キャルの行動に全く気付きもしない俺が家に戻って部屋で休もうと窓のカーテンを閉めようとした時に微かに声が聞こえて来た。窓から下を覗いて見ると外にコートを羽織ったウィズが立っており、俺に向かってちょんちょんと手招きをしていた。俺は窓を開けてヒソヒソとウィズに声を掛けた。
「ウィズ、どうしたの?」
「こんばんはリュウジさん、夜分遅くにすいません。今からちょっと外に出られますか?」
「外?別にいいけど……。ちょっと待っててね?」
俺はコートを羽織ったパジャマ姿で凍てつく外に出ると、ウィズは悩んだ様子だった。
十中八九デュークの事だろうなぁ……。
「おまたせ。こんな真夜中にどうしたの?」
俺がウィズに尋ねると、ウィズは気まずそうに。
「ちょっとリュウジさんに御相談がありまして……」
「相談?ならここじゃなんだし、中に入ろうか」
俺はくるっと後ろを向いて玄関を開けようとすると、ウィズに止められた。
「いえ、皆さんお休み中ですし……良ければ場所を変えませんか?」
「え?いいけど、こんな真夜中に営業してる店なんてあるの?」
「いえいえ、お店に行く訳じゃないんです」
え?んじゃ、どこ?
ウィズの言葉に俺は首を傾げながら尋ねると、ウィズは言い放つ。
「ならどこ行くの?」
「【世界最大のダンジョン】です!」
「え?ダ、ダンジョン?」
「はいっ!そこはダンジョンを名物とした観光街として栄えているんです。私たまにそこへ行って時々魔法素材を取りに行ってるんですよ」
「モンスターだって強いんじゃない?」
「強いですよ?」
「そんなダンジョンに今から行くの!?」
「そうですけど……私も一緒ですよ?嫌ですか?」
ウィズはモジモジしながら俺を見つめてくる。
ダンジョン、確かに魅力的な場所なんだよなぁ。あっ!もしかしてクリスになんかいいプレゼントが見つかるかもっ!
そう考えた俺は。
「分かった。鎧着てくるからちょっと待ってて!」
「ありがとうございます!」
俺は部屋に戻ってジンロウガを装着し、リビングに置き手紙を残してウィズと共に世界最大と呼ばれたダンジョンに向かって行った。
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ダンジョンに入った俺達はダンジョンの地下一階に入った。入った途端にゴブリンの群れに囲まれてしまった。俺とウィズは互いの背中を合わせながら周囲に魔法をぶっ放した。
「『セイクリッド・ライトニングブレア』!!」
「『カースド・クリスタルプリズン』!!」
俺のいるここは、最も深いとされるだけあり、通路の幅や一階層ごとの天井の高さは、ドラゴンですら余裕を持って闊歩できそうな広さがある。そんな所でウィズと俺魔法がゴブリン達をなぎ払うと、ウィズはせかせかと倒れたゴブリンの所持品を漁り始める。
「リュウジさんもどうですか?ここら辺のゴブリンは結構いい物持ってるんですよ?」
「そ、そうなの?どれどれ……」
俺もウィズと同じ様にゴブリンの所持品を漁り始めた。
確かに、宝石などが多い。
バックに宝石を詰め込みながら、俺とウィズは話し始めた。
「ちなみになんですが、ここの最深部には吸血鬼さんがいるんですよ?リュウジさんと仲良く出来ると思います!」
「マジ!?会ってみたいなぁ……。それでウィズ?俺に相談したい事って何?」
「はい……。デュークさんの事なんですけど」
ですよね。
「ま、まぁ予想はしてたよ。それで?」
余程深刻に考えていたのか、ウィズは意を決した様な顔をしながら話し始めた。
「デュークさんは、どうして私の事をあそこまで情熱的に口説くのでしょうか……?」
ん?これはノロケに行く流れかな?
俺が目を点にしてるのにもウィズは気付かず言葉を紡ぐ。
「だって、私はリッチーですよ?なのに、俺はそれでも構わないと、アンデッドになっても美しい、想っている男なんかより俺を選べだなんて言ってくれて」
後半そんな事言ってたっけ!?
ウィズはゴブリンから奪った宝石をコロコロといじりながら、
「それに、会ったばかりだというのにいきなり家庭を持ちたいだなんて……。しかも、可憐なお前に危険な仕事は似合わない、これからは俺がお前を守ってやるから、と……」
言ってなくない!?デュークさん、そこまで言ってなくない!?
「リュウジさん、私は今大事な話をしてるんです、ちゃんと聞いて下さい。……突然プロポーズをされても、私にはAdventuresやバニルさんとの約束もあればお店もあります。そ、それにす、好きな人だって……」
と、ウィズが目を点にした俺に言い放つ。
「なら断ったら良いんじゃない?「好きな人がいるんでごめんなさい」って言えば丸く収まるんじゃない?」
「そんな簡単な話じゃないんです!もっと親身になってくれてもいいじゃないですか!」
「ならどうするの?好きな人いるんでしょ?それとも乗り換える?まだ告白してないならまだ間に合うと思うよ?」
俺がそう突っぱねると、ウィズはムキになって。
「もう!リュウジさんは鈍感なんですか!?目の前でハッキリ言わなきゃダメなんですか!?」
「ぴぇっ!?」
突然、ムキになったウィズが俺を掴んでゆさゆさと揺さぶって来た。
「いい加減気付いて下さいっ!私はリュウジさんが好きなんです!!」
「えぇっ!?」
目元を赤くさせながらウィズは訴えた。俺は突然の出来事で声が出なくなって口をパクパクし始める。
う、嘘だ!そんな訳がない!!
