ウィズが宣言したその晩。
「────ってまぁそんな訳で、明日、ウィズは自分でケリを付けるってさ」
家で夕食を摂りながら、今日の出来事を説明する。それを聞いたマリューとクリスは、互いに微妙な顔をした。
「ストーカーですか、やれやれ命知らずもいたものですね」
「けど、ウィズさんの前に変態が現れるなんてね。ウィズさんはあたしの嫌いなアンデッドだけど、ウィズさんは良い人だし放っておけないよ!」
ウィズは良いんだ。けど、いつも世話になってるウィズがどこの誰かも分からない輩に付いて行かれても困るな。バニルに店は取られるし、俺はバニルにたかれるだろうし。
ここは仕方ない、やるか!
「ねぇねぇ、リュウジ。何か企んでるでしょ?」
「この顔は何かをやろうとしてる顔ですねぇ」
「リュウジさまが変な顔をしております」
「あはは、やばいですね☆」
「やばくない。ダチを守ろうとしてる顔って言いなさいよ」
翌朝。
店の前で張っていた俺は、ウィズの服装に驚いた。今日のウィズは、落ち着いた大人の女性スタイルだった。
言わば勝負服ってやつだな。
「ねぇ、鼻の下伸ばしてる場合じゃないよ?ほら、行くよ!?」
「なんでお前まで来るんだよ」
「だって、君1人で行かせると何しでかすか分からないもん。マリューさん達は美食殿に行ってるし」
「だったらアンタも手伝いなさいよ、エリス様」
「そのオーナーの君に言われたくないよ!バカ魔王!」
俺とクリスはケンカしながら潜伏とライトオブリフレクションを使って街の外に向かうウィズの後ろをコソコソと付いていく。
「ねぇリュウジ、あたしなんだかストーカーの気分になって来たよ。ウィズさんの問題を解決しても、あたし達もストーカーになっちゃうよ?」
「ミイラ取りがミイラになる見たいな事を言うなよ。これはストーキングじゃないの、ダチが危ない目に遭わない様に監視してるだけだよ」
「一般じゃそれがストーキングって言うんだよ?」
隣でごちゃごちゃやかましい盗賊のツッコミに答える事なく、俺は追跡を続けた。やがて、昨日ウィズが言っていたように、街の外へと向かうと雪がチラつく荒野の真ん中に黒い人影が立っていた。俺はクリスにもライトオブリフレクションを唱え、潜伏を同時に使って2人の声が聞こえる所まで近付いた。
「手紙は読んでもらえたようだな。よく呼び出しに応じてくれた」
「……あんな事を言われた後に呼び出されては、来ないわけにはいきませんから……」
俺はクリスと相槌を打った。
「長かった、お前の事を探し続け、この街で魔道具店をやっていると聞いた時は耳を疑ったよ。だが、こうして会えたのだ。遥かな遠方の地より、長い時間を掛けてやって来たかいがあったというものだ」
「そ、そんな遠くから、私に会う為だけにいらっしゃったんですか……」
フードの男の重い言葉に、表情を強張らせたウィズが言葉を返す。
これ、聞いてて良いのか!?邪魔しちゃ不味い気がするんだけど!?
