後半チエル視点になります。かなり長いです。
───ユニとテスト勉強をして数時間後、辺りはすっかり夜になっていた。帰る途中に学院の用務員の人に職質されたが、なんとか説明して外に出してもらった。
「いや〜、すっかり遅くなってしまった。まさかテスト範囲がここまでだとは……。あーあ、帰って飯作るの面倒だなぁ、冒険者ギルドで食って帰って行くか」
べっ別にぼっち飯が嫌だからとかじゃねぇから、面倒なだけだから。
そんな独り言を話しながら冒険者ギルドに向かって行くと、何やら食堂がやけに騒がしかった。
「あーははははは! まだまだいっきまーす!おかわりーー!」
うるせぇなぁ……なんの騒ぎだ?
騒がしい食堂に足を運ぶとそこには、クルセイダーの様な装備で金髪の髪色をしたエルフの女性がジョッキを何杯も空にしながら騒いでいた。
「うふふふふ、あはははははははははは!あー!仕事終わりの一杯ってほんと美味しいわぁ〜!」
なんだ、ただの飲んだくれか…アクア見てぇな奴が王都にもいるんだなぁ、絡まれないように向こうに行こっと。
「ちょっとそこのお兄さーん、何見てんのよぉ!こんなお姉さんが1人で飲んでたら悪いぃ!?」
フラグ回収でーす。
俺は酔っ払ってるエルフのクルセイダーの様なお姉さんに答えた。
「いえ、見てません。晩酌は社会人にとって楽しみの一つだと思うのでいいと思いますよ」
「またまたそんな事言って、本当は一緒に飲みたいんでしょ〜?」
「いえ、結構です」
話が通じねぇ、逃げよう
「ほら〜、ここ空いてるわよぉ!座って座ってぇ〜!」
酔っ払いクルセイダーは俺の腕をガシッと掴んで席に座らせようとした。
「いや、俺は飯を食いに来ただけなんで離して下さい……はなっ、離し……すっげぇ力だなおいっ!離せ、酔っ払い!飲みすぎだぞ!」
「ん〜?飲み過ぎだって?んっふふふふふふふふ」
何が面白いのだろうか……。
「こういう所なら飲むのは当たり前じゃなーい!!」
「いやそうだけども、あんたは飲み過ぎだ」
「シュワシュワ、最高ー! らぶらぶらー!」
会話が成り立たない!
俺は飯をさっさと食って立ち去ろうと考え、店員を呼び寄せて料理を注文しようとした時…。
「ミノタンロースのロースカツ定食ひとつと、あと──」
「ジャイアント・トードの唐揚げもくらさーい!」
「てめっ!勝手に追加注文してんじゃねぇよ!!」
「うふふふふ、固いこと言わないのぉ〜、減るもんじゃないんだしぃ」
「たった今減ったわ! はぁ……何コイツめんどくさっ!」
「ほらほら、キミも飲もーよ! ってその格好は未成年か」
あっ、そう言えば制服のまんまだったな。
「あー、俺こう見えて20歳なんスよ。この制服は昼間学校通ってたんで今までテスト勉強してたって訳」
「ふーん。なら、ちょっとだけいいわよね!学校の嫌なことなんて、ふたりで忘れちゃお〜!」
「いや、初日だから嫌なこともいい事もまだねぇから。そう言うあんたはどーなんだ?」
俺が酔っ払いに尋ねると、酔っ払いは俯き始め、ミノタンロースカツ定食と唐揚げが運ばれて来た。
「うりゅ……それは……」
「お待たせしてしましたー」
「はいどーも。まぁ、ここで会ったのも何かの縁、愚痴なら聞くよ?」
早く帰りてぇし。
俺が酔っ払いに促すと、酔っ払いは話し出した。
「うぅ……飲まなきゃやってられないわよ!だってこの街、最近やけにカップルばっかりなんだもの!」
は?
