エリスは目を覚まし、大きく背伸びをしながら隣を眺め始めた。
「くわぁ〜寝た寝た。ってまだ寝てる」
エリスは突然モゾモゾと懐から懐中時計を取り出した。
「えーっと、地上の世界は今お昼前か……」
すると、今度は壁に掛けられた時計を眺める。
「リュウジが統一神界に来てだいたい6時間くらい経ったのか……。リュウジがアクセルの街から出て事を計算すると……。うん、まだ地上時間で6分くらいしか経ってないね。このままもう少し寝かせてあげるか」
そう呟いたエリスはベッドから降りてシャワーを浴び始めた。シャワーから上がって法衣を着替え、そのまま机に向かって行き書類整理を始めた。黙々と山の様に積み重ねられた書類を片付けていると、ドアがノックされた。
「エリス〜?いる〜?」
「ネメシス?どーぞー?」
ドアの向こうからはファイルを片手にしたネメシスが入って来た。
「お疲れ様〜」
「お疲れ様〜。それはデュークの書類?」
「ええ、イシスター様と創造神様の署名を貰って来たの」
ネメシスの言葉にエリスは首を傾げる。
「署名?なんで?今回の件では必要ないよね?」
「そうなんだけど。創造神様が「こちらの不手際だからリュウジくんの要求は出来る限り呑むように」って特例が出たの」
「という事は、『魔王を倒した時の報酬の前借り』って事?」
「そうなるね。リュウジさんはエリスの担当する世界に行く前に『5つ』叶えて貰える様に取り引きしたでしょ?その前借りだね」
「へぇ〜創造神様も太っ腹だねぇ。コーヒー飲む?」
「あっ、いただきま〜す」
エリスは立ち上がってコーヒーを淹れ始めた。注がれたカップをネメシスに手渡す。
「はいどーぞ」
「はいどーも」
「けど、その肝心の人は今眠ってるよ?」
エリスはコーヒーをフーフーしながら啜りながらベッドに指を指した。
「ありゃ、余程疲れたんだろうねぇ」
「デュークもなかなか手強かったしねぇ」
「どのくらい寝てるの?」
ネメシスの言葉にエリスは時計を眺め始めた。
「えーっと、飲んで騒いで6時間寝てて、あたしが書類整理し始めて4時間経ったから……地上時間で言うと、もう半日位寝てるね」
エリスが淡々と話していると、ネメシスはいぶかしげに首を傾げた。
「え……?いくら何でも寝すぎじゃない?いくら夜更かししてる人でもいい加減起きるよ?」
「そうかなぁ?」
「うん。そろそろ起こした方がいいよ」
「そうだね……時差ボケされたら大変だしね……」
ネメシスに促されたエリスはパタパタとベッドに向かい、リュウジを起こし始めた。
「リュウジ?リュウジ?そろそろ起きて?ネメシスが来たよ?」
「…………」
エリスが体を揺すっても寝息をたてながら眠り続けていた。エリスは不思議に思い、首を傾げた。
「あれ?起きない……いつもなら直ぐに起きるのに」
「ええ?起きないの?リュウジさーん!リュウジさーん!起きて下さ〜い!報酬の件でお話があるんですけどー!!」
ネメシスもゆっさゆっさと体を揺すったり、頬をペチペチと叩くが全く起きる様子が無かった。
「あれぇ……起きないよ……」
「えぇ〜……なんか嫌な予感がするんだけど?」
2人の女神は同じ事を考えたのか、一気に顔を青ざめさせた。
「もしかして魔王の力を戻したから!?」
「多分それだと思う。たった4時間で体に凄まじい魔力の負担が!?」
「もし、そうだったとするよ?最悪なパターンって……」
「このまま植物状態だよ!?」
エリスは膝から崩れ落ち、頭を抱え込んだ。
「こんな事が起こるからあたしは反対したんだよぉっ〜!!」
「今更そんな事言ったってしょうがないでしょ!!えーっと……」
ネメシスはウロウロしながら考え始めた。思い付いたかの様にピタリと立ち止まって、エリスに声を掛ける。
「ねぇ?エリス。『眠り』に関する女神や男神に心当たりある?」
「えぇっ!?そんな急に言われても……昏睡状態や植物状態ならリスタルテが思い付くけど……」
「リスタに連絡取ってみるわ!ちょっと魔導具貸して!」
ネメシスは慌てて魔導具の受話器を取りリスタルテに連絡を取ろうと試みた。だが、一向に出る気配は無かった。
「ダメだわ、出ない……」
「おそらくゲアブランデに行ってるから忙しいんだよ。どうしよう!転生者の人間をこんな風にしたあたしらやばいよぉっ!!」
「クビだけじゃ済まないかもね、下手すりゃ天界監獄行きか封印だよ」
ネメシスの言葉にエリスは頭をわしゃわしゃ掻き乱して騒ぎ出した。
「やだぁぁっ!監獄も封印もやだぁぁっ!」
「落ち着きなさいよ!リスタがダメなら……あぁっ!!」
ネメシスは突然大声を出した。エリスは体をビクッとさせて驚いた。
「なっ、何急に!?何か思い付いたの!?」
「アメスだよ!アメスが居たじゃん!!」
「【夢を司る女神・アメス】!?そうだ!アメスがいたよっ!」
「アメスなら今休暇で統一神界に帰って来てるから力になってくれるよ!」
「今度はあたしがかけてみるよ!」
エリスが立ち上がって受話器をネメシスから奪い取り、かけ始めた。2〜3回コールすると、応答があった。
《もしもーし》
「もしもしアメス!?エリスですけど」
《エリス?久しぶりじゃない。どうしたの?》
アメスが尋ねるとエリスは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、
「突然連絡してごめんなさい!ちょっと手伝って欲しいんですけど、今から私の家に来れますか?」
《え?まぁ、いいけど……》
「ありがとう!ネメシスも居るから直ぐに来てね!すぐだよ!?」
ガチャン!
