俺は手紙を片手でピラピラ扇ぎながらにめぐみんに尋ねた。
「なぁ、めぐみん。この『あるえ』って誰なの?」
「あるえというのは、紅魔の里の同級生ですよ。なんとういうその、作家を目指している変わった子でして……」
どの口が言ってんだよ。
めぐみんの言葉に、ダクネスとペコリーヌがホッとした表情を浮かべ。
「なんだ、ただの作り話か」
「びっくりしちゃいましたよ〜!なら、最初の手紙は?」
「こっちは本物の内容じゃないですかね。紅魔族は、昔から魔王軍の目の敵にされてましたから、まぁいつかは来るだろうなと思ってました。ついに本腰を入れて里に攻め込んで来たのでしょう」
なるほどな、確か……セレスディナもそんな事言ってたな、戦況が動き始めたって。
「それは不味い状況だね。ボクらに何か出来ることはないだろうか?」
「待てミツルギ、道中に何が潜んでるか分からねぇ。慎重に動かねぇと」
俺とミツルギが真剣に話していると。
「おいちょっと待て、俺の男心はどうしたらいいんだよ、盛り上げるだけ盛り上げといてやっぱしなしとかふざけんな!ゆんゆんは?これから俺とゆんゆんが、甘酸っぱい関係になるんだろ!?」
「うっせぇボケ!黙って部屋に行ってコンニャクでも使ってろや!」
「カズマ、今は静かにしててくれ」
「お前は本当に邪魔だからアクア達に遊んでもらってこい。……というかめぐみんは、なぜそんなに落ち着いているんだ?めぐみんの家族や同級生が心配ではないのか?故郷がピンチなのだろう?」
そんなダクネスの言葉に、泣き崩れてたゆんゆんがバッと顔を上げた。
「そ、そうだわ。泣いてる場合じゃない!ねぇめぐみん、どうしよう!?里が襲われてるのは本当だとう思う!私達どうすればいい!?」
「落ち着くんだゆんゆん、ここで騒いだって仕方ないだろう?」
ミツルギ、ダクネス、ゆんゆんの言葉にめぐみんは。
「我々は魔王も恐れる紅魔族ですよ?里の皆がそう易々と、ただでやられるとは思いません。それに……。ここに族長の娘であるゆんゆんがいる以上、紅魔の里になにかあっても血が途絶える事だけはありません。なのでこう考えれば良いのです。里の皆はいつまでも、私達の心の中に──」
「めぐみんの薄情者!それより……めぐみん!ローブがボロボロだったけどどうしたの!?予備はあるの!?」
「そういえば、なんでボロボロになったわけ?ゆんゆんの騒動で忘れてたわ」
「あー……いや、大した事はないのですが……」
「正直に言おうぜめぐみん、誰のおかげでこうなったのか」
「そっそうですね……あれは事故でしたしね」
事故?
俺とミツルギが首を傾げると、めぐみんが事情を説明し始めた。なんでも、マヒルの故郷サムイドーから帰って直ぐにめぐみんは日課の爆裂魔法を撃ちする為、草原の大きな岩石をエクスプロージョンを直撃すると、岩石の破片がカズマの顔面に直撃してカズマが失神してしまい、避難をする為に通りかかった洞窟に入った時にグリーンスライムという賞金首に襲われて衣服とローブを溶かされたという……。
「なるほど、雪山で爆裂魔法なんか撃ったら雪崩起きちまうからな」
「ごめんなぁ……めぐめぐ。オラの事情で連れ回してしまったせいで」
「いえいえ、気にしないで下さい。私たちはパーティーじゃないですか、それにサムイドーでも爆裂魔法は撃てましたからね」
「おまえ、それで雪崩起こしただろうが!マヒルの親父さん泣きそうになってたぞ!!」
結局撃ったんかいっ!
俺は頭をボリボリとかきながらマヒルに尋ねた。
「けど、なんでサムイドーなんかに行ったんだ?」
「それなんだけどな、オラの故郷の領主が代わった途端税金を増やすって言い出したらしくてよ?オラの実家も狙われちまってな……」
「ああ、その件は私も手を焼いたからな。あの悪徳領主は不法徴収の罪で逮捕された」
「そんな事があったのか……」
「リュウジはどうだった?聖テレサ女学院は無事に試験は上手く行ったのか?」
ダクネスが俺に聞いてくると、俺は歯切れの悪い様に応えた。
「いやぁ……それなんだけど。こっちでは魔王軍幹部が出張ってきてさ、聖テレサ女学院が制圧されかけた」
「マジかよ!?行かなくて良かったわぁ……」
カズマがホッとした表情をすると、俺は聖テレサ女学院で起きた事を説明した。そして、試験的に入学したが中退してきた事を明かした。ダクネスとめぐみんは直ぐに理解してくれて慰めてくれた。
「それは辛かっただろう、だが、それでこそ仲間を守る姿だ」
「そうですね、せっかく卒業のチャンスがなくなりましたが、気にする事はないですよ」
「あはは……ありがとう」
俺とめぐみん、ダクネスが話していると、ゆんゆんが再び口を開いた。
「それでめぐみん!!ローブをどうするの!?あれが無いと……紅魔族ローブが無いとめぐみん死んじゃう!」
「そーか、そーか、ローブがねぇと死ぬのか」
「紅魔族って結構弱点あるんだなぁ……」
「めぐみんちゃん、大変だねぇ」
「「「…………おい、今なんつった?」」」
俺とカズマとミツルギがゆんゆんの聞き捨てなら無い事に尋ねる。
ローブが無いとなんだって!?