「何言ってんだあんた?」
「街を歩いていても、ナンパ目的のチャラ男にしか話しかけられないし私だって、独りが寂しい夜くらいあるわよ。素敵な彼氏がいたらなぁって思うこともあるわよ!。素敵な王子様を未だに夢見てるわよ!でもぉ!、そんなのどこにも現れないじゃない!そしたら、もう、飲むしかないじゃない!!」
んな事知らんわ!深刻な悩みかと思いえば……くだらねぇ!
喉から出かかったが、かろうじて飲み込み、顔を引き攣らせながらも酔っ払いを適当に励ました。
「あはは……まっまぁ、そのうち素敵な殿方がひよっこり出てくるって。元気出せよ」
「ふぇぇ……慰めてくれるの?」
「いやっ……まぁ、そのぉ……」
早くこの場を去りたいから適当に慰めただけだなんて言えねぇしなぁ…。
俺が返す言葉に困っていると、酔っ払いはは泣き始めた。
「うぇ〜ん、私に優しくしてくれるのなんてキミだけだよぉ〜」
「そんな事ねぇよ。ほら、一旦酒飲むの止めて水でも飲──」
水をついだコップを差し出した途端、今度は急にキレだした。
「なーにが!女子力だぁー!好きな様に飲ませろぉぉぉ!私なんて、潰れるまで飲んでも一度も”お持ち帰り”された事なんてないですよぉぉぉ!」
めんどくせっ!コイツめんどくせっ!
「ちょっ、声でかい、みんな見てるからちょっ、落ち着──」
「だいたい!毎回!路上に放置!私もお持ち帰りされたぁぁい!」
「年頃の女の子がでけぇ声でそんな事言うんじゃありません!あっ!コラ!暴れんなし!」
急に暴れ出した酔っ払いを宥めていると、隣テーブルに座っていた他の客が店員に話し始めた。
「あっ、お持ち帰りします」
その言葉を聞いた途端、酔っ払いは首をグルっと回して他の客に食ってかかり始めた。
「ぬ、ぬ、ぬわにー!!お、お、お、お持ち帰りられてるヤツはお前かー!」
「えぇ!?ちょっ、なんですかあなたは!!」
「ちょっとお客さん!何してるんですか!」
「おい、やめろぉっ!!その人はサンドイッチをお持ち帰りするだけだわ!」
「は、はれ?わたひ……あ、その……」
「すいません!すいません!ホントにすいません!この子飲みすぎちゃって、あははははは……てめぇも謝れ!」
俺が酔っ払いに促すと、酔っ払いはフラフラと立って考え出した。
「う〜ん……もう……ね、寝まふっ……」
ドサッ
酔っ払いは倒れて寝始めた。
「……すぴ〜、すぴ〜」
「おおいっ!寝るなぁっ!起きろぉ!おまっ、ここの料金どーすんだよ!おいっ!」
ペチペチと酔っ払いの頬を叩くが、一向に起きなかった。見兼ねた店員が俺に尋ねて来た。
「あーあー、”また”潰れるまで飲んで……」
また!?常習犯なのっ!?
「お客さん、この人の知り合いでしょうか?申し訳ないんですけど、2人分の料金の支払いと、この人持って帰ってくれませんか?」
「えぇ!?絡まれただけなのに俺が払うの!?」
「ええ、お願いします」
くそっ、とんだ出費だ!!
