数時間後。何も知らない俺はバニルと共に仕入れを終わらせてアクセルの街に帰って来ると、街がなにやら騒がしかった。
なんだ?何か起こったのだろうか?
「なんの騒ぎだ?」
「フハハハハ!なに、すぐに分かる。汝はこのまま小僧の屋敷に顔を出してみるといい」
カズマの屋敷?
「意味深だな、何があるって言うんだ?」
「行けば分かる」
なんだってんだ?
俺はそのままバニルと別れ、言われた通りにカズマの屋敷へ向かった。
「おいっす〜。カズマ〜?ウィズの件なんだ────」
俺の目の前には、カズマ、ミツルギ、ウィズ、ダクネス、マヒル、めぐみん、ゆんゆん、アオイ、メリッサがリビングに寝かせられてススだらけのうえに重症を負っていた。アクア、セシリー、コッコロ、ペコリーヌ、マリュー、キャルは慌ただしくカズマ達の治療に励んでいた。
なにこれ……?
俺が唖然としていると、マリューが。
「リュウジ様、どこに行ってたんですか!?」
「いや、バニルの手伝いに行ってたんだけど……」
理解が追い付かない状態で野戦病院の様な光景を見つめていた。
「アクア、魔力が切れる前にカズマを優先に治療して!でないと皆助からないわよっ!!」
「分かったわ!カズマ〜?息できる〜?」
「セシリーさん、農場から薬草取ってきましたよ!」
「ペコリーヌさん、なら急いですり潰して来て下さい!」
アクアがカズマを回復させると、カズマは傷を癒して目を開けた。俺は慌ててカズマに近付く、
「おい大丈夫か!?」
「リュウジ……ゲホッ!」
「カズマ?治ったばかりだからゆっくり喋るのよ?」
俺は『クリエイト・ウォーター』を唱えてカズマに水を飲ませた。
「一体何があったんだ!?」
「デュークが……攻撃して来て……」
デュークが!?
「なんでデュークが俺達を攻撃して来るんだよ!?」
「あ、あいつは……魔王軍幹部候補の1人らしい……俺達もなんとかやり返したんだけど、アイツ堕天使だったんだ」
堕天使だと!?
「んじゃ告白ってのは!?」
「いや、アイツは初めからウィズと俺達を狙っていたんだ」
「なにぃっ!?」
「しばらく俺達は無理っぽいわ、アイツはリュウジとお頭に任せるわ」
カズマはそう言って濡れたタオルを頭に乗せて横になった。そして、俺はウィズの様子を伺った。ウィズの服は所々焦げ、かなり弱っているのかいつも以上に薄くなっていた。
「ウィズ……」
「リュウジ、ウィズは今危ない状態だからそっとしといてあげて」
ゴキゴキゴキ。
突如、リビングに骨を鳴らす様な音が鳴り響く。キャルとコッコロはなんの音かと辺りを見渡した。
「え?何?この音?」
「はい、なんでしょうか?」
ペコリーヌがふと音を頼りに俺の手を見てみると、俺が拳を握った音だと気付いた。ペコリーヌは俯く俺に声をかけた。
「リュウジくん……大丈夫ですか?」
ペコリーヌの声に俺は、
「ペコリーヌ。ここは頼んだ」
「あっ……は、はいっ!」
そのまま屋敷から出ようとした時、あるえがやって来た。出合い頭に俺はあるえに声を掛けられる。
「おや、リュウジじゃないか。ゆんゆんとめぐみんは」
「2人ともそこで怪我してる。俺はちょっと出てくるから手当ての手伝いをしてくれるか?」
「えっ……?」
そう言うと、あるえはリビングを覗くと顔をゾッと青ざめさせた。
「どうしたんだ、2人共!?」
「コッコロ、セシリー。あるえに手当ての手伝いをしてもらえ」
「はっはい。かしこまりました」
「ちょ、そんな目付きで言わなくてもちゃんとするわよ!?」
セシリーの言葉をそのまま無視してバニルの店に戻り、俺は店のドアを思い切り蹴り飛ばした。
「バニル!!」
怒りに満ちた俺がバニルを呼ぶと、
「───────ッ!!フハッ!フワーッハッハッハッハ!!」
激昂している俺をよそに、何がそんなに面白いのかバニルが声にならない声を上げ、床をゴロゴロと転がりながら大爆笑していた。
「これか、お前が言った『見通す悪魔が宣言しよう!汝がその男に想いに応える時。これ以上にない極上の歓喜と幸福を享受する者が生まれるであろう!』ってのは、この事だったんだな?ウィズがデュークに不意打ちを食らった挙げ句にカズマ達もやられたのを見た俺とウィズの悪感情の事を言っていたんだな?」
「フハハハハ!!ゲホッゲホッ…フワーッハッハッハッハ!極上だ!久方ぶりの、超極上の悪感情!美味である!美味である!フワーッハッハッハッハ!」
若干むせながら笑うバニル、俺は『エレクトロ』を唱えてバニルを捕まえようとした。
「てめぇっ!!雇い主が死にかけてんのに何やってんだ!!」
だが、バニルはエレクトロのスピードを見通し、ひょいひょいとかわし続ける。