エリスが受話器を叩き付ける様にして通信を切った。その数分後、エリスのドアがノックされた。エリスがバタバタと玄関のドアを開けると、そこには、薄紫色と黄緑色の長い髪に、ハイビスカスの髪飾り、花びらをモチーフにした黒いスカートの服装をした女神がいた。
「ほいっ!久しぶり───」
「久しぶりアメス!」
「アメス〜!久しぶり〜!」
アメスを見た途端、エリスとネメシスはわーわーと泣きながらアメスに抱きついた。
「え、ちょっと!どうしたの2人とも!?」
「助けてぇ!!このままじゃあたしら監獄行きなんだよぉっ!!」
「お願いアメス!!力を貸してぇっ!!クビはいやだよぉっ!!」
「クビ!?監獄!?一体何があったのよ、黙っててあげるから言ってみなさい?」
ネメシスとエリスが顔を見合わせ、覚悟を決めたかのように同時に頷いて。
「「実は……」」
────────────────────────
アメスは事情を聞いた途端、頭を抱え込んだ。
「ってばかぁぁっ!!何やってんのよ揃いも揃って!!」
「すいません……」
「彼の熱意に当てられちゃって……」
「けどコレはまずいわね」
リュウジの頬をつっつきながらアメスはリュウジの容態を確認した。
「うーん。体に外傷は無いようだし、寝てるだけね」
「それが問題なんだってば!」
「かれこれ10時間だよ?流石にまずいでしょ!?」
「ちょっと待って、どんな状態か見てみるから」
そう言ってアメスはリュウジの頭に手を乗せ始めた。
「うーん……夢を見てるわね」
「夢……?」
「10時間も見続けるってある意味凄いね」
「けど、なんで急に眠り続けるの?何が原因なのかな?」
エリスがアメスに原因を尋ねると、アメスは暫く沈黙して考え始めた。思い付いたか、アメスは口を開く。
「もしかすると、心に迷いがあるんじゃない?」
「えっ……?」
「迷い……?」
エリスとネメシスが聞くと……、
「そう。迷い……彼は魔王だったんでしょ?だから迷ってるのよ。例えば……。魔王として生きるべきか、冒険者として生きるべきか……彼は今その瀬戸際にいるって訳ね」
「瀬戸際って……魔族に戻ろうとしてるって事!?」
エリスがアメスに言うと、ネメシスが中間に入った。
「そんな訳ない。リュウジさんは確かに道を踏み外したけど、魔王に戻りたいだなんて言う訳ないよ!」
「けど、今回は魔王に戻りたいって言った」
「それはデュークを倒す為でしょ!?エリス、あんた信じてないの!?」
「信じてるけど……」
エリスとネメシスが言い争っていると、アメスが口を開いた。
「なら、自分で確かめて来たら?」
「え?」
「アメス、それってどういう事?」
エリスとネメシスが同時に首を傾げると、アメスが言い放つ。
「あたしは夢を司る女神よ?他人の夢に入り込ませるなんて朝飯前よ」
「それってプライバシーの侵害にならない?」
「そうだよ、それにもしエッチな夢だったらどうすんのさぁ!!」
「別に無理には言わないわよ。あくまでもこの手もあるって話しよ。どうする?」
淡々と話すアメスを前にエリスは考えた末、決めた。
「分かった。あたし行ってくる!」
「エリス本気なの!?」
「本気だよ。このまま起きるのを待ってても歯痒いだけだし。アメス、せめてリュウジは今どんな夢を見てるか分かる?」
「それはちょっと難しい相談ね。そこまでは見えないわ」
深刻な顔をしながらアメスはエリスに言うと、エリスは顔を歪める。
「仕方ない……エッチな夢じゃなければなんだっていい!あたしを送って!」
「分かったわ。んじゃ、彼の隣に行って横になって」
「うん」
エリスは横になってアメスに顔を向けた。
「で?どうするの?」
「彼に触れながら眠って。その後はあたしの仕事だから大丈夫よ」
「触れるって……どこがいいかな?腕?」
「私なら手を握るけど?」
「そ、そうだね。手を握れば動きやすいからね!ネメシス、悪いんだけど『スリープ』掛けてくれる?」
「はいはい」
エリスはリュウジの手を握って目を瞑ると、ネメシスはエリスにスリープを掛けてエリスは眠った。
