その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
翌日から俺たちは早速調査を開始した。朝早くから図書館に入り浸って本を読み漁り、何か一つでも、僅かでも良いからと情報を探す。
とりあえず神代の頃の魔法使いを調べてみる。神代なら生成魔法やあらゆる物体を一段階グレードアップさせる昇華魔法が使える魔法使いがそれなりに居る。俺はキバットに手伝って貰いながらも片っ端から眺めていった。
「うーん……候補は何人か見つけたが、確定的なのは一つもないな」
「むしろ吸血鬼族の生い立ちを再認識することになったのだが」
「吸血鬼王国の興廃な。随分と長く栄えたようじゃないか」
江戸幕府以上の期間、内戦もなく吸血鬼王国は栄えていたらしい。その間支配していたのはユエの家系だが、独裁に近い政治にも関わらず国民の願いを可能な限り叶えていた御蔭か圧倒的な支持を集めていたらしい。
古今到来、国が滅びるときは大抵最下層辺りにいる農民が政策に対して起こす反乱による物だと考えると、400年も栄えた吸血鬼王国は凄まじいといえよう。
ただし他国から宣戦布告されることは多かったらしく、自国防衛のために最初はサガの鎧を制作。後に闇のキバの鎧を制作したらしい。さらに亜人族へも“イクサ”をプレゼントして良好な関係を築き、いざ戦争となれば手を取り合って勝利を重ねてきたようだ。最後はエヒトによって滅ぼされてしまったが……。
「あれ、紅とコウモリちゃんじゃないか。何をしてるんだい?」
「中村か。いや、ちょっと調べ物をな」
異世界へ来ても本好きなのは変わらないのか、恵里が図書館に入ってきた。しかし今回は本を読むために来たわけではないらしい。
「お前こそ何しに来たんだ? 本を読みに来たのか?」
「いや、紅を探してたんだよ」
「俺を?」
「ちょっとヴァイオリンを教えて貰いたくてね」
アッサリと否定されて訝しがる俺に恵里は特に表情を変えることもなく言う。何故ヴァイオリンを?と疑問に思い、尋ねようとしたのだが……どうやらそれは見透かしていたらしい。
話を聞くに、恵里はヴァイオリンを小さい頃秘密裏に習っていたことがあるらしい。ヴァイオリン自体は大好きであり、教えてくれる先生との仲も良好。恵里の母親が虐待を始めた時も引き取ろうかと再三にわたって恵里に言ったこともあるらしい。その先生はかなりのお婆さん先生だったらしく、残念なことに恵里が小学三年生の時に急性心不全で死んでしまったらしいが。
その時に合わせて恵里もヴァイオリンを弾くことを止めてしまったらしい。
「あの人は私のことを確かに嫌っていた。でもヴァイオリンを弾いてる時は優しい母親だったんだ。その思い出を忘れたくない」
「そうか……まあずっと調べてる訳にもいかないし、別に構わないぞ」
調べ物を始めてから既に数時間が経過している。息抜きも兼ねて恵里にヴァイオリンを教えるのも充分有りだと判断した俺は、一度本を片付けて図書館を出た。
どうやら練習は何時ぞやの訓練場でやるらしい。人目は気にならないのかと聞けば、「光輝に見せつけてやりたい」と即答した。随分と変わったもんだ。
「とりあえず弾いてみてくれ……ってヴァイオリンがないか。これを使え」
「これは……またアーティファクト?」
「自前でこしらえた。ヴァイオリン制作の技能を俺は持ってるからな。一人二重奏用として作ったんだ。特に俺の手持ちのヴァイオリンに劣る性能、ということはないから安心しな」
軽く音出しをしながら恵里に答える。ヴァイオリンの演奏をしながら魔法を発動させられるのであれば俺と同じように強力な魔法を扱うことも可能だったりする。
恵里もヴァイオリンを受け取って軽く音出しを始めた。音出しだけである程度技術がどんな物か分かるので耳を傾けてみるが、ブランクがあるにも関わらず中々な腕前だ。ほんの少し手を加えればそこらのコンクールでは最優秀賞を獲得出来そうである。
そんなことを考えながらエチュードを弾き、さらにはピアノソナタをヴァイオリン譜に直して弾きまくる。曲自体は知っているであろう恵里の顔は引き攣りまくる。