2人の話を聞いていると、くいくいとコートの袖を引っ張られた。
「ねぇ、これって告白だよね!?告白だよね!?」
「そうみたい。ってかデカい声出すなよ!」
「ご、ごめん」
そうヒソヒソと話していると。
「ここに呼び出した理由はもう分かっているな?先日会った際にも伝えた通り……。俺はお前の事だけを考え続け、ただひたすらこの身を鍛え続けてきた!」
「い、いきなりそんな事を言われても!それにこんなの初めてで、どう答えたらいいのか分かりません!それに昼間から、真冬にしかも街中でいきなりあんな行為に及ぼうとするのは良くないと思います!」
いきなりの熱烈なアピールにウィズが戸惑い赤くなる。
聞いててこっちも恥ずかしくなる。
「キャーーー!すっごい情熱的!!」
「うるせぇよ!静かにしろ!」
「ねぇ、あたし達……一体何やってるんだろうね」
「今更そういう事いうなよ、虚しくなるだろ!?」
目的を見失いかけてると、男と熱が入ってきたのか声を大きくし始める。
「確かに、今思えば街中でのあの行動は早まったな。一応、人目のない裏路地を選んだのだが……」
「人目に付かなければいいというものではありませんよ!ああいう事は、もっもこうお互いをよく知った上で、時間をかけてからですね……」
ごもっとも。
俺とクリスはうんうんと頷く。
こりゃただの変態不審者じゃないな、むしろ熱い男だったわ。
「……なるほど。確かに、こちらだけが一方的に相手の事を知ってるというのは卑怯だな。なら、俺も自分の事を話す必要がある、か……」
「そ、そうです、だって私、まだあなたの名前しか知りませんし……」
何かを悩みだした男は、深く被っていたフードを跳ね除けた。フードの下から現れたのは、女性と間違えられてもおかしくないぐらいの、中性的な顔立ちのイケメンだった。
あれ?あの顔どっかで……見た様な気がするな。
そう思ってると、クリスが俺の頬をつついた。
「どうしたの?知り合い?」
「いや、なんかどっかで見た様な気がして」
「そうなの?」
ウィズも美形が出てくるとは予想外だったのか、ウィズの顔がちょっとだけ赤くなる。
「俺の名は【デューク】。得意とする上級魔法は炎系統だ。氷結系統の魔法を得意とするお前とは、正反対になるな」
「わ、私達の相性が悪い事を隠そうともしないんですね。誠実なのは好感が持てますが……。でも、そんな事まで調べたんですか……」
細かく調べた事を発言に引き気味のウィズ。だがデュークは、何故か誇らしげに笑いあげた。
「当然だ!お前がまだ人間だった頃、氷の魔女と呼ばれていた事も知っている!」
何!?
俺はその言葉にビクッとした。
「ま、待ってください!私が人間じゃない事を知ってるんですか!?」
「ねぇ、ウィズさんがリッチーだって知ってるの極僅かだよね!?なんであの人まで知ってるの!?」
「分からない。だけど、これが独自に調べてたなら凄い調査力だ。そんだけウィズに本気だって事だ」
「1人でここまで調べたんなら凄いよ!ちょっと怖いけど」
「ああ、かなり凄い。名の知れた盗賊か何かか?」
驚愕する俺達をよそに、デュークの勢いは止まらない。
「何度でも言ってやる。お前の事はなんだって知っている!いわば、俺はこの世で最もお前の事を理解してる者だと言ってもいい!さぁ、俺の事を教えるのだったな!それでは話の続きといこうではないか!」
「ままま、待ってください!そんなグイグイ来られても、心の準備が!つまり、あなたは、私がアンデッドであると知ってもなお、怖がりもせず、こうしてやってきたというんですか?」
デュークの怒涛の攻めに、ウィズがタジタジになりだした。
「この俺を愚弄する気か!?リッチーなど恐るるに足りぬわ!」
「そ、そこまで言われると……」
なんて野郎だ!監獄でもここまで熱い魔王は居なかったぞ!?
「あの人凄いよ!ここまで来るとあたし応援したくなってきちゃったよ!」
「確かに、ここまで潔いと応援したくなるな」
こっちまで手に汗握りながら様子を伺ってると。
「さぁ、もういいだろう!氷の魔女よ、俺と勝負しろ!」
「ええっ!?な、なんでそうなるんですか!?」
なんだと!?
「なぜだと?決まっている!お前に俺の力を示し、今の仕事を辞めてもらうためだ!」
「えええええええ!?」
Holy cow!?
「いきなり力を見せつけるなんてなんて人なの!?」
「余程自分の力に自信があるんだろうな、力を見せていい所を見せようって魂胆か、やるじゃないか」
興奮冷めやらぬクリスは俺をゆさゆさと揺さぶってくる。
「あの、私はAdventuresの1人ですし、ですが私は想っている人が──」
「そうだ、Adventures。聞いているぞ?冒険者を集めて活動していると、無論そんな事も辞めてもらう!!」
なんだってぇぇぇっ!?
