なわがままも聞いてくれないのですか?」

「……あのさあ。さっきから思うんだがな。甘えたいならもっと分かりやすくやれ」

「……へ?」

 

いい加減、愛想笑いするのも疲れてきたのでバッサリ切る。俺は続けた。「俺は察しが悪いから、何か言わないと色々やってしまうぞ?」と。

 

耳元で囁いたからか、ビクッと体を震わせるリリアーナ。その瞳は「なぜ?」という色と「嬉しい」という色が交互に表れている。俺はそれに、簡潔に答えた。

 

「七割は香織たちのために。残りの三割はお前自身のために」

 

と。まだ何か言いたげだったリリアーナだが、俺はその口を閉じさせると、後は黙って踊りに集中した。

 

そして、余韻をたっぷり残して曲が終わり、どこか名残惜しげに体を離したリリアーナは、繋いだ手を離さずに少しの間、ジッと俺を見つめて……「ありがとう」と呟いた。咲き誇る満開の花の如き可憐な微笑みと共に。

 

それは唯の十四歳の女の子の微笑み。余りに純粋で濁りのない笑みは、それを見た者全ての心を軽く撃ち抜いた。そこかしから熱の篭った溜息が漏れ聞こえる。

 

しかし俺は、先ほどまでは緩んでいた表情をすぐに引き締める。その理由は、ついさっき俺の耳に入った声にある。

 

――全隊へ通達。こちらHQ、全ての配置が完了した。カウントダウンを開始します。

 

俺はユエの傍に寄る。黙ってユエに頷くと、ユエもまた黙って頷いた。

 

――全隊へ。こちらアルファワン。これより我等は、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む。恐怖の代名詞となる名だ。この場所は運命の交差点。地獄へ落ちるか未来へ進むか、全てはこの一戦にかかっている。遠慮容赦は一切無用。さぁ、最弱の爪牙がどれほどのものか見せてやろう

――十、九、八……

 

カウントダウンが始まる。俺は念話を使って、ハウリアたちに激励の言葉を送った。

 

――お前ら、覚悟は出来てるんだな? お前らの興廃は此の一戦に有る。滅ぶのも栄えるのもお前ら次第だ。膳立てはしてやった。後は存分にやっちまえ!

 

「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

何も知らないガハルドは、なみなみと注がれたワインの入ったグラスを高く掲げる。乾杯の音頭でも取るつもりなのだろう。

 

ガハルドは一呼吸置くと、腹の底まで響き渡るような覇気のある声を張り上げた。

 

「この婚姻により人間族の結束はより強固となった! 恐れるものなど何もない! 我等、人間族に栄光あれ!」

「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」

 

時を同じくして……

 

――気合を入れろ! ゆくぞ!!!

 

――「「「「「「おうっ!!!」」」」」」

 

――四、三、二、一、ゼロ。ご武運を

 

その瞬間。全ての光が消え失せ、栄光に輝いた帝城が影を落とした。

 




次回、ハウリアVS帝国です。
九九艦爆の下りは……やってみたかっただけです。許してください()

恵里の処遇はどうする?

  • 勇者バカ之河の被害者だから救おう
  • 消せ(無慈悲)
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