何故ゆんゆんがたった1人でシルビアに向かって行ったのか直ぐに分かった。既に紅魔族達は魔力を使い果たしたという事だった。俺は、慌ててリュックが置かれている方に走って行き、ジンロウガとバニルから貰った罠餌のキューブを取り出した。
「バニルから貰ったこの罠餌……口にしても害はないって言ってたけど……一か八かだっ!」
俺は罠餌を思い切りかじった。クッチャクッチャと音を立てる。
なんだろう、チーズのような味がする……。
「ゆんゆん……大丈夫かなぁ……」
一方その頃ゆんゆんやミツルギ達は。
「我が名はゆんゆん!紅魔族随一の魔法使いにして、やがてこの里の長となる者!」
「ゆんゆん!?」
「ゆんゆん……危ないぞっ!!」
偶然ゆんゆんの近くに弾き飛ばされたミツルギとアオイはゆんゆんを見つめていた。すると、他の紅魔族達がまるでヒーローを見るかの様な目でゆんゆんを見守る中、1人の紅魔族が呟いた。
「名前の名乗り上げすら出来なかった変わり者のゆんゆんが、一体どういう風の吹き回しだ!?」
シルビアが、ゆんゆんを目の前にして嘲笑うかの様にジリジリと距離を詰めていく。そこに、アオイとミツルギが合流して武器を構えた。
「あら?このお嬢ちゃんは魔剣のミツルギのツレのようね?」
「そうよ!この2人は私の大事な仲間、ミツルギくんは私の”大切な人”なの!これ以上2人を傷付けさせないんだからっ!」
「若いって良いわねぇ〜初々しいわぁ〜。魔剣のミツルギも隅に置けないわねぇ?」
シルビアはうっとりしながらミツルギを見つめる。
「これ以上貴様の思い通りにさせてたまるかっ!」
「ミツルギくん、アオイ!行くわよっ!」
「うんっ!ゆんゆん!」
「ふにふらっ!ゆんゆんが戦ってるわ!」
「私達も戦うわよっ!」
あるえやふにふら、どどんこも加勢すると、シルビアの部下である悪魔もどきの兵隊達が前に立ち塞がった。アオイは植物達を使って応戦するが、ツタやツルは足らなかった。シルビアは突然手を空にかざし始める。
「残念だけど、もう遊び終わりよ……『エンシェント・ディスペル』!!」
シルビアが放った魔法はドームの様に広がって行き、ミツルギ達や紅魔族達を覆った。
「ビックリした〜!」
「なっなに!?今の!?」
「構わないわ!『インフェルノ』!!……あれ?」
「『カースド・ライトニング』!!……魔法が出ない……!?」
あるえやどどんこが突然魔法が使えなくなっていた。
「シルビア様の力で紅魔族が魔法を使えなくなったぞ!」
「他のやつは魔力が切れてる!この隙にやっちまぇー!」
「今までコケにしてくれたお礼だよっ!」
「待ちやがれこのガキィ」
シルビア達がゆんゆん達に襲いかかり始めた。逃げようとしたふにふらが転んでしまい、あるえ達の足を止めてしまう。
「ふにふら!?」
「あるえ!どどんこ!あたしは良いから早く逃げて!」
「君らを置いて行けないよっ!」
あるえはふにふらの前に立ち、守ろうとしたその時……。あるえの目の前に、青緑色の光が飛び回っていた。悪魔もどき達もその光が見えたのか、突然立ち止まる。
「なっ、なんだこりゃ!?」
「これは……?」
あるえは森の方を見てみると……バチバチと光り輝く人影を見つけた。
「リュウジ……君なのかい……?」
「えっ!?外の人!?」
「なんか、ブツブツ喋ってるわよ!?」
その時、俺はこう呟いていた。
「体全身に稲妻を纏うイメージ、揺るぎない心、源は創造、疑うは揺らぎ……」
ジンロウガを装備した俺の体には、青緑色の雷がビリビリと纏わせながら叫んだ。
「我、鋼の使者が碧き稲妻の力を借りて天に命じ、地に命じ、稲妻の力よ、我が魔力と共に力を成せ。 力の根源たる鋼のリュウジが命ずる。森羅万象を今一度読み解き、我の全てを支えよ!『エレクトロ』!!」
叫んだ途端、ジンロウガのたてがみを逆立てさせながら光り輝き迸らせていた。俺はそのまま、あるえ達を流し目で見ながらあるえに声をかけた。
「『ニートでも簡単!魔法の作り方』、参考になったよ。ここは俺がやる、早く逃げな」
「リュウジ……その身体……」
俺の姿を見た魔王軍が驚いている隙に、ゆんゆん達がふにふらに声を掛ける。
「ふにふら!ここはリュウジさんに任せて離れましょう!」
「リュウジさん、後は任せます!」