そんな疑問に答えるように、めぐみんが応える。
「紅魔族は、優秀な魔法使いとしての資質を秘めています。どれぐらい優秀かと言うと、睡眠時の魔力の回復量、吸収量が半端なく、うっかり魔法を使わずに寝ると、寝てる間に容量をオーバーしてボンッてなるぐらいには優秀です」
歩き回る時限爆弾じゃねぇかよ。
「それって優秀なのか?」
カズマの質問にゆんゆんがめぐみんから離れて説明をし出す。
「紅魔族は、誰もが生まれつき高い魔力容量と質の高い強い魔力を持って生まれますが、魔力の自然放出が下手なんです。紅魔族ローブは、体の許容量を越えた魔力を放出してくれる物なので、紅魔族は生まれた頃から、最低でも一人一着はこれを持っています。魔法を使える様になって魔力を放出出来る様になっても、寝る時はこれを着るのが基本なのですが……」
そこまで言って、ゆんゆんが顔をくしゃっと歪める。
「ああもう、めぐみん、なんで!?私みたいに予備があるならともかく、一着しか持っていないのなら、普段着に使わなきゃいいのに!!」
今にも泣きそうな顔でめぐみんに訴えかける。
なるほど、めぐみんはともかく、常識人のゆんゆんもローブ着て同じ格好しているのはその為か。
そんなゆんゆんに、めぐみんがさも当然とでも言う様に……。
「それは勿論、紅魔族ローブは格好良いからですよ。それに紅魔族ローブは一人一人特注ですし?」
以前からたまに思っていたが、めぐみんは色々と大物なのかも知れない。
「そりゃあ紅魔ローブは格好いいから、私も普段着に着ているけれど! ああもう、どうするの!?ちゃんと分かってるのめぐみん?毎日必ず魔法を使って魔力を消費すること!それと、魔力を吸収しちゃう睡眠時間は極力削って、朝起きたら我慢せず、すぐに魔法を使いに行く事!いい!?」
なんか子供のおねしょ見たいな感じに聞こえる。ゆんゆんも、そこら辺は紅魔族の血がちゃんと入ってはいるらしい。
すると、ゆんゆんは突然。
「こうしちゃいられないわ!私は今から紅魔の里に、めぐみん用の紅魔族ローブを急いで作ってくれって手紙を書いて速達で出しておくから、めぐみんは紅魔の里へ帰る支度を!」
そう言って、何かのスイッチが入ったかのように、わたわたと駆け出して行こうとするゆんゆんにミツルギチーム達が止め始めた。
「落ち着くんだゆんゆん!君一人で行かせるわけには行かないっ!」
「そーだよゆんゆん!もう夜だし、少し様子を見た方がっ!」
「ゆんゆん1人で騒いでも仕方ないのよ?落ち着きなさい?」
「話聞いてなかったけど、お姉さんもそう思うわ!」
ボードゲームが飽きたのか、セシリーも混ざって来た。
「もう夜も遅いし、今日はこれくらいにして明日また集まろう。俺も色々情報を取り込み過ぎて頭いてぇ」
「そうだな、明日また考えてからでも紅魔の里は大丈夫だろうしな?」
「確かに、今から出発したとしても夜戦になる可能性もあるからね。そうしようか」
「んじゃ解散する前に、めぐみん。これ持っときな?」
俺はバックから5つの吸魔石を取り出し、めぐみんに渡した。
「これは……純度の高い吸魔石ですね?いいんですか?こんな高価なもの?」
「だって魔力排出しないとボンッてなるんでしょ?オムツとは言わないけど、気休め程度になると思ってね?」
「わっ、私を子供扱いする気ですか!?」
「言ってねぇよ!紅魔の里に行く準備が出来るまでの繋ぎだよ!俺の家にまだ空の吸魔石残ってるから交互に使えば少しは気が楽だろ?」
