王都の警察署が悲惨な状況になってるのを知らずに俺達は以前訪れた水と温泉の都アルカンレティアにやって来た。ハンスとの戦い以来来ていない為、世間は秋になり、紅葉が始まった景色が変わった様に見える。街の中でセシリー、メリッサ、アオイと合流し、先へ進む。ちなみにアオイはゆんゆんの故郷が心配との事でペコリーヌ達とは別行動でこっちに来たようだ。
それにしても、まさかまたここへ来るとはねぇ……。
「ねぇ?リュウジ、カズマ、魔剣の人」
「行かせねぇからな?」
「アクア様、めぐみんちゃんが心配なので先を急ぎませんと」
「そうだぞ、アクア。正直お前の教団の連中には、もう絶対関わりたくないからな」
「なんでよー!ちょっとくらいいいじゃない!」
「アクア様!代わりに私が行きますから!」
「ちょっ、セシリー!?何を言い出すんだ!」
突然セシリーが走り出そうとした瞬間、ミツルギが肩を掴んで引き止める。
「ならワタシがついて後を追うわ。それなら安心でしょ?」
「ああ……まぁ、それなら……うん。頼んだよ、メリッサ」
ミツルギの許可を得たセシリーは一目散に駆けて行き、メリッサもやれやれと言わんばかりな顔をしながら後を追って行った。
「やれやれ、申し訳ない。めぐみんちゃん、足を引っ張るような事をしてしまって」
ミツルギの謝罪の言葉を聞いて。
「まぁ、今に始まった事じゃないので気にしませんよ。それよりカズマ、リュウジ、私はまだ全然大丈夫なのでここで一泊しませんか?少しいればアクアも満足するでしょうし?」
と、めぐみんがほんのり顔を赤くさせながら言ってきた。
「そう言いながらも頬っぺた赤いじゃない!」
「めぐめぐ!?大丈夫だか!?」
「ゆんゆんもマヒルも心配し過ぎですよ、私は大丈夫ですから」
あくまでも意地を通したいらしい……なんてプライドの高いヤツめ。
結局、セシリーとメリッサは後から再び合流させるという形にさせて、街の外れから紅魔の里へ向けて踏み出した。めぐみんとゆんゆんの情報では、紅魔の里への乗合馬車は出ていないそうだ。
なんでも、里への道中はキャラバンが向かう事が出来ないくらいの密林地帯のうえに、危険な場所なのだとか。
なにより、紅魔族の人達はテレポートを使って街々を自由に行き来出来る。今更リスクを背負って徒歩で向かう必要が無いという。
「この街から紅魔の里までは、徒歩で約二日ほど。道中危険なモンスターが生息してますが、その辺は男性陣が頼りですね」
いくら大人数で行くとしてもリスクはある。出来れば明るいうちに距離を稼いでおきたいのが本音だ。
めぐみんの言葉を聞いたカズマは得意気に答える。
「まぁ任せとけ。サムイドーでいくらか雑魚を狩っただろ?あの時、レベルが一つ上がったんだよ。スキルポイントも余ってる事だし、『逃走』っていう盗賊のスキルを手に入れたんだ。これでいつでも逃げられる」
「貴重なスキルポイントをそんなスキルに使ったのか!?」
「カズマ、君って奴は……それはカズマにしか効果がないんじゃないのか?敵を察知して自分だけ逃げようだなんて思ってないだろうな!?」
「……思ってないよ?」
カズマは図星だったのか、目を逸らす。
この野郎!!、まぁ、それも想定内だ。
俺はこんな時の為に、家からカズマ用の”防具”を持って来ていた。大きなリュックから取り出したのは。
「しゃーねぇなぁ……ほら、カズマ。これ持っとけ」
「ん?何だこれ?盾か?」
「カズマそれ!聖盾イージスじゃない!!」
俺はそのままアイギスと同じ純白の色をした円盤型の盾をカズマは持ち上げる。
「アクアの言う通り、それは神器の『聖盾イージス』、本来アイギスの持ち物って奴だな。アクセルの街に住み着いてしばらくした時、商人のおじさんから買ったもんなんだよ。お前は盾を持たないスタイルの様だけど、今のお前なら『ドレインタッチ』や『不死王の手』を使い分ければ戦力がアップすると思うぞ」
俺は聖盾イージスと言い放つとカズマは疑り深く見つめる。
「なんか胡散臭せぇなぁ……ホントは偽物なんじゃねぇか?」
「いや?クリスも見てるから本物だぞ?言わばお頭のお墨付って訳さ」
そう言えば、カズマにサポートらしいサポートをようやくしてあげられた気がするな……。
カズマにそう伝えると、カズマは……。
「俺も……遂にチート武器を……」
「それとなんだけど、ちょっとフリスビー見たいに投げて見ろよ」
「え?なんでだ?」
「いいからいいから」