───────────────────────
──その後、俺は酔っ払いをおぶって冒険者ギルドの食堂から出て歩き始めた。
「すぴ〜……すぴ〜……」
「「すぴ〜」じゃねぇっての、なんで名前も知らない奴持って帰んなきゃねぇんだよ……このウワバミならぬウロボロスがっ! ホントにこのまま別荘に持って帰ろうかな……」
そんないかがわしい事をブツブツ呟いていると、酔っ払いは目を覚ました。
「う〜ん……あーた、お名前は?」
「あ?目ぇ覚めたのか?、俺はアクセルの街から来た冒険者。フクヤマリュウジだ、周りからは鋼のリュウジって呼ばれてるよ。酔っ払いのねーちゃん、あんたは?」
「私……ユカリ……『メ…リ…クリ…ウス…財……団』の経……理担当。22歳の”独身”……」
メリクリウス財団?聞いた事ねぇな。
「ってそれよりあんた俺より歳上かよっ!?それで?そのメリクリウス財団の本拠地はどこなんだ?夜道は危ねぇし、送ってやるから」
「うーん……ちょっと降ろしてくれる?」
「え?あー、はいはい」
俺はユカリを降ろし、『クリエイトウォーター』を発動させてハンカチを濡らしてユカリの顔に当てた。すると、ユカリは酔いが覚めて来たのか、正気を取り戻して来た。
「えーっと……リュウジくんって言ったっけ?、もしかして私、飲み過ぎちゃってた?」
「めちゃくちゃ飲んでたぞ?」
そう答えると、ユカリは頭を抱え始める。
「あ、ああ……そうなんだ……またやっちゃったよぉ……恥ずかしいとこ見せちゃった……外では出来るだけ、仕事が出来る素敵なお姉さんで通してたのにぃ」
「酔いが覚めて来た見たいだな、これに懲りて少しは控えるんだな」
「まさか見知らぬ人に絡んで潰れるなんて、失敗しちゃったなぁ」
「よく言うよ、さっきまで「お持ち帰りされたぁぁい!」って言ってたくせに」
俺がそうユカリに告げると、ユカリは唖然としていた。
「え?、待って、持ち帰り? え?」
「ええ、それに、あんたの酒代も肩代わりさせられていい迷惑でしたよ」
「あっ!!ごめんなさいっ!今払うわね!いくらかしら!?」
ユカリは慌てて懐から財布を取り出して現金をだそうとしたその時、俺はユカリの手を抑えた。
「女から金なんか受け取れねぇよ」
「そんなっ!それじゃ私の気が済まないわ!」
「まぁ、あんたに貸しを作って置けば後々楽になるかも知れないしな、今回は俺の奢りって事にしといてやるよ。酔いも覚めたみたいだし、俺はもう帰るからな」
俺は立ち上がり、スタスタと来た道を歩き始めた瞬間、ユカリは俺に声をかけた。
「あっ!ちょっと!」
「ん?なに?」
「また今度、会えたら借りをかえ──」
「あーそういうの間に合ってるから、俺が困った時に助けてくれるだけでいいから。んじゃ」
「えぇ!?あっ、ちょっと!!」
俺はユカリにそう言い放ち、スタスタと歩いて行った。ユカリは座った状態で唖然としていた。
「なんて人なのかしら……」
──────────────────────
翌日、俺は制服に着替えて登校の準備を済ませ、大あくびをしながら聖テレサ女学院に向かった。
「ふわぁぁ……ねっむ、誰かさんのせいで寝不足だわ」
「はよー」
「ん〜?」
後ろから挨拶された俺は眠そうに振り返ると、クロエが歩いていた。
「昨日はどうだったん?ユニパイセンのご講義は?」
「あー、うん、めちゃくちゃ勉強になったよ、流石はユニ博士って感じたわ」
「ふーん、良かったじゃん。ならギリギリ赤点は免れそうじゃん」
だといいけどねぇ……。
そのまま俺とクロエは学校に辿り着き、各教室に入った。3年生教室はテストの話題で持ち切りだった。
「ごきげんよう、テスト勉強はやりました?」
「ごきげんよう、いえいえ、忙しくてまったくしてませんわ?」
「私もですわ〜、忙しくて」
「おほほほほ」
「おほほほほ」
なんだこの会話、どーせアレだろ?牽制しあってんだろ?本当はめちゃくちゃ勉強して来たんだろ?なんで堂々と「バッチリやって来たわ!」って言わないんだ?
そんな事を考えていると、教室に担任教師が入って来た。
勉強した事を忘れてないかなんか不安になって来たな………。
「ごきげんよう。今日のテストですが、3年生の皆さんは全部で6教科あります。ですが、40点以下を出してしまった場合──」
はい出た学校テンプレ、アレだろ?休日を使って追試だろ?はいはい、分かってますよ?
