カズマとめぐみんが里の外に出て、林の中に入った人気のない場所。虫と鳥の鳴き声しか聞こえないくらい静かな場所だった。そんな中めぐみんが、突然カズマの方を振り向いた。
「カズマ……優秀な魔法使いが欲しいですか?」
「欲しいか要らないかで聞かれたら、そりゃ欲しいな」
と、当たり前の様にカズマは答えた。めぐみんは、そこ答えに満足したのか。
「そうですか。なら……リュウジも同じ事を言いますかね?」
「そうだろうなぁ、アイツのパーティーにはウィズが入ってるしな」
そう答えると。
「そうですよね……。うん、私も覚悟が出来ました」
そう言って、めぐみんは笑顔を見せた。
「私は、今からゆんゆんやウィズの様に上級魔法を覚えようかと思います」
「今なんつった?」
カズマは驚いた顔をしながら返した。すると、めぐみんは自分の冒険者カードを取り出して。
「ずっと悩んでました。ゆんゆんにはネタ魔法と言われる前からも。カズマやリュウジ、アクア、ダクネス、マヒルに会わなかったなら、こんな事は考えずにずっと爆裂魔法を鍛え続けていたのでしょう。今回の一件で、紅魔の里の人達はガッカリしたと思います。……私は、もうカズマに死んで欲しくありません。今度は、私がカズマを守るんです。だから……だから、爆裂魔法は今日で封印します」
そんな事を言いながら、めぐみんはカズマに笑いかける。カズマは慌ててめぐみんに言い放つ。
「おいおい待てよ。そりゃ上級魔法が使えれば助かるよ。助かるけどもさ。なにも爆裂魔法を封印しなくてもいいだろ?爆裂魔法はお前の必殺技って事にすりゃいいじゃないか」
「それも考えましたけど、爆裂魔法を唱えると、魔力切れで、その日はもう他の魔法が使えなくなります。上級魔法は何度も使えます」
そう言いながらめぐみんは、ジッと自分の手にしている冒険者カードを見つめる。
カズマはふと、リュウジと共に街を出る前の事を思い出した。
『見通す悪魔が忠告してやろう。貴様はこの旅の目的地にて、仲間に迷いを打ち明けられる時が来る。貴様の言葉次第では、その仲間は自らの歩むべき道を変えるだろう。汝、良く考え、後悔のない助言を与えるようにな』
バニルが言っていた事がようやく理解した。めぐみんはそのまま、何かを堪えるかの様にカードを突き出してきた。
「すいませんカズマ。凄く酷い事をお願いしても良いですか?」
「自分じゃ押せないからって、俺に上級魔法スキル習得のボタンを押してくれって?」
めぐみんが、コクリと頷いた。
「アホだなぁ……お前、よく考えろよ?シルビアの討伐報酬の大金が入るんだからな?討伐とか危険な事には首を突っ込なくてもいいんだし。屋敷でのんびり暮らしながらたまに爆裂魔法を撃って楽しく生きて行こうぜ?」
カズマがそう言い放つと、めぐみんはぶふっと吹き出した。
「以前なら、中級魔法はとる気がないのかと、散々言っていたカズマなのに」
そう言って、クスクス笑いながら肩を震わせ、カズマの方にカードを差し出して来た。カズマは無言で受け取ると。
「後悔しないんだな?」
「しません。もう、Adventuresの足手まといになんてならないって決めたんです。私が普通の紅魔族だったなら。きっとカズマは苦労せずに出来たと思います。私は、紅魔族随一の魔法の使い手。火炎魔法を操る者!……今後は、これで行くてします。上級魔法が使える様になればゆんゆんやあるえよりも潜在魔力が高い私の方が、絶対に紅魔族随一です。あるえ達に、紅魔族最強の座は渡しませんよ」
めぐみんは、今にも泣きそうなのを堪え、無理やり笑みを浮かべた。
「はぁ……やれやれ……」
カズマは無言でカードを操作した。ピッピと操作し終えてめぐみんに手渡した。めぐみんは、カードを見もせずに、自分の胸元にしまった。そして、パッと振り返ると。
「さぁ、そろそろ皆の下へ帰りましょうか!」
「なぁ、めぐみん。最後に一発、爆裂魔法を撃ってくれよ」
カズマは突然、そんな事を頼み込んだ。
「今辞めるって言ったばかりなのにあなたという人は……。まぁ、これで最後というなら、やりますよ」
めぐみんは、嬉々として、心底嬉しそうに爆裂魔法の詠唱を開始し……!
