安楽少女の花びらを回収した俺達はアクア達を追いかけると、女性陣は待っていたのか先程の場所で休んでいた。駆け寄る俺達の表情を見て、アクアが笑いかけてくる。
「なんかあんた達スッキリした表情ね!どうしたの?あの子と何かあった?そもそも、何しに戻ったの?」
そんなアクアに向けて、カズマは嬉しそうに冒険者カードを見せつけた。安楽少女を同時に攻撃したが、運良くカズマの攻撃が討伐対象になったようだ。
「見ろよこれ!一気にレベルが3も上がったぞ!これで少しはマシになっただろ!」
すると、カズマの言葉に一部の女性陣が凍りつく。
そして……。
「わぁぁぁぁっ!この鬼畜!悪魔!ロリコン!」
「私のせいで……か弱い少女が鬼畜の餌食に……」
「リュウジさん、ご苦労さまでした。ようやく安楽少女の恐ろしさを知ったんですね」
「心配したべやっ!今後は気を付けてけろな!?」
「ミツルギくんっ!今度は気をつけてね!」
アオイとゆんゆん、マヒルはわかるけど、めぐみんとアクアはなぜ泣く?
喚くめぐみん達を他所に、唯一ダクネスが無言で佇んでいた。俺はそんなダクネスに首を傾げると。
「3人とも苦労かけたな、辛い思いをさせてしまったな」
「あー……それなんだけど」
「え?リュウジ、どういう事ですか?」
「あの子になんかあったの?」
俺は複雑な顔をしながらアクア、めぐみん、ダクネスに説明するのに、小一時間かかった。
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夜になり、街道沿いの地面の上に、テントを立てた。アルカンレティアを出る途中に買ったテントの大きさ的は1つのテントに5人が横になれるくらいの大きさだった。女冒険者が多い為、男性用と女性用に2つ用意しておいた。見張りは2時間交代で、1番手はミツルギとゆんゆんが請け負う事になった。
この辺りのモンスターは強い、カズマでは流石に不安だ。
俺は小さい火を付けて少しばかりの料理を作り、メンバー全員に配る。ミツルギとゆんゆんは見張りの為、おにぎりを片手に2人は岩の上で目を光らせている。ほんのり熱っぽい顔をしながらシチューをほうばりながらめぐみんが。
「あの、前から気になっていたのですが、カズマやリュウジ、魔剣の人はどこに住んでいたのですか?カズマやリュウジの暮らしがどんなものだったのか気になります」
「私も気になるわね。特にリュウジが」
「私もリュウジさんやミツルギさんの国のことが知りたいですね!聖テレサ女学院では聞けなかったので」
「オラも気になるなぁ……カズマ達の故郷」
めぐみんやマヒル達のその言葉に、ゆんゆんも興味があったのか、ミツルギと俺達を交互に様子をチラチラ窺っている。
俺の場合は……メルロマルクと言うべきか、日本と言うべきか……。
虫の鳴き声のする中、昔の事を思い出していた。この小さい火を見ていると、夏休みのキャンプの夜みたいに思えて感傷的になっていると、カズマが最初に語り始めた。
「そうだなぁ……俺は、国じゃランカーだったんだ」
ランカー?なんだ、カズマは見た目によらず何か国を代表するスポーツをしていたのか?
黙って俺はカズマの話を聞くために、コーヒーを啜り始める。
「「「「らんか〜?」」」」
案の定このファンタジーな世界の住人には『ランカー』と言っても首を傾げるだけだった。すると、ミツルギはカズマに尋ねる。
「カズマはどんな事をしていたんだい?ランカーというとなればそれなりにスポーツをしていたのか?」
「そうなのですか?と言うか、すぽーつってなんですか?」
「運動する事だよ、走ったりとか」
「なるほど……」
俺がめぐみんに説明すると、カズマは。
「ランカーって言っても通じないか。簡単に言うとランキング上位って事だな。よく仲間には『レア運だけのカズマさん』や『インしたらいつもいるカズマさん』だのとまぁ、名の知れた猛者よ」
オンラインゲームかよっ!!