と思いつつ、余裕をかましながら筆記用具などをいじっていると、担任教師は言い放つ。
「留年となります」
ホワッツ!?
俺は思わずバッと顔を上げ、担任教師に質問した。
「せっ、先生!!」
「はい?どうしました?特別編入生の……フクヤマさん?」
「あの、今の話しもう一度いいですか?聞き間違いかと思うんですけど、40点以下を取ったら留年って聞こえたんですけど?」
「ええ、そうですよ?。この学院は多くの出資者によって賄われていますので、『追試』という甘い施しは致しません」
「そっ……そうですか……」
マジでかぁ!!余計プレッシャーなんだけど……。
俺の事は露知らず、担任教師は淡々とテスト用紙を配り始めた。それにより俺は緊張を隠せず、貧乏ゆすりをしながらその時を待った。そして、担任教師は鐘の音を合図に、号令を出した。
「ちなみに試験中は”通信魔石”などは使えなくなりますので悪しからず。それでは、はじめっ!」
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その後、全ての教科のテストを終えた俺はぐったりと机に項垂れ、頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった。
「頭痛い……あたまが…あたまがぁ!!脳みそ溶けるぅぅぅっ!!」
けどまぁ、ユニちゃんに教わった所が出てなんとか凌げたな、頼らず勉強してたら山外して留年食らう所だったわ……。今日はもう帰ろう、疲れた。
帰り支度を始めて教室から出て1年教室を通り過ぎ、校門に向かって歩き始めた。
その頃、1年教室の中では……。
──チエル視点──
テストを終えた放課後、思春期まっさかり女の子達とチエルがガールズトークに華を咲かせていた。
「ちょっとチエル、今の聞いてた!?」
「えっ、まったく聞いてませんでした、なんですなんです?」
「ミィコがね、好きなオトコ出来たんだって!!」
女子生徒の言葉にチエルは微妙な顔をしながら答えた。
「えっ、まじすか、てか、またすか?」
「ミィコ、見るオトコ見るオトコ容易に惚れるもんなー」
ミィコと呼ばれた女子生徒は照れながらもチエル達の質問に答える。
「や、べつに好きとか、そういうんじゃなくて〜!ちょっぴり気になる男の子ってカンジのぉ〜!」
「とか言いつつデレ散らかして分かりやすっ!。え、で、相手は?今度はどんな相手なんです?」
チエルがミィコに尋ねると、他の女の子が答えた。
「最近学院に特別編入生でやって来た人だって!」
「特別編入生……あー、リュウジ先輩ですか?」
チエルがあっけらかんと答えると、ミィコが食ってかかる。
「えっ?、ちょっ、なんでチエルがあの人の事知ってんの!?」
「えっ?なんでって、この前顔合わせしたんで」
チエルがそう言うと、他の女子生徒とミィコがグイグイとリュウジの事を聞き出そうとチエルを囲み始める。
「なんで顔合わせとかしてんの!?」
「えっ、なんでって、奨学金受給の為に行ったら試験的にこの人が特別編入生でーす!ってかんじで来たんですよ?」
「まじかー。それで!あの人、普段何してんの!?」
「あー確か〜冒険者しながら?農場とか、子供食堂とかの経営してるらしいですよ?」
淡々とリュウジの情報を話していると、ミィコと女子生徒はヒートアップしてはしゃぎ出した。
「まっじー!?ちょー金持ちじゃん!ミィコ、上手く行けば玉の輿じゃん!」
「玉の輿かぁ〜良いなぁ〜!ふふふふ」
「玉の輿ですか〜、けど、なんかあの人、見た感じ苦労してそうですよ?や、まぁ、タデ食う虫も好き好きっていうか、ミィコさんが楽しそうで何よりですけども」