「『エクスプロージョン』ッッッ!!」
その瞬間、赤い閃光が杖の先から迸り、今までとは比べ物にならないくらいの爆裂魔法だった。空の雲は爆風で吹き飛び、綺麗な青空が見て取れた。自ら放った魔法の力を目の当たりにしためぐみんは……。
「えっ……これって……」
「今の俺が欲しいのは、鋼のリュウジ、魔剣のミツルギに負けないくらいの攻撃力を持った魔法使いだ。これからも頼むぞ、めぐみん!」
カズマがそう言うと、めぐみんは吹っ切れた様に笑みを浮かべ、カズマに向かって名乗り上げた。
「我が名はめぐみん!………アークウィザードして、爆裂魔法を操る者!Adventures随一最強の魔法使いにして、いつか爆裂魔法を極める者!」
カズマはめぐみんが持っていたスキルポイントを全て爆裂魔法の威力向上に突っ込んでいた。
地面に倒れながら、めぐみんがカズマに尋ねる。
「ちなみに、今のは何点でしたか?」
「そりゃもちろん。120点!!」
それを聞いためぐみんが、とびきりの笑顔を見せた。
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その頃、アクア達を足止めして、魔人の丘の上で突然空に舞い上がった爆裂魔法を見た俺とあるえは空を見上げながら呟いた。
「うっひゃ〜。あんなの食らったら骨すら残らねぇよ」
「あの爆裂魔法はめぐみんの仕業だろうね、スキルポイント全てを威力向上に振り分けたんだろうね、めぐみんらしいよ」
「どーだろうな……いてて」
「動いちゃダメだって、消毒が出来ないだろ?」
ベンチに座りながら俺はあるえに顔に出来た傷の手当を受けていた。消毒が済むと、俺はあるえに手を誘導してもらいながら自分でヒールをかけ始める。
「ふぅ……それで?紅魔の里はどれくらいで復興できそうなの?」
「このスピードで行ったら3日で終わるんじゃないかな」
恐るべし紅魔族の力。
だが俺は、昨晩の事が頭から離れず……あるえの顔を直視出来なくなっていた。あるえもそれに気付いていたのか、俺に言ってきた。
「さっきから私の目を見て話さないね?」
「そりゃ……昨日あんな事になっちゃったし……ねぇ?」
あるえにそう返すと。
「ちょっと展開が早すぎたのかもね、めぐみんとカズマっていう外の人くらい知り合ってたら話は別だったけどね?」
「えっ……それって」
それ以上言う瞬間、俺の口はあるえの人差し指で止められた。
「しーっ、私もちょっと酔ってたからね、反省してるんだ。ごめんよ」
「あっああ……いえ、別に……俺こそ、ごめん……」
俺は体の向きを直して、あるえに向かって深く頭を下げた。すると、あるえは……。
「めぐみんやゆんゆん達よりは親密にまだなれないけど、私達は……友達からスタートしようか?」
「そっそうだね……うん、そうしよう……」
どうしよう……なんか、あるえに正体を明かしても……いい様な気がしてきた……。あれ?どーしたんだろう……こんな気持ち、ウィズともクリスとも違うなんか……あれ?……えっ?何これ?
突然、俺は立ち上がって、爆裂魔法を見ながら後ろを振り返り。
「なぁ、あるえ?」
「ん?なんだい?」
「本当の俺を見ても……友達って言ってくれるか?」
「えっ?」
パチンッ!
俺は指を鳴らすと同時に、『変身スキル』を発動させて魔王・アンドロマリウスになった。爆裂魔法の風が俺のマントを激しく靡かせる。
「我が名は正義を司る魔王・アンドロマリウス。昨日の話しの通り、これが、俺の本当の姿なんだ……この姿はあまり好きじゃないんだけど、心を許した人にしか見せてない。だから、冗談とか抜きであるえの本音が聞かせて欲しい……もう一度聞く。これでも俺の友達になってくれるのか?」
真剣に視線を送ると、あるえは立ち上がって俺に近付いて来た。
「『サキュバス・ランジェリー』の店に住み込みで働いている鎧の人とは違って君の鎧は禍々しいね……悪くない、ああ、悪くないとも!」
ん?
