淫夢の翌朝……俺は新たな新たな必殺技、『鉄の暴風』と『タイキック』の特訓をして、なんとか体に染み込ませる事に成功した。そして、いつも通りに陽光差し込む学び舎の聖テレサ女学院に登校した。花々咲咲き誇る朝の中庭に、全校生徒が集まっていた。その時、俺は眠たそうに朝礼を聞いていた。
ふわぁ〜、寝みぃ……ガルーダ様から教わった技をマスターする為にちょっと無茶し過ぎたなぁ……
大きくあくびをしていると、同じクラスの女子生徒が俺を見ながらヒソヒソと話していた。
「まぁ、ご覧になりまして?フクヤマさんったらとてもお眠そうでいらっしゃるわ」
「流石は劣等生のフクヤマさんですわね、夜遅くまで何をなさっていたのかしら?まさか、他校の女子生徒といかがわしい事を!?」
「まぁ、ハレンチですわ……」
「近寄り難いですわ……」
「ケダモノですわ……」
「エンガチョですわ……」
いや、聞こえてんだけど。なんだなんだ、やれケダモノだの、エンガチョだの、言いたい放題言いやがって!泣くぞ!!
「つーか、朝礼なげぇ……あぁ、座りてぇなぁ……」
「そーそー、朝礼とかだっるいわ〜」
「ですよね〜」
ヒソヒソと陰口を言われてプルプル体を震わせていると、左右から声が聞こえて来た。俺は左を向くと……
「どうせ挨拶はちゃんとしましょーとか、振る舞いもちゃんとしましょーとかって話ですもんねー人としてちゃんとしてるチエルにはどっちもご縁がナシんこですよ」
何してんだこのピンク
そして、今度は反対の右方向を向いて見ると……。
「いや、どっちもご縁がないっつーか、むしろあんた、どっちとも深いお付き合いじゃん。がっつり不倫関係築き上げてンじゃん」
こっちも何やってんだ?ここ、3年生の列なんだけど?
「あーたら、ここでなに盛り上がってんの?」
「や、なんか3年生の列の中に周囲からめちゃんこ距離を置かれてる孤独めな背中があったんで、心当たり子さん大発見!とかゆって遊びに来ちゃいました!」
「遊びに来んな」
「ちょチエル、1年の分際でなんでしれっとここにいんの。ウチらと並び立つには1年早いんじゃないの?」
「いや、君も1年早いよ。つーか戻れよ自分らの学年の列に、ほらぁ、ユニちゃんがこっちに混ざりたそうにチラチラ見てるから!」
俺がそう2人に注意を促すとチエルが食ってかかってきた。
「えーまってまって、めっちゃ塩くないです?今日のチエルが子犬系後輩だから事なきを得たものの、万一リュウジ先輩見たいにナメクジ系の日だったら跡形もナシんこですよ!?」
「誰がナメクジ先輩じゃ!」
「あーほんとだ。塩撒いとこ、これぞまさに塩対応って。やかましいわ」
「黙れ、子猫系後輩。給料下げんぞ」
俺はクロエに鋭いツッコミを入れると、微妙な顔をしながら食ってかかってきた。
「あ?やんのか、やんのかコラ、やんならやんぞ、表出ろコラ」
「そう言いながらもプルプル震えてんじゃねぇかよ!」
「はっはぁ!?してねぇし、給料カットでちょっと凹んだだけだし」
「リュウジ先輩その塩対応いい加減にしないとその大きな目玉ほじくりますよ?」
「やってみろやこのピンク」
「まぁ落ち着きたまえよ諸君。朝から喧嘩なんかしないで仲良くマザーの金言でも聞こうじゃあないか」
余程羨ましかったのか、どさくさに紛れていつの間にかユニが乱入して来た。
遂にユニちゃんまで来ちゃったよ!!