「おいおい、それは勘弁してくれよ!?俺のチームに穴が空くじゃないか!!」
「不味いよ!せっかくのアークウィザードだよ!?しかも魔法に詳しいのは紅魔族を除いたらウィズさんくらいしかいないのに!!」
そんなことはつゆ知らず。
「想い人の事は忘れて……わ、私に家庭に入れと……想い人なんか俺が忘れさせてやる……!!」
マジか!?そういう事か!?なんて野郎だ、漢の中の漢だ!!
「Adventuresも捨て去り、お前の仕事は俺が引き継いでやる!では、行くぞ!この……」
デュークが叫びながら自らマントに手を掛ける。そして、それを脱ぎ捨てようとするのと、顔を真っ赤にしたウィズが魔法を唱えるのは同時だった。
「『テレポート』!!」
あまりに情熱的なプロポーズに俺とクリスが呆然としてる中。恋愛経験の少ない者にとって、いきなりのハードルが高すぎたのか、これ以上は耐えられなれなくなったらしいウィズは、テレポートで消え去った。
「俺達も帰るか?」
「うん、そう……だね」
───────────────────────
俺達はその帰り足に、カズマの屋敷に足を運びウィズの件を話してみた。カズマ達は食後の茶を飲みながら。
「────って事があったんだよ」
「みんなはどう思う?」
俺とクリスがその男について見て聞いた事を話すとめぐみんとダクネスは、互いに微妙な顔をした。
「ストーカーですか。私の自称ライバルがそのような気質だったので、ちょっと将来を心配しているのですが……。その手の人というのは追い込まれるととんでもない事を仕出かすか分かりませんよ。目的を果たす為ならなんでもやってしまうという恐れ知らずです」
それはゆんゆんの事なのか?
「ダクネスはどう思う?」
「うむ、よりにもよってこの平和な街にその様な変態が現れるとは……。善良な市民に迷惑をかける不届き者め、恥を知るべきだ!」
「お前の口から変態を罵倒する言葉が出るのが驚きなんだが」
「そりゃ言えてるな」
「な、なにをっ!?」
ダクネスと俺が取っ組み合いを始めると、クリスはティーカップが6つあるのに気が付いた。
「あれ?助手君、カップ多くない?誰か来てたの?」
「ああ、実は」
「ちょっとカズマ、あたし牛乳飲みた……」
ん!?
俺とクリスの前に、キャルがアクア、マヒルと共に寝巻き姿で現れた。俺は上ずった声を出しながら指を指した。
「キャル!?」
「あ……どーも……」
「あんちゃんとクリスでねぇか、どうしたんだ?」
そりゃこっちのセリフだ。
「キャル、いつの間に帰ってたんだ?帰って来てたなら顔出せよ。ペコリーヌやコッコロが心配してたぞ?」
俺がキャルに言うと、キャルは気まずそうに。
「わ、悪かったわよ。昨日帰って来たの、けどあんたの家狭いからカズマの屋敷にしばらく厄介になる事にしたのよ」
「え?カズマ、そうなのか?」
「ああ、明日言うつもりだったけど、キャルはウチのチームに入る事になったんだ」
「はぁっ!?」
俺がキャルとカズマの顔を交互に見ながら騒いでいると、キャルが口を開いた。
「なによ、文句あるワケ?あたしをAdventuresに誘ったのはあんたでしょ?」
「そ、そうだけどだったら」
「お断りよ、あんたには下着姿も裸も見られてるんだからね?そんなケダモノの所に行くなんて御免よ」
「下着姿?君はまだ懲りてなかったんだね」
クリスはキャルの言葉を聞いて手をゴキゴキ鳴らし始めた。
おっと、こりゃ不味い。
「いや、あのクリスさん、落ち着いて」
「後でじっくり聞かせてもらうよ。初めまして、あたしはクリス。見ての通り盗賊だから今後とも宜しくね、キャルさん」
クリスが握手を求めると、キャルは恥ずかしそうに手を出した。
「あたしはキャル。獣人族のアークウィザード、宜しく」
クリスとキャルが握手をすると、アクアがゼル帝を膝の上に乗せて餌をあげ始めた。
「キャルが入ってアークウィザードが2人、アークプリーストが1人、クルセイダーが1人、ランサーが1人、使えない冒険者が1人。完璧じゃない!?ウチのチーム!?これならどんな奴が来たって怖くないわよ?」