「是非とも取材させて欲しい、なぁに、ちょっと押し倒されたくらいなら平気さ、別に一線を超えたわけじゃないしね?さぁ、君の魔王譚を聞かせてくれないかっ!?」
あるえはなんの躊躇もなく、ベタベタ鎧に触り、取り憑かれたかのようにノートに何かを書き始める。
どーやら、俺はあるえの琴線に触れてしまったようだ。つーか、ハーレム展開になるんじゃないかって期待した俺がバカだった。
「と、とりあえず、変身スキル解除するね?」
変身スキルを解いてジンロウガの鎧に戻った瞬間……。
ギュルルル……!!
突然、猛烈な腹痛に見舞われた。その痛みにより、額に油汗を流し始める。
「なっ、なにこれ!?はっ、腹がっ……!!」
「ど、どうしたんだいっ!?」
「な、なんか分からないけど……腹がめちゃくちゃ痛てぇ!!ヤバっ、トイレ、トイレはドコッ!?」
「あ、あーえーっと、こっちだよ、大丈夫かい?」
「ヤバっマジでヤバっ、ちょっ、鎧外すの手伝って!!早く!!」
「えっ!?あっ、うん!」
慌てて鎧を外してケツを抑えながらトイレに駆け込んだ。なんとかギリギリ間に合い、ホッと胸を撫で下ろす。
「なんでこんな時に腹下すんだよ……ったく……ん?」
俺はジンロウガのズボンにメモがくっ付いていた。メモを広げて見ると、バニルからのメモで罠餌に関しての内容だった。
【拝啓、へっぽこ魔王よ。もし、罠餌を食わねばならない状況に陥った場合は、なるべく暖かい飲み物と一緒に食らうがよい、でなければ強烈な下痢に見舞われるであろう。フハハハハハ!!】
バニルゥゥゥゥッ!!
俺はメモ紙をぐしゃぐしゃにしてそのまま丸めて投げ捨て、ゲッソリしながらあるえの元に戻って行った。
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カズマ、リュウジとは別行動をしていたミツルギはようやく、メリッサとセシリーに合流する事が出来た。ミツルギは青筋を立てながらセシリーに尋ねる。
「ずっ、随分遅かったじゃないか……」
「いや〜ゼスタ様がなかなか帰してくれなくて、けど、お土産は沢山買ってきましたからっ!」
「よく言うわよ、アナタ、アルカンレティアで『ミツルギさんが入れば問題ないですよ!もっと延泊しましょっ!』って言ってたじゃないのよ」
「そっそうか、まぁ。魔王軍幹部も倒したから別にいいんだけどね」
ミツルギは何かを諦めた様な顔しする。すると、メリッサが。
「あら、ワタシ達がいなくても余裕だったんじゃない。だったらここにはもう用はないんじゃないの?」
来て早々直ぐに帰ろうとするメリッサ。だが、ミツルギは慌ててメリッサを止める。
「って今来たばかりじゃないかっ!。いいかい、2人とも、今からゆんゆんの実家に行って、ゆんゆんのお父様に挨拶するんだ。いいかい?粗相な振る舞いはやめてくれよ?特にセシリー?」
ミツルギに釘を刺されたセシリーは、胸を張って。
「安心して下さいっ!アクシズ教の素晴らしさをゆんゆんさんのお父様に教えれば」
「分かってないじゃないかっ!2人はとにかく大人しくしててくれっ!」
ミツルギは頭を抱えながらゆんゆんとアオイの待つ。復興を終えたゆんゆんの実家に向かった。玄関に辿り着くと、ゆんゆんとアオイが今か今かと待っていた。
「あっ!ミツルギくん!セシリーさん達と会えたんだねっ!」
「セシリーさん、メリッサさん!おかえりなさいっ!」
「あら、ゆんゆん、アオイじゃない。どう?友達は出来た?」
「はいっ!ふにふらさんと、どどんこさん、あるえさんなどなど!」
「積もる話もありますし、とりあえず中へ」