「リュウジ、もうすぐカズマ達が戻ってくる!それまで耐えてくれ!」
「おう、任せとけ……」
ミツルギがあるえ達を避難させたのを確認した俺はシルビアに言い放つ。
「よぉ、シルビア……」
「あんた……何よそのカッコ、さっきと全然ちがうじゃない!!」
「スペアの鎧だよ、カッコイイだろ?紅魔族のセンスも入ってて」
「そうねぇ〜。余計欲しくなったわ!貴方も取り込んであげる!」
シルビアはそう言うと、俺に向けて口から炎を吐き出してきた。辺りを火の海にしたシルビアは高々と笑い始める。
「アッハハハハッ!カッコ良く出て来て早々ピンチね!粉微塵になりなっ!」
炎に引き続き、今度は破壊光線の様なモノを口から発射させて追撃し、爆発させた。シルビアは周辺を土煙で視界を覆いながら叫んだ。
「これでも強がっていられるかしら?」
シルビアは目を凝らしながら俺を探し始める。
「土煙で見えないわね……アンタ達、鋼のリュウジを……」
悪魔もどきの部下達に指示しようと声を掛けた。だが、どこか様子がおかしかった。
「変ね……可愛い部下達の声が聞こえないわ……」
ようやく、土煙が晴れてくると……いつの間にか部下達が倒れていた。
「えっ?……アタシの可愛い部下達が……何故倒れているの?」
シルビアが辺りをキョロキョロしていると……。俺は土煙を猛スピードで突き破ってシルビアの真横から飛び出した。
「そこにいたのねっ!?」
シルビアは直ぐに気付いて左腕をかざしたが、俺は体を捻らせて左腕をかわしてシルビアの左頬に拳をねじ込んだ。
「オルァッ!」
「なっ!?さっきよりスピードが増してる!?」
「まだだっ!!」
「上等よ!捕まえてひねり潰して───」
「『フラッシュ』!!」
「ぎゃぁぁっ!?目っ目が……!!」
突然のフラッシュの閃光により、シルビアは片目を抑え始める。
「このガキッ!ど、どこいきやがったぁぁ!!」
俺は透かさずシルビアの背後から飛び出した。殺気を感じ取ったシルビアは振り向き様にガードを固める。パンチを防がれ、俺は目にも止まらぬスピードで魔術師殺しの方にローキックを炸裂させる。
「ぐあっ!!いつの間にそっちに!?もう逃がさないわよっ!!」
シルビアは俺を捕まえようと両手を伸ばしたが、シルビアの頭の上まで高く飛び上がり、こう言い放った。
「よぉ、さっきは随分と楽しそうにぶっ放してたよなぁっ!?もっと楽しんでいけよ!!ウォラッ!!」
俺は降下する時の落下速度を利用してその勢いのまま『かかと落とし』を繰り出してシルビアを地面に叩き付けた。
「ぐはっ!?」
「うおぉぉぉぉっ!!……『鉄の暴風』!!」
シルビアの背中を今までと比べものにならない速度の拳を降り注いだ。
「ガァァァッ!?いい加減、調子に乗るんじゃねぇよっ!」
魔術師殺しをググッと起こしたシルビアは暴れるようにうねり出し、俺を振り落とした。俺が離れて距離を置いたその時、体に纏っていた雷が消え始めた。
くそったれ!時間切れかっ!?
身体中に痣をつくり、殴られたボクサーの様に片目を腫らしながらシルビアは肩で息をしながら振り向いた。
「はぁ……はぁ……変な……魔法の効果が……切れたよう……ね」
「スピードとパワーと雷を纏う魔法『エレクトロ』は時間制限の魔法なんだよ……」
魔法の種明かしをした途端、シルビアは。
「なら頼みの綱が遂に尽きたわね?これでおしまいよっ!!」
「バーカ、俺がバックアップ無しでお前に単騎で突っ込むわけねぇだろ」
「何ですって?」
嘲笑う俺を睨み付けるシルビア。俺は手足や体を見つめ始めた。
罠餌の副作用がそろそろ来るはずだな……。
俺はシルビアに向けてニヤリと笑ったその時……。
「シルビアーーー!」
この声は!?
後ろを振り向くと、遠くにカズマが何かを構えていた。俺は千里眼で確認して見た。
「なんだありゃ……銃……か?」
「あら?サトウカズマはあんな遠くから応援?とことんダメな奴ね」
シルビアがカズマに言い放つと、カズマが叫び出した。
「あの世に行ったら、ハンスやベルディア達によろしくなっ!『狙撃』っ!」
……。
おかしい、何も飛んで来ない。
「アレがなんだか知らないけど、魔王幹部の勘ってやつかしら、何か嫌な予感がするわね」
シルビアがボソッと呟いた。
という事は、アレが『世界を滅ぼしかねない兵器』って奴か!?
