その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
辺り一面が闇に包まれる。俺はユエを背負って血を吸わせながら事の端末を見届ける。
「なんだ!? なにが起こった!?」
「いやぁ! なに、なんなのぉ!?」
一瞬で五感の一つを奪われた帝国貴族たちや将校が混乱と動揺に声を震わせながら怒声を上げる。贅沢の極みを尽くしてきたであろう、ブクブクと肥え太った豚共は……ハウリアからすれば絶好の獲物だ。そして獲物対象は肥え太った豚だけではない。混乱しながらも迎撃態勢を整えようとする狼たちも狩りの対象なのだ。
「狼狽えるな! 魔法で光をつくっがぁ!?」
「どうしたっギャァ!?」
「何が起こっていっあぐっ!?」
魔法の詠唱を始めた物はハウリアに手足の腱を切られて舌を切り取られる。大魔法を発動させようとした物は容赦なく首を飛ばされた。
俺はというとユエに吸血させて自身も魔皇力を高め始めている。理由は一つだ。
「クイーン、準備は?」
「……いつでも」
クロスボウの矢が飛び交う中、俺はバットファンガイアに変貌。バイアスの傍に茫然と立っていたリリアーナを抱えてハジメの元へ運び、ユエと共に天井付近で待機する。
「ちっ! こそこそと鬱陶しい!」
ガハルド自体を狙う矢。ガハルドの動く先に置かれるように発射される矢。敢えてガハルドの近くに居る側近を撃ち抜く矢。矢、矢、矢。
それでも、防戦一方ながらも対処出来ているガハルドは流石と言ったところだろう。この暗闇の中、頼りになるのは耳だけだ。風切り音だけで矢の位置を把握して迎撃出来る技能は素晴らしいと言えよう。
しかしその程度で動揺しないのがハウリアだ。徐々に集まり始めた家臣たちを見たのか、クロスボウから拳銃に切り換える物が現れ始めた。勿論その拳銃はハジメ作のアーティファクトである。暗殺用に徹底改良されており、色は吸い込まれるような黒。発砲音は殆どなく、アーティファクトであるが故にとても軽い。
ハジメが所持するドンナーと決定的に違うところは、空中リロードではなくマガジンでリロードすることだろうか。そしてレールガンではなく、実弾の、ごくありふれた拳銃というところだろう。
とはいえ腐ってもアーティファクトだ。地球産の拳銃は相手にならないレベルの性能は保持している。ただし拳銃を保持しているのはカムとパルだけだが。
ドパン! ドパンドパン!
「くっ……なんだこれはっ!」
「あ、危なぐあっ!?」
「リア!? てめえ……!」
服の裾に隠れているワイヤー射出装置を使用して縦横無尽に駆け回り、帝国兵や家臣を皆殺しにしていくカム。拳銃で頭を撃ち抜き、外せば接近してナイフで腱を切り裂いていく。動きは正に暗殺者だ。そしてカムを全力でバックアップするハウリアたちの連携は帝国兵や家臣の連携を遥かに上回る精度だ。勝ちは既に見えている。
大方の兵士と家臣が地に倒れ伏せた所でカムはガハルドに急接近する。咄嗟に儀礼用の刀を振るって一撃を回避するガハルドだが、ワイヤーを使った変幻自在な動きに混乱を極めている。しかもワイヤーを使わずに、兎人としての能力を十全に発揮した足技でガハルドを揺さぶっている。本当に成長したもんだ。
「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか! なぁ、ハウリアぁ!」
随分と楽しそうなガハルド。やはり強い者と戦うのは種族関係なしに好きなのだろう。流石、実力第一の国を纏め上げる皇帝だ。そのガハルドの技量も尋常ではなく、目にも留まらぬ速度で振るわれるナイフの斬撃を少しずつながら対処し始めている。合間に挟まれる拳銃の攻撃も軌道を読んで回避をしている。本当に恐ろしい強さだ。
これが皇帝。これが軍事国家の頭。力こそ全てと豪語する戦闘者たちの王なのだ。その姿に思わず感服する。気配を完全に遮断しているため気がつかれることはないので、俺はボソリと呟いた。
「しかし、これで幕引きだ」
ギンギンギン! と金属同士の激突音が響き渡る。拳銃を投げ捨て、同胞に渡したカムが近接一辺倒の戦闘を開始した。リーチの短いナイフの欠点を自前のスピードで補っており、ついこの前までは弱小種族の組長と呼ばれたカムはガハルドと互角以上の戦いを繰り広げている。
神がかりとも言えるヒットアンドアウェイ。しかも威力は絶大。こんな戦い方を教えたのは露葉さん他ならない。僅か一日でここまで仕上げるとは……流石露葉さん。
一歩攻めてはまた攻め返され。そんなことを数十分も続けた……次の瞬間であった。カムが突如として振り下ろされたガハルドの剣に足をかけ、空気の層を破る勢いで真上に跳ね上がったのである。突然の出来事に対応が遅れたガハルド。対空攻撃のための魔法を唱えようとするも、待ってましたとばかりに放たれる銃撃とクロスボウの波状攻撃に詠唱出来ずにいる。