俺がそう促すと、カズマは近くにあった岩に聖盾イージスをフリスビーのように投げる。すると、聖盾イージスは金属音を立てながら岩に当たり、カズマの元に戻って来た。
「うおっ!?何これすげぇっ!!」
「元々アイギスの一部なんだ、どんなに傷付いても再生するからな。ただでさえ一晩は確実に野宿するんだ、カズマにもしっかりしてもらわねぇとな?」
「ほんとに良いのか?後で返せって言っても返さねぇぞ?」
「良いよ。元々お前に渡すつもりだったしな」
「だったらもっと早く寄越しとけよ!」
カズマが俺に突っ込んでいると、めぐみんが。
「カズマとリュウジはレベルの上がりやすい冒険者ですよね?同じ冒険者なのにリュウジよりレベルが低くありませんか?魔王軍幹部など相手にしてましたけど。魔剣の人は地味にレベル70に対してリュウジはレベルが90近くなのにカズマはレベルが一つ上がっただけで大喜びとは情けないですね!」
「仕方ないだろ、お前はボスにトドメを刺したり雑魚をまとめてぶっ飛ばしたり出来るが、俺はおかしな名前の刀と弓、今貰ったイージスしかないんだぞ」
「だったらお前も自分なりに補強するなりなんなりすりゃいいだろ!姑息な魔法とスキルばっかり使いやがって!」
俺達がそんな事を言い合いしながら、密林に差しかかった時だった。先頭を歩いていたダクネスとミツルギが、突然その場に立ち止まる。
「むむ?、あそこに誰かいるぞ?」
「ホントだ、どうやら子供の様だよ?」
ミツルギとダクネスの言葉に、俺達も向くと……密林の切り株に腰をかけ、頭に花びらをつけた緑髪の少女が、こちらに気付いた様に手を振ってきた。
こんな小さい女の子が森で1人?
よく見ると、少女の足首を見ると血の滲んだ包帯が巻かれていた。それを痛そうに顔をしかめている。そして、上目遣いでこちらを見てきた。
「皆さん!はなっ、離れて下さいっ!」
突然。アオイが弓矢を構え、緑髪の少女に狙いを定め始めた。
「アオイ、どうした!?」
「あー……リュウジ、敵感知スキルを使ってみろ」
複雑な顔をするカズマに促された俺は敵感知スキルを発動させると、ハーレイも声を掛けてくる。
《ぽーん!敵感知スキルに反応アリ!100パーセントの確率でモンスターと断定します!》
あっ……はい。
それなのにも関わらず。
「怪我してるじゃない。あなた、大丈夫?」
「アクアさん!その子は人間ではありません!『安楽少女』という擬態を得意とするモンスターです!」
「えっ……」
「アクア様、離れて下さい!ボクが魔法剣で斬ります!」
「いいからさっさと離れろ駄女神!」
俺達が臨戦態勢に入ると、アクアが言った。
「ねぇみんな、なんか物凄く悲しそうな目で男達を見てるわよ。なんか私、あの子にヒールかけてあげたい気分なんですけど」
「おいカズマ、リュウジ。な、なんだかこちらを泣きそうな顔で見ているぞ。あれは本当にモンスターなのか?」
「ダクネスしっかりしろ、あれはガッツリモンスターだ」
俺は稀に見るオロオロするダクネスの頭にチョップをして忠告した。
「あ、あの、泣き出しそうなのを必死にこらえてますよ?ちょっと抱きしめて来たらダメでしょうか?」
「めぐめぐ、何を言ってるべ!殺されるど!?」
「ちょっとめぐみん何言ってるの!?」
マヒルとゆんゆんはめぐみんに抱きついて抑え始める。
「くっ……モンスターだろうが怪我をしている相手をこのまま放っておくのは」
「何言ってんだお前?」
確かにミソギ達くらいの女の子だから倒すのも気が引けるけども……。
「リュウジ……ボクはやっぱり出来ない……」
「急にどうしたミツルギ」
「なんか急にミミちゃんに見えて来てしまってな……」
ミツルギはそう言って魔法剣を下ろしてしまった。すると、カズマがイージスを構えながら手をかざす。
「何言ってんだお前まで、アイツはモンスター……」
「カズマ?」
「キョウカちゃん……」
「お前までどうしたっ!?おいっ!」
カズマも安楽少女がキョウカに見えて来てしまったのか、顔をしかめる。
「ったく、大の男が何言ってやがんだ馬鹿野郎!アイツはモンスターだって言ってんだろ!俺が吹っ飛ばしてやる!カースド──」
「………」
「うっ……」
今にも泣きそうにしている安楽少女を見ていると、やんちゃなミソギに見えて来てしまった。
「俺にも……撃てない……」
俺が攻撃を中断すると、安楽少女が俺達男性陣を見て『ひょっとして傍にいてくれるの?』という、淡い期待を込めた目でジッと見つめていた。俺達が庇護欲にかられてると、アオイ、ゆんゆん、マヒルは騒ぎ立てた。
