原作レイプ! 野獣と化した霊王 作:おおっ
私の名前はレオという。自分でそう名づけた。気高き百獣の王の意味を持つ、己が最強であるという自負のためだ。
私は人間という種族だったはずだ。しかし明らかにその範疇を超えている。ふつう人間は己の足で歩き、道具を使って戦い、口から声を出して意志を伝える。私ならば、頭の中でちょっと砕けろと念じるだけであらゆるものが砕け散る。念じれば過不足なく意志が伝わる。未来に先んじても、過去に遡ってもだ。
私はまさに全知全能と言ってよかった。何でもできるし、未来も過去も、全て分かってしまう。しかも、気にいらなければ改変できる。ずっと夢でも見ているかのような気分だ。他の人間には存在する、夢と現実の違いが、私には存在しない。
そんな私は他の人間と違い、生きるために働くことも、誰かをしのぐために闘争することも、必要ない。そもそも飲まずとも食わずとも生きていけるのだが、ちょっと念じるだけで食糧も水も手に入る。女にモテたいと思えば、ちょっと念じれば美しい男になる。美しい女にもなれるがな。
私はこの力を使い、美味しいと思う全ての食材を食し、美しいと思う全ての女を抱いてきた。しかし、かれこれ100年。もう飽きた。新しいことが何も残っていない。同じことを繰り返すのは、刺激がなくて退屈だ。むしろ最近は苦痛の方が大きい。私は私の心を満たすための手段を自らの想像力に委ねている。そこに問題があった。もっと想像しろ、もっと新しいことを考えろ、と自分に負荷をかけてしまっているのだ。ある意味これが私にとっての闘争なのだろうか。新規性のない退屈な日々、それを打ち崩すための新しい創造。頭を振り絞って考え続けねばならないという闘争。
永遠にこの苦痛を受け続けねばならないのだろうか。私は他の人間と違い、100年経っても若々しい肉体のままだ。むしろ生命力は際限なくあがっていく。あと1000年、いや1000万年経っても死ぬとは思えない。かと言って自殺する気もないが。
ふと思いついた。誰かの知恵、私でない者の知恵が、私の想像力を超えて行くこともあるのではないか、と。現状の世界の人間は獣と大きく変わらない。だが、私が考えることを教えれば、こと新規性という一芸においては、私を上回ることもあるのではないか?
世界を歩き回った私は、才ある者に目星がついている。見目美しい女には私の子を産ませてもいる。彼等を一度同じ場所に集め、知識を与えてみよう。
成果は思ったよりも速く訪れた。最初に結果を出したのは、我が子の一人だった。
「レオ、レオ! これ見て! 月がよく見えるよ!」
「水月、なんだいこれは?」
「望遠鏡! 鏡を重ねて、光が集まるようにしたの!」
「ほう、見事だな。私にはこの発想はできなかった。月より遠くも見えるのかい?」
「うん! たぶんできる! でもそのためにはもっと精度よく鏡を作らないと」
「精度? それだけでいいならば私が手伝おう」
「ありがとう、レオ!」
私が星を見るために鏡は必要ない。しかし、見ようという発想がなければ見ていなかった。ゆえに私がこの星の外の世界を知ったのは彼女のおかげなのだ。
星達は数え切れないほど多く、特徴も様々だ。黒い大きな渦、巨大な爆発、巨大なガス帯、巨大な宝石の星。1年ほどはただ見続けるだけで楽しめた。だが、飽きてしまった。外の星には生命がいなかったからだ。単に鉱物や現象を見ているだけでは心が躍らない。これもまた、1つの新しい知恵だったのかもしれない。
次に結果を出したのはまた私の子だった。娘の紅姫だ。味気ない星を見飽きていた私に、白い妙な生物を見せてきた。死した人間の霊体を実体化したものだと言う。これならば、味気ない星でも生活できるかもしれないという。実験として、これを砂漠に放ち、様子を見ることにした。確かにこれは人と違い水や食糧を必要としなかった。しかし1週間ほどで崩壊してしまった。私の能力で調べたところ、これは霊力を補給しなければ崩壊してしまうようだ。ならばと、この世界を私が霊力で満たすことにした。私の予想通り、白い妙な生物は生き続けられるようになった。成功の記念に、月にもこの生物を贈り、大地を私の霊力で満たした。さらにはこの生物に生殖機能をつけ、勝手に増えるようにした。いつか月もまた生物溢れる星へと生まれ変わるように。
世界を私の霊力で満たしたことは、別の副作用ももたらした。極一部のふつうの人間、私や私の子でない者も、手足を使わずに獣と戦えるようになったのだ。弓を生成し、射たり、私の霊力を足場にしたり。さすがに私の子ほど強くはないが、器用なものだった。さらに、獣側も極一部は特殊な能力をえた。単に体躯が巨大になったり、怪力を得ることがほとんどだが、氷や爆炎で人を殺し、食らうこともあった。さらには紅姫が作った白い妙な生き物も、直接人間を食らうことがあった。彼等獣に対抗できるのは私の霊力を扱える人間だけだった。
