その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「……マジで?」
“先に姫さんを送ってくれ。大迷宮に入るための証はハウリアに渡しておく。俺たちは一足先に行ってるぞ”
ハジメから告げられた提案に間抜けな声を出す。樹海に向かっていたところを突然提案……というかほぼ決定事項を告げられたのだ。困惑するなという方が無理である。
しかしハジメは更に続けた。
“別に音也なら何とかなるだろ? むしろ俺らが居ない方が早く攻略出来そうだしな。一応キバットは一足先に王都に向かってる”
最後に「信用してるから頼んでるんだ。任せたぞ」と締め括って念話が途切れた。俺は盛大にため息をつきながらも方向転換し、リリアーナに先に王都に寄って送ると伝える。
「雫は大丈夫なんですかね?」と言ったリリアーナに多分、きっと大丈夫とだけ伝えて王都へイクサリオンを走らせた。
途中で現れる魔物を軽く轢き殺しながら爆走すること数時間。日本時間でいう六時頃になってようやく王都へ到着した。
「ただいま戻りましたわ」
「ひ、姫! ご無事だったのですか!」
「五体満足ですよ。それよりお母様は居ますか? 色々話すことがありまして……」
「ルルアリア様でしたら今はお部屋にいらっしゃるかと。ところで其方の男性は……紅音也さんですかね?」
「ええ。彼も通していただけます?」
本来来るはずのなかった俺の姿を見て訝しがっている門番を軽く説得したリリアーナは、俺のことを手招きして王城に入れてくれた。
そのまま少し歩くと、見慣れた陰を発見。
「来たな」
「コウモリモドキか。かなり早いな」
「なに、言われてからすぐに飛び出したのでな。到着したのは三十分前ぐらいだ」
短いながらも心が通じ合っていると分かる会話をしながら俺は歩く。王城にはクラスメイトたちも滞在しており、通路に入る毎に数人のクラスメイトとすれ違う。当然と言うべきか、クラスメイトは驚いた顔で俺のことを見てくる。その瞳は「なんでここに?」や「迷宮攻略するんじゃないのか?」という気持ちが見え見えである。仕方ねえだろ。俺も好きでやってるわけじゃないんだ。
幾つもの通路を通り抜けて一際大きな扉を開け放ったリリアーナ。その先には……書類の山に埋もれてグッタリしているルルアリア王妃の姿が見えた。目からは生気が失われ、頬はゲッソリと痩せこけている。控えめに言って痛々しい姿だ。
見かねたリリアーナがルルアリア王妃の元へ声を張り上げながら駆け寄る。
「お母様!」
「り、リリィ? 貴女なの? 無事だったの?!」
「はい、ただいま帰りましたよ!」
「ああ……夢じゃないのね。帝城が襲撃されたと聞いてから気が気でなくてね……本当に良かったわ」
駆けよったリリアーナの姿を見てガバッと起き上がり、椅子から立ち上がってリリアーナのことを抱き締めるルルアリア王妃。形がどうであれ娘の嫁入りという門出の日に、その会場が襲撃されたと聞けばそれは心配するだろう。
しかも襲撃者は差別していたはずの兎人族だ。奴隷に堕としたことへの復讐と考えるのが普通だろうし、何よりリリアーナは強力な交渉材料にだってなり得る。ちょっと悪いことしたかもと反省したくなった。
「あら? 貴方は……紅音也さん?」
「どうも、お久しぶりで」
「まさか貴方がリリィを……助けてくれたのですか?」
「まあ……そうだな」
成り行きとはいえ嘘ではないので肯定する。リリアーナも特に否定していないので大丈夫だろう。
ルルアリア王妃は俺が肯定したこと、そしてリリアーナが否定をしないのを見て深々と頭を下げてきた。以前の神の使徒襲撃時に国王は死亡しており、実質的なトップはルルアリア王妃である。そんな人が簡単に頭を下げてきたのだ。その事を理解している俺は慌てて頭を上げるように促す。
「お、おいおい。そんな簡単に頭を下げなくても……」
「いえ、国を代表して言わせてください。本当にありがとうございました」
「成り行きだ成り行き。だからな……」
「これは一人の母親としてのお礼でもあるんです。大切な娘のことを助けてくれて……頭を下げない親がいます?」
「う……しかしなあ」
納得はするも引き下がることは出来ないので抵抗を続けてみる。無意味だって?分かってるわそんなこと。
が、かなり子供らしい押し問答はバタンッ!と鳴り響いた扉の音によって終末を迎えることになった。
