────セレスディナから逃げ出した後。俺は口の青タンを治しながら今後の事について考えを巡らせていた。
「ってぇ……アイツもしかしてハンスと五分で強いんじゃないか?」
危うく人類とエリスやネメシスを裏切るところだったが、まぁギリギリ大丈夫だったな。
そう考えながら顔をさすりながら別荘に逃げ帰ると……。
「やぁ、おかえり友よ。今日もお勤め御苦労だったな。風呂にするかね?、食事にするかね?それとも……わ・た・し?」
何してんだこの子は……。
「んじゃ〜、ユニにするわ」
俺はとりあえずユニの小芝居を合わせたが、ユニは冷めた顔をしながら俺に言う。
「何を言っとるんだね、君は。古典的なウェルカムジョークを真に受けるんじゃあないよ」
「じゃあ最初からそんな事をいうんじゃあないよ」
オウム返しのように返した俺は、素に戻ってユニに尋ねた。
「で?、よく俺の家に来れたね、どうしたの?」
「あー、ここはチエル君に地図を書いて貰ってようやく辿り着いたのだよ、実は君に用があってね。まずは先にコレを渡して置こう」
ユニはローブのポケットから吸魔石を取り出した。
これは……。
「これはもしかして?」
「左様。これは君専用の愛玩鉱物だよ。後は名前を付けてあげたまえ」
「ホント!?ありがとう!。名前か〜うーん、『ハーレイ』にしよう!」
「ハーレイか、良い名前だな」
「でしょ?ハーレイ、これからもよろしくね?」
愛玩鉱物ハーレイに俺は声をかけてみると。
《ぽーん!よろしくお願いいたします!マスターリュウジ》
あっ、声はユニの声なんだ。まぁいいか。
「それで?本題はこれからなんでしょ?」
「うむ。ぼくもあれからセレナ教諭の事を調べていてね。セレナ教諭の色々腑に落ちない事が多々見つかった」
ほう、もう奴の情報を集めたのか……、けど、どうする?アイツの正体を伝えておくべきか……いや、正体を明かしたら奴は何をするか分かったもんじゃない。ここは知らない事にしておくか。
「ほう、何か分かったの?」
「うむ。不可解な点を上げていくと、あれだけの量のアンデッドを退治出来る腕だ、さぞかしフクヤマ氏と同等か、それ以上のレベルのプリーストだろうと、ぼくとロゼッタで旧図書館棟や王都の新聞をくまなく調べたのだが……。セレナなんて名のプリーストは、どこにも情報が載ってない事が分かった」
《ぽーん!冒険者ギルドの登録者リストを検索した結果、セレナという名前は登録されていません》
ユニとロゼッタが調査結果を俺に教えてくれた。
「クエストの報酬記録を調べると、クエストは参加するだけで、ただの一度もクエスト報酬を受け取らないらしい。不可解と思わないか?いくら聖職者とはいえ、報酬を受け取らないと言うのは?端的に換言すると……アイツ怪しい」
うおっ、たった1人でここまで調べ上げたのか!?すげぇな。
「まぁ、今後は俺が夜通しかけてアイツを調べるからユニはもう手を出さないでくれ。好奇心猫を殺すって言うだろ?」
そんな俺の言葉に。ユニはキョトンとした顔をしながら首を傾げた。
翌日。
「ちぇっちぇるーん!へいっ!ちぇっちぇるーん!へいっ!美味しいランチがちぇっちぇるーん!」
「ビートが止まらねぇビートが止まらねぇ、内なる陽キャが止まらねぇ」
「だって珍しくないです!?先輩からランチのお誘いだなんて!」
俺は昼休みを利用して、何故かハイテンションのチエルを引き連れて売店にやって来ていた。念の為にクロエにユニがこれ以上余計な事をしないようにユニのお守りを任せている。それに、いざという事態になってもクロエは校内で刃物は使えない。
というわけで、この陽キャについてきて貰ったのだが……。
「というか聞いてくださいよっ!ミィコさん……先輩達が、ちぇるちぇる美少女キャラはもうオワコンだとか言うんですよ。べつにチエルやれば出来る子なんで、キャラ変ぐらい楽勝ですけど、変えるとしたら次は何系がオススメです?」
さっきからもうこんな調子……。
「そーだなぁ、大人っぽいお姉さん?」
「あら坊や、そういうのがお好み?うふ、可愛いところあるじゃない。お姉さんと2人でちぇるっとしちゃう?いいのよ……力を抜いて──」
「すいませーん、カレーパンと焼きそばパン下さい」
「って、ちょっと!話しは終わってないですよ!ちゃんと聞いてて下さいよ!」