カムは一度天井を蹴飛ばすと独楽のように横回転し、恐ろしい勢いをつけながらガハルド目がけて急降下した。当然、真上からの襲撃と分かっているのなら迎撃をするのが普通だろう。ガハルドもセオリー通りに真上から迫り来るカムの攻撃を迎撃しようと上方向を斬りつけた。
しかし……
ガキン! カラカラ……
剣が根元からポッキリと折れてしまったのである。これはカムの持っているナイフの機能の一つが原因だ。ナイフには短時間ながら某輝彩滑刀のように刃の切り口をチェーンソーのように高速で回転させる機能があるのだ。カムは天井を蹴飛ばした瞬間にスイッチを入れて起動させ、急降下と回転の勢いもプラスして斬りつけたのである。
剣が折れるのは流石に予想外だったのか、一瞬動きが止まるガハルド。それを見たカムは一度ガハルドの腹を斬りつけてから身に纏っていた黒い上着と覆面をガハルド目がけて投げつけ、指をパチンと鳴らした。
「待ってましたぁ!」と言わんばかりに、四方八方からハウリアたちが飛びかかる。皆、手にはナイフを持ち凄惨な笑みを浮かべながらガハルドに急迫していく。暗闇にやけに映える瞳はギラギラと獰猛に輝き、一人一人から濃密な殺気が噴き出す。
各員が交差しながら斬撃を繰り出し、隠し持っていた魔法陣やアーティファクトを破壊または弾き飛ばす。投げつけられた上着や覆面によって一時的に動きを封じられたガハルドは抵抗もできずに死に体へと変わっていく。
最早抵抗の手段を失ったガハルドにハウリアを止めることは出来ない。手足の腱を切断され、声こそ上げないが激痛に顔を歪めたガハルド。
オマケとばかりに追加で腱を切ったカムがガハルドの背中側に立つ。そして最後に一言、ポツリと呟いた。
「ショーは終わりだ」
その言葉と共に、ガハルドは前のめりに倒れ込んだ。血を至る所から噴出し、放置しておけば大量出血&痛みのショックで死に至るだろう。
そうなっては困るので、カムたちはガハルドから噴き出す血を止血。対話が出来るような状態まで回復させる。そしてスポットライトのような光りを上から降り注がせる。
「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」
「ふん、要求があるんだろ? 言ってみろ、聞いてやる」
「……減点だ。ガハルド。立場を弁えろ」
ガハルドに話しかけるカムだが、横柄な態度を取ったガハルドにほんの一瞬の間を開けて機械的な声を返した。
すると突如、ガハルドから少し離れた場所にスポットライトが当たる。そこには、ガハルドと同じく手足の腱を切られ、詠唱封じのために口元も裂かれた男の姿があった。その男にスポットライトの外から腕だけが伸びてきて髪を掴んで膝立ちにさせたかと思うと、次の瞬間には、男の首が嘘のようにあっさりと斬り飛ばされた。
「てめぇ!」
「減点」
思わず怒声を上げるガハルド。他の場所からも生き残り達が見ていたのだろう。悲鳴や息を呑む音が聞こえる。しかし、そんなガハルドの態度に返ってきたのは機械じみた淡々とした声。
そして、再び別の場所にスポットライトが辺り、同じように男の首が刈り取られた。
「ベスタぁ! このっ、調子にのっ――」
「減点」
側近だったのか、たったいま首を刈り取られた男の名前を叫び、悪態を吐くガハルドだったが、それに対する返しは、やはり淡々とした声音と刈り取られる男の首だった。
「くっ……」
「そうだ、立場を弁えろ。お前は今、地を舐めている。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。今、この会場で生き残っている者たちの命はお前の言動一つにかかっている」
その言葉と同時に、いつの間にかスポットライトの外から伸びてきた手が素早くガハルドの首にネックレスをかけた。細めの鎖と先端に紅い宝石がついたものだ。
「それは〝誓約の首輪〟。ガハルド、貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。一度発動すれば貴様だけでなく、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。誓いを違えても、当然、死ぬ」
連なる魂を持つ。つまり、ガハルドと直系の一族も身につけなければ全員死ぬということだ。そのことを理解したのか、ガハルドが苦虫をかみ潰したかのようの表情をする。
それを見たカムは、やはり機械的な声で続ける。
「誓約の内容は四つだ。一つ、現奴隷の解放、二つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、三つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、四つ、その法定化と法の遵守。わかったか? わかったのなら、〝ヘルシャーを代表してここに誓う〟と言え。それで発動する」
「呑まなければ?」
