その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
※最近ありふれ×クウガのクロスオーバーを書きたくなってきました……本作が終わってもまだ書きたければ執筆します()
恵里にステータスプレートを返した俺は、四人を引き連れて奥にいつの間にか現れていた魔法陣に足を踏み入れた。どうやら転移用の魔法陣らしく全員が足を踏み入れた途端に光が爆ぜ、気がつけば先ほどとは違う空間に立っていた。
「この空間は……ダメだ。意図がまったく理解できないぞ。何も見当たらない」
怪しく思っているのは恵里や光輝も同じらしく、しきりに辺りを見渡しては首を傾げている。ちなみに光輝が索敵に参加しているのは龍太郎や鈴と違ってある程度の〝気配感知〟を使えるからである。それとこれ以上無様を晒したくないというのもあるのかもしれない。
それにしても不気味な空間だ。大抵大迷宮に魔物は付き物であり、どこに行っても必ず魔物の気配があった。それ故にテンプレを思いっきり外したこの空間は不気味であり、一定の恐怖を煽るのである。
「紅、何か見つかるか?」
「いや、何も。気配感知どころか耳や義眼にも引っかからない。本当に俺たち以外は誰もいない空間らしいな」
「そんなことある? 君のことだから聴き逃しや見逃しはないと思うけどね」
「さり気ないプレッシャーをどうも。だが本当に何も居ないぞ。気配感知は兎も角、耳にすら何も引っかからないんだからな」
ついでに言っておくと、イクサに搭載されているコンピューターアイでも潜んでいるかもしれない魔物を見つけることは出来なかった。魔力反応は一応あるのだが、肝心の魔力を出している主を見つけられない。
警戒を一切解かずに俺は辺りを睨みつける。と、その時である。突然、光輝がフラフラと前に進み始めたのだ。目の焦点がブレており、明らかにマトモな状態ではないのが一目瞭然である。
「おいどうした? 勝手に動くとはいい度胸してるじゃねえか」
「しず……く。香織。こんなとこに居たのか。ああ、分かってる。今そっちに行くさ」
「おい、しっかりしろ! 目を覚ませ!」
頬を軽くビンタして正気に戻そうとする。しかし問題なのは光輝だけではなかったらしい。見れば龍太郎も鈴も、恵里もフラフラと別々の方向へ前に進み始めている。
そして俺の目にも異常が現れた。光輝から目を離すと、目の前には手招きしている雫やユエ、露葉さんにティオがいる。
『音也、もう大丈夫よ。あんな奴らのために戦わなくても良いの」
『ん……私たちがいる。全部受け止める』
『ほら、おいで? みんなで静かに、ゆっくりと幸せに暮らしましょうよ』
『ご主人様は何時も無茶しすぎなのじゃ。たまには妾たちにも頼っても良いのじゃぞ?』
『ここは貴方にとっての天国。何一つ心配はいらないわよ』
「お前ら……」
目の前に現れた雫たちが俺に甘言を送ってくる。俺の心の苦悩を完全に看過されており、そこに生じた心の隙間に刺さる言葉だ。確かに苦悩しているし、誰かに頼りたい。こんな場所で戦わず、大切な人たちと静かに暮らしたい。
だがここで、俺は大迷宮に入る前に話されたことを思い出した。雫たちは既に迷宮攻略を完了し、現在はフェアベルゲンに滞在している。彼女たちは今も俺の帰りを待っており、褒めて貰うために厳しい訓練を行っている。
「……違う。お前らは、俺の知っている雫たちじゃない。偽物はさっさと失せろ!」
『偽物なんかじゃないわ。私たちは貴方の壊れそうな心を……』
『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「失せろおおお!!!」
雫たち。いや、雫たちの幻像に向かってブロウクン・ファングを戸惑うことなく発射した。五億ボルトの電磁波は狙い違わず雫たちの幻像に直撃。大爆発を巻き起こした。
軽く息を荒げながら膝をつく。今のは恐らく、神の見せる甘い誘惑を断ち切る試練なのだろう。こうして大なり小なり息を荒げているのは、精神に直接干渉して誘惑に負けさせようと誘導させられていたからだ。そいつを強引に振り切って技を振るえば疲れるのも当然と言える。
「お前ら……聞こえているならよく聞け。今、お前らが見ているのは大迷宮が見せる甘い誘惑だ。ここで負ければ神代魔法が手に入らなくなるかもしれない。お前らは本当にそれでも良いのか?」
挑発的に言葉を紡ぐ。すると真っ先に反応したのは恵里だ。虚ろな瞳ながらも足を止め、自分の体をギュッと抱きしめて無理やり動こうとする体を抑えつけている。
