───王都から砦までは順調にいけば歩いて2日の距離らしい。そして、中継地点になる場所にオーエドがあるという。話によると、オーエドは江戸の雰囲気が流れる古風の温泉街らしい。日本の名残りがあるのは、転生された日本人が街を発展させたという。これから俺達はそのオーエドに徒歩で目指していた。
「あの、皆さんお腹とか空いたら言ってくださいね!アオイと一緒におやつをたくさん持って来てますから!」
「飲み物もたくさんあるんで喉が渇いたらいつでも言って下さいねっ!」
「うるさいですよさっきから、初めての遠足に出かけた子供ですか!?今日は夜遅くまで歩くのですから、無駄に体力を減らさないで下さい」
聖テレサ女学院以来の遠出が嬉しいのか、ウキウキしているゆんゆんとアオイが、俺達の先頭を早足で歩く。
「ゆんゆん、アオイ?あんまりはしゃぐと辛いわよ?」
メリッサが呆れながら言う。
そして、浮かれているのがもう2人。
「アクア様!見てくださいっ!変な毛玉が飛んでますよ!?」
「ホントね、これって何かしら?。アクセルの近くでは見たことがない綿毛がフワフワ浮いてるんですけど!?」
「……む。おいアクアとセシリー、それはケサランパサランという綿毛の精霊だ。とても無害な生き物だからそっとしといてやれ。……って言った傍から!」
辺りに漂う謎の毛玉を2人で追い掛けながら、目を輝かせていた。
「あのっ!アクアさん、セシリーさん。ケサランパサランは雪精の亜種とも言われてる毛玉の精霊ですから、あまりいじめるとそれの元締めの大精霊が報復しに来ますよ?」
「そうですよ?また冬将軍の時のようになりたいんですか?」
興味深げに毛玉を追い掛けるアクアとセシリーを尻目にアオイとめぐみんは言う。すると、マリューが尋ねる。
「めぐみん様、本当にちょむすけ様を連れて来てよろしかったのですか?」
マリューはそう言って、楽しそうに歩くペコリーヌの足下に、ちょこまかと纏わり付くちょむすけ指した。
「それは現地に着いてから分かる事です。というか、もしかしたらその子がいてくれるだけで魔王軍幹部への牽制になるかもしれません」
すると、突然。
《ぽーん!マスターリュウジに警告!敵を感知しました!》
「カズマ!ミツルギ!敵だっ!!」
俺がカズマ達に警告したが、一足遅かった。
「待ちな、そこの冒険者共、ここから先は通さねぇぜ!金と荷物を置いて行きなっ!」
そんなベッタベタなセリフを吐きながら道を塞ぐ様に現れたのは、武装した男達の集団だった。無精髭を生やし薄汚れた格好した連中を見た俺は、未だかつてないほどにテンションが上がった。
「ちょっ!カズマ、ミツルギ!山賊が出たよっ!?山賊っ!!」
「うっそ!マジで!?うわっ!本物だっ!」
「このモンスター蔓延るこの世界で山賊なんて非効率的な事をするなんて……!!」
そう言って俺達は目をキラキラさせながら男達に視線を送る。目を輝かせる俺達の言葉に、山賊達は怒りのためかギリギリと歯を食いしばる。そして、俺達は滅多にないビッグイベントに興奮して、
「カズマ!写真!写真撮って!アクセルの街で自慢しようぜ!」
「ずりぃーよ!リュウジ!俺も写りてぇよ!」
「抜け駆けはさせないぞ!僕だって写りたい!メリッサ!撮ってくれ!」
アトラクションに群がらる観光客のようにはしゃぐ俺達に、山賊達が憤る。
「おいお前ら、舐めてんのか!?写真なんか撮ってんじゃねぇ!とっとと金出せって言ってんだ!」
親玉らしき髭の男が目を血ばらせて脅しを掛けた。
名台詞頂きましたっ!!絵に書いたような山賊がおいでなすった!!