「さっさとそれを寄越しなっ!紅魔族を皆殺しにするわよっ!」
「今の言葉、聞き捨てなりませんね!」
俺とシルビアはカズマから離れた岩に目を向けた。そこには、めぐみんが杖を構えていた。シルビアはめぐみんを見付けると……。
「あら?いつぞやのお嬢ちゃんじゃない?あなたは何の随一なのかしら?」
挑発的なシルビアの言葉に、めぐみんは言い放つ。
「あなたには、まだ名前を名乗っていませんでしたね。私の名前はめぐみんです。そして、私が本当の、紅魔族随一の魔法使いです」
アレ?ゆんゆんとかぶってね?
「あなたは変な名乗りはしないのかしら?変な子ね、ホラ、あなたにも必殺魔法があるでしょ?撃って見なさいな」
シルビアは更に手をクイクイと手招きしてめぐみんを挑発する。
「来ないなら……こっちから行くわよっ!」
痺れを切らしたシルビアがめぐみんやカズマ達がいる方向に進み始めた。だが、俺はシルビアの脇腹に蹴りを入れて止める。
「行かせるかボケッ!めぐみん!早く詠唱を!」
「しぶといわねっ!退きなっ!」
俺がめぐみんの時間稼ぎをし始めると、めぐみんの真上に赤い魔方陣が浮き上がってきた。目を輝かせながらめぐみんがポツリと言った。
「……カズマやリュウジに迷惑をかけて本当に申し訳ないです。今日は、私がカズマの後始末をつけます!リュウジ、準備が出来ました!離れて下さいっ!」
「よっしゃ!やってやれめぐみん!」
俺は急いでシルビアから離れると、シルビアの顔が恐怖で歪み始めた。
「『エクスプロージョン』!!」
めぐみんが放った閃光は、一直線にシルビアへと……向かう事なく、カズマの銃に吸収されていた。
「「えっ」」
予想外な事に、俺とシルビアは声を上げる。それと同時に、魔力を使い果たしためぐみんが、崩れるように倒れみ、ゆんゆんとあるえに運ばれて行った。
あっ、詰んだ。
俺の頭にそう過った時、シルビアが、一瞬脅かされた腹いせからか、
「おどれっ!鋼のリュウジより、てめぇから八つ裂きにしてやるよ!」
「行かせるかぁっ!!」
「離せやこの野郎っ!!」
罠餌の副作用が始まったのか、体が硬くなった気がした。俺はシルビアに殴られても痛くもなく、シルビアと鈍い音を立てながら殴り合いを始めた。
「ちくしょう!このポンコツのせいでリュウジがっ!!」
「カズマ!どうするんだ!?リュウジがもう持たないぞ!?」
「ねぇ、なんかピコピコしてるよ?」
俺とシルビアが殴り合いをしてる時、めぐみんの妹であるこめっこがカズマが持って来た銃に指を指していた。カズマが確認してみると、『FULL』の文字が点滅していた。
「コイツは壊れてたんじゃないっ!魔力が足りなかったんだ!」
カズマは再び銃を構えて俺に叫んだ。
「リュウジ、待たせたなっ!後は俺に任せろ!」
「カズマ!?」
俺はシルビアから再び離れると、カズマがやり直す様に言い放つ。
「じゃあな、シルビア!あの世に行ったらハンスやベルディアに宜しくなっ!俺の名は、サトウカズマだっ!」
そう言い放ちながらカズマは引き金部分を引っ張った。強烈な反動と共に、弾丸が飛んで来てシルビアの胸に大きな風穴を開けた。貫いた弾丸はそのまま山に当たって大爆発を起こし、山を吹き飛ばしていた。
「あ、あれ?アタ、アタジ、こ、これで終わり?」
「はぁ……はぁ……シルビア、てめぇの負けだ」
「う、うぞ、うぞよ……ぞんな……」
そう言い残しながらシルビアは倒れ込んだ。俺は体力を使い果たし、その場に大の字になって倒れ込んだ。
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息を引き取ったシルビアの遺体は、紅魔族達が処理する事になった。何でも、魔術師殺しは魔法を弾く防具の素材として有効活用される様だ。俺も『王道的な戦い方』をしたという功績で魔術師殺しのパーツを少し分けてもらう事が出来た。
そして────
今朝方、シルビアに壊滅的な被害を受けた紅魔の里はというと。
「嘘でしょ?」
「なんこれ」
「日本でも見た事ない速さだな……」
物凄い速度で復興していく里を見て、俺、カズマ、ミツルギは唖然としながら呟いた。崩れた瓦礫は魔法で吹き飛ばされ、建材がゴーレムに変化して建設現場に歩いて行く。俺は兜を外し、興味津々で辺りを見渡していると……。
《オーライ!、オーライ!、はいっ!ストップー!》
あれ?