……そう、俺はセレスディナの行動を監視に来ていた。やれば出来る子のチエルにセレナ先生は魔王軍幹部と言ったら色々と面倒なので内緒にしてある。なのでランチを誘った形になった。もし、なんらかの形でセレスディナまでもが王都で討伐されとあっては、いよいよ魔王に目を付けられる。場合によってはこの聖テレサ女学院に危険が及んでしまう。セレスディナは俺に言った。「お前の通ってるお嬢様学校が大変な事になるぜ?」と。その言葉が気になり、監視に来たのだが……。
「レジーナ神の名は誰も聞いた事がないでしょうが、必ず生徒の皆さんにご利益がありますよ。レジーナ様のお力は本物です。様々な願いが叶いますよ?」
「本当ですか!わたくしにも彼氏が出来ますか!?好きな人が居るんですけど、勇気が無くて……」
「叶います、叶いますとも。意中の男性の髪を持って来ると良いですよら、レジーナ様のお力で、両思いになれるおまじないをかけてあげます」
「セレナ先生!わたしにも!、わたしにもぜひ、そのおまじないを!」
「ちょっとあなた!順番を守りなさいよっ!」
すっげー人気だなおい。
売店近くの空き教室の中で生徒達の悩み相談を受けたりしながら、ずっと笑顔を絶やさないセレスディナ。
「さぁ、どんな悩み、どんな相談にもお応え致しますよ。それが、プリーストとしての務めですから」
「あ、あの……私、生徒会長をやってて憧れの人と仲良く出来ません。憧れの人と仲良くなりたいのですが、どうすればいいでしょうか?」
「そっそうですね、偉大なるレジーナ様は……優しく語り掛けるがよいと言っていますね……試しては如何でしょうか?」
「そっそうですか……やって見ます」
それは本来のプリーストとはこうあるべきとでも言うようなセレスディナの姿。トボトボと帰って行く白い制服を来た女子生徒を除いた、ほとんどの生徒達の悩みを次々と解決していた。
「先輩?どういう事です?ランチをするんじゃなくて、セレナせんせーを見に来たんですか?」
チエルがクイッと俺のブレザーの袖を引っ張りながら、寂しそうな表情で……。
「いや、ランチはホントだよ?ちょっと様子を伺うだけだから」
「はーーーっ!?なんですか人をついでにみたいな扱いして、チエル必要ないじゃないですか!バカにしてるんですか!?きもっ!先輩マジでキモっ!!もういいです!クロエ先輩たちのとこに戻ります!ばーか!」
チエルが、怒りながら段々声のトーンが低くなっていく。
そんなに怒ることないじゃん……。
「ちゃんとランチするってば、何?セレナ先生に妬いてるの?」
「ちっげーしぃ!ちげーしぃっ!!先輩が乙女心を無知なだけですぅ!」
チエルは俺の制服を掴みながらギャーギャー教室の前で騒いでいると、俺に気付いたセレスディナが立ち上がると、こっち来いと手招きした。セレスディナはそのまま、教室の隅へ移動する。他の生徒達は気を利かせてくれたのか、教室から出てきてくれた。俺はチエルから離れ、セレスディナの元へ向かう。セレスディナは、目を細めて張り付いたような笑みを浮かべ。
「その様子だと、気を利かせてあたしの事を誰にも話してないみたいだな。言っておくが、これはお前らのためでもあるからな?あたしはアンタみたいに戦闘が得意なタイプじゃないが、これでも魔王の幹部さ。邪神レジーナの力は傀儡と復讐。あたしの命が絶たれると、殺した相手はおろか、その周辺にもとびきり強力な呪いが振りかかる。まぁこの学校の生徒9割ぐらいは呪いにかかるんじゃないのか?」
そんな事をサラッと言った。俺は顔に血管をビキビキと浮き上がるが、セレスディナは表情は変えないまま面白そうに眺め。
「呪いの種類は様々で、体に障害が残るもの、石化や死なんて凶悪なヤツまで揃ってる。正体がお前以外のヤツにバレたら、あたしも戦わないわけにはいかない。その際には多くの被害が出るだろうな、それらをよく考えておくんだな」
これはハッタリか?いや、この自信のある顔はハッタリじゃなさそうだな……。
そんな俺が悩んでるのが分かったのか、セレスディナはちょんちょんと頬を指した。
「ほら、この前見たいにぶん殴って見ろよ。あたしのカラクリが分かるぜ?」
カラクリ?セレスディナはカウンターをしたんじゃなかったのか?