「今日を以て帝室は終わり、帝国が体制を整えるまで将校の首が飛び続け、その後においても泥沼の暗殺劇が延々と繰り返される。我等ハウリア族が全滅するまで、帝国の夜に安全の二文字はなくなる。帝国の将校たちは、帰宅したとき妻子の首に出迎えられることになるだろう」
容赦のない要求を突きつけるカム。言葉の選び方がどうも魔王モードのハジメや阿修羅モードの雫にそっくりだ。誰に似たのかは言うまでもない。
しかしここまで来てもガハルドは要求を呑もうとしない。まあ当たり前だ。仮に契約の内容を遵守すると、帝国には計り知れない経済不況が訪れるからだ。武者軍団のガルシャー帝国がここまで発展しているのは、国民の数を超える奴隷が存在したからだ。奴隷を休むことなく働かせれば当然、それ相応の経済加速が望める。が、逆に考えてみればすぐに分かるだろう。奴隷がきれいさっぱり解放されたら帝国はどうなるかを。
そして帝国その物だけではなく、国民個人への影響も凄まじい物になる。特に奴隷商や亜人専門の娼館など大損害を被るだろう。なんなら追い詰められて自殺だって有り得る。同情は一切しないが。むしろ苦しんでくれ。
「俺は絶対、誓約など口にしない。誓約をするぐらいなら死を持ってでも起爆剤となり、貴様らに戦争を仕掛けてやる」
「そうか。……減点だ、ガハルド」
再度、その言葉が発せられ、降り注いだスポットライトに照らし出されたのはバイアスだ。
「離せェ! 俺を誰だと思ってやがる! この薄汚い獣風情がァ! 皆殺しだァ! お前ら全員殺してやる! 一人一人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ! 女は全員、ぶっ壊れるまで犯しまくってやらあ!」
その言葉を聞いたユエは、“変貌した右腕を”前にかざした。花のような飾りが付いた黒い手を喚き散らすバイアスに合わせ、ポツリと一言呟いた。
「貴方の、夜が来る」
魔力が集束した影響でユエの姿が露わになる。その姿は何時もの可憐な少女ではない。ピンク色の花びらを全身に纏ったような皮を被り、鬼のような角を二本生やしている。背中からは天使のような羽をはためかせ、そして何より目を惹くのは一つしかない眼球だ。どこか幻想的で、かつ狂気的な見た目は嫌でも目を釘付けにされる。
紅色の魔力、いや魔皇力がユエの右手に集束し、やはりポツリと機械的に呟かれる。
「〝蒼龍零嵐〟」
途端、ユエの右手から蒼白い炎を纏う龍がバイアス目がけて発射された。うねりながらではなく、ただ一直線にバイアスの股間を目指して前進した龍は、股間に到達すると時限爆弾のように小規模の爆発を起こした。バイアスの壊死した股間を完全に粉砕し、オマケと言わんばかりに大腸辺りまでの臓器を全て機能不全に陥らせる。
悲鳴を上げるバイアス。それを見たユエは俺にコクリと頷く。俺もまた、コクリと頷いた。
「〝神陽〟」
呟きの刹那、太陽のフレアの様な物が俺の周りを駆け巡り始めた。俺が片手を上にかざすと、そこにフレアモドキが集まり、魔皇力を注入。疑似太陽の完成だ。大きさは精々三十センチメートルほどだが、熱量や引力は本物である。見た目的には某宇宙の帝王が繰り出す超新星爆発に似ているだろうか。
ここまで言えば気がつくかもだが、この魔法は蒼天や蒼龍といった火属性最上級魔法に重力魔法を付与した物である。分類的にはオリジナル火属性魔法だ。実態は熱を極限まで凝縮した火の塊であり、頑張れば熱を感じる距離を調整することもできる。つまりどういうことかって? それは見ていれば分かる。
「や、やめろ! 俺は次期皇帝だぞ! こんなことをして許されるとでも思っていっ!?」
「よく回る口だ。だが貴様の命はここで終わる」
またも喚き散らそうとしたバイアスだが、ハウリアの手によって舌を切られてしまった。口からダラダラと血を流し、手足を押さえつけられながら真上まで移動した疑似太陽を焦りと恐怖の混じった瞳で見やるバイアス。必死に生き長らえようとハウリアの拘束を解こうとするも、素でステータス値6000超えの首狩兎人族に敵うわけがない。
疑似太陽はバイアスの行動を嘲笑うかのようにゆっくりと降下していく。逃げようにも逃げられないバイアスの髪の毛を焦がし、やがて皮膚をも完全に焦がして体内へと侵入していく疑似太陽。一切の抵抗を許すことなくバイアスの脳、口内、気管、心臓、内蔵を溶かした疑似太陽は、肛門辺りから出てきてその姿を消した。
物音一つ鳴らぬパーティー会場。皇太子が惨殺されたというのに悲鳴や怒りの声一つ上げられない兵士や貴族たち。ここは魑魅魍魎跋扈する地獄変。この地獄からは誰一人として逃れることは出来ぬ。一歩でも動いてみろ。すぐにその命を消し取ってやる……。
今回のカムの武装は某ジョーカーの物を意識しています。また、ユエの姿は現在パールシェルファンガイアの物となっています。ユエがファンガイア化する条件は大量に吸血するか感情を爆発させるかになっています。今後も使う設定…なはず()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)