エリスがそうアドバイスすると、セイヤは早くその男神の所に行きたいのか、リスタルテを急かし始めた。
「おいリスタ、早くしろ」
「ちょっとセイヤ!いきなり頼んだら失礼だよ!?」
「リスタ、私が頼んで置くから先に行ってても大丈夫だよ?」
「ふむ、では頼んだぞラッキー女神」
「セイヤさん、いい加減にしないと天罰与えますよ?」
「ちょちょ落ち着けよエリス、ここは俺が食い止めてやるから!アンタらも早く行けよ。リスタ、助けてくれてありがとな?」
「良いのよ!ごめんね、エリスにリュウジ、また会いましょ!」
俺とリスタが挨拶をかわすとセイヤは「フンッ」と鼻を鳴らしながらリスタルテと共に部屋を出ていった。
「はぁ…まったく、失礼な人だったよ」
「もういいじゃん、ほら、相手側の男神に連絡しなきゃいけないんだろ?」
「まぁね、もう会うことはないと思うけど、さてあの”お方”に連絡しなきゃ」
大きく溜め息を吐きながらエリスはデスクに置いてある電話のような魔道具を手に取り、どこかに電話をかけ始めた。
「もしもし、剣神セルセウス様ですか?お疲れ様です、幸福の女神エリスですが……。実は折り入ってお願いがありまして、はい、はい、実は…リスタルテが召喚した人間の教育をお願いしたいのですよ…はい、イシスター様には私が伝えて置きますので、はい、2人は既にそちらに向かってると思いますので、はい、でわ、宜しくお願い致します。」
チンと音を立ててエリスは受話器を置いた。
「これでよしっ、んじゃ、あたし達も帰ろっか?」
「えー?もう帰るの?」
「当たり前でしょ?まさかキミまで修行したいって言うんじゃないよね?ダメだよ?世界観が違うんだから」
ケチくせぇな…けど、大体統一神界の時間が分かってきたぞ?10分で16時間という事は……1時間で大体2〜3日程過ごせるって事だ。
「もう少しここにいても良いだろ?夜明けまでに戻れば良いんだしさ?」
「えぇ!?良いけど、あんまり長居すると時間感覚おかしくなるよ?」
「大分慣れて来たから大丈夫だよ、ちょっとくらい修行したり探索したってバチは当たらないだろ?」
俺がそう言うとエリスは困った顔をして頬をポリポリとかく。
「うーん、まぁちょっとくらいなら…ねぇ?後半なんて言った?」
「良し!さぁ案内してくれ!」
「あっ!ちょっと!」
俺は颯爽と部屋から飛び出して完治した眼で統一神界を目の当たりにした。
「見える!見える!めっちゃ見える!ひゃっほーい!」
「はしゃがないでよ恥ずかしいから!」
周りをキョロキョロと見渡した俺はある事に気付いた。
なんか、天界監獄と似てる感じがする。もしかして統一神界と繋がってるのかな?
「なぁエリス?ひょっとしてさ天界監獄と繋がってる?」
「え?うん、まぁ…繋がってるよ?ほらあそこ」
エリスは遠くの浮かぶ施設のような建物を指さした。千里眼で確認してみると、確かに俺が収監されていた天界監獄だった。
あんな遠くにあったのか…。
「へぇ〜、あんな所にあったのか。奉仕作業の時とかは魔法陣で転送されてたから外に出れなかったし分からなかったよ」
「そうなんだ、それじゃどうやって監獄に行ったの?」
「あの時はネメシスに直接連れて行って貰ったんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
俺とエリスは散歩がてら俺は過去の話をし始めた。俺は懐かしくなり、遠くに見える監獄を眺めながら呟いた。
「みんなどうしてるかなぁ…元気にやってるかなぁ?」
「急にどうしたの?もしかしてホームシックになった?」
「いや、そうでは無いんだけど、皆あそこにいるのに俺だけのうのうと生活してるって考えたらちょっとね……」
「えっ………?」
思わぬ答えが帰ってきたのを受け止めきれず驚いたエリスは思わず立ち止まり、顔を俯かせる。
「監獄に……帰りたいの?」
「は?」