「お前、カウンター使いじゃないのか?戦闘向けじゃないとか言っといて、本当は格闘得意なんだろ?」
「そう思うならデコピンでもなんでもしてみろ」
俺はセレスディナの額にデコピンをすると……。
「なっ!?」
デコピンをした瞬間、俺は自分の額に痛みを感じた。俺はセレスディナの『復讐と傀儡』という意味を理解した。
「なるほどな、”全部返って来る”って訳か」
「そういう事だ」
攻撃魔法特化のウィズ、見切りが出来るベルディア、未来や過去を見通すバニル、攻撃を無効化するハンス、繁殖力を利用した兵力のチャーリー、暗殺専門のウィック、雷魔法を使うダニエル、そして今度はダメージを全てを返すセレスディナか……。
「ちっ……めんどくせぇ能力だな……けど、今は休戦だ。ここで騒ぎを起こしたらお互い面倒になるからな」
そんな俺の言葉にも、セレスディナは無言で笑みを浮かべるだけだった。その場を離れた俺は真剣な顔をしながらチエルが待ってる廊下にへ……。
「チエル、待たせたな。ほら、行くぞ」
「えっ……あっ、はい……」
チエルの前ではあまり真剣な顔をしてなかった為か、チエルは反応に困ったのか、急に大人しくなり、俺の後ろをついて歩くだけだった。
「あの……先輩?あの、どーしたんですか?」
「………………」
俺はチエルの問い掛けに反応せずに、セレスディナが引き抜きの他に何を企んでいるのか、どう戦えばいいか考えていた。
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「セレナ先生様のお言葉が聞けるそうですわよ!急ぎましょう!」
「こちらですわ!、お急ぎになりませんとセレナ先生様の御尊顔がお見えになれませんわ!」
あれから数日が経ち、学院の様子は何だかおかしな事になっていた。
「こっちですわ!セレナ先生様のお話しが始まりますわ!」
「お待ちになって!」
そこかしこで聞こえてくるセレナ先生様というその名前。セレスディナは、あっという間に聖テレサ女学院の聖女として崇められていた。
「これはどういう事だね、ぼくが象牙の塔に引き篭ってる間にこの学院に何があったというのだね」
「あぁ、ユニが象牙の塔にいる間に、あの女はこの学院の顔になっちまったんだ」
「ミィコさんまでセレナせんせーの虜になってますよ?なんか最近おかしくないです?」
「言えてる、マザーまで聞きに来るし……マジでいよいよヤバいンじゃない?」
3人を連れて歩いていると、ユニやクロエ、チエルがヒソヒソと言った。
「ふむ、これは本当にフクヤマ氏の予想した通り、セレナ教諭は只者ではない事が立証された。ぼくはこれ以上首を突っ込まないことにしよう」
「ですねー、チエルもちょっと気味が悪いんでリュウジ先輩の言う通り大人しくしてまーす」
「うちもそーしておくわ。なんかヤバそうだし」
どうしよう、俺がアイツに引き抜きされそうになったって言ったらどう思うだろう。蔑まれるだろうか。ぶん殴られるだろうか。かと言って俺が『カースド・ダークネス』を使って戦うのも可能だが、その見返りで確実に全校生徒が呪いに掛かってしまう。
戦わずして勝つ方法……それさえ見つける事が出来れば……。
俺は3人を連れて売店に向かう。
「セレナ先生様!セレナ先生様〜!」
「セレナ先生様、どうか、どうかわたくしの願いを!」
「はいはい、押さないで押さないで。どうか生徒の皆様順番に……!レジーナ様はいくらでもあなた方の願いを叶えて下さいます。もちろん対価など要りません、さぁ、どうぞ」
「ありがとうございますセレナ先生様!実は……」
セレスディナが多くの生徒に囲まれていた。その姿は、あたかもアイドルか何かが熱狂的なファンに取り囲まれているようだ。セレスディナは俺と視線が合うと、こちらに小さな会釈をする。
その時……。
「セレナ先生様!すいません、この子が体育の授業に足を捻挫してしまいまして……!どうか助けては貰えませんか!?」
教室の入口に体操着を着ている生徒2人がクラスメイトを肩を貸しながら運んで来た。捻挫をしている女子生徒の足は青紫色になって腫れていた。そして、その女子生徒は泣きながら微かの声で……。
「フクヤマさんの……なかよ……し部の……も、元へ……」
その僅かな声が聞こえた俺はユニに声を掛ける。
「俺ならここにいるぞ、ユニ、手伝ってくれ」
「うむ。ぼくら2人の治癒魔法ならすぐに治るはずだ」
俺とユニは怪我をした女子生徒に駆け寄ろうと……───して、なぜかセレスディナの取り巻きの連中に遮られた。
「なんだ君たちは!?そこを退きたまえ!早くその生徒を癒さないと!」
「頼む!退いてくれ!」
俺とユニが憤る中、セレスディナが怪我をした女子生徒の傍に屈み込む。そして……。
「『ヒール』!『ヒール』!『ヒール』!」
セレスディナが何度も何度もヒールを掛けると、女子生徒の足の腫れが引いていく。やがて捻挫をして大泣きしていた生徒は泣き止み、落ち着きを取り戻した。
「あ、ありがとうございます……セレナ先生様……!」
先程まで俺達を呼んでいた女子生徒は、手のひらを返したようにセレスディナに礼をしていた。俺は念の為に女子生徒に声を掛けた。
「おっおい、大丈夫なのか?」
女子生徒はペシッ、と俺の手を払った。
「なっ、君は何をしている!?フクヤマ氏は君を助けようと」
突然手を払った女子生徒に対してユニが声を上げると。
「わたくしはセレナ先生様に癒して貰いたいです。余計な事はせず、放っておいて下さい」
女子生徒はキッパリとそう告げる。
突然態度を変えやがった、奴は彼女に一体何をした!?見た感じヒールを唱えただけ……。まさか……『復讐と傀儡』の能力が関係しているのか?アンデッドの時もアイツが操っていたって言っていた。これは憶測だがこれが『傀儡』の能力なのか!?