「はぁー……彼と付き合いたいなぁ〜……」
盛り上がった所にチエルは水をさす様に言い放つ。
「ふーん。そんなゆーなら、とりま告っちゃえばいんじゃないです?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
唐突な言葉にミィコと他の女の子達は動揺を隠せなかった。チエルは辺りを見渡し、ミィコに尋ねた。
「あっあれ?、なんですかこの沈黙。え、だって、リュウジ先輩と付き合いたいんですよね?じゃあ、だったら、ねぇ?告白?すりゃいーじゃないですか、さっさと」
「あー……」
「それは……ねぇ?」
周りの空気は余計重苦しくなった。たまらずチエルは周りに言い放った。
「えっ、なんですなんです?なんで皆さん、無言で目配せします?チエルなんか変な事言いました?」
チエルがそうミィコ達に尋ねると、ミィコ達が返した。
「変、ではないけど……生き急いでるって言うか、アドバイス雑?それが出来たら最初から苦労はしてない訳だし……」
「ほら、アレだよ。チエルって上級顔面持ちで人生勝手にモテて来た勢だから。一般女子の恋のハウツーとか逆にうといんだよ」
「強者の理論だもんね。冒険者あるあるとかで、「このクエストのモンスターはこの装備で行けば楽勝!」みたいな?。いや、教え下手かっ!こっちはそんな強力な装備もクラスも持ち合わせてないから困ってんだ。っていうね。ホント、世の中もっと弱者を慮るべきだよ」
「うん……弱者の私には無理だよ……告白なんてそんな……」
ミィコが落ち込み始め、他の女の子達は慰めながらチエルに食ってかかる。
「ほらぁ、ミィコ困ってンじゃんかー。チエル、責任もってなんとかしてあげなよ〜」
「そうだよ、慮りなよ〜」
「あっはい、分かりました」
「「「!?」」」
チエルの思わぬ返答にミィコ達は驚いた。
「えっ?」
「えっ?あー……や、だから、いいですけど?チエルがリュウジ先輩とミィコさんの仲を取り持つキューピット役をやればいいんですよね?」
チエルがそう答えると、ミィコがぱあっと明るくなった。
「ほんとっ!?、いいの!?、やってくれるの!?」
「やりますやります。困ったときはチエルにおまかせっ!ちぇる〜ん☆」
「チエル〜!!」
ミィコは嬉しいあまりに、チエルに抱きついた。
「芽生えたばかりの仄かな想い……友のため、いま立ち上がる1人の少女……やだ青春っぽい!、通称、舞台化決定待ったなし!」
チエルが1人で盛り上がっていると、ミィコ達は引き始める……。
「あっあれ……なんか楽しそうだねチエル……」
「はいっ!これはいい暇つぶしをいただいた予感です!」
「えっ?」
「えっ!?」
「はいっっっっ!では、さっそく今からリュウジ先輩を観察して来ますね!ではっ!行ってきます!バイちぇる〜☆」
「あっちょっ!チエル!!」
ミィコ達の制止を待たずに、チエルは教室を飛び出して行った。
────────────────────────
チエルはそのままリュウジ先輩を追いかけて王都を探し回っていると、帰宅途中のリュウジを見付けた。チエルは先回りをして物陰からあんぱんをほうばりながら待ち伏せを始めた。
見付けましたよ、リュウジ先輩!!。さぁ、暇つぶしを始めましょう。我が名は恋の一日伝道師チエル!ミィコさんの大雑把な想い、しかと受け止めろですっ!
チエルは物陰から飛び出し、リュウジに声を掛けた。
「ちぇる〜ん☆リュウジ先輩お疲れ様ですっ!」
「うおっ!びっくりしたぁっ!えっ何!?チエルちゃん?」
「はいっ!ピカピカ美少女1年生のチエルですよ!」
クククク、さぁ、リュウジ先輩。チエルの可愛さに「デュフフフ」と言いながらニヤつけです!