「待て待てブチギレ魔王よ。その怒りの矛先は我輩ではない」
「あ゛ぁ゛!?」
「その怒りはあの堕天使に向けるがよい」
「アイツは絶対殺す、借りを返してやりてぇ」
バリバリと稲妻を纏っていると、バニルはニヤリと笑った。
「残念だが、あのメンヘラ店主をダウンさせた奴だぞ?いくら竜人化したとしても所詮、人間のお前に勝てる筈が無かろうに」
「じゃあどうすりゃいいんだよっ!?」
「簡単だ。以前の貴様に戻れば良い」
何言ってんだコイツ。
「戻るったって、俺はもう魔王に戻れねぇんだよ。消されちまったんだから!魔族の魔力を多く取り入れたら死んじまうんだろ?」
俺がバニルに言うと、バニルは腕組みをしながら。
「ふむ……今の今まで汝を見通していたのだが、その先がチンピラ女神の様に不愉快な光が邪魔をしてその先が全く見えんのだ」
「えっ……?」
あっ、そう言う事か。
「分かった。ちょっと行ってくるわ」
「堕天使は街に潜伏している様だ。この街の人間を巻き込むと我輩の商売に支障をきたしてしまうのでやる時は一声かけて欲しいのだが?」
「分かった」
俺はそのまま店を出て、テレポートを使ってある場所に向かった。
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俺がテレポートで着いた場所は統一神界。俺はまっすぐエリスの家に向かった。家の中には、机に書類の山を築いたエリスがいた。激昂している俺は声を掛けた。
「エリス!」
「うわっ!びっくりしたぁ〜。何?どうしたの!?」
「お前、下界の様子見てたか!?」
「えっ、見てないけど……何かあったの?」
エリスが頬をポリポリかきながら首を傾げると、俺はため息を吐いた。
「カズマ達がデュークにやられた」
「えぇっ!?デュークさんが!?何かの間違いじゃないの!?」
「間違いだったら俺がここまで来ると思うか?」
「……来ないね。怒ってるのはひしひしと伝わってくるから分かるよ。何が起こったのか教えてくれる?」
「ネメシスも呼べ」
「え?ネメシスも?なんで?」
「いいから言う通りにしろっ!天界監獄の魔王達を脱獄させんぞ!」
俺は怒り任せに竜人化してエリスに言い放った。
「ちょっ、何それ!?そんなスキル持ってる人はいないよ!?」
「そんなのいいから早くしろって!」
「怒鳴らないでよぉ〜。分かったから!」
エリスは慌てて受話器を手に取りネメシスに応答を求めた。
「もしもし?ネメシス?ちょっとリュウジが呼んでるんだけど?うん。なんか凄く怒ってるんだよね……とにかく早く来て!こんなの初めてだから!」
チンと受話器を戻すと、物凄く急いで来たのかネメシスが息を切らしながらエリスの家に入って来た。
「はーっ!はーっ!お待……た、せ……リュウジさん。お久し、ぶりです」
「ほら、ネメシスも来たよ?落ち着いて話してくれる?」
「私を呼んだということは何かあったんですね?」
「ああ。今から話すからよく聞いてくれ。デュークの正体は堕天使だ」
「「ブーッ!!」」
話を聞きながらコーヒーを啜る女神達は堕天使と聞いた途端同時に吹き出した。
「そんな!?神の使いでもある天使が!?」
ネメシスはモニターを呼び出し、デュークを調べ始める。
「堕天使ってことは、何かやらかした見たいですね。ちょっとまって下さいね?デューク……デューク……デューク……あっ、いた」
「やっぱりこの統一神界にいた天使か。どうするつもりだ?ここの天使が落ちぶれて堕天使になって暴れてるぞ?」
「ウィズさん、ウィズさんは大丈夫なの!?」
「ウィズは浄化魔法を食らって重症だってよ。女神共、この事態をどう処理するつもりだ?相手はウィズを痛め付けた奴だぞ?」
「えぇ!?そんな!?」
俺が2人にそう言い放つと、ネメシスは真剣な顔つきで考え始めた。
「これはちょっと面倒な事になりそうですね。よりにもよってイシスター様がいない時に……」
「ぶっ飛ばしてやりてぇ所だけど、今の俺では奴に勝てない。だから少しの間だけ魔王の力を返してくれ」
俺がネメシスに言うとエリスが上擦った声で、
「ちょっとリュウジ!?自分が何を言ってるか分かってるの!?」
「分かってるからこうして交渉してるんだろ?このままだとカズマも死ぬし、俺も死ぬ」
「そ、それは……けど、魔王に戻るってのは見過ごせないよ!」
エリスが俺に言い返すと、ネメシスが間に入った。
「エリス。これはエリスの世界の中だけでの問題じゃなくなってる。私達神々にも責任があるわ」
ネメシスがエリスに向かって言い放つとエリスは俯いて黙り込んだ。ネメシスは俺に苦虫を噛み潰したような顔をして、