我に返った俺は冗談だと思い、ウィズに言い返す。
「ま、またまたぁ、冗談でしょ?俺なんかを好きになる訳がないよ。弱いし、幸運値マイナスだし、冒険者だし」
「冗談で真夜中にこんなダンジョンに連れ回す訳ないじゃないですか!あなたが好きだからここまで連れて来たんです!。それに、リュウジさんは弱くないですし、冒険者だからってなんですか?冒険者はなんでもスキルが覚えられる職ですよ?幸運値なんて気にしませんし、なにも恥ずかしい事はないです!!」
あれ?デジャブかな?、似た様な事を見たばっかだぞ?
「ま、待ってウィズ!。話がズレてるよ!?、俺に告白しに来たんじゃ無いでしょ!?」
「確かに相談の為にここに来ました。けどこの際、良い機会です。このまま告白しちゃいます!」
ふうっと息を整えて落ち着きを取り戻したウィズは俺の目を真っ直ぐ見てこう言った。
「私はリュウジさんの事が好きです。わ、私とお付き合いして下さいっ!」
いつになくウィズの目は真剣だった。告白されたのは初めてという訳じゃないんだが、友達と思っていた人から告白された俺はびっくりした。
「だ、だめだよ……だ、だって俺達、友達じゃん……」
「私の事嫌いですか?付き合ってる方がいるんですか?」
「付き合ってる人なんていない!その……ごめんっ!」
俺は思わず走り出そうとした。だが、ウィズに手を掴まれた。
「ま、待って下さい!逃げるなんてリュウジさんらしくないです!ハッキリ言ってください。ちゃんと聞きますから……」
俺を掴んで離さないウィズは、今にも泣きそうになっている。
「だ、だって……急に言われたからびっくりして……俺、ウィズとずっと友達でいたい。ウィズの事は友達として好きだけど……、ごめん。上手く言えない……」
「友達……ですか。この先もずっと……」
「うん……ごめん」
ヤバい、ろくな事喋れてない。
俺がゆっくり頷いて謝ると、掴んでいた手を離してくれた。
「帰りましょうか……」
「うん……これ以上戦えそうにないや」
「そうですよね……。ごめんなさい……『テレポート』」
俺はウィズにアクセルの街にテレポートをしてもらった。着いた途端、俺はウィズとは口を聞けずに家の中に入って行った。そして数時間後、朝日が昇り、アクセルの街に朝が来た。一睡も出来ずにリビングに向かうと支度を整えたクリス達が目に入った。ペコリーヌとコッコロは挨拶をして来た。
「おっはよ〜ございます!、リュウジくん!」
「おはようございます、リュウジさま」
「あ、うん。おはよう」
俺は椅子に座ってコーヒーを飲み始めると、クリスに声を掛けられた。
「どうしたの?浮かない顔をしているけど?」
「え?あーいや、別に?」
「ホントに?何か悩んでるの?」
こういう時に限って鋭いヤツめ。
「なんでもない、出掛けるから後よろしくね」
俺は再び自分の部屋に戻ると、マリューが追いかけて来た。
「失礼します。一体どうしたんですか?尋常じゃないくらい顔が暗いですよ?」
「騒ぐな、ドア閉めろ」
「あっ、はい!」
マリューは慌ててドアを閉めると、俺はベッドに座りながらマリューに尋ねた。
「今から話す事は絶対誰にも言わないって約束するか?」
「バカにしないで下さい。私は今までリュウジ様と約束を破った事はありません」
「そうだったな……」
「大丈夫ですか?」
「ウィズに……告白された」
「へ〜、ウィズ様にですか……え?えっ!?」
無表情で話した為か、少し面をくらったマリューは、
「その表情だと……断ったのですね。そこではぐらかしていたならば、ウィズ様が辛い思いをしていたでしょう」
「うん。俺もそう思う」
「理由を尋ねても宜しいですか?」
「友達、恩師としてしか見えなかったから」
俺がそう言うと、マリューは黙って頷いた。
「お互いお辛かったでしょうに……」
「ちょっと頭ごちゃごちゃしてるから、1人にさせてくれ」
「分かりました。気晴らしにブラブラしてくると良いですよ」
「うん」
その後、俺はジンロウガの鎧を着て街を歩き始めると、偶然なのか荷物を抱えたバニルと出くわした。
「これはこれはウチのポンコツ店主を振ったヘボ魔王ではないか」
「声でけーよ!バカッ!」
俺は『しっー!』っと口元に指を添えながらバニルに掴みかかった。だがバニルは大爆笑をしながらひょいひょいと躱し続ける。
「久しぶりの濃厚な悪感情大変美味である!、ヘボ魔王よここでは話しもなんだし店に行こうではないかっ!」
「分かったよ!行けば良いんだろ!?」
バニルは不敵な笑みを浮かべ、俺が渋々ついて行くと……。物陰から突然キャルが現れた。
