原作レイプ! 野獣と化した霊王 作:おおっ
封じられし王は900年を経て鼓動を取り戻し、90年を経て理知を取り戻し、9年を経て力を取り戻し、9日間を以て世界を取り戻す。そんな荒唐無稽な歌があちこちで歌われている。今この国には、絶望がある。だからこそ希望を求めているのだろう。
光の帝国。そこは初代王にして最強の戦士、クインスが作った国だと言われている。本人も強いが部下にも恵まれ、全ての戦争で圧勝したという。クインスは強いだけではなく人格もすばらしく、その噂を聞きつけた人々が自然と集まった。よって野心がないにも関わらず、一代で巨大な王国を築き上げたのだとか。
しかしそれも昔の話。1000年後の今では、クインスの子孫は奢り偉ぶり、その血を理由に権力を振るい、食糧や異性を巻き上げてやりたい放題だ。庶民には不満が募り、国は分裂。正当なる王であるルシファー、革命軍の首領にして真の王を名乗るユーハバッハ、あと自由奔放な海賊? 山賊? に別れて戦争している。
さて、日出ずる国で生まれた俺は、わざわざこの危険な光の国にやってきた。戦争を止めるため、ではない。いや、ある意味そうなのかもしれないが、実はこの国は、別の意味でも消滅の危機に瀕している。王達が気付いているのかどうかは知らないが。
「ほ、虚が出たぞー!」
「クインシーを呼べえええええ!」
内乱が起こるこの国では、不満の溜まった人々が次々と死んでいる。そうなれば自然、虚も多く生まれる。もっともクインスの力を受け継いだ者達、クインシーであれば迎撃は難しくない。
「ハッ」
「ガアアアアアア!?」
颯爽と現れたクインシー。虚は弓に貫かれ、消えていく。
だが、これが問題なのだ。
「ふんっ。他愛ない」
「ありがとう! クインシーさん!」
「ありがとなす!」
虚は、元は人間だった魂魄。本来ならば消滅させるのではなく、死者の世界、尸魂界に送らなければならない。そうしなければ魂魄の循環のバランスが崩れる。バランスが崩れると、世界がバランスを失い、保てなくなる。具体的には、天変地異のような強すぎる怪物が現れ、世界を壊してしまうのだという。というのも、クインシーが消滅させた魂魄は実際には消えておらず、マイナスの魂魄と相性がいい世界、地獄なのかどこなのかよく分からない世界に移動し、その怪物をつれてきてしまうからだ。まあこれは人聞きだし実際のところはよく分かっていないんだが。
とにかく、その怪物の出現を本気で信じており、恐れている者達がいる。死神だ。死後の世界と現世の秩序を守っている者達だ。その死神が俺に依頼してきたのだ。光の帝国に行き、虚の消滅をやめるよう交渉せよと。交渉が決裂した場合は、おそらく戦争になるのだろう。死神と、クインシーの戦争に。元の一国ならともかく、分裂している今のクインシーに勝ち目はないはずだ。それこそ、クインスの復活でもなければ。
俺自身は、クインシーに恨みも何もない。死神に恩もない。だが、死神が言う通り怪物が産まれるような事態が起こるなら防がなくちゃいけないし、避けられる戦争なら避けた方がいい。だから交渉役を買って出たのだ。
だが、さすがに戦争中だけあって関所が厳しい。国の中に入るだけでも大変だ。
「入りたいなら、分かってるよね?」
「はいこれ」
俺は金の延べ棒を見せる。
「これは!? ……イイゾー、これ」
俺の先祖が今まで溜めてきた財産が、検問の度に賄賂として消えていく。俺は何をやっているのだろうかと自問自答したくなる。死神め、嘘だったら許さんぞ。はあ。
そうして、金の延べ棒が後一本になったところで、ようやく都までたどり着いた。王宮まで行けるだろうか。行ったとして、交渉させてくれるだろうか。交渉が成功するか失敗するかは分からないが、交渉自体できずに終わるというのが一番空しい。頼むぞ、金の延べ棒。
「入れるわけないだろうが!」
「で、ですよねー」
はい失敗。さすがに王宮の門番は金の延べ棒では動かなかったか。
「私は、でも、珍しい東洋人ですよ!? ほら、旅の話とか聞きたいでしょう! 王様に何か話を!」
必死に訴えるが、ダメだった。うん、そりゃダメだよね。俺の祖国でも外国人が突然押しかけて、しかも戦争中に、金で会わせてって言ったら断るよね。
「王は寡黙で静かな場所を好むお方だ。聞かずとも分かる。お前の話になど興味はないとな」
「ほう? 私の何が分かるのかね」
「王!?」
お、おおっ。何という幸運。門の近くまで王が現れるなんて。しかし、この王、すっごい暗いなあ。イケメンではあるけど、ずっと表情1つ変わらない。苦労してきたのだろう。今も戦争中だし。
「東洋人が何の用だ? 戦争中だと知っているのか?」
「もちろん! しかし、クインシーの存続に関わる、ひっじょーに重要な話があるのです! 虚の消滅について!」
「……聞こう」
や、やった! 交渉できた! 何という幸運。