ミツルギも俺と同じ事を考えたのか、がっかりした様な顔をしていた。だが、この世界の住人であるダクネス達のような女性陣は。
「凄いな……カズマが普段機転が利くのはそういった経験があるからなのか……恐れ入った」
「なんだかカズマは凄腕の軍師に見えて来たな!かっこいいど!」
「そうですね、でも何故でしょうか、嘘を言ってる気配がまったく感じられませんでした。今のカズマからは確かな自信と懐かしさが感じられます。リュウジは、リュウジはどうなのですか?」
今度は俺かよ。
俺は少し悩み、魔王の頃の話をありきたりな話で誤魔化すという方向で話し始めた。
「そうだなぁ、俺もカズマと同じ国にいた頃は……剣術を必死に学んでいたな」
「剣?ならリュウジは元々剣士だったのですか?」
「うん、こっちでいうソードマスターくらいの実力はあったよ?」
「そこまでの実力があるのになぜ今まで黙っていた!?だったら私や魔剣に稽古を付けてくれても良かったじゃないか!」
ダクネスにそう強く言われた俺は、俯きながら話し続ける。
「まだ話の途中だから最後まで聞けって。その後、ちょっとしたきっかけで別の国に引っ越す事になってな?その国で……ちょっと戦争が起こったんだ」
「戦争……ですか?」
カズマは俺が魔王の頃を話していると悟ったのか、立ち上がって席を外した。だが俺は気にせず話し続けた。
「最初は剣士として楽しく暮らしてたんだけど、戦争で大勢の仲間達が殺されたり、剣士を辞めて『鞭使い』にジョブチェンジしたりして工夫してたんだけど、遂に我慢出来なくなってブチ切れた俺は戦争相手の人間を殺しまくった……。戦争が終わって行き着いた先がアクセルの街って訳さ」
「そうだったんですか……なんかすいません。辛い事を思い出させてしまって」
「私もすまない……安易な事を口走ってしまった。辛かっただろうに」
「まぁ気にしてないから大丈夫、今度は武器を持たずに世界を救えるように頑張るさ。さて、つまんない話しをしちゃって悪かったな。ミツルギとゆんゆんの次は俺が見張る番だから先に休ませて貰うぜ?それと、めぐみん。替えの吸魔石はここに置いておくぞ?」
「あっはい、ありがとうございます」
そう言って俺は男性側のテントの中に入って仮眠を取り始めた。
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仮眠をとってミツルギとゆんゆんと見張りを交代した俺が見張りを始めて1時間後、突然寝ていためぐみんがテントから勢いよく飛び出した。
「『エクスプロージョン』!!」
ドッカァァァァァン!!
深夜に轟く爆裂魔法の爆発音。何度も近くで聞いていたのが災いしてもう俺達にとってはすっかり慣れてきた現象だ。現にアクアやカズマなどは、もう爆裂魔法の音がしても、それは危険なものではないと安心しているかの様に、それを聞いても起きもしなかった。
まぁ、近くにいたモンスターは全滅しただろうけど。
スッキリした様子でめぐみんがテントに戻る時に俺は声をかけた。
「いっぱい出してスッキリしたか?それじゃ、朝まで寝とけ」
「すいません。10個の吸魔石でも間に合いませんでした……それと、今の言葉、深夜に女の子に言うセリフじゃないと思うのですが?」
「別に責めてる訳じゃないよ。もうちょい効率のいい方法考えておくから寝とけ寝とけ」
「はい、すいません……」
俺の言葉にめぐみんが、なぜか不満そうな顔をしてテントに入っていった。めぐみんを見送った俺は敵感知を発動させながら焚き火に枯れ枝をくべて暖を取り始める。
秋に差し掛かったからか、最近の夜は寒いな……。
焚き火を眺めていると、ヒソヒソと声が聞こえて来た。
この声は……めぐみんとカズマか?まだ起きていたのか?
2つのテントはくっ付いてる様に建てた為か、テント越しでカズマとめぐみんが話しているようだった。気になった俺は、耳を澄ませてみた。
「カズマは、国に帰る事はないのですか?」
「帰りたくても帰れないんだよ。まぁ、国に帰ってものんびりした生活に戻るだけだしな。なんだかんだで今の暮らしも悪くないし」
「そうですか。私アドベンチャーズの皆と一緒に何とか乗り越えて行く、今の楽しい生活に満足しています……ずっと、このまま皆で一緒にいられるといいですね」
めぐみんの他愛のない言葉に俺は胸を打たれた気がした。
俺はこの世界の魔王を倒したらどうしようか……監獄に戻るか、別の異世界に行って一から出直そうか……。正直、この世界の暮らしは嫌いじゃない。マリューやペコリーヌ、クリス達とバカ話したり、グダグダの冒険者やったり、カズマ達とワイワイ騒いだり……。
そんな事を考えながらチラッとカズマとめぐみんの様子を暗視スキルで確認してみると……。テント越しに、めぐみんがカズマの手を握っていた。
え?何してんの?なんでおててつないでんの?やだ、なにこれ甘酸っぱい感じの空気!?俺邪魔じゃん、めっちゃ邪魔じゃん。さっきのミツルギとゆんゆんだってなんかいい雰囲気だったし、なんなの?俺を差し置いてみんなモテ期なの?