「リリィ! 無事だったのか!!」
「ちょちょちょ、光輝くん!? 流石にノックしないのはマズいでしょ!」
「鈴、諦めなよ。この人は変わらないし。あ、どうしたんだい紅。愛しの雫と離れてさ」
部屋に入ってきたのは光輝、鈴、恵里である。結構無礼なことをした光輝を諫める鈴。そして諦めるように諭す恵里。三人も俺の顔を見ると恵里を除いて驚愕が明らかに分かる表情へと変わった。
続いて光輝の表情が一気に険しくなる。恐らくルルアリア王妃から離れて俺の腕に引っ付いているリリアーナについて何か言いたいのだろう。ズンズンと足音を鳴らしながら近寄ってくる。
思わずリリアーナと顔を見合わせて、殆ど同時のタイミングで「面倒くせえな」という表情を作り、続いて苦笑い。その様子を見た光輝の表情はさらに険しくなった。
「おい紅。まさか、リリィにまで手を出したのか?」
「んなアホな。襲撃から逃れて精神が少し不安定だから俺が精神安定剤代わりになってるだけだ」
「そういえばシズシズやカオリンは? 確か樹海に向かったんじゃ……」
「あまり聞かない方が良いよ。どうせ理不尽な事を起こしてきたんだろうし」
「言ってくれるな。間違ってないが」
光輝の追求をサラリと躱して恵里にジト目を送る。随分と辛辣な物言いになったもんだ。それだけ素が出てるんだろうけど。故に言い咎めることはない。良い方向性に進んでいると言えよう。
その後、俺はすぐに王城を去ろうとしたのだが……ルルアリア王妃にしばらく羽を休めて行けと提案された。流石に休憩するつもりはなかったのですぐに断ろうと思ったが、光輝の視線が色々と面倒くさかったので数日間は王城に滞在することを決めた。別に俺が居なくてもあいつらなら大迷宮は大丈夫だろう。
随分と久しく感じる天蓋付きのベッドがある部屋に通された俺は、寝心地が抜群だと思われるベッドに身を放り出した。
「良かったのか?」
「たまには良いだろ。言われてみればここまでノンストップだ。ほんの少し羽を伸ばしても罰は当たらないさ。それに……」
「それに?」
俺は腰に巻きっぱなしのベルトと宝物庫から取り出したイクサナックルを手にする。そしてポツリと呟いた。
「母さんが何者なのか、そしてお前が仕えていた吸血鬼族について色々と調べる時間に割くのも悪くないと思ってな」
「お前の母親? それまた、どうしてだ?」
「いや、最近気がついたんだよ。イクサを開発したのは母さんだが、俺たちが元いた世界で開発するのはどこか無理があると思ってな」
多少の改良は確かにしている。しかし根本的な部分は殆ど変わらないにも関わらず、異世界で魔法が使えるのに戦力外になることもなく常に第一線で戦えるプロトイクサ。出番こそ少ないが確実にグレードアップしており、プロトイクサよりも強力なライジングイクサ。
これまでは「母さんすげえ」ぐらいにしか思ってなかった。しかし、神の使徒と戦った時に疑問に思ったのだ。あの時はライジングイクサだったのだが、凶悪な分解能力を操るノイントの攻撃を受けてもどういう訳か分解されることがなかったのである。ハジメのように錬成をして修復された訳でもない。全くの無傷なのだ。
俺が住んでいた世界の技術の発展は確かに目覚ましいのだが、この世界のように魔法が使えるわけではない。それなのに使徒の分解攻撃を軒並み無効化し、挙句の果には圧倒するライジングイクサと使い方によってはライジングよりも強いプロトイクサを制作した母さんは何者なのか。これを兎に角知りたいのである。
「いつか真実を知る日が来たのかもしれないが……幸いにもそれを早く知れるかもなんだ。損はないと思うぜ」
「お前がそう言うなら……そうなのかもしれないな。俺も気になっていたところだ。異世界でも通用するアーティファクトを作れる人物のことがな」
思いは同じだ。俺たちは互いに頷きあうと、それぞれ行動を開始するのだった。
原作沿いだと気に入らないという意見が出たこと、そして元からの予定でもあるのでここからオリジナル要素がかなり増えます。ご了承ください。
(低評価する人って何でこの小説見てるの?)
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(気にしたら負け案件)
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)