俺は王の私室に通された。王宮の外装と違いとても質素な部屋だった。そこでお茶をいただいた。こちらも東洋のお茶葉をあげた。表情が変わなかったけど喜んでくれたと思う。
そこで俺は包み隠さず説明した。虚と死神の関係、魂魄の循環、クインシーによる虚の消滅で何が起こるか、死神が何を望んでいるか。
「荒唐無稽な話だ。信じるに足る理由が1つもない」
「で、ですよねー」
俺だって信じ切れたわけじゃないもんなあ。どうすりゃいいんだろう。これ。
「だが、東洋の見識には見るところがありそうだ。私の娘を留学に出そうと思う」
「えっ」
「非才な私では今すぐ君の話を理解することはできなかった。だが、娘ならば、時間をかければ、理解することも可能かもしれん」
「つ、つまり」
「時間はやる。説得してみせろ。もっとも、娘が大人になる頃にはこの国はユーハーヴェーハーの手に落ちているだろうがな」
「そ、そんな……」
確かに旗色が悪いとは聞いている。だが、もともとの王はこっちなんだぞ? 話を聞いて愚帝でもないと分かった。彼ならば変革もできるはず。ユーハバッハに付け入る隙を与えなければ民意で勝てたりするんじゃないか? あっ、それにクインスの復活の話もあるじゃないか。
「王よ、クインス王の復活があれば、ユーハバッハなどに」
「そのような夢物語に頼る気はない。あれは海賊が勝手に言っていることだ」
「ヘル・ハリベル。1000年生きた怪物という噂ですが。それが事実なら、クインス王と面識も」
「くどい。それにな。仮にクインス王が復活したとて、この国の惨状を見れば滅びを望むだろうよ」
「そんな!」
言い方が何というか、諦めている。王は国の行く末に興味を無くし、滅びを願っているようだ。娘だけは逃がすと。それでいいのだろうか。
結果を見れば、運よく王と交渉することができたが、そこからは上手くいかなかった。仮に上手くいってもユーハバッハが戦争に勝てば意味がなかったかもしれないが。だから、死神の依頼を守るなら、俺は次にユーハバッハと交渉するべきなのだろう。だが、俺は姫を預かってしまった。ユーハバッハに姫を見られれば、無事ではすまないだろう。姫も、俺も。この姫、なんともかわいらしい女の子だった。まだ二歳。王のことは記憶できないだろう。異国で、何も知らずに育つのだろう。俺が、このまま国に帰れば。
結局俺はユーハバッハと交渉せず、姫、家臣数人、商人を連れて俺の国に戻ることにした。連絡用の死神には、王とは交渉したが信じてもらえなかったと伝えた。ユーハバッハとの交渉は自分達でしてくれ、とも。ユーハバッハが死神の交渉に応じれば戦争は回避されるだろう。だが、俺の勘が言っている。絶対にやつが応じることはないだろうと。
俺の故郷、空座村は霊的な存在が集まりやすい場所。常に死神が数人常駐している。
俺は故郷に帰ってすぐ、死神に話を聞きにいった。光の国を出て半年と少し。やはりユーハバッハが戦争に勝ち、王となったようだ。その後死神は彼に虚の消滅を止めるよう交渉したが、取り合ってもらえず交渉決裂。戦争になった。
俺は死神の勢力の強大さを知っている。山本元柳斎重國率いる護廷十三隊、その隊長達の強さは桁違いだ。さらに恐ろしいのが、兵主部一兵衛率いるゼロ番隊。単に強いだけではなく理解不能で理不尽な能力がいくらでも集まっている。こんな連中に、クインシーがいかに強力でも勝てるはずがない。
そう思っていた。だが、やつらは予想外に粘った。山本元柳斎負傷と聞いた時には耳を疑った。何やら山本の炎を吸って敵の怪物が復活してしまったとか何とか。もしやクインスが復活したのか? 平隊士は詳しいことは知らないようだ。
「また行くのかい? 井上さん」
「虚を消滅させ続けた場合、怪物が産まれるというのが本当ならば、死神が負けては困るだろう」
「さすがに負けるとは思いませんが……。それに、今から行って間に合うかどうか」
「確かに……」
この国から光の帝国までは遠い。船ならどうしても半年近くかかる。
「浦原さん、ああいや、麒麟児さんに話してみましょうか?」
「頼む」
平隊士に頼み、麒麟児さんに話をつけてもらった。彼は12番隊隊長。現世の文化に興味があるのでたまにこの村にも来る。特に温泉巡りが好きな恐面のお兄さんだ。技術的なことを熟知しているらしく、世界を移動する術を知っている。
しばらくして、平隊士が帰ってきた。
「お前には無理だ。ジッとしてろ、と」
「何、だと……!?」
世界の破滅がかかっている時に、何もせず待っていろと? そんな空しいことがあるか? 怒り叫んでも、俺には彼の元へ向かう術がない。船を出し、現場に行くしかなかろう。
「心は決まった。今からでも現場に向かう! 船で!」
「はあ。お気をつけて」
本当に半年かけて光の帝国に来てしまった。長引く戦争でアチコチもうボロボロだ。山が丸ごと吹き飛んでいる場所もある。だが、幸か不幸かまだ戦争は終わっていない。死神に加勢する、と完全には決めていないが、この目で確かめる!