ゆんゆんの案内により応接室に案内されると、ゆんゆんのお父さんであり、紅魔の里の族長でもある『ひろぽん』さんが紅魔族の方々と難しい顔をしながら会議を行っていた。ひろぽんさんは、ゆんゆんを見た途端……。
「ゆんゆんか、おや?そこにいるのは……?」
「あっ、この2人も私のパーティーの仲間なの。盗賊のメリッサさん、プリーストのセシリーさんって言うの」
ゆんゆんが紹介すると、メリッサとセシリーはペコッと頭を下げる。すかさずセシリーがアクシズ教の入信書を取り出そうとした瞬間、ミツルギに取り上げられた。すると、ひろぽんさんが。
「丁度いい、ゆんゆん。それに、皆さんも座って聞いて欲しい」
「うっ、うん……」
「さっ、ミツルギくん達も座ってくれ」
「はいっ!」
ミツルギ達が席に座ると、ひろぽんさんが真剣な顔をしながら話し始めた。
「先程、森で『爆殺魔人もぐにんにん』が目撃されたそうだ」
「えっ!?、お父さん、その話本当なの!?」
「ゆんゆん、その、爆殺魔人もぐにんにんってなんだい?」
「爆殺って随分物騒な名前ねぇ」
ミツルギとメリッサが首を傾げると、ゆんゆんが話し始めた。
「『爆殺魔人もぐにんにん』。元は、紅魔の里にある謎施設と呼ばれる建物に寝かされていた、爆発魔法を得意とする謎モンスターです。片言の人語を話すんだけど、内容が良く分からず、紅魔族以外の人間を見付けると襲ってくる習性を持ち、夜になると意味もなく爆発魔法を撃つらしいの」
「ハタ迷惑なモンスターがいたものですね、お姉さん心配だわ」
「ねぇ、ゆんゆん?確か、爆発魔法は爆裂魔法の下位互換にあたる攻撃魔法だよね?」
「うん。そうだよ。けど、爆殺魔人もぐにんにんは、通常、森の奥から出てこないって聞いてたんだけど……」
この場にいる全員が首を傾げると、ひろぽんさんが口を開いた。
「悩んでたって仕方ない。急遽、【ゆんゆんの族長の試練】を早める事にしよう」
すると、ミツルギがひろぽんさんに尋ねる。
「あ、あの……族長の試練というのは、具体的に何をすればいいんですか?」
「それはね、2人1組になって3つの試練を受けてもらうんだよ」
「なるほど、では、我々がそのゆんゆんのパートナーになって試練を達成させれば良いんですね?」
「うむ。ミツルギくん。やってくれるかい?」
「分かりました。ゆんゆんはボクのパーティーの1人です。必ず試練を達成させて見せます!」
「ならキョウヤ、他のメンバーに説明した方がいいんじゃない?余計な事をされて失敗したら元も子もないわよ?」
「それもそうだね、お昼になったらカズマとリュウジ達を交えて報告しよう」
そう決めたミツルギ達は、お昼の時間まで暇を潰し始めた。
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お昼になり、俺とカズマはミツルギに急ピッチで完成したゆんゆんの家に呼び出された。
「2人共、急に呼び出してしまってすまない」
「別にいいよ、どうしたんだ?ミツルギ」
「一体何の用だ?俺は謎施設の探索に行くんだ。手短に頼むぞ」
「ああ、実は、ゆんゆんの次期族長になる為の試練を早める事になったんだ」
「ほう、えらく急だな、なんかあったのか?」
「それなんだけど、どうやら近くの森で『爆殺魔人もぐにんにん』というモンスターが現れた様なんだ」
クセの強いモンスターだなぁ……。
「で?俺達にどうしろと?」
「まさかそのモンスターを倒して来いって言うんじゃねぇよな?」
カズマがそう言い放つと、ミツルギは首を横に振った。
「いや、その逆だ。爆殺魔人もぐにんにんをボクらのパーティーに譲ってくれないか?」
「「えっ、いいよ?」」
俺とカズマの言葉にミツルギは目を点にした。