チエルが全力の可愛さアピールを他所に、リュウジは疲れた顔をしながら答えた。
「あーうん、ごめん。疲れてるから……じゃーね」
「あっはーい、それではさよなら〜…………って!」
普通に返事をされて普通に返事を返してしまったチエルは慌てて俺を引き止めた。
「いやいやいや、待ってください待ってください。まだ話は終わってないじゃないですか。むしろ始まってないじゃないですか」
「んじゃ何?何か用?」
「え?いや、何か用って言われても……それはアレですけど」
「いや、アレってなんだよ!」
「アレですか?アレは……えーっと……」
通称ノープラン、んー、どうしよ。とりあえず目標発見したからノリと勢いで絡んでみたけど、正直、何も考えてなかったな……。待ち伏せ成功したはいいけど、うん、問題はこっからなんだよね。こっからどーやってミィコさんの話を始めるかってゆう、んー……いきなりのストレートはミィコさん達からNG出てるしなぁ〜。ま、いっかぁ、このままノリと勢いで適当に繋いで行けば。幸いノリと勢いと適当なら私の得意分野だし。なかよし部の事もあるし。
そう考えたチエルは再びリュウジに話し掛けた。
「えっとぉ〜?なんかぁ〜?今日ってすっごくいい天気ですよねぇー!」
「もう夕方だし、曇ってるけどね?」
「あーはい、そうですよね〜過ごしやすくて、わかりみー」
「人に聞いといてなんか適当過ぎないっ!?」
「え、で、どうです学校生活?ぼちぼちですか?」
「初日でぼちぼちもクソもないでしょ〜よ。けど、まぁ、ぼちぼちかな」
「わぁ、おんなじー、チエルもぼちぼちー、略してちぇるぼち〜」
「べつに略さなくても…とりあえず、今日はもう勘弁してくれ、んじゃ」
「あっ、はーい、それじゃまた〜 や、ですから。まだ後輩が話してる途中でしょうがっ!!」
そそくさと帰ろうとするリュウジの腕を掴んで更に引き止める。
「ていうかリュウジ先輩、すごいですね。こんな顔のいい超絶美少女に話しかけられてるのに、よく途中で退座できますね。大丈夫ですか?」
「いや、ただ疲れてるだけだから……そんな困った顔しないでよ」
「男子って普通チエルにグイグイ来ますよ。ないんですか?全然なくていいんですけど、ないんですか?鬱陶しい自己アピールとか」
「そんな胃もたれする様なアピールないから!ごく普通の男の子だから!」
「さぁっ!とっとと答えて下さいっ!高級住宅地の名前とか出して上からマウント取ろうとするやつみたいに、さあっ!」
俺はため息を吐きながら木箱に座り、頭をかきながらチエルに答えた。
「出身地は……遠い国の『ニホン』って言う所の出身で、メルロマルクと言う国に引っ越して……引っ越して……魔王に君臨していた。それから──」
「はいストッーーーープ!!、リュウジ先輩!!」
チエルは俺の目の前に掌をかざした。
「魔王?はい?、あの、……ふざけてます?頭大丈夫ですか?」
「ふざけてねぇよ、大真面目だわ!!」
ミィコさん。お世話になっております、聖テレサ女学院のチエルです。御依頼の件につきまして調査結果を報告させていただきます……。判決──無理。無理です、諦めましょう、これはホントに無理です。調査対象は控えめに言ってイタイ人です。自身を魔王とか言っちゃうやべーやつです。クロエ先輩っぽい事を言ってますが、対象は度を越してます。や、まぁ、話せって言ったのはこっちですけどぉ〜普通いきなり魔王とか言います?現実逃避してる人にしか思えないですよ?という訳で、暫定評価──ナシ。取り調べの結果、フクヤマリュウジ容疑者はクロです。やめておきましょう。余罪がないか、今後も調査が必要になります。
「はーい。チエルからの質問は以上でーす」
「なんなんだよさっきから急に!あのさ、チエルちゃん。俺らもうちょい仲良くしないといけないんじゃないの!?なかよし部でしょ!?」
「そっそれは……」
「という訳で、よろしくね!チエルちゃん!お近づきの印に、どっかでお茶でもどう?」
ミィコさん。ここからは”なかよし部”としての使命があるので、一時調査を停止させていただきます。かしこ
「仕方ないですねー!ちょっとだけですよ!レッツゴー!」
「あっちょ、チエルちゃん!?」
チエルとリュウジは出店のならぶ商業区に走っていった。