首都に近づくにつれて、霊子の濃度が濃くなっていく。死んだ魂魄があちこちで浮かび、虚となっている。しかしお互いに虚を退治する余裕さえない。それほどの激闘。
「こ、この重力異常は! 黒棺! この炎は、山本さんの!」
信じられない。本当に山本元柳斎が本気で戦っている。しかも、長時間。なのに勝負がつかない。恐いが、この戦いを見ずに逃げたくはない。
「何だ、あれは……?」
「ひゃははははー! 男を殺せば女が出てくる! 男は殺せ! 女は犯せだ! 野朗ども!」
「ウザってー! 全部壊せばいいだろうが!」
「馬鹿野朗! 女は殺すなっつってんだろうが!」
「俺が今のキャプテンなんだよ! 爺ィが文句言うな!」
服をほとんど着ていない荒くれ者達が、13隊の死神を無残に叩き潰している。その風貌は人間とは言いづらい。2人分に迫るような巨漢、猫のような耳の生えた女、鬼のような角が生えた男。その攻撃方法も弓を使ったものではない。拳や、ビームや、刀。クインシーではなく虚のようだ。いや、よく見ると本当に虚もいるぞ。どうなっている!? 敵はクインシーではないのか!?
特にやばいのが、全身の肌がボロボロの男。
「残火の太刀"北"天地灰尽」
元柳斎さんの卍解を食らって、無傷だと!? むしろ力が増しているように見える。
「だから炎は効かねえって」
「霊圧の上昇に気付いておらぬようじゃな。わしの炎を人の身で吸収し切ることは不可能。終わりじゃ。残火の太刀"東"旭日刃」
「だから火そのものが効かねえっつってんのに」
「何、じゃと……?」
元柳斎さんも、何で効かないと分かってる炎で攻撃するんだ? あなたには鬼道や白打もあるじゃないか。
「ま、俺の部下は余波の熱だけでも死んじまうから、助けてやんねえといけねえんだけどよ」
元柳斎さんに相対する男は、莫大な氷を操り、仲間と死神を庇う。何故死神まで庇う? しかもよく見ると女だけ。
「ひひひ。男が死ねば女が余る。余った女は醜い俺と子作りせざるをえまい」
「世迷い言を」
いやほんと、何言ってんだこいつ。
「終わりだ。炎しか取り得のない爺さん」
「ぐっ」
消耗した元柳斎さんを敵の拳が打つ。何度も何度も。今の元柳斎さんは太陽そのもの。ふつう触れることもできないが、本当に熱くないようだ。加勢したいが、熱すぎて俺は近寄れない。ならば、部下の方を。あのデカ物を狙おう。
「なんだテメェ?」
「井上彦星。日出ずる国の、陰陽師だ」
「そうか。じゃあ死ね!」
この後、俺はデカ物と激しい戦いを続けるのだが、突如巨大な二つの霊圧が消えた。
「山本元柳斎、このヘル・ハリベルが討ち取ったりぃいいい!」
「何、だと……?」
「だが、ユーハバッハの霊圧も、消えた……?」
元柳斎さんが崩れ落ちるのはこの目で見える。霊圧もほぼ消えている。だが同時に、遠くの方で、ゼロ番隊と闘っていたであろう巨大な霊圧も、消えた。敵の言葉を信じるならユーハバッハがやられたようだ。
双方大将がやられてしまったのだ。死神側の本当の大将はゼロ番隊かもしれないが、13隊にとっての大将は元柳斎さん。お互いに衝撃のあまり動けない。一時戦闘が休止する。
だが、一人だけ止まらない者がいた。
「ぐあっ」
「戦場で、気を緩める者があるか!」
「あれは、剣八!」
卯ノ花八千流。師の死を目の前に全くうろたえないとは。噂に違わぬ狂人か。
「チッ。ユーハバッハめ死にやがって。おい、向こうに合流するぞ。やつらじゃゼロ番隊の相手はできん」
「だから命令すんなって!」