「ごめんね、罪を償ってたのにあたし達の都合で連れて出しちゃって」
何を言うかと思えば……
俺は立ち止まったエリスに近付いて、ゴンッと音を立てながらエリスの頭に向けて頭突きを繰り出した。
「いったぁぁぁい!何すんの───」
「困ってるから助けてくれってお前らが言って来た。だから俺は協力に応じた、依頼人の癖に今更ごめんじゃねぇだろ?。依頼人なら最後までドンと胸を貼ってろっての」
エリスはあまりの激痛により頭を両手で抑えながらしゃがみ込んだ。
「痛たた……女の子相手に頭突きするなんて、助手くんより男女平等主義者なの!?」
「まぁ剣を向けて来た人限定だけどね?」
「んじゃたった今あたしに頭突きしたのはなんなの!?」
「はぁ?相棒なんだからそんなの関係ねぇよ、お前は天界から黙って見てろって、約束通りにちゃんと仕事こなしてやるから」
「うっうん……」
「そう言えば……ネメシスは?ここに居るんじゃないの?」
俺は立ち並ぶ女神達の家を眺めながらエリスに尋ねた。エリスは頭を擦りながら答えた。
「ネメシス?ネメシスなら創造神様と一緒に仕事してるんじゃないかな?キミに神器を貸した罰としてしばらくの間は監視されることになったの」
「公安部が何してんだよ、それで?奴はどこに行ったんだよ」
神殿前まで歩いて来た時に、神殿前にはどこでもド○の様に一際目立つ真っ白い大きな扉がそびえ立っており、エリスはその扉に指を指した。
「そこの扉の先にいるよ、そこは創造神様のモニター室だから。キミが行方不明になった時あたしもそこに入って皆で探してたんだよ?」
「あっそうなんだ……創造神様に申し訳ない事しちゃったなぁ……一言謝りたい」
「えっ?何かしたっけ?」
ヤベッ!創造神様に口止めされてたんだった!
「いやぁ……命を無駄にするなって忠告された事があってね……」
「あ〜……なるほどね、ならあたしから伝えておくよ」
「お願いします」
「あら?あなた達、まだ神界にいたの?」
俺とエリスが後ろを振り返ると、先程セイヤと共に部屋を出ていったリスタルテが立っていた。
「お前こそ、ここで何してんだよ」
「セイヤさんは?セルセウス様に会えたでしょ?」
「ええ、会えたわよ?。セイヤとセルセウス様は今さっき修行を始めた所なの、私は2人の邪魔になりそうだから呼び出し用のブザーを置いて来たわ」
呼び出し用のブザーって……なんか召使いかパシリ見たいだな
リスタは待ってる間は退屈だったのでウロウロしている所に帰った筈の俺とエリスに出くわしたという。
「ここで立ち話もなんですし、ここの大食堂に行きましょうよ?私が奢るわよ?」
「大食堂?そんなのあるの?」
「うん、あるよ?折角だから行ってみる?」
「んじゃ、行きましょ!」
俺はリスタルテとエリスに連れられて神々が集う大食堂の中に入った。食堂の中は日本のフードコートの様な造りになっていた。様々な神々達は不思議な生き物を見たように俺を見つめていた。
視線が痛い……。
「なんか俺……めっちゃ見られてるんだけど?」
「セイヤ以外にも鎧を着た人間がいるのだもの、不思議がるわよ」
「まずもって神界に人間がいる時点で問題なんだけどね?」
様々な神々を目の当たりにした俺はコーヒーを飲みながらエリスに尋ねる。
「なぁエリス?格闘技の神様とかいるかな?」
「格闘技の神様?うーん、パッと思いつくのは拳神アルクス様とか?相撲の神ケボノ様とか?ダメだからね?絶対紹介しないからね?」
「うーん……出来れば蹴り技を使える神様とかいないのかな?」
「うーん、ちょっと思い付かないなぁ」
エリスは頬をポリポリとかきながら俺に言う。
「そうか……んじゃ俺も自主トレーニングしよっかな」
「えぇ!?キミまで修行するの!?ダメって言ったでしょ!?」
「えっなんなの?最近の日本人は神界で修行するのが流行ってんの?」
逆になんで修行しちゃダメなの!?