「ミツルギくん!しっかりして!あの子はモンスターなのっ!」
「リュウジさん!大丈夫です!あの子はアクセルの街の子ではありません!」
「しっかりするべ!カズマ!アレはモンスターだど!?」
ゆんゆん達の言葉をよそに、俺達は安楽少女をチヤホヤしだした。カズマがそっと手を差し出すと、安楽少女は差し出されたその手を、『握ってもいいのかな?』と、不安そうにカズマの顔色を窺いながらも手を伸ばす。そして、その手をギュッと握ると、心底嬉しそうにパァッと表情を輝かせた。
すると……。
「あ、あん安楽少女さんっ!それ以上私の仲間に近付かないで下さいっ!これは警告ですっ!次はありません!」
アオイは怒りに満ちた顔をしながらギリギリと弓矢を引き始めた。
「おいっ!アオイ、何をするんだ!まさかこの子を経験値の足しにする気じゃないよな!?」
「そーだぞ!アオイ!弓を下ろせ!」
「怯えてんじゃねぇかっ!さっさと下ろせっ!」
「えっ、待って下さい、私今、敵側になってませんかっ!?」
アオイの前には、カズマが安楽少女を庇う様に肉壁になりだした。そして、追い討ちをかけるように。
「安楽少女、俺の愛玩鉱物ハーレイもモンスターと判断した。だが、こんないたいけな女の子の姿をしたモンスターを傷付ける訳ないよな?アオイは植物や動物に優しい女の子じゃないか。まさか経験値の足しにする気じゃないよな?そんな事しないよな?」
「アオイ、ここはボクの顔を免じて見逃してやってはくれないか?」
カズマの肉壁に隠れながら俺とミツルギは訴えかける目でアオイを見上げた。
「揃いも揃って何をしている!こんな狡猾なモンスターを放置していたら今後余計な被害が出てしまうだろ!」
ダクネスがそう言いながら剣を抜いて、安楽少女に対して身構える。すると、安楽少女が、子供の様に舌っ足らずな、聞き取り難い小さい声で。
「ワタシ……ノコト……コロス……ノ……?」
安楽少女は俺の手に縋る様に両手で握り、切り株に腰掛けたままダクネスを見上げて目に涙を浮かべて、ブルブルと震え出した。
喋った!!
構えた剣をカタカタ震わせ、安楽少女とまったく同じ表情でダクネスがアオイを見る。
「だっダクネスさん、こっちを見られても困ります!」
「アオイ!負けないでっ!アオイは強い子よっ!」
「負けるでねぇ!アオアオ!」
「マヒル!お前まで来るなっ!俺のスティールを食らわすぞっ!」
カズマは安楽少女の前に立ち塞がり、手をワキワキさせながら身構える。
「いい加減にして下さいっ!いくらなんでも私だって怒りますよ!安楽少女は危険なモンスターなんですっ!」
「そうだよっ!みんなっ!しっかりしてっ!」
アオイはもはや矢を放つ寸前と今にも魔法を放つゆんゆんに安楽少女が。
「コロス……ノ……?」
「「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」」
白目をむき出しにしたアオイとゆんゆんは頭を抱えると、アクアが言った。
「アオイ、ゆんゆん、迷っている時に出した決断はね、どの道どっちを選んだとしてもきっと後悔するものなのよ。なら、今が楽ちんな方を選びなさい」
葛藤するアオイとゆんゆんにダメ人間の発想を助言するアクア。もう一押しで折れそうになっている2人に更に拍車をかける安楽少女。
「ゴメンネ、ワタシガ、イキテル、カラダネ……」
そう言って、安楽少女は儚げに微笑むと。
「ワタシハ、モンスター、ダカラ……イキテイルト、メイワク、カケルカラ……」
安楽少女は少しだけ涙を浮かべ。
「ウマレテハジメテ、ヤサシイオネーチャント、ハナスコトガデキタケド……」
俺とカズマから離れた安楽少女は祈るかのように、両手を前に組み。
「サイゴニアエタノガ、オネーチャンタチデヨカッタ……モシ、ウマレカワレルノナラ……ツギハ、モンスタージャナキャ、イイナァ」
そう言って、観念するかの様に目を閉じた。それと同時に、アオイとゆんゆんは手を下ろし、ペタンと座り込んでしまった。
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俺達は結局、安楽少女を見逃して、そのまま街道を進む事にした。
正直、もう2度と会いたくないモンスター部門第1位を獲得した。
ぐしゃぐしゃに泣きじゃくるアオイとゆんゆんを慰めていると、ある事に気付いた。
あそこに安楽少女がいたと言う事は、遅れてくるメリッサとセシリーに出くわすという事になる。がめつい2人なら容赦なく倒すんじゃないか?