デカ物は文句を言いながらヘル・ハリベルについていった。それを追いかける卯ノ花さん。残されたのは、元柳斎さんの死にうちひしがれる者がほとんど。だが、まだ向こうで戦闘は続いている。追いかけないと。
そこでは、死神とクインシーの間にヘル・ハリベルが陣取る形で、戦闘が中断していた。
「このままでは、双方消耗戦になるだけだ。引け、死神よ」
「それはできん。お主らが虚の消滅を止めぬ限り、問題は終わらんのだ」
「虚に抵抗せず死ねと言うのか! 我等クインシーに!」
「そうは言っとらんよ。ただ、消滅はさせずに我等の到着を待てと」
だが、強い虚ほどクインシーを狙うものだ。それに、虚とクインシーの霊子は互いに猛毒の関係にある。かすり傷が重症となる。殺す気で戦わないというのは難しい。
「ふう。よかろう。ならば奥の手を見せてやる。うえっ」
そう言って彼が口から吐き出したのは、何かを包んだ布。そこに、莫大な霊力をつぎ込んでいく。
「元柳斎のおかげで、十分以上の霊力が手に入った」
「チッ、あれを止めるのじゃ!」
「させるかよ」
兵主部が筆で斬りかかる。それを受け止めるデカ物。そのままデカ物は黒に塗りつぶされて死んだが、ヘル・ハリベルは目的を達してしまったようだ。
「久しぶりだな、クインス」
「最悪な目覚めだ。ヘル」
最初にして最強のクインシー、クインスが復活してしまった。
その霊圧の波は、ユーハバッハにそっくりで。しかし、濃度が全く違う。これは、勝てない。おそらく兵主部さんでさえも。しかも、ヘル・ハリベルまでいる。
「最強の傭兵団、真のクインシーの復活だ。どうする死神諸君。もう一戦やるか?」
煽るように言うヘル・ハリベル。皆の視線が兵主部に集まる。
「……条約の、条件次第じゃ」
兵主部は、険しい表情で筆を納めた。
交渉は死神代表としてゼロ番隊と五大貴族出身の隊長5人、クインシー代表としてクインスとヘル・ハリベルと他4人により行われた。俺は現世代表の立会い人としてその場にいることを許された。
「お主ならば分かるのではないか? このまま虚を消滅させ続けると、世界が滅ぶということは」
「力が弱り続ける霊王では、世界を維持できなくなるだろうな」
「一応聞くが、何故霊王のことを知っている?」
「その反応は知っているようだな。私は霊王の生まれ変わりだ」
「やはりか」
「おいおい、俺が霊王の生まれ変わりだろ? お前がそう言ってたじゃないか」
「霊王の生まれ変わりが一人だといつ言った?」
「何?」
「ほう……」
何、だと……、と俺が言いたくなるような事実が次々と明かされていく。
議論は長々と続いた。そして最後には
・クインシーは虚の消滅を避け、拘束に留める。戦闘は極力死神に任せる
・クインスは山本元柳斎重國を復活させる
・クインスはクインシーに力を与えない
・死神はクインスの動向を監視する
・死神はクインシーを攻撃しない
・死神、クインシー共に虚を使った実験をしない
という取り決めがなされた。条約を破った場合は戦闘再開とする。クインスはクインシーに不利な条件を次々と飲んだ。これは虚を消滅させ世界を不安定にしていたというクインシーの罪をクインスが認めたことが大きかった。だが、クインスには力を他者に分け与える能力がある。クインシーはすぐさま戦力を何倍にもすることが可能であり、時間はクインシーの味方であった。そのことを考えると、死神側はいつクインスが裏切るか戦々恐々としなければならず、戦闘を止めるのは大きな勇気が必要であった。
もっとも、クインスは現世への復活を望んでおらず、情勢が安定し次第すぐに死者の世界へと帰っていったのだが。