俺は溜め息を吐きながらエリスとリスタルテに言い放つ。
「敵も戦えば学習して対策してくる。それに対抗するには更なる力が必要なんだよ、敵もどんどん強くなってるしな?強くなるに越したことはないだろ?」
「まっまぁ、確かに……」
「こうしちゃ居られねぇ、俺も出来る限りの修行をするわ!コーヒーご馳走様でした!」
「あっ!ちょっと!リュウジ!。ごめんねリスタ、またね?ご馳走様!」
「あっうん、またね?」
バタバタと戻った俺とエリスをリスタルテは顔を引きつらせながら見送った。
───────────────────────
部屋に戻って来た俺は部屋の外にエリスにサンドバッグやボクシンググローブなどを創造してもらい、即席トレーニング場を用意して貰った。
「はい、これで良い?」
「うん、とりあえずこんなもんでいいよ」
「もぉ〜、あれほど修行はダメって言ったのに!。仕方ない、あたしは仕事に戻るよ…それでもし、トレーニングに飽きたらこの番号に電話かけて。それと、少ないけどこの神界で使えるお金『ゴッドン』を渡しとくよ」
エリスはいつも使ってる通貨とは違う通貨と電話番号を渡して来た。どうやら名前の通り、この神界専用の通貨の様だ。
「ありがと、腹が減ったら大食堂で食べるよ」
「どーいたしまして。いーい?絶対トラブルは起こさないでよ?」
「はーい」
「んじゃ、あたしは神殿に行って書類整理して来るから」
「行ってらっしゃい」
エリスは俺を置いて神殿に向かって行った。エリスを見送った途端俺は鎧を脱ぎ、グローブを付けてサンドバッグを叩き始めた。
──2時間後──
「はぁっ、はあっ、シュッ!」
バスバスとサンドバッグを叩いたり、蹴ったりして基礎トレーニングをしていた俺は大量の汗をかきながら体を鍛えていた。すると、バスケットを片手にリスタルテは通りかかり、俺に声をかけて来た。
「あら?リュウジ、こんな大っぴらな所でトレーニング?」
「リスタルテか、まだウロウロしてんのか?」
「違うわよ!あたしゃどこぞのニートじゃねぇわ!。セイヤにお昼の弁当届けて来るのよ!」
お昼?もうそんな時間か。
「んじゃ俺も昼飯にしよーかな、エリスから小遣い貰ったし」
「なら、私とランチでもどう?アンタも1人でしょ?」
「まぁ、良いけど?情報交換とかしたかったし?ちょっと待ってて、着替えて来るから」
そうリスタルテに伝えて俺はエリスの部屋に用意しておいた私服に着替え、外に出てきた。
「お待たせ」
「おっおほぅ?」
リスタルテは俺を舐め回すように見詰めていた。
「なっなに見てんだよ、ほら行くぞ?」
「あっはい、すっごい石鹸のいい匂い……」
俺とリスタルテはセイヤに弁当を届ける為に、修行場所に向かった。道中リスタルテと色々話してみると、エリスやアクア、ネメシスとは違ってリスタルテはどこか人間臭い部分が見て取れた。
他の女神と出歩くのはネメシスやアクア以来か……。
「ここか?セイヤがいるのは?」
「ええ、けど、怒られるからお弁当を置いてさっさとここから離れるわよ?もし見つかったりしたら私達セイヤにボコボコにされるわ」
何それ怖っ!
「んじゃ、ボコられる前にとっととズラかるか」
「ほらほらー行くわよ!!」
そのままセイヤの顔を見ずにリスタルテは俺と共に大食堂に早歩きで向かって行った……。
そして、それから2日経ち、あっという間に約束の帰る時間が来てしまった。俺はセイヤとは違ってレベルが上げる事は出来なかったが、筋力などの底上げに成功した。俺は地上に帰る直前、セイヤに挨拶をする為に怒られる覚悟で1人でたまたま自主トレーニングをしていたセイヤに声を掛けた。
「お疲れさん、セイヤ」
「なんだ貴様か、まだ神界に残っていたのか?」
「まぁね、だけどもう帰らなきゃ行けないからさ、帰る前にアンタに挨拶したくてね」
「そうか」
セイヤは「フンッ」と鼻を鳴らしながらタオルで顔を拭き始める。俺は、ダメ元でセイヤに”ある事”をお願いした。
「なぁ セイヤ?お願いがあるんだけど──」
「断る」
まだ言ってないのに断りやがった!さすがはありえないくらい慎重な奴だ!!だが、勝算はある。
「まぁ最後まで聞いてくれ、タダとは言わないからさ?」
セイヤにそう言いながら俺は装備していたレッドルークの篭手を外し、セイヤに差し出した。差し出された篭手を見てセイヤは首を傾げた。
「おい、なんだこの小汚い篭手は?」
「小汚いっていうな! これはな?『アダマンタイト』にミスリルが少し混ざった劣化版『アダマンチウム』って言うんだ。セイヤは合成スキルを覚えてるだろ?この篭手を素材にするばそれ相当の装備が出来ると思うんだ」
そう聞いたセイヤは俺のレッドルークの篭手を手に取り、警戒しながら確認し始めた。
「ふむ、どうやら鉄やただの鋼では無さそうだな」
「だろ?それやるから俺にも『合成スキル』を教えてくれないか?悪い話ではないだろ?」
上手く行くと良いけど……。
セイヤは腕組みをしながら考え込むと、セイヤはタオルを首にかけながら立ち上がった。
「良いだろう。まだレベルは低いが、”試して起きたい合成”をお前にやらせるのも悪くないな」
「試して起きたい合成?どんな合成を考えてたんだ?」
「実はな…… 強い武器の合成には触媒として全く別の物を用意しなくてはならなかったのだ」
触媒?鉱物と武器じゃないのか?
