その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
それと早速、意見を書いてくれた人はありがとうございます。もう少し考えますが、参考にさせていただきます!
「うぐっ!?」
「痛いかもだけど我慢してねえ。これもすぐに終わるからさ」
重力魔法を脳内に直接刷り込まれている恵里が呻き声を上げるも、ミレディは雑に励ましながら魔法陣を起動させ続ける。
それもすぐに終わり、へたり込んだ恵里だけが後に残された。まあ仕方ないだろう。俺も初めて刷り込まれた時は思わず呻き声を上げたのだ。とりあえずへたり込んでいる恵里の元に歩き、宝物庫から取り出した回復薬を渡した。
「お……ありがとう。これリンゴジュース?」
「風味はな。中身は魔力と体力回復薬だ」
「マナポーションってそこまで美味しくないからこれは新鮮だよ。美味しく回復出来るって本当に素晴らしい」
あっという間に回復した恵里は、素直に回復薬の感想を述べてきた。どうやらこれまで飲んできた回復薬はそこまで美味しくなかったらしい。良薬は口に苦しの精神で頑張ってたらしいが、普通に美味しい回復薬を見つけた今はこれ以外飲みたくないとも言われた。
ちなみにだが、“神水”はミネラルウォーターの味がする。本当にただの水の味なので、ずっと飲んでいると飢餓感に襲われて大変になる……と、ハジメが言っていた。
「色々と波乱の数時間だったけど、かなり充実していたよ。ありがとうね」
「いや、お礼を言うのは俺の方だ。母さんのことを教えてくれたばかりか、恵里に神代魔法を授けてくれたんだからな」
「んふふ……ミレディお姉ちゃんからのサービスだよお! あのクソ野郎を打倒するためなら必要になるかもだしねえ」
「ま、道を塞ぐなら戦うだけだが……最近は自然と神を殺すことも視野に入ってきてるよ」
やることなすことがこの世界からすれば“イレギュラー”なのだ。神を殺すことになるのも必然と考えられる。神というのは気に入らない存在は消したがるもんだ。
「んじゃ、もう行くのかな?」
「そうだな。ちょっとイレギュラーな事もあったが、これから樹海の大迷宮を目指すつもりだ」
「なるほどねえ……うん、君なら大丈夫だよ。ここで勝手に野垂れ死んでいくようなタマでないことぐらい織り込み済みだからね!」
「最大級の評価をありがとう。それじゃ……コウモリモドキ、行くぞ」
「世話になったな、ミレディ・ライセン。では行くぞ……ガブリッ!!」
最近は副作用がなくなったキバの鎧を装着。ノータイムで空間魔法を使用して空間に裂け目を作り、直接大樹へ向かえる道を作る。
先に光輝たちをワープホールへ放り込んでから俺も足を踏み入れ……る前にミレディの方へ振り向いた。
「あばよ。本当に世話になった」
「何かあればまた戻ってきてねえ。お姉さんは何時でも待っているよお」
「心に留めておこう。それじゃあな」
後は振り返らずにワープホールへ足を踏み入れた。ワープホールの先はすぐに大樹である。既に「ゲエッ、音也殿!?」という声が聞こえる。
それと、「待ってるよ。君のことなら何千年先になっても」という声も聞きながら、俺は変身を解除しながらワープホールを閉じる。
「よおカム。元気にしてたか?」
「こいつは音也殿。そりゃもうピンピンしてますよ。それにしてもボスと別行動するとは思ってもみませんでしたなあ」
カラカラと笑うカム。カムに聞けば、ハジメたちは既に迷宮の攻略を終えて俺が突破するのをフェアベルゲンで待っているらしい。その際に、ハジメとシアが一線を越えたとも聞いた。
「へえ、ハジメとシアが?」
「つい昨日に赤飯を炊いたばかりですぜ。まったく、成長したもんです。父として感慨深い物がありますよ」
「俺としてはようやく一線を越えたって感じだな。なんだかんだで仲は良かったけどハジメがチキンだったからさあ……」
素直にハジメの“大切”が増えたことを喜ぶ。まあ、カムたちを助けに行く理由だって“シアの家族だから”である。既にあの時点でシアのことを特別な目で見ていたのだろう。
問題は雫たちだが……どうやら何ともないらしい。それどころか、俺と再開したときに褒めて貰うために鍛錬に勤しんでいるとか。
「物好きな奴らだな……ま、そんなところも好きなんだけどな」
「相変わらずでして」
「褒め言葉として受け取っておくさ。そんじゃ、そろそろ大迷宮へ行くぞ。攻略の証を頼む」
以前見たときと変わらない様子の大樹を見上げながら攻略の証を受け取る。そして大樹の麓にある石版の窪みにオルクス大迷宮攻略の証をはめ込んだ。一拍置いて、石版が淡く輝き出し文字が浮き出始める。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
黙って他の攻略の証をはめ込む。一個はめ込むごとに大樹から光が溢れだし、四つ入れた所で殆ど太陽とも言える光を放っていた。
さらに再生魔法を宿した右手を大樹に触れさせると……目を開けてはいられないほどの光が大樹を包んだ。俺の手からまるで波紋のように何度も光の波が天辺に向かって走り始める。
燦然と輝く大樹は、まるで根から水を汲み取るように光を隅々まで行き渡らせ徐々に瑞々しさを取り戻していった。こうして見上げると、中々に壮観である。
少し強めの風が大樹をざわめかせ、辺りに葉鳴りを響かせる。と、次の瞬間、突如、正面の幹が裂けるように左右に分かれ大樹に洞が出来上がった。数十人が優に入れる大きな洞だ。
「行くぞ」