俺の目の前に見覚えのある純白の鎧の男がハチマキを巻いてせっせと建築工事をしていた。
《よーし!次は……》
「アイギス、何してんのお前……」
一生懸命働いているアイギスがいた。
《よおっ!リュウジ久しぶりだなっ!元気にしてたか!?》
アイギスは土木作業員のおじさんのように気さくに声を掛けてきた。俺は顔を引き攣らせながら尋ねた。
「えっ?お前……紅魔の里に住んでたの?」
《おう、そうだぞ?サキュバス・ランジェリーって宿に住み込みで働いてたんだよ。昼間はゴロゴロして、夜働いてたんだよ》
「えっ、んじゃ昨日まで何してたの?」
《昨日ってお前が魔王軍と戦ってた時のことか?》
「うん、そうです」
《何言ってんだよ、避難してたに決まってんだろ!?》
は?
俺はアイギスに掴みかかった。
「てめぇっ!だったら加勢しに来いよっ!俺がお前と合体してたらもっと早く倒せてたじゃねぇかっ!」
《馬鹿言え!あんな燃え盛るなかお前に装着させてたら汗が染み込んで中が臭くなるだろうがっ!》
「なんだとこの野郎!!」
俺とアイギスが殴り合いをしていると。
「リュウジ、あんまり暴れると体に毒だよ?」
振り向いた先には、あるえが立っていた。
「あるえ、だってコイツがっ!」
「今彼は復興作業中だよ?邪魔しちゃダメじゃないか」
《へっへーんだ!ざまぁねぇな!仕事中なんだ、あばよっ!》
この野郎!!
作業に戻って行くアイギスを見ていると、あるえは俺の顔を見ていた。
「ん?どーしたの?」
「顔に痣があるよ?手当してあげるから付いてきなよ」
「あっ、うん」
あるえに連れられて歩いていると、カズマとめぐみん、ゆんゆんとミツルギがふにふらとどどんこが何やら盛り上がっていた。
「ゆんゆん、それと魔剣を持つ人!昨日はカッコ良かったよ!」
「あの世界を滅ぼしかねない兵器でやっつけた時もカッコ良かった!」
カズマとミツルギ珍しく褒められている。そんなカズマとミツルギを見ていためぐみんとゆんゆんが……。
「おやおや、普段ちっとも出会いが無い上に男がいなくて寂しいのは分かりますが、”私の男”に色目を使うのは止めて貰おうか」
「そーよ!”私のミツルギくん”にちょっかい出さないでよ!」
「「「!?」」」
何だって!?
突然の言葉に、ふにふら、どどんこ、俺は固まる。更に、カズマとミツルギが追い討ちをかけるように。
「ゆんゆん!それはメリッサとセシリーが来てから言うって言ったじゃないか!」
「めぐみん!?昨日の夜、俺の事好きだって言ってくれたのは、やっぱり本気だったのか!?」
「「「!!」」」
ふぁっ!?
俺達は更に驚愕する。どどんことふにふらが、アワアワと狼狽えながら、
「おおとおおお、男!?あの、爆裂魔法しか関心のなかっためぐみんに、男!?う、嘘よね!?」
「そそそそそそ、そうよね!?友達がいないゆんゆんに男だなんて……ね、ねぇ!?」
めぐみんとゆんゆんは2人にこれみよがしにくっついて勝ち誇った様に口元を歪め。
「「…………フッ」」
鼻で笑いやがった。
「わぁぁぁー!お、男が出来たくらいでなにさぁー!」
「悔しくなんかないんだから!悔しくなんかないんだから!」
ふにふらとどどんこはそんな捨て台詞を残して駆け出して行った。俺はくわっと顔を歪めて叫んだ。
「かーっ!見んねあるえ!卑しか女達ばい!」
「何を興奮してるんだい、傷に触るよ?」
すると、めぐみんが俺に。
「リュウジ、手当が終わってからで良いのですが、カズマと行きたい所があるんのです。悪いのですが、アクア達を足止めしてくれませんか?」
「えー、なんでリア充の頼みを聞かなきゃないんですかー?」
「いいじゃないか、聞いてあげなよ」
あるえに促され、俺は渋々頷くと、カズマとめぐみんは里の外に向かって歩いていった。
今回使った魔法の元ネタの『エレクトロ』はMARVELのスパイダーマンに出てくるヴィランで雷を操る能力を持っています。アメイジング・スパイダーマン2で登場しており、体を電気に変化させながら高速移動していたので参考にさせて頂きました。
もう一つの元ネタはモンスターハンターのジンオウガの超帯電を参考にしています。