「朝礼の列フリーかよ、戻れよ」
「ってか、いつの間にか当然のようにユニ先輩までいるし」
「ユニ先輩おはちぇる〜ん☆」
「おはちぇる〜ん☆」
「何なんよコレ、いつから自由にご歓談していいシステムになったん?」
なかよし部がヒソヒソと内輪揉めしていると、マザー・ヒルダにも聞こえたのか、注意を促して来た。
「皆さん、お静かに。えーどこまで話しましたかね…、そうそう、紅魔の里とエルフの森の方々にご協力いただき、我が校に特別編入生を迎えることで素晴らしい知見を得ることが出来ました」
そういやゆんゆん達が帰ってから1ヶ月くらい経つんだよなぁ、クリスとは会ったけど、他のみんなは何してんだろう……。
そんな事を考えていると、ユニがマザーの言葉に反応した。
「ふむ、アオイ君とゆんゆん君のことだな。心優しきあの2人の少女は、息災にしているだろうか」
「気になりますよね〜アオイんご、ゆんゆんご、会いたいんご」
「それなー、リーダーでもあるのに、ここにいるから把握してないという」
俺達がそんな事を話していると、クロエがしれっと言い放った。
「あー、こないだ農場覗いて見たけど2人ともフツーに元気だった見たいよ。なんか、アオイは『赤い薬草』『緑の薬草』『青い薬草』は話しかけてゆんゆんは黙々と薬草に水を撒いてひとりの世界に入ってたっぽいけど」
「あっそうなの?なら安心安心」
その言い分だと元に戻ってるような気がするけど
俺がクロエからそんな情報を聞いていると、チエルが食ってかかってくる。
「ずっるいですよクロエ先輩!冒険者のリーダーでもあるリュウジ先輩すら差し置いて自分だけアオイちゃんとゆんゆんちゃんのとこ行ってきたんだー!聞きましたかユニ先輩、アフターケアまで万全ですよ!このきゃわわツインテール!」
「だが文脈から察するに、どうやら声はかけなかったようだね」
「言われて見れば……なんで声かけなかったの?」
ユニと俺の質問に、クロエが気まずそうに俺たちの質問に答えた。
「あァ、まァ、そうねぇ……なんかそういうのは、ウチら全員揃ってるときのが良きかと思って」
「あーなんかそういう人いますよね、保護者面っていうか」
「いるいる、どこ目線で言ってんだよって話し」
「あのさ、2人してひとの配慮を雑に片付けんのやめてくんない?」
「待て、保護者だと?おい、どういう事だクロエ君。君はアオイ君とゆんゆん君の保護者にでもなったつもりか?大概だぞ」
「えー、クロエ先輩いよいよ”ママ属性”まで獲得疑惑ですー?」
「はぁ、なんなん?その”ママ属性”って」
「いいかいクロエちゃん、ママ属性っての言うのはね──」
「いやご親切に教えてくれなくて良いし」
すると、マザー・ヒルダが俺達を睨み付け、怒鳴り散らして来た。
「そこの生徒達、私語は慎みなさい!!」
おーこわ
「あヤバっ、センセー睨んでる」
「さーせーん」
「これは失敬。引き続き進行を、マザー・ヒルダ」
ユニがマザー・ヒルダに促すと、マザー・ヒルダは咳払いをして話を続けた。
「ごほん!えー、我が聖テレサ女学院では、生徒たちを安全に預かる学び舎として、永らく外に通ずる門戸を閉ざしてまいりました。しかし、時勢は移ろうもの。当学院にも閉鎖的な方針を見直す時期が来ています。男女共学化へ向け、一名の男子生徒を招いたのもその一環です。我々は先人の築きあげた伝統を重んじつつも、時代時代に即した道を歩んで行かねばなりません。そこで当学院では、このたび”新たな施策”を執り行うこととなりました」
ほほう、何をするんだろうねぇ?
マザー・ヒルダの言葉を聞いたなかよし部メンバーは4人同時に首を傾げる。
「新たな施策。ほーん、今度は何やんすかね」
「大まかまたなんかの講義じゃないの?」
「さてな……しかし学院め……多様な行事を打ち出すのは結構だが、よもや忘れているわけではあるまいな?我々ユニちゃんズが奨学金の受給を希望している件を」
「ですよねー、なんせそのために作ったチームだもん。我々はユニちゃん……うぉわっ!あっぶなっ!流れで口にしちゃうとこでしたよ、秒でボツったチーム名!」
「ふふふっ?素直になりたまえよ、チエル君。君も本当は望んでいるのだろう、栄えあるユニちゃんズの復権を」
まだ言ってるよユニちゃんズ!!ユニちゃんって結構くどい性格!?
「あはは……ないと思うけど」
「ないですないです、全然ないです。そもそもチエル、今のチーム名ふつーに気に入ってますし……」
「うるさいぞ、表層意識。ぼかぁね、いま君の表層意識と話をしとるんだよ」
何を言い出すんだこの子は
俺とチエルは唖然としながらユニに言い放つ。
「すんごい表現の仕方するよね、なに表層意識って」
「ハ?突然なに言い出してんの、この子……」
「なー?怖いだろ〜?だーら2人とも、地獄の底に沈めた例の没案、ちゃんと供養しとき?1回唱えただけで軽く100匹は蘇るからな?」
「悪魔かよ、『ターンアンデッド』しか使えないけど大丈夫かな?」
そんな事を言われたユニは、傷つく所か、驚いていた。
「えっ、ぼくの提唱するチーム名、きわめて高位の召喚術か何か?」
「いやぁ、提唱するも何も、うちのチーム名はもう決まってるじゃないですか、正しいその名前は『聖テレサ女学院(なかよし部)』です!」
「※諸説あります」