焚き火向かってブツブツと独り言を話しながら朝を迎える事になった。結局あれから誰も起きる気配も無く、俺の次に見張る予定だったアクアとダクネスが起きてきた。ダクネスは鎧に着替えていたが、アクアはパジャマ姿でテントから出て来た。
「すっすまない!リュウジ!寝過ごしてしまった!」
「おう、おはよーダクネス。今朝飯作ってるから罰として手伝ってくれ」
「分かった、今すぐ手伝おう」
「リュウジさ〜ん。朝は白米が食べたいんですけど〜?」
「見張りもしねぇやつに食わせるメシはねぇっ!」
鍋のお湯に味噌を溶かしながらアクアに言い放つと、アクアはパジャマ姿で俺に掴みかかってくる。
「なぁんでよぉっ!私だって疲れてるのよ!?謝って!ほら早く謝ってよ!!「疲れてるアクアに見張りさせようとしてごめんなさい」って謝って!!」
「あっこら!鍋に指を入れようとすんなっ!つーかなんで見張りもしねぇ奴に朝飯でごちゃごちゃ言われなきゃなんねぇーんだよ!クソが!『体臭が酸っぱくなる呪い』かけんぞっ!」
「やれるもんならやってご覧なさいよ、あんたに『洗濯物が乾きにくい天罰』食らわすからねっ!」
アクアと争っていると、カズマやアオイ、ゆんゆん達が目を擦りながら出て来た。
「うるせぇなぁ……朝っぱらからなんの騒ぎだよ」
「アクア様。おはようございます」
「おはようございます!」
「なっ、なんで朝から喧嘩してるんですか?」
「おいアクア、何騒いでんだ?」
起きてきた連中に聞かれると、アクアは涙ぐみながらカズマにすがりついた。
「カズマァァァ!リュウジが朝飯をごはんにしてくれないのよっ!?」
「何わがまま言ってんだよ、第一この人数の白米用意するのどんだけ労力かかると思ってんだ?」
カズマがそう言い放つと、アクアはぐうの音も出ないのか、頬を膨らませながら黙り込む。カズマは水筒の水を飲もうとしたら水筒は空だったのに気付いた。
「あっ、水ねぇや」
「クリエイト・ウォーターで出せば良いじゃねぇか」
「そうだな、クリエイト───」
「ちょっと待って!カズマ!」
カズマがコップに手をかざそうとした瞬間。アクアがカズマを止め始めた。
「なんだよ、水くらい飲ませろよ」
「違うのよ!水なら私が用意しておいたわよ!」
アクアがそう言い放つと、アクアはいつの間に鍋を用意していたのか、鍋を重そうに持って来た。俺とカズマやミツルギは首を傾げる。
何してんの?この人?
「アクア、何それ?」
「アクア様。それは鍋ですよね?」
「また何仕込んでたんだよ、水欲しいってのに手品見せる気か?」
「ちっがうわよっ!これは昨日寝る前にこっそり作っておいたのよ!!」
何を?
アクアは得意気に鍋の蓋を開けると、グツグツ煮だったお湯が張られていた。
「「「お湯じゃねぇかよっ!」」」
男達が同時に言い放つと、アクアはポカンとした顔をしながら言い放つ。
「何言ってるの?これを今から冷やすのよ、カズマさん。このアツアツのお湯にフリーズをかけて下さいな」
「はぁ?『フリーズ』」
カズマがお湯にフリーズをかけると、湯気がなくなった。すると、アクアはおたまですくってコップに入れてカズマに手渡した。
「はいっ!カズマ!『キンキンに冷えたお湯』よ!」
「冷えたお湯ってそれただの白湯じゃねぇかよ」
「そっそうだな、白湯だな」
「あんたら揃いも揃ってバカねぇ。白湯は身体に良いのよ?」
「確かに、白湯は身体に良いと昔から日本では言いますからね」
ミツルギが腕を組んでうんうんと頷く。それを見たアクアはドヤ顔で鍋に手を入れてすくいながウンチクを言い始めた。
「いい?白湯ってのはね?美容、ダイエット、便秘、肩こり、腰痛、冷え性にとっても良いのよ?カズマ見たいなヒキニートは普段からこういうのを飲まないとダメなのよ!」
アクアがそう言うと、カズマは呆れた顔をしながら言い放つ。
「こんな手の込んだ事を毎朝しなきゃいけねぇのかよ、めんどくさい。だったら毎朝お前が作るんだな。ってか作ったの今日初めてじゃねぇかよ」
「なによっ!あんた、私がせっかくみんなの為に作ったのにケチつけんの!?そんな意地悪言うなら返しなさいよっ!返してっ!」
「おいやめろっ!こぼれるだろ!」
白湯を取り合うカズマとアクア。だが、ある事に気付いた俺はボソッと呟いた。