「おいお前今なんてった?」
アクアが勝ち誇った顔を見て俺は不思議に思った。
「珍しい事もあるんだな。アクアが新メンバーの加入を許すなんて」
「アレだよ」
「アレ?」
アクアの隣を良く見てみると、高級シュワシュワが3本置かれていた。
キャルめ、買収したのか。
「話は聞いたわ。ウィズがストーカーに告白されたんですって?告白を受けちゃうつもりなのかしら。最近はめぐみんやダクネスが色ボケてきちゃってるし、あの子まで彼氏持ちになったら私の遊び相手がマヒルとキャルだけになっちゃうんですけど」
「なんであたしを巻き込むのよ!?」
「オラだって農場で忙しいんだど!?」
「アクア、私は別に色ボケてはいませんよ!夜這いしたり、きわどい格好で挑発ばかりするダクネスとは違い、口づけすらまだの清い身です!」
「ちょっ……!!」
「「ええっ!?」」
俺とクリスは同時にハモった。すると、ダクネスが。
「は、話を戻すが、その男は本来であれば忌むべきアンデッドの王だというのに、それでもウィズがいいと言ったのだろう?これこそが真実の愛というものでは無いのか?私はその男を応援したくなったぞ」
「だ、だよね!ダクネスもそう思うよね!?」
こいつイジられるのが怖くて話題変えやがった。
「何をバカな事を言ってんの!アンデッドでもいいだなんて、神に喧嘩を売る冒涜的な発言だわ!確かにウィズはひんやりして夏場抱いて寝るには心地いいけど、それでもあの子は動く死体なのよ!?死体愛好家だなんて、とんでもないド変態ね!」
「あんた、それはいくら何でも言い過ぎじゃない?」
「オラもそう思うべ……」
「確かに動く死体という表現は間違ってませんが……。でもアクア、それは本人の前では言っちゃダメですよ、ウィズが泣きますから」
「そ、そうだね……アクアさんの言い分も分かるけど、差別は良くないですよ」
「なぁんでよぉっ!!」
───────────────────────
その後、俺とクリスが家に戻った真夜中。キャルが突然起き出し、服を着替えて突然屋敷を抜け出した。向かった先は場末といってもいい小さな酒場だった。キャルが中に入ると、そこにはデュークが1人で飲んでいた。キャルはデュークに声を掛ける。
「あんた、城で見かけた男よね?」
「貴様か、ウィックから聞いているぞ。新幹部らしいな?」
「ええ、あたしはバニルの後釜に入ったのよ。アイツは生きてるけど、もうこっちには手を貸す気は無いみたいよ?」
「バニル殿が?……そうか、惜しい人を失ったな」
デュークが安酒をクイッと飲むと、キャルは隣に座った。
「あたしの事は色々聞いてるんでしょ?」
「ああ、ハンス殿の後釜に付いたダニエルからの仕事中なのだろ?」
「そこまで知ってるなら話さなくて良さそうね」
「奢ってやるから情報を寄越せ、Adventuresの事を聞きたい」
「良いわよ?グリムゾンビア1つ」
キャルの前に酒が置かれると、キャルは話し始めた。
「いい?Adventuresの男共が厄介よ。鬼畜のカズマ、鋼のリュウジ、魔剣のミツルギ、この3人の動きを封じれば後はどうとでもなるわよ」
「ベルディア殿、バニル殿、ハンス殿達との戦いで貢献したと聞いている。チャーリーとレオンの詳細は分からんが、その3人を先に始末すればウィズと戦えるのだな?」
「ええ、他の仲間は3人に比べればまだ楽な方よ。だけど、盗賊のクリスっていうのは気を付けて、なんかヤバそうよ」
「会ったことはないが、盗賊系統には気を付けておこう。貴様は今どこに隠れているのだ?」
「サトウカズマの屋敷に上手く潜り込んだわ。鋼のリュウジの所はマリューっていうモンスターがいるんだけど、そいつに目を付けられてるのよ。だから大事をとってこっちに移ったってわけよ」
キャルがそう言うと、デュークは立ち上がって店を出ようとした。
「わかった。何か分かった事があったらこの時間帯にここへ来い、今度は金を払う」
「分かったわ」
そう告げたデュークはキャルと別れた。