「へぇ……アイツ、ウィズに告白されたんだ。いい事を聞いたわ」
キャルは不敵な笑みを浮かべ、その場を後にした。
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ウィズの店に着いた俺とバニルは中に入ると、数時間前まで一緒だったウィズが立っていた。とてつもなく気まずそうに俺とウィズは目を逸らした。ここぞとばかりにバニルは、
「フハハハハハ!なんとういう極上の悪感情!大変美味である!」
これを狙っていたのか、バニルは高笑いをし始める。ウィズはカチンと来たのか、バニルに向かって、
「バニルさん!わざわざリュウジさんを探しに行ってたんですか!?やめてください!悪いのは私なのですから!」
と、ウィズが横目でチラチラとバニルを見ると、視線を受けたバニルが鬱陶しそうに口元を歪め、
「朝帰りしたと思えば、先程からずっとこうなのだ。どうしたらも何も、店主を続けるなら留守にしていた分とっとと働け、そこにいるヘボ魔王を選ぶなら無理やり押し倒すなり、ストーカーの嫁になるなり好きにしろと告げてやると、なぜか怒りだしてな……」
「もっと親身になってくれてもいいじゃないですか!私とバニルさんの仲はそんなものなんですか!?私達はお互いの願いを叶えるための相棒でしょう!」
なんて言えばいいんだコレは!?
相棒という言葉に、バニルが心底嫌そうな顔で。
「悪魔にとって契約は絶対であるのだが……。この我輩でも、最近の汝のポンコツ具合にいささか心が折れそうなのだ……。ヘボ魔王と契約をしてゴミは片付けられるのだが3日も持たずにまたゴミが増える……。どうにか汝との契約をクーリングオフ出来ないものかと、日夜知恵を巡らせているのだが……」
「やっぱりリュウジさんとも契約してたんですね!?それに、させませんよ、契約破棄だなんて!いくら私でも、バニルさんがいなくなったらお店が無くなっちゃう事ぐらい分かってます。で、でもほら、世界最大のダンジョンとなると、絶対私にしか作れませんよ?いいんですかバニルさん、難攻不落のダンジョンの奥底で、冒険者を迎え撃つという夢を諦めてしまっても!」
バニルに縋り付きながら必死にウィズが訴えかける。バニルはといえば、こめかみに青筋を浮かべ反論した。
「フラれた店主が何を偉そうに、ヘボ魔王にフラれたなら嫁ぐしかなかろう!なぁに、嫁入りして店主が替わったあかつきには、使える方の新店主とヘボ魔王のスポンサーを付けて店を盛り立て、ちゃんとダンジョン建設費用を捻出してやる!貴様はもう嫁ぐしかないのだ、安心して嫁に行くがいいフラれた店主めっ!」
「きいいいいいっ!」
コイツ容赦ねぇなぁ……。
更にバニルは畳み掛けるように、
「我輩としては店主が汝でなくとも構わぬし、金さえ貯まった時にパート感覚でダンジョンを作ってくれればそれで良いのだが」
「バニルさんはツンデレなんですか!?デレの部分が無さすぎます、もうちょっとリュウジさんのように私に興味を示してくださいよ!長い付き合いじゃないですか、良いんですか!?フラれてヤケを起こした私があの方の方に行ってもいいんですか!?」
そういいながら俺をチラチラと視線を送る。
ウィズはバニルではなく、俺に言っているつもりなんだな。
「バニル、なんとかならねぇか?」
「やれやれ、何故我輩がこんな事をせねば……。分かった分かった、今度はちょっと気合いを入れて見通してやる。見通す事ができたならよほど酷い相手であれば我輩とヘボ魔王で追い払ってやろう。それでいいか?」
なんだかんだでバニルも店を取られるのが嫌なんだろうな。どうする?止めるべきか?
俺がバニルを止めるか止めまいか迷っていると、バニルの目が怪しく光り……。
「ほうほう……。見える、見えるぞ。汝を慕うその男が、この街で貴様の関する情報収集に勤しんでおるわ」
「デュークさん……」
それを聞いたウィズは俺をチラチラと見る。
「……むむ?こ、これは、なんと……!!素晴らしい、素晴らしいぞ!何やら見通し辛いヤツだと思えばそういう事か!フハハハハハ!!」
「な、なんだよ急に笑い出して……何が見えたんだよ」
「一体何が素晴らしいんですか?ていうかバニルさんがそんなに人を褒めるだなんて珍しいですね!?」
「もぉ〜すんごい嫌な予感するんだけど……」
バニルの豹変ぶりに訝しむ中、自称見通す大悪魔は嬉々として。
「見通す悪魔が宣言しよう!汝がその男と会う時。これ以上にない極上の歓喜と幸福を享受する者が生まれるであろう!!」