「消えろ……お父さんはもう居ないんだ。お母さんはそんな優しくない。今更優しくしても……気持ち悪いだけだよ」
彼女の目には既に故人の父親と、理想の母親が映っているのだろう。彼女はこれまで“親”という存在とは無縁だったのだ。確かに存在こそしていたが、彼女は一般的を教養は全て実親の事を反面教師にしたうえで学んできてる。
心は揺れたかもしれない。しかし彼女は甘い誘惑を断ち切ってでも前に進むことを選んだ。その意思に偽りはないのだろう。
「確かに辛かったよ……でも、それで良かったんだ。この性格じゃなければこれまで体験できたことは全て出来なかった。良い人生とは言えないけど、それでも良いんだ!」
「よく言ったな、恵里。随分と成長したもんだ」
「あ……紅?」
「お帰り。頑張ったな」
フラフラと倒れ込んだ恵里の元へ駆けよって抱きとめる。恵里はほんの少しだけ顔を赤らめたが、すぐにニッコリ微笑んできた。長らく、というか初めて見た恵里の花開くかのような笑顔だ。
思わず見惚れるも、すぐに気を取り直して体は大丈夫か?と尋ねる。一応義眼で覗き込んでみて異常は見受けられないが、念には念を入れたいのだ。
「大丈夫だよ。でも……」
「でも、なんだ? やっぱりどこか悪いんじゃないだろうな」
「心配しすぎだよ。でも、もう少しこのままじゃダメかな? 僕は紅に父性を感じている。こうしてると、父親に甘えてる感じがして落ち着くんだよね」
「心音は跳ね上がってるのに落ち着くのか。変わった奴だな、お前も」
口元を押さえてクスクスと笑う恵里に呆れながらも変身を解除して膝枕をする。光輝たちがこちら側に戻るまで時間がかかりそうなのは明白なので別に拒絶はしないが……やはり恵里は変わり者で物好きである。
雫たちとはまた違う手触りの髪の毛を撫でていると、恵里が気持ちよさそうに目を閉じている。心拍数は上昇しているというのに精神は落ち着いているらしい。こうしてみると、主人に甘えている小動物にも見えてくるのは黙っておこう。
結局、膝枕はその後数時間に渡って続くことになるのだった。
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「「「はあ……」」」
「情けないなあ……まったく。やる気あるの?」
「そこまで言ってやるな……多分、きっとチャンスはあるさ」
誘惑を断ち切れずに気絶した三人の落ち込み度合いに恵里が容赦なく辛辣な言葉をかけ、俺が申し訳程度に慰めの言葉を投げかける。殆ど効果がないのは承知の上だ。
特に光輝の落ち込み度合いが激しい。ここまで良いところが一つもなくて心から落ち込んでいるのだろう。まあ気持ちは分からなくもない。失敗続きは萎える。しかしこのまま引きずられても足手まといなだけだ。
「おい、ここは大迷宮だ。一歩踏み込んだ先、一秒後の未来、そこに死が手ぐすね引いて待っているような場所だ。集中できねぇなら、攻略は今ここで諦めろ。無駄死にするだけだ」
「ま、まて、俺は……」
「反論があるってか? ぐうの音も出ないぐらいに役立たずなの自覚しといてよく反論しようと思えるよな。事実は事実として受け止めろ」
「ぐうっ……」
「失敗は誰にでもある。だが、いくら失敗しても諦めずに先へ進もうという心がないなら今すぐ王国へ帰れ。ワープゲートぐらいならすぐに作ってやる。答えないなら有無を言わさずに送り返してやるぞ?」
「俺は……」
「惰性で進むのは許さん。気概のない奴は足手纏いよりたちが悪いんだ。早く決めろ」
反論を許さず、そればかりか僅かな希望さえも打ち砕く勢いで光輝に言葉を投げかける。龍太郎や鈴は「まだまだこれから」という気概が見えるから良い。しかしそれすらも見せない光輝にイラついたが故にここまで厳しく糾弾したのである。
光輝はギリギリと歯を食いしばり必死に憤りを抑えているようだ。しかし、それは自分へ送られた糾弾の言葉に対してではなさそうである。光輝は何度も深呼吸をすると、目を見開いてハッキリと俺に告げた。
「紅。もう大丈夫だ。俺は先に進む!」
「そうか」
それだけ聞いた俺は軽く頷いて前を向いた。目的地はまだ先。止まっている暇など本来はない。俺は再度イクサに変身すると、先を急ぐのだった。
目指すは大迷宮の最深部。まだまだ俺の受難は続く……。
何となく考えてみましたが……すみません。有り体な奴しか思いつきませんでした。ちなみに甘い誘惑を恵里が彼処まで早く断ち切れたのは彼女が精神系統の魔法に精通してるからであり、多少の精神攻撃耐性があったからです。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)