「リュウジさん……昔の姿を返して欲しいという事は、魔王に戻ると言う事ですか?」
「ああ、そうだ」
「ご存知だと思いますが、エリスは大の悪魔嫌いです。それでも魔王に戻りますか?」
「ヤボな事を聞くんじゃねぇ。戻れるのか戻れないのかハッキリしろ」
「それは────」
「ダメッ!!」
突然エリスが大きな声で言い放った。
大人しいと思ってたら急にどうした?。
「なんだエリス?」
「魔王に戻るなんて絶対ダメッ!あたしは認めないよっ!」
「お前の許可なんかどうでもいい。ここで無理なら最も深いダンジョンに入って最深部に潜んでいると言う吸血鬼に頼んでアンデッドにでもしてもらうさ。魔族になれば魔王に戻れるんだからな」
「君って人は……魔王を辞めるんじゃなかったの!?」
「辞めようと思ったけど。やっぱり無理だわ」
「えっ……」
俺の言葉を聞いたエリスは顔を青ざめる。そして、俺は座り込んで、
「自分の幻影と戦ってからずっと気になってた……。監獄に入って戦いを捨てて罪を償おうとしていた。だが、現実は上手くいかなかった。熾天使との戦いや、今回の仕事……。俺が出来るのはこんな仕事ばかり……その挙句にこのザマさ」
「そんな事ありませんよ。リュウジさんは一生懸命やってたじゃないですか!!」
ネメシスは俺に駆け寄って俺を宥めようとするが、
「俺はこれが正義だと思って色んなことをやって見た、けど上手くいかなかった」
「深く考え過ぎだよ。リュウジはみんなの為に頑張ってたじゃん」
エリスは今にも泣きそうな顔をしながら俺の背中をさすり出す。だが、俺はずっと俯きながら。
「おかしいとは思ってたんだよ。ダクネスが嫁に行く時、アルダープを追い詰めた時……俺は心の奥では苦しんでる奴を見て、楽しんでいたからだ!」
俺はゴンッ!と音を立てながら拳を床に叩きつけて床に穴を開けた。
「鋼のリュウジはそんな俺を救ってくれたよ。おかげで魔王アンドロマリウスを封じ込める事が出来たから」
「そうだね。頑張ってたリュウジは凄くかっこよかったよ!?」
エリスが懸命に俺を慰めるが、
「だけど今回の一件で目が覚めた。俺は血で血を洗う生き方しか出来ない」
「リュウジさん、もう一度聞きます。本気なんですね?」
ネメシスは意を決した様な顔をしながら俺に確認してくる。
「魔王に戻る時だ……」
「分かりました。たった今より【超法規的措置】を行います」
そう言い放ったネメシスは俺に手をかざした。すると、俺は魔法陣に囲まれた。その魔法陣からは人型の式神が数匹現れ、俺の周りを歌を歌いながら回り始める。徐々に俺の体からは黒い煙が上がり始める。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」
「止めてネメシス!リュウジが!!」
「エリスは黙ってて!」
断末魔を上げていると、俺の体は魔王アンドロマリウスの姿に変えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「リュウ……ジ?」
「リュウジさん、無事に成功しましたよ?」
俺は立ち上がり、自分の体を動かし始めた。
体が軽い、今なら何でも出来そうだ。
「どこまで復元出来たんだ?」
「全てです。不死身の呪いも戻っています」
「どのくらい持つ?」
「そうですね……地上時間で4時間程で効果が切れて人間の姿に戻ります」
「そうか……」
完全に戻ったが、何かが物足りなかった。
「なんか物足りねぇな」
「恐らくマリューさんとストームブリンガーではありませんか?」
「あー、通りで。ストームブリンガーは流石に復活出来ないだろ?」
「全ては無理だと思いますが、混沌の魔剣だけなら復活出来ると思いますよ?出来上がったら届けますね」
「分かった。それと、エリスの世界で覚えた魔法は使えるのか?」
「使えますよ?完全武装のチート能力も健在です」
「そりゃ良かった」
ネメシスと話していると、エリスが突然。
「君は何やってんだよぉっ!魔王嫌い!ホント嫌いっ!」
エリスが玄関のドアから顔を覗かせてこちらを睨み付けていた。
なんだアイツ?
「何やってんの?エリス」
「エリス?見た目は変わっても中身は鋼のリュウジさんのままだから大丈夫だよ?噛んだりしないから入っておいで?」
「時間もったいないから早くしろよ」
「ヤダ!エリス!オマエ!キライ!」
「何でカタコトの言葉で全力拒否してんだよ。野生児か?」
「時間がありません。ご武運を祈ってます!」
「ほらエリス。行くよ?」
「ヤダ!オマエ!キライ!」
俺は野生児化したエリスを無理矢理連れてアクセルの街に戻った。