そう言って俺はめぐみんに無理やり吸魔石を持たせ、Adventuresメンバーは解散した。家に戻り、俺を含めたクリス、ペコリーヌはリビングでくつろぎ始めた。
「あー疲れた。めぐみんも大変だねぇ」
「紅魔族の人達にあんな秘密があったんですね、やばいですね☆」
「魔力が有り余ってるのは分かってたけど、まさかねぇ……ボンッてなるとは……知られざる豆知識だったな」
3人で話していると、留守番を任せていたコッコロがマリューと共にティーカップを持って来た。
「リュウジ様も帰って来て早々災難ですねぇ」
「みなさまお疲れ様でした。お茶が入りましたよ」
「ありがとうございます、コッコロちゃん」
「ごめんねコッコロちゃん。1人で留守番させちゃって」
クリスがコッコロからティーカップを受け取りながらお礼を言うと、コッコロは微笑みながら応えた。
「いえ、そんな事はありません。クリスさまも、日頃お忙しい様ですから」
「あっ、あはは……そっそうだね、色々忙しくて帰れなくてさ……」
頬をポリポリとかきながらコッコロに言うと、紅茶を啜ったペコリーヌが口を開いた。
「それにしても、まさか聖テレサ女学院に魔王軍幹部が侵入してたなんてびっくりしちゃいましたよ〜。あの時の通信はそれだったんですねぇ〜」
「ああ、あの時は本当に助かったよペコリーヌ。ありがとう」
「えへへー。褒められちゃいました!」
俺はソファーで背伸びをすると、急に眠気が襲って来て大あくびをするとマリューが声をかける。
「流石にお疲れですよね、片付けは私がやりますからリュウジ様は休んで下さい」
「ふぁ〜。そうさせて貰うよ、みんなおやすみ〜」
そのまま目を擦りながら部屋に戻り、ベッドに横になろうとした時。
コンコン
部屋のドアがノックされ、俺は力の抜けたような声を出して答えた。
「だ〜れぇ〜?」
「あたしだよ。疲れてるのにごめんね?入っていい?」
なんだ、クリスか。
「あーうん。大丈夫……」
俺が疲れた体を起こすと、ドアが開いてクリスが入って来た。
「あのさ、聖テレサ女学院で死んだ時の話なんだけど。どーして転生の事を聞いてきたの?」
「あーそれ?うーんと、魔王軍幹部のセレスディナからだよ。なんでも?魔王軍幹部には腕利きの占い師が居るらしくてな?」
「なるほど、そういう事か……参ったなぁ……」
クリスは顔を歪めながら頬をポリポリかいて考え始めた。
こればかりはどうしようもないらしい……。
「天使さんではどうしようもないんだろ?逆にネメシスとかに任せたら他所の異世界に行く勇者がいなくなるしな?今ある戦力で戦うしかないじゃんか」
「そうだね。それにしても、魔王軍にそんな占い師がいたなんてね……迂闊だったよ」
「それもなんだけどな?魔王軍はまだ戦力を隠し持ってる可能性があるぞ」
「えっ?どうしてそんな事分かるの?」
クリスが驚きながら俺に聞いてくると、俺は窓際に近付きながら答えた。
「Adventuresの情報が魔王軍に漏れてる。しかも俺が元魔王だっていうのもこの世界の魔王の耳に入ってるんだってよ」
「マジ!?それを流してるのって……まさかアイツ!?」
「そう、魔王軍で俺が元魔王だって知ったのはブギーマンただ1人。順当に考えれば奴が俺の情報を流したに違いないな」
「それが妥当だろうね……。けど、どこでリュウジが聖テレサ女学院にいるって知ったんだろうね?それも魔王軍の占い師なのかな?」
「うーん、なんとも言えないな……」
暗殺といい、聖テレサ女学院といい……もしかしてスパイがいるのか?けど、誰だ?