大樹に見惚れている四人に声をかけて大樹の洞へと足を踏み入れる。続いて光輝たちも足を踏み入れた。
すると開いていた入り口が閉じ、光が徐々に失われていく。あわてふためきそうな光輝や鈴のことを一喝して黙らせ、足下にある転移用の魔法陣を見る。暗い中でも光源が必要なかった理由だ。
意識が徐々に薄れていく。俺は何時、何が起きても大丈夫なように心の準備をし、意識を消すのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ッ……ココ、ハ?」
目を覚ました俺は辺りを見渡す。大樹の中だというのに辺りは樹海であり、とても奇妙な光景だ。しかしそれ以上に奇妙なのは、俺の姿である。いや、俺自身からすればそこまで奇妙じゃないのだが……何故だかファンガイアから元の姿に戻ることが出来ない。どんなに戻ろうとしても、何らかの力が働いて上手くいかないのだ。
ここで余計な力を使うのも面倒なので、俺は諦めて周囲をもう一度見渡す。光輝や龍太郎は未だに気絶している。鈴は俺の姿を見てもう一度気絶した。恵里だけは真っ先に俺が俺であると気がついたらしく、特に倒れることもなく近寄ってきた。
「ふーん……これが本当の姿なんだ。どこか不気味だけど強そう」
「説明、頼メルカ?」
「うん、任せてよ。何も言わなかったら光輝は襲いかかってきそうだし」
その後、意識を取り戻した光輝と龍太郎が案の定襲いかかろうとしてきたが……恵里の鋭い眼光によって動きを止められた二人が彼女からの説明を受けたことで渋々納得した。鈴は一度気絶して慣れたらしく、説明を聞いて合点がいったのか倒れることはなくなった。
「す、すまなかった……だが紅。ここから先はどこに向かえばいい? 空は濃霧に覆われているし、数キロ先も見えないが……」
「取リアエズ探スシカナイ」
上空から出口を探すという手段が使えない以上は歩いて探すしかない。俺は適当に魔法でマーキングしながら先へ進む。時折雑魚レベルの魔物が現れるが、俺が攻撃する前に恵里が始末していく。
と、その時。相変わらず信用と実績のある俺の聴覚が何かを捉えた。こいつは虫の羽音であるが……待てよ。一匹じゃない。何千、何万と存在している!?
ブゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!
「鈴!」
「うぅ~、キモイよぉ~、〝天絶ぅ〟!」
羽音の正体は巨大なスズメバチだ。黄色と黒の毒々しい色合いと、ギチギチと開閉される顎、緑色の液体を滴らせる針、わしゃわしゃと不気味に動く足、そして赤黒い複眼……直視は避けたい生き物だ。
しかも連携プレーで潰しにかかってくる。厄介極まりない。さらにはスズメバチモドキだけではなく、他にも虫が大量に見受けられる。
「墜チロ!」
ゴウッと紅い風を巻き起こす。鈴だけの障壁では突破されかねないのをすぐに察知した俺は、少しでも援護になればと即席で紅炎の竜巻を繰り出したのである。虫は火に弱いという通りはここでも通用するらしく、素晴らしい速度で大量のスズメバチモドキを撃墜していく。
さらに目の前に現れたスズメバチモドキを見て硬直していたものの、持ち直した恵里が闇属性の魔法波を発射。純粋な大砲に近い破壊力を持つ魔法波によって虫の壁に穴が生まれる。遅れて龍太郎や光輝も衝撃波や斬撃を飛ばして何とか虫たちを追い返している。
「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け! 〝光刃〟!」
「後隙ガ……クソッ 〝紅壊〟!」
大振りの技を発動した光輝の後隙を埋めるために細胞を内から破壊していく魔法弾を発射。さらに鈴の破られそうな結界の壁を再生魔法で補強しつつも腕からブーメランのような刃を飛ばして虫共をまとめて葬り去る。
恵里もヴァイオリンに持ち替えて殲滅速度を上げていく。それを見た俺は、少しのいたずら心を持った。命をベッドにしたやり取りをしているというのに呑気だと思うなら勝手に思っていて欲しい。
「うわっ!? 危ないじゃないか!」
「心拍数、ドウダ?」
「……予告してくれよお!」
プリプリ怒りながらも虫共の殲滅を止めない恵里。どうやら心拍数はさらに跳ね上がったらしい。変幻自在に魔法弾を操って数百匹をまとめて駆逐している。
俺も手を止める訳にはいかないため、何となくの想像ながらも大魔法のトリガーを引いた。
「〝劫火浪〟」
想うは炎の津波。かつて神の使徒が俺に使用した大魔法である。うねりを上げて頭上より覆い尽くすように迫る熱量、展開規模共に桁外れの大火に一瞬、世界が紅蓮に染まったのかと錯覚させる。
恵里以外の三人は思わず攻撃の手を止めてしまっている。それは魔物たちも同じであり、ただ茫然と目の前に迫っている己の死に恐怖して動けなくなってしまっている。
“殲滅”や“駆逐”の二文字に相応しい破壊力を見せつけた大魔法は、跡形もなく先ほどまで目の前に存在していた虫型の魔物をけしとばしてしまった。鈴に関しては魂が抜けてしまったかのようにポカンと口を開けている。間抜け顔だな。
「さ、流石だぜ紅。あながち魔王ってのは間違いじゃないのかもな。尊敬するぜ」
「龍太郎!? ダメだ、あんな奴を尊敬するなんて!」
やはりこちらも間の抜けた声が響き渡る。隣で恵里がジト目でため息をつくのを尻目に、俺はさらに先へと足を運ぶのだった。
次はエターナルを更新してからです。また少し空きますが待っていてくれると嬉しいです。
恵里の処遇はどうする?
-
勇者バカ之河の被害者だから救おう
-
消せ(無慈悲)