「なんか今すげぇ可愛い声が聞こえてきたんだけど?気の所為?」
「確かに聞こえましたね、余計な声」
俺とチエルがキョロキョロしていると、クロエが顔を歪めながらどこから持って来たのか塩を取り出した。
「ほらァ、やっぱ出ンじゃーん。チエルが呼んではいけないあのチーム名呼ぶから……はー、塩撒いとこ」
クロエは取り出した塩をユニの足元にパラパラと撒いた。
「クロエ君、やめたまえ。一つまみの塩を、上級生の足元に小粋な所作で振りかけるのはやめたまえ」
「『ターンアンデッド』『ターンアンデッド』」
どさくさに紛れて俺もユニの頭に弱くターンアンデッドを唱えた。
「フクヤマ氏、やめたまえ。同級生の頭にブツブツと唱えながら退魔魔法を唱えるのはやめたまえ」
ユニをからかいながらじゃれていると、マザー・ヒルダは未だに長々と話し続けている。
「えー、さて。前回の特別講座はとても有意義なものでした。やはり学生の本分は、学を修め、蒙を啓くことにあります。ですが知識とは、頭に詰めただけで用を成すものではありません。然るべき形で活用しうる、発想力や行動力も育む必要があります。たとえば、わたくしなどは、娘自分にさまざまなな女性冒険者達に教授を……」
長い長い、早く終わんねぇかなぁ……保健室行きたい。
そう考えていると、先にクロエ達が口走った。
「長い、話しが長い」
「てか、いります?ここで「たとえばわたくしは」的な欄外コラム」
「自慢話しはいいから早く終わってくんねぇかな」
ユニは懐からメモ帳を取り出し何かを調べ始め、呟いた。
「ふむ、ぼくのメモによると、マザー・ヒルダの自慢の青春回顧録は今学期通算12回目だな」
「どんだけ自分好きなんだよ、もし俺マザーの娘だったらグレる自信があるわ」
「流石の先輩も盗んだ馬車で走り出しちゃいますか?」
「走り出すね、行先もわからぬまま」
「いやそこ、馬だけで良くね?馬車いる?」
ヒソヒソと話していると、自分大好きなマザー・ヒルダはようやく本題に入った。
「えー、そこで今回、当学院が実施するのは、より実践的な講座です。将来あなた方が社会で活躍するための、予行演習と言えましょう。すなわち、すでにこの王都社会で成功している先人を招いて教えを乞う──その名も『起業精神を学ぶ特別講座』です」
ようやく本題を聞けた俺達はうーんと唸り、話し出した。
「起業精神を学ぶ。はぁ、何ソレ」
「まぁ、読んで字のごとし、事業の起こし方ということだな」
「ようやく本題が聞けたと思えば……今度は起業かよ」
「学生ベンチャー向け講座ってことでいいです?」
あまり気の進まない俺達を他所に、マザーは淡々と話を続ける。
「将来的に起業の意志があるかは問いません。誰しも有意義な体験となることは間違いないでしょう。受講を希望する者は、後ほど申し出るように」
マザー・ヒルダの言葉にクロエは溜め息を吐きながらボヤいた。
「起業ねぇ……当たりゃデカいんだろーけど、極論ギャンブル見たいなもんでしょ?別にいいかな……ぷー……バイト行こ」
「まぁ、俺も起業したけど、そんな大それた事してないしね?幸運値激低だからセンスないし。ぷー……クエスト行こ」
「ふうむ、商学や経営学の講義であれば知的好奇心もそそられようが、単に起業精神───心掛けの話となれば、それはぼくとて興味の埒外いだな。ぷー……引きこもろ」
「うーん、チエルは社長ちゃんの夢とか、まぁ、無くはないんですけど、今は青春最優先なんで、先輩達がパスなら付和雷同です。ぷー……ちぇるっとしよ」
「よーし、長ぇ朝礼も終わったし、ちぇるっと教室に帰るか〜」
朝礼も終わり、4人揃って教室に戻ろうとしたその時……。
「お待ちなさい。ちぇるっとしてる場合ではありませんそこの4人は、この講座に必ず参加して下さい」
呼び止められた俺達はバッ!と振り返った。
「えっ?」
「はっ?」
「へっ?」
「なんと?」
「ちょっと待って下さい、マザー。なぜ我々は強制参加なのですか?」
俺は慌ててマザーに尋ねると、マザーは聞く耳を持たず言い放つ。
「お黙りなさい!あなた方の受講は決定事項なのですから」
このババア!勝手に決めてんじゃねぇっ!
「大横暴!先生それって何らかのハラスメントじゃないです?大丈夫ですか?」
「不敬ですよ、主の導きに基づいた教育的配慮です。それとも?もう奨学金受給審査はよろしいのですか?」
汚ぇ!なんて汚ぇババアだ!
俺は野犬のようにガルルと唸っていると、ユニは腕組みをして考え込んだ。
「奨学金の受給審査……ふむ、男女共学化に伴う懸念への反証材料としてフクヤマ氏を含む我々4人に仲良くなってみせろという話だったな」
「その通りです、ユニ博士。来る特別講座にこの4人で何らかの成績を残せれば、それはあなた方にとって必ずや良き活動結果となるでしょう」
マザー・ヒルダの言葉に納得したのか、奨学金受給希望のクロエ達が頷き始めた。
「なるほど」
「ちぇるほど」
「さもありなん」
「くそっ、しゃーないか」
「では、異論なしということで。期待してますよ、ユニちゃんズの皆さん」
「「「ユニちゃんズじゃねぇーし」」」
俺、クロエ、チエルは同時にマザー・ヒルダに突っ込んでしまった。こうして聖テレサ女学院(なかよし部)面々は、『起業精神を学ぶ特別講座』に参加する事になった。