首を傾げて悩んでいると、クリスは開き直った様に声をかけてくる。
「まぁ、なるようになるさ!今更悩んだって仕方ないよ!」
「そうだな、じたばたしたってしょうがねぇもんな。出たとこ勝負するしかねぇな」
「そうだね。疲れてるのにごめんね。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
そして、クリスは部屋を後にし、俺はベッドに横になって意識を手放した。
────────────────────────
それは誰もが寝静まる時刻。突然、一瞬夜空が真っ赤に明るくなって街中の誰もが飛び起きるような轟音が響き渡り、俺は途端に飛び起きた。
「なっなんだぁっ!?」
部屋の窓を見ると見覚えのある赤い閃光が消えていくのが見えた。すると、パジャマ姿のクリスやペコリーヌ達も起きて来た。
「リュウジ!!今の轟音は何!?」
「びっくりしちゃいましたよ!なんですか!?」
「あわわ……隕石が降ってきたのでしょうか……」
「リュウジ様、あの魔法はもしや……めぐみん様なのでは!?」
「まさかとは思うけど……カズマの屋敷に行くぞ!」
嫌な予感がした俺はクリス達を連れてカズマの屋敷にやって来た。カズマの屋敷中の窓が衝撃で全て割れていた。
「やっぱりな……クリス、お前はアクアの様子を見て来い」
「分かった!」
「ペコリーヌはダクネス」
「はいっ!」
「マリューはちょむすけとゼル帝を」
「了解しました」
「俺とコッコロちゃんはめぐみんの所だ」
「かしこまりました」
指示を出した俺ははカズマの屋敷に入って各自散らばり、俺とコッコロはめぐみんの部屋に駆け出した。すると、既にカズマがめぐみんの部屋の前に立っていた。
「カズマ!大丈夫かっ!?」
「おっお前ら!?今の爆音を聞いて飛んで来たのかっ!?」
「はい、めぐみんさまが心配になりまして」
「めぐみんの声聞こえたか?」
「いや、まだだ……」
俺とカズマは一瞬で顔を青ざめさせながら、めぐみんの部屋のドアをそのままノックもせずに押し開けた!
「めぐみんっ!無事か!?」
「ボンッてなってねぇよな!?」
「ッ!?」
あっ……やべ
俺やカズマの前には。真っ赤に光り輝く吸魔石と、窓を開け、そして窓から空に向けて爆裂魔法を放った体勢のめぐみんが……。上はヘソが見えそうなぐらいに短くなった、まるでパーカーみたいな状態になったローブを。そして下は黒いパンツ一丁の姿で、突然飛び込んできた俺とカズマを見て驚愕に目を見開いていた。コッコロは俺の目を慌てて塞ぎ始めた。
「リュウジさま、見てはいけません!」
「いでで!力強いっ!」
目を塞がれた状態でいるとカズマが。
「なぁめぐみん、黒いローブなら、下は白が良いと思う」
いや今言うところそれ!?
「紅魔族は黒を好むんですよ。カズマも乙女の下着姿を拝んでおいてまた随分ですね」
「今更めぐみんの下着姿を拝んでもなぁ……。昼間は生尻を拝む寸前だった訳だし」
「ねぇこの2人今凄いこと言ってない!?俺の聞き間違え!?」
「聞き間違いでございます。リュウジさまは耳を塞いで下さいまし」
「めぐみん、何があったんだ?やっぱりボンッてなりそうだったのか?」
「お前はホントに黒好きだなぁ」
そのまま目も逸らさず平然と会話を続けるカズマを前に、恥ずかしそうな声でめぐみんは……。
「リュウジの言う通りです……眠っている最中に、ボンってなりかけまして……。慌てて跳ね起きて、窓を開けて魔法をぶっ放しました。……ガラス割っちゃいましたね。スイマセン……。……………………あと、カズマに関してはこういった姿に遭遇した場合って普通はもっと、ゴメン!とか言って目を逸らすべきだと思うんです」
「お構いなく」
「構いますよ!リュウジ見たいに目を塞ぐか、ちょっとあっち向いててください!」
めぐみんがカズマに対して怒鳴ると、コッコロは俺を引っ張り始めた。
「申し訳ございません、めぐみんさま。さっ、リュウジさま、カズマさま一旦部屋から出ましょう」
「そっそうだな、ごめんなめぐみん。ほら、カズマ?行くぞ?」
俺はチラチラ振り向くカズマを引きずりながらが部屋の出口へと振り向くと、ドアの陰から頭だけを覗かせ、じっとこちらをうかがっている、アクア、クリス、ペコリーヌ、ダクネス、マリューの5人と目が合った。
無事合流して駆けつけたらしい。
だが5人はめぐみんの部屋に入ろうとはせず、下着姿のめぐみんと俺達の姿を交互に見ている。
クリスとアクアの俺達を見る目が凄くおかしい、めちゃくちゃおかしい。
「……あわわわ、カズマとリュウジが……。とうとう仲間の美女に我慢が出来なくなり、牙を剥き始めたわ……!」
「最っ低……」
「ありゃりゃ、やばいですね」
「揃いも揃ってクズですね。どさくさに紛れて覗きとは」
「リュウジさま、カズマさま、最低です」
「おい滅多な事言うな、俺らは何もしていないから!」
「この中の誰よりも一番コッコロちゃんの言葉がグサッと来る……」
俺は真っ赤に光り輝く吸魔石を拾い集め、代わりの吸魔石をめぐみんの部屋机に置いた。
「5個じゃ足りなかった見たいだから今度は10個置いてくね?」
「あっはい、ありがとうございます」
着替え終えためぐみんが俺に応え、めぐみんの無事を確認した俺チームのメンバーはそのまま帰宅する事にした。