俺はセイヤに恐る恐る尋ねる。
「触媒?それって一体?」
「女神の髪の毛だ。お前にもラッキー女神がいるだろ?女神の髪の毛と合成させるものを合成させれば更に強力な物が出来るのではないかと思ったのだ」
「なるほど、女神の成分を取り入れればかなり強い鉱物や、武器が出来る可能性があるって事か」
「ああ、だが大失敗してせっかくの武器が粗大ゴミになる可能性がある、そこで俺がやる前に貴様に試して貰いたいのだ」
どこまで慎重なんだよ、コイツマジで病気なんじゃねぇか!?
「それと もう1つ、合成に成功したら合成に使ったレシピと合成結果の報告書をレポートを1万文字でまとめて俺に見せろ」
レポート1万文字!?
「わっ分かった、時間が掛かるかも知れないが必ず提出する」
「絶対だからな?もし提出しなかったら薬草女神を連れて貴様の世界に殴り込みに行くからな?」
「わっ 分かった……約束するって。テレポートで神界に来れる様にしたからさ」
「では、交渉成立だな。合成スキルを教えてやろう」
──────────────────────
その後、セイヤと別れた俺はエリスと合流し、イシスターに顔を出していた。
「すっかり長居してしまってすいませんでした」
「ほっほっほ、良いんですよ、トレーニングをしていただけですから」
「すいません、二度としない様に気を付けますから」
エリスは何度も頭をペコペコ下げながらイシスターの部屋を後にしようとしたその時……。
「お待ちなさい福山龍二」
イシスターに呼び止められた俺は立ち止まって振り返る。
「はい?なんですか?」
「エリス、少しだけ2人だけにして下さい」
「あっ……はい……失礼します」
エリスは俺を残して部屋を後にした、俺は再びイシスターに近付くと、イシスターは編み物を止めて微笑んだ。
「実は、折り入って私からあなたに依頼があるのですが?」
「依頼 ですか?」
「ええ、あなたにしか出来ない仕事です」
仕事?なんだろうか?
俺はその言葉に首を傾げ、イシスターに尋ねた。
「魔王討伐や、佐藤和真のサポートの仕事の件ですか?」
「遠からず近からずと言った所ですね。単刀直入に依頼します、『佐藤和真にもう少しやる気を出させて欲しいのです』」
おばあちゃん、今なんて?
「あっあの、もう一度言って貰って良いですか?」
「佐藤和真にやる前を起こさせて欲しいのです」
魔王倒すより厳しい難易度の仕事が入ったよ!?
「あの、イシスター様?その仕事は急ぎの仕事ですか?」
「いえいえ、そうではありませんよ?魔王を討伐するまでが期限です。お願い出来ますか?」
「魔王の所までが期限なら……なんとかなるかも知れません」
「ほっほっほ、そうですか 報酬はその時にお支払いしましょう。話は以上です。もう1つ、竜宮院聖哉とも親しくなったようですね?」
「ええまぁ……あの、もしかして聖哉は──」
「貴方の予想してる通りです、彼もあなたと同じく重い十字架を背負って今懸命に努力しています。世界は違いますがね?」
「そうですね……失礼します」
イシスターの部屋を出ると、エリスが外でソワソワしながら待っていた。出て来た所を見たエリスはバタバタと近付いて来る。
「キミ何したの!?今度は一体何を悪さしたの!?イシスター様の所に行って一緒にごめんなさいしてあげるから!」
「いや落ち着け!?何もしてねぇよ、別件の仕事だよ」
「仕事?魔王討伐と助手くんのサポート以外の?」
「うん。ヘタすると魔王討伐より難しい仕事かも知れない……」
「えぇ!?そんなに!?一体どんな仕事任されたのさ〜?」
神殿の前にあるベンチに座り、俺は深刻な顔をしながらエリスに答えた。
「『佐藤和真にやる気を起こさせろ』だって」
「超高難易度なんですけど!?」
ですよねぇ……。
「まぁ受けちまったもんはきっちりやり遂げるさ、さっ 俺らも戻ろうぜ?」
「そっそうだね……早くマリューさんにも言わないとね」
急いでエリスの指パッチンにより、俺は地上に戻る事が出来た。部屋の窓を覗くと、夜明け前に帰って来れた。
何度も言いますがセイヤは仲間になりません!