ごちゃごちゃ考えているうちに……。
「ちょアンタ、リュウジが心配してんのに何その態度、舐めてんの?」
「流石のチエルも今のはイラッとしました。何してんですか?先輩の事バカにしてるんですか?」
「すまん、普段冷静なぼくも今のは腹ただしいな。端的に換言すれば……てめぇぶっ飛ばすぞ」
いつになく3人は怒りを露わにする。俺は両手を広げて3人を止めた。
「やめろ……手を出すな」
「先輩……」
「リュウジ……」
「フクヤマ氏……」
3人を抑えていると、周りからはこんな声が聞こえて来た。
「やはり異端児集団ですわね……危険ですわ……」
「ユニ博士までフクヤマさんの毒牙にあてられて」
「チエルさんやクロエさんも劣等生なのですね」
「セレナ先生様になんて無礼な……」
「所詮はなかよし部はおかしな連中のあつまりなのですね……」
プツン……。
周りの言葉を聞いた途端、俺の頭で何かが切れた。すると、胸ポケットにしまっていたハーレイが騒ぎ出した。
《ぽーん!マスターリュウジから激しい怒気を感知!危険!危険!》
呪いが降りかかる?魔王に目を付けられる?
危険が及ぶ?
知ったことか、後でどーにでもしてやる。
俺をどれだけ悪く言うのは構わない。
だけど、この3人を言うのだけは絶対許せねぇ
俺は右手にメタルフィストを装着し、歩き始めると腕を掴まれた。
「……フクヤマ氏。今君がどういう状況で、何を悩んでいるかは分からないが、ぼくらの事を思って覚悟を決めたのだろう?どんな結果になろうがぼくは君を責めたりしない。端的に換言すれば……やってやれ!」
腕を掴んだのは、ごちゃごちゃ考えている事が収まるどころか、ますます火に油を注ぐ事を言うユニだった。それに続き、両肩がポンと叩かれた。
「そうですよ、あのせんせーに関わるなと言ったのは先輩ですしね、今も先輩は色々考えているんですよね?。チエルもこの先何があっても先輩を恨んだりしないんで好きにちぇるっちゃって下さい!」
「ぷー……色々うちらの事を思ってくれてンでしょ?気持ちは伝わったから好きにしとき、なんかあったら守ってあげるから」
セレスディナの正体を知ってる俺からすれば、もう煽っているとしか受け取れないクロエとチエルの言葉。かといって、セレスディナは復讐の能力も持っている。
あーあ、これで上手くいかなかったらクリスに怒られるだろうなぁ……。今度ガチで謝ろう、オマケに学院も退学確定。シュナイダーとバルターにも謝ろう……。
「ユニ」
「うむ?どうした?」
俺はブレザーを脱いで支援魔法を唱えて自身を強化した。その間セレスディナから目を離さず、後ろにいるユニに向けて。
「今から俺は、顎が砕けるくらいのダメージを負って気を失うと思うから治療を頼む。チエルは俺を王都の警察署に運んでくれ。クロエはヤツの取り巻き連中が騒ぐだろうから、ビビらせてやれ」
俺は3人に告げると腕をコキコキと回し、ギリギリと右の拳に力を込める。俺は捻挫していた女子生徒と話しているセレスディナに近付く。
ごめん、クリス……ちょっとだけ、俺……魔王に戻るわ。
ギリギリと力を込めた右手をセレスディナに向けると……。
「全面戦争だぁぁぁぁ!」
突然の大声に振り向いたセレスディナの顔面に、俺は渾身の右ストレートを叩き込んだ。
ハーレイのモデルはDCコミック、バットマンのヴィランとして登場するハーレイ・クインゼル博士こと、ハーレイ・クインを参考にしました。