「流石、毎日弾いてるだけあるよ。稀代の天才とか言われてたけど、本当は努力の天才なんじゃないかい?」
「自分を天才と思える訳ないだろ。まだまだ納得のいかない箇所だらけだ」
「嫌味にすら聞こえるよ」
「そう言うな。お前だってブランクあるのに中々やるじゃねえの。ただ少し音の強弱が少ないな」
その後俺は、光輝から飛んでくる刃物のような視線をスルーしながらも恵里に手取り足取りヴァイオリンの技術を教えていくのだった。
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二日後。俺は相変わらず調べ物をしつつ、休憩がてら恵里にヴァイオリンの技術を教えていた。かなりの速度で本を読んでいたので関連性のありそうな物は一冊を残して読み切ってしまっている。
しかし最後の一冊を中程まで呼んだところで、図書館にも関わらず俺は「あっ!」と声を上げた。
最後に手に取った本は「アーティファクト一覧表」というものだ。神代の人間が制作したアーティファクトがズラリと写真と共に載っており、アーティファクトの説明と制作者の説明が記載されている物だ。
そこにはステータスプレートや宝物庫、人工太陽などが載っていた。興味深げに読み進めていった俺だが……中程に書いてあったアーティファクトを見つけて思わず声を出したのである。
そこには、“世界に一つしか現存しない伝説のアーティファクト”と書かれており、続いてこんなことが記されていた。
“人類の守護者、イクサ。”
アーティファクトの説明を見てみると、こいつは吸血鬼族のキングが亜人族にプレゼントしたイクサよりも前に生まれた物であり、一人の女性が制作して装着。数年の間、人類の守護者として扱われていたらしい。
そしてその制作者の名前は……。
「紅……文音、か」
「む、俺もその名は聞いたことがあるぞ。亜人の英雄オトヤと並んで讃えられている人間だ。そいつも亜人族だからと差別することがなく、守りたい者のためなら同族も躊躇なく殺す性格だったらしいが……」
「……なるほど。俺の今の性格は豹変したから生まれたわけじゃないってことか」
紅文音は俺の母さんその人だ。何故、母さんの名前がここに記されているのかは分からないが、仮に母さんが行ったあれこれの口伝が正しかったとしたら。俺の今の性格が新しく作られた物ではないと思える。この性格はきっと、遺伝した物なのだろう。
俺は一つの予測を立てる。母さんは一度この世界に来ていて、理由は不明だが神代に飛ばされた。その際に神代魔法を習得してイクサの原型を制作し、それを使ってエヒトと対局。善戦するもイクサの活動限界によって倒れた母さんはエヒトの気紛れで記憶の殆どを消されながらも元の世界へ送り返された。
この予測が正しければ、母さんの異常な技術力にも納得がいく。これで確定したわけではないが、俺は一つの安心というものを得ることが出来たので良しとした。
しかし予測だけを抱えるのは心がモヤモヤして気持ち悪い。知り合いに神代のことを詳しく知る人物は……。
「……いた。いるじゃないか」
すぐに一人の女性の顔が思い浮かんだ。ウザいことこの上なく掴み所がないが、その決意は俺たちよりも強いあいつ。ゴーレムに魂を移していたが今では人間に戻った彼女。
そう、ミレディ・ライセンだ。あいつなら何か知っているかもしれない。そうとなれば行く先は決まりだ。
そして翌日。俺はルルアリア王妃とリリアーナに泊めてくれたお礼を言ってから城を出発しようとした。そう、「しようとした」だ。
「……なんでお前らがいるの?」
「大迷宮攻略に戻るんでしょ? 僕たちも神代魔法が一つぐらい欲しいんだ」
「いや、別に中村や谷口が付いてくるのは何も言わない。だけどな……なんで勇者(笑)までいるんだよ」
俺の気苦労はまだまだ続きそうである。胃腸に穴が開かないか心配だが……どうにかなるだろう。多分、きっと。
次回は樹海の前にミレディに会いに行きます。その後に音也、恵里、鈴、光輝、龍太郎で樹海の大迷宮を攻略しに行きますのでお楽しみに!
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)