「アメス、眠ったわよ?」
「ほーい。あたしの仕事ね」
アメスが両手をかざすと両手が光出した。やがてその光は2人を包み込んだ。ネメシスは祈るように、
「エリス、リュウジさんを必ず連れて戻して!!」
────────────────────────
一方、当の本人は……。
「はじめまして、私はトニー・スターク」
「こちらこそ、僕はブルース・ウェイン」
トニー・スタークとブルース・ウェインは近付いて握手をした。だが2人は握手をしながら、
「ウェイン産業……噂に聞いているよ。優秀な会社だってね」
「そちらはスタークインダストリーズだったね。軍兵器を開発は辞めたのかい?」
「まぁ、色々あってね。兵器開発は辞めたんだ……。この前レオタード君に聞いたんだが、夜な夜な装甲車の様な車が走り回ってるらしいんだ、何か知らないか?」
「いや?僕は知らないな」
俺は目の前で繰り広げられてる夢のコラボをひっそりと堪能していた。
「リュウジ、嬉しい気持ちは分かるが今夜は遊びとは違うんだぞ?」
「はい、はい、分かってます。ちょっと静かにしてて下さい」
「なっ!?」
剣一郎叔父さんが俺を落ち着かせようとしたが、俺はもう手が付けられないほど興奮していた。
「ブルースって呼んでいいかな?それともウェインの方がいい?」
「いや、ブルースで構わないよ?。そっちはスターク?トニー?」
「どっちでも呼ばれてるからブルースの呼びやすい方で構わない」
「なら僕はトニーと呼ばせてもらうよ?商売敵と思われたくないからね」
「そんな事ないさ、君の会社より僕の会社の方が売上高を700万ドルの差で勝ってるだけさ」
「700万ドルか、なら直ぐに追い抜いて見せるさ」
700万ドルっていくらよ?、2人の間に火花が散ってる様に見えるのは俺だけか?
「君はスーツを着て戦うんだろ?スーツを脱いだら何が残る?」
「天才、金持ち、プレイボーイ、博愛主義者」
「これは驚いたな。僕とそっくりじゃないか」
トニー・スタークとブルース・ウェインはお互い近い距離でクールに話し合っていた。すると、剣一郎叔父さんが間に入る。
「2人とも、そこまでだ。今夜は自慢比べをする為に来たんじゃないだろ?」
「もちろんさ剣一郎。僕らはそこまで子供じゃないさ」
「そうとも、僕達は紳士的に話しているだけさ」
あれ?そういえば、俺ってなんの為に呼ばれたんだ?
「あ、あの……?」
「「ん?」」
トニー・スタークとブルース・ウェインは同時に俺の方を向いた。
「夢の共演をこのまま眺めていたいんですけど、そろそろ俺が呼ばれた理由を教えて貰えますか?」
俺がそう言うと、剣一郎叔父さんが2人を席に座らせる。席に着くと、剣一郎叔父さんは話し始めた。
「では、ゲストが到着したので本題に入ろう。実はリュウジには5日後に行われる博覧会で発表される『ある計画』に参加して欲しいんだ」
「えっ?」
計画、なんだろう?
「けど、どうして俺が?」
俺が首を傾げて尋ねると、
「リュウジも剣術が使えるだろう?。どうしても剣術に長けてる人物が必要だったのさ」
剣一郎叔父さんが説明をすると、トニーがスマホを操作してモニターを映し出す。そこには、アイアンマンやバットマンとは違うスーツが映されていた。
「これは……シルバーサムライ?」
「そう、叔父さんが装着していた鎧を2人に協力してもらってリメイクしたんだ」
シルバーサムライ……銀色の甲冑を身に付けたヒーローの1人。映画ではウルヴァリンと戦ってたりもしていた。シルバーサムライと博覧会の計画、何か関係があるのか?
俺が色々考えていると、トニー・スタークとブルース・ウェインが話し出す。
「ヴィブラニウムとアダマンチウムを集めるのに苦労したよ」
「そう。ヴィブラニウムとトアダマンチウムは高価だからね。僕らが矢志田産業のスポンサーになったのさ」
「日本にもスーツを開発するって事ですよね?ですが、日本はそこまで治安が悪くありませんよ?」
俺が言うと、剣一郎叔父さんはぶ厚いファイルを渡した。そのファイルには、『シルバーサムライ計画』と記されていた。