「カズマ、このままじゃあの子は確実に殺られる」
「俺も同じ事を考えてた。セシリー達に殺られる」
「同感だ、ならどうしようか?」
「どうする?戻るか?」
「うーん……」
セシリーとメリッサが安楽少女を討伐する想像すると、ゾッとした。
「3人揃ってウィズ見たいな顔色をしてどうしたの?財布でも落としちゃった?それともお腹の調子が悪いの?そこの茂みで済ませたら?」
「ちげーわっ!さっきの安楽少女の下へ行ってくる」
「お前らちょっと待ってろ!」
「待てっ!リュウジ、カズマ!ボクも行くっ!」
「えっ、ちょ、3人とも!?」
「カズマ!?どこへ行くんですか!?」
戸惑うアクアとめぐみんの声を聞きながら、俺達は今来た道を駆け出した。
走れば直ぐだっ!あの子も話せばわかる筈、この広い密林の奥に行けばモンスター一匹くらいの養分なんてなんとかなる筈!!
そして、先程の場所に辿り着くと、安楽少女と誰かが話している姿を見つけた。俺とカズマは潜伏スキルを使い、千里眼で様子を窺う。安楽少女と話しているのはアルカンレティアから来た木こりの人の様だ。木こりは、斧を手にして安楽少女に近づいていく。
もしかして、討伐する気か!?
俺とカズマは顔を見合わせて頷き、潜伏スキルを使って近付き、そっと聞き耳を立てて様子を窺うと、木こりの声が聞こえて来た。
「ちくしょうっ!勘弁してくれっ!お前を駆除しなきゃいけないんだ!」
泣き出しそうな木こりに対して安楽少女が。
「ワタシハ、モンスター、ダカラ…イキテイルト、メイワク、カケルカラ……」
ん?
聞き覚えのある言葉が聞こえて来た。
「オニーチャント、ハナスコトガデキタケド……」
ちょっと違うけどアオイとゆんゆんと同じだ。
「サイショデ、サイゴニアエタノガ、オニーチャンデヨカッタ。モシ、ウマレカワレルノナラ……。モンスタージャナキャ、イイナァ…」
安楽少女は木こりに言った。
「できねぇ……やっぱりできねぇよ!ちくしょうっ!」
木こりはそう叫んで走り去って行った。すると、安楽少女が。
「あーあ、また失敗かよ。美味そうだったのに……」
突然、先程とは打って変わって流暢な言葉で独り言を喋り出した。安楽少女は俺達に気付く事無く。
「なぁ、カズマ……」
「言うな、何も言うな」
「カズマ、リュウジ……やる事は分かってるよな?」
少しずつ、俺達が安楽少女に近付くと。
「ふわぁ〜。エサ来ねぇーかなぁ、光合成でもするかぁ……」
ブツブツと呟きながら、太陽の光を浴びるかの様に、体をうーん、と伸ばした時。
「「「「………………」」」」
ゴキゴキと両手を鳴らす俺、イージスを装着して見つめるカズマ、ティルフィングに魔力を高めるミツルギ、背を反らしながら見つめる安楽少女。お互い見つめ合い、やがて安楽少女がぽつりと言った。
「イマノハ、ナカッタコトニ、デキマセンカ………?」
「「「なめんなぁぁぁぁぁっ!」」」
3人の必殺技を同時に食らった安楽少女は頭に付けていた花だけを残し、粉々になって行った。