特殊な人間は人との戦いに勝ち続け、さらに、白い生物や獣とも対抗できる。彼等は多くの人々に崇められ、王を名乗り、一定の領域を支配するようになった。彼等のほとんどは高圧的且つ自己中心的であった。見目のよい異性を独占、食を独占、さらには他の人々を奴隷として使役し自らの意のままに動かそうとした。
これは私には発想できないことだった。何せ私は食も異性も独占する必要がない。気にいった娘が10人欲しければ10人に増やせる。食糧も同じだ。いくらでも全く同じ物を複製できる。奴隷も、もとより世界は私の意のままに動くので必要ないのだ。
特殊な人間は増長していき、人々に恐れられ、嫌われた。しかし、ふつうの人間には対抗手段がなく、特殊な獣や白い生物から身を守ってくれる存在でもあるので、反乱は起こらなかった。
特殊な力を持たない庶民にとって、代わり映えのない苦痛が延々と続く閉鎖的な社会になってしまった。これは私が最も嫌うことだ。どうしようかと思っていると、私の子が英雄になるとか言い出した。どうにも、人々に崇められる特殊な人間を見ていて、憧れてしまったらしい。私は彼等が世界を変革することを許可した。ただし、苦痛が続くような閉鎖的社会を作らないように、と念を押して。
さて、特殊な人間が美しい娘を娶っているわけだが、私がただそれを見ていただけだと思うか? いや、そんなはずがなかろう。互いの性交を感覚共有により味わうのはもちろん、私の目に適った娘や、天才的な頭脳を持つ男に関しては、事件が起こる前に複製し、複製体をその場に残し、オリジナルを私の住む場所に瞬間移動させている。そこで、新しい刺激が欲しいという私の目的を告げ、男には知恵と研究所を与え、女には好物を与えた。女は望めば私と性交するが、望まなければ望むような女を複製し、性交する。オリジナルは元の場所に返す。私はこのようなことを繰り返した。
複製された女は基本的にオリジナルと全く同じ性能を持ち、子を産むこともできる。数千年を経た今では把握できないほど私の子ども、孫、さらにその子孫が生まれてしまっているはずだ。いや、やろうと思えば把握できるけども。
この頃になると白い生物や特殊な獣は強くなり過ぎ、特殊な人間でも対抗できなくなっていた。対抗できるのは、私の子ども達や孫達だけ。これは、戦いを好む私の子どもが、もっと獣を強くしてくれと要望し、私がそれに応じたためだ。私の子と獣の戦闘は激化し、私にも見ごたえが出るようになり、楽しくはあった。しかし、あまりに周りと力が隔絶したために、戦闘の余波だけで弱い生物が死滅、絶滅するという事態が頻発するようになった。死の大地と化すとつまらないので、私はその度に生物を複製し、元に戻していたのだが、この工程が面倒で精神的にしんどくなってきた。よって私は、全ての生物を大雑把に不死にし、死ぬ度復活するように調整した。
だが不死は不死で問題があった。弱い人間は簡単に何度も死に、何度も苦痛を味わってしまうのだ。これは私が最も嫌う、退屈な永遠の苦痛である。
そこで新しく戦闘用の世界、戦獄を作ることにした。強い者は、強い者同士で戦わせればいいと気付いたのだ。そこに強力な獣をたくさん配置し、戦闘を好む子どもを移動させた。しかし、子ども達の中でも早く生まれたお兄さんお姉さんと産まれたばかりの子には差があり、才能にも差があった。戦いに巻き込まれたり、また年上からのイジメで命を落とすことがままあった。この問題を避けるために戦獄を複数作り、強さによって住む場所を分けさせた。
戦獄システムが完成したことで、元の星の特殊な人間は再び獣や白い生物と闘えるようになった。負けて全滅することもあったが、その度に復活し、今度は知恵を使って獣に勝つ。そういう戦いが続いた。なんでもできる私には発想できない知恵が度々振るわれた。それを見るのは楽しかった。
しかし、このシステムにも限界が来てしまう。白い生物、ホロウとよばれるようになっているのだが、こいつは同属を食べて、その力を吸収することで強くなっていく。さらには人間と同等の知恵を持つものまで現れてしまった。対して人の食事にこのような作用はないし、不死のため以前のように必死な努力をしなくなった。よって、成長速度に差がついてしまった。徐々に、ホロウが人類を駆逐し始めた。不死なので死なないが、永遠の即死か隷属という、苦痛の日々が始まってしまった。私が最も嫌う世界に変わってしまった。どうしたものか。放っておいたら全滅する。かと言って不死もダメ。