「ってか、アクア今鍋に手を突っ込んだよな?白湯の効果が浄化されたんじゃないか?」
「確か、アクア様は液体を浄化する事が出来るんですよね?」
俺の言葉を聞いた瞬間。アクアはやっちまった感の顔をする。
「わぁぁぁぁっ!」
ーー同時刻ーー
リュウジ達のキャンプしている場所から約800m離れた密林の中、大樹に登りながら双眼鏡でリュウジ達を眺めているレオンの姿があった。
「最後の晩餐が水とは可哀想な奴等だな……」
レオンは双眼鏡をしまい、大樹の下に置いておいたクロスボウを舌を伸ばして掴み取り、クロスボウに弓を装填し始める。装填し終えると、レオンは体を変色させてクロスボウを構え始め、目をギョロりと大きく開かせた。
「まずはサトウカズマ。貴様だ……『狙撃』!!」
レオンは引き金を引いてクロスボウの矢を放った。
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狙撃されたのに気付かない俺達は、逆ギレをするアクアをなだめていると、めぐみんがマヒルと共にカズマに近寄った。
「何を揉めているのですか?」
「アクアはなんで泣いてるんだべか?」
「おう、起きたか。マヒル、めぐみん、アクアはほっといてさっさと朝飯を食おう」
カズマが白湯を飲みながら説明すると、めぐみんは喉が乾いたのか、カズマをじーっと見つめる。
「カズマ、何を飲んでいるのですか?」
「何って、白湯だけど?」
「さゆ?白湯ってなんですか?お湯じゃないのですか?」
めぐみんが首を傾げながらカズマに聞くと、カズマは説明した。
「白湯ってのは、まぁ簡単に言えば身体にいい水だな。このコップ一杯だけだけどな?鍋に残ったのは浄化されたただの水だ」
白湯の説明を受けためぐみんは羨ましそうに見つめる。
「身体にいいと聞くとちょっと気になりますね、少し分けてくれますか?」
「ああ、ちょっと口付けただけだから全部飲んでいいぞ?」
「ありがとうございま──」
カズマがめぐみんに白湯を手渡した瞬間……。めぐみんの目には、頭に矢が突き刺さったカズマが映った。カズマはそのまま倒れ込み、手渡されたコップとめぐみんの顔にはカズマの返り血が飛んでいた。一瞬の出来事にめぐみんは理解するのに数秒かかった。
「え……?カズマ……?」
倒れたカズマの頭からは血が流れ始める。めぐみんはコップを落とし、叫び出した。
「カズマァァァァァァァァァァッ!!」
めぐみんの声で俺達は振り向くと、カズマが血を流しているのに気が付いた俺は咄嗟にめぐみんに声をかけた。
「めぐみん!隠れろ!」
俺はめぐみんに声をかけたがめぐみんは体を震わせているだけだった。
ダメだ、ショックで聞こえてねぇっ!!
「ダクネス!マヒル!めぐみんを連れて森に隠れろ!狙われてるぞ!!」
「わっ、分かった!めぐみん!こっちだ!!」
「ミツルギ、俺と一緒にカズマを運ぶぞ!」
「分かった!」
「ちょっと!何!?どういう事!?なんでカズマ死んでるの!?」
突然の襲撃にパニックに陥ったメンバー。俺とミツルギはカズマの死体に駆け寄った。
ダメだ、頭を正確に撃ち抜かれてる……。
カズマの身体に触れた瞬間……。
「ぐぁあっ!!」
「ミツルギ!どうしたっ!?」
横を向くと、ミツルギが左肩に矢で射抜かれていた。俺は矢の方向を向いた瞬間、腹と右足に矢が刺さった。
「なにっ……!?ミツルギ、早くカズマを連れてけっ!!『敵感知』!」
ミツルギは痛みを堪えながらカズマを引きずってアクアのいる方向に向かうと、ゆんゆんとアオイが林を通って隠れながらやって来た。
「ミツルギくんっ!大丈夫!?」
「ボクは大丈夫、早くカズマを……」
「リュウジさん!!大丈夫ですか!?」
ゆんゆんはミツルギと共に隠れたアクアの元に向かうと、アオイはその場に残って俺に近付く。
「迂闊に来るなっ!アオイ!!」
「ですがっ!!」
「”敵感知”に反応がない……かなり遠くから狙撃して来てる!ハーレイ、感知出来るか!?」
《ぽーん!敵感知スキルの範囲外です。探知不能です》
やっぱりダメか……。
俺は矢の方向を確認し、アオイに伝える。
「アオイ、相手は向こうから方面から撃って来てる!気を付けろ!」
「わっ、分かりました!」
アオイは弓矢を装備し、俺が指を指した辺りを警戒し始めた。
次回、アオイとレオンの狙撃戦です。