そんな折、私ほどではないが私に近い力を持つ麒麟児が産まれた。彼は己をレオと名づけた。その行動は基本的に私そっくりだ。星に満たされた私の霊力も自らの物のように扱った。まるで私の生まれ変わりのようだ。血縁を調べると、紅姫、水月、野晒、他の子の血が少しずつ混ざり、偶然私のような遺伝子を持って生まれたらしかった。
このレオはその力を使い、全てのホロウを圧倒。不死ゆえに殺すことはできなかったが、彼等を砂漠へと閉じ込めた。このレオは人類を永遠の苦痛から救ったのだ。彼はいつしか霊王とよばれ、世界中の人々から神のごとく崇められるようになった。
霊王は私と同じようにこの世界の最も優れた食材を集め、女を抱いていった。だがこれでは私の焼き直し。感覚を共有している私にとっても同じ刺激、退屈が訪れてしまう。そう予感できたので、私は霊王に介入することにした。一度感覚共有を切り、あえて、霊王にこの後に起こる未来を数千年にわたって見させ、永遠の退屈という苦痛を覚えさせた。
その効果は抜群だった。霊王は己の万能を憎み、弱体化を望むようになった。逆に、五大貴族と名乗る小物達にはあえて力を分け与え、修行をつけ、己に対抗できる存在にしたてあげた。
その後、小物達は霊王を裏切り、水晶に閉じ込めた。それに飽き足らずその四肢と贓物を剥ぎ取り、完全に無力化した。いや、本当はその程度では無力化できないのだが、霊王が自分で望み、能力を封じた。肉体をもぎ取られたことは逆手に取り、自らを楔として世界をわけた。できたのは生の世界、死の世界、ホロウの世界だ。もちろん私の能力により全ての生物は不死なのだが、魂魄を三界にめぐらせることで記憶を失わせ、擬似的な死と再生を実現したのだ。
初めは彼が何のためにこんなことをやったのかよく分からなかった。しかし、見ていて気付いた。世界はこの形であってこそ、永遠の退屈という苦痛から逃れ、新規性の喜びを味わえるのだと。死があるから努力できる。成長を望める。かと言って死者による補助があるので、ホロウの暴力による支配も起こらない。多種多様な文化が花開く。霊王は私の焼き直しのような男だったはずだが、これは私にはできない見事な発想だった。私に強引に未来を見せ付けられ、追い込まれたからこそか。私自身はそんな経験をしたくないが。彼にはすまないことをした。
なお、五大貴族とかいう小物は自分達こそが三界の循環システムを作ったと言い張っているが、当然こいつらにそんな実力はない。ただの勘違いである。というか、勘違いするように霊王が洗脳しているのだが。小物貴族の望みは霊王の力を使ってホロウを封じ込めることだけだった。世界を知らないのに魂魄の循環なんて発想ができるわけないのだ。
それからさらに数十年、私は霊王を過小評価していたことを思い知らされた。彼の千切れた肉体は、彼の記憶を失っているが、人格を持ちふつうに人生を生きる。だが元は霊王なのだ。死亡により三界をめぐり、その課程で魂魄は霊王に帰り、記憶を見せる。新規性に溢れる体験の日々を。この発想はなかった、素晴らしすぎる。
私は勘違いしていた。感動に必要なのは新規性ではなく、新規性だと感じた体験だったのだ。記憶を失うことには恐怖があろう。私も完全に己を失わせたくはない。だが己の一部を解き放ちそれらの記憶を回収するという霊王のやり方ならば、本体は記憶を持ったまま新規性を味わえる。見事だ。私もこれをやってみたい。
尤も、私の力は霊王を遥かに上回る。腕や臓器を媒介した分裂体では、ある程度の記憶を持ったまま人格が形成されてしまうだろう。これでは新規性は望めまい。記憶を失うほど弱体化した分裂体でなくてはならない。ふむ、未来視したところ、髪の毛を千切りにし、燃やし、その炙った炭の、極一部を使った人体を培養すれば、ちょうどいい具合に記憶を失った私が誕生するようだ。では早速やってみよう。
ふむ、赤子の私がざっと100は生まれたな。中には女や獣も混じっている。燃え方に差があるので、実力も様々。新規性を味わうべく、生まれる子は多種多様になるようにあえてそうしたのだ。では彼等を世界にバラ撒こう。
それからさらに数十年。様子を見ていたが、ダメだな。まだ強すぎるようだ。私の分身体が世界を牛耳り、対抗できるのは私の分身体や私の血を濃く受け継ぐ子孫だけになってしまっている。これではワンパターンだ。もう少し弱体化する必要があるな。数も減らそう。同じ世代に3つくらいでちょうどいいだろう。しかし、今いるやつを捨てるのはかわいそうだしもったいないから、別の星にでも移しておくか。さあ私よ、頑張って死の大地を生命溢れる世界に彩りたまえ。