「ペコリーヌ!ペコリーヌ!俺達写るから写真とって!」
「だから撮るんじゃねぇよっ!」
「はいっ☆チーズ☆」
「聞いてんのか!?てめぇっ!?」
「お、おい!この女、ハイエルフじゃねぇか!?それにこの服装は王族に違いねぇっ!!」
ザワザワとどよめく山賊達に気にも留めず。
「なんなんだよコイツら、気味悪ぃよ!!写真ばっかり撮ってるし、鎧の野郎は「ありがとう!ありがとう!」って握手してくるしよおっ!!」
俺達のテンションが怖くなったのか、目の前の山賊達が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。
「あっ!待ってくれ!せめてアジトを!、アジトを見せてくれ!」
「頼むっ!村娘もいるんだろ!?囚われた村娘を見せてくれ!」
「お宝が備蓄されているんだろ!?取りはしない、見せてくれ!」
「待ちなさいよ!お宝あるんなら少し渡しなさいっ!」
「アクシズ教に興味がありませんか!?よければ鍋を差し上げ、あっちょ!突然どこへ行くんですか!?、なんのつもりですか!?」
そそくさと逃げるアイドルの様に逃げる山賊を俺達は追っかけファンの様に追い回す。
「コイツらマジでやべぇよ!逃げろ!」
「アジトを見つかるわけには行かねぇっ!散れっ!散れっ!逃げろ!」
余程怖かったのか、半べそをかき始めた山賊を追いかけるとキャルに杖で叩かれた。
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「何やってんのよ!予定が狂っちゃったじゃないのよぉ!!馬鹿じゃないの!?寄って集って山賊を追い掛けるなんて!」
「いやぁ、あまりにも絵に書いたような山賊だったもんで……」
辺りはすっかり暗くなり、野営の準備を終えた俺達は大きめの焚き火を囲んで休んでいた。俺達が何度も先程の山賊を探していたおかげで予定していたオーエドにたどり着けなかったのだ。
「オラも山賊ともっと話したかっただなぁ、ギャグの一発でも見せれば良かった」
「わたしももうちょいお話ししたかったですねぇ」
「ところで、見張りは誰がするのかしら?」
焚き火に枝を放り込み、その上につるした鍋の中身をかき混ぜながらメリッサが言った。マヒルとペコリーヌの特製シチューが良い香りを漂わせる。
「俺とマリューで見張るから先に寝ていいぞ?その代わり明日の朝の飯の支度は頼んだ」
「いや、ここは私がやろう。体力には自信がある、紅魔の里では寝坊してしまったが、今回は任せてくれ」
「ダクネスさん、私はキャンプ見たいで嬉しいですよ!大丈夫、私とアオイが見張りをやります!」
「朝までぐっすり休んで下さいっ!」
申し訳なさそうなダクネスに、ゆんゆんとアオイが明るい声を上げた。
気を遣ってるのか?にしてもめちゃくちゃ楽しそうだな。
そんなゆんゆん達を見上げながら、めぐみんはぽつりと言った。
「……2人ともこれ以上の徹夜はダメですよ?どうせ今回の旅が楽しみで昨日の夜から一睡もしていないでしょうから」
「凄いですねめぐみんさん!?」
「ど、どうして分かったの!?」
どんだけ子供なんだよ。
「あーもーうるさい!俺がやるから」
「なら俺もやるよ、なんせ夜型人間だからな。俺とリュウジなら敵感知スキルや暗視スキルがある。飯を食ったら焚き火を消して、モンスターに見つからない様にしよう」
「や、やだっ!暗闇で俺に何しようとしてるの!?」
「なら僕も見張るよ、戦闘になるかも知れないからね」
ミツルギが志願する中、俺が胸板を腕で隠すと、
「てめぇ脳みそ湧いてんのか!?んな訳あるかぁっ!!」
────そして、遅めの晩飯を食い終わり、歩き疲れた女性陣が眠りに就き、かなりの時間が経った。ミツルギはいつでも剣を振れるようにウロウロして、俺は暗視スキルで辺りを見渡し、見張りに飽きたカズマは女性陣の寝顔が見たいのかそろりそろりと近付いている時だった。
ズルッ!ズルッ!
暗闇の中で何かを引き摺る音が鳴り響いた。俺はカズマとミツルギに声を掛ける。
「カズマ、ミツルギ。この音聞こえるか?」
「ん?なんだ?」
「2人ともどうしたんだい?」
ズルッ!ズルッ!
なんだ?良くわかんねぇな、スライムか?蛇系のモンスターか?
すると、突然ハーレイが声を出した。
《ぽーん!マスターリュウジに警告!巨大モンスターの反応有り!》
「巨大?なら、山賊ではねぇな」
「カズマ、アクア様達を起こしてくれ!アンデッドかもしれない!」
「わ、分かった。おい、起きろ!アクア。アクア!」
俺達はその重い音の方向にむけ、俺は小手を装着し、ミツルギは魔法剣を抜いて身構える。
「マリュー!ペコリーヌ!起きろ!」
「メリッサ!アオイ!セシリー!ゆんゆん!起きてくれ!」
「敵が捕捉出来ない。灯りを付けるぞ!」
メリッサは飛び上がる様に起き上がってダガーを構え、ダクネスが剣を鞘ごと引き寄せ立ち上がり、めぐみんとマヒルがアクアを揺さぶる。
「アクア、アクア!起きて下さい!」
「早く起きてけろ!アンデッドが出たど!?」
めぐみんとマヒルの声に、アクアは動こうとせず。
「眠いからー……今日のところは見逃してあげるわって言っといてー」
「寝ぼけてる場合でねぇど!?」
「このクソバカが!寝ぼけてんじゃねぇ!『ティンダー』!!」
カズマは大声を上げながら魔法を前方の地面に放った。灯りに照らされたものを見て、ズルズルと引き摺る音の持ち主を理解した。
おいおい、まさかこの世界でもコイツに出くわすとはな……。
「あわわわ……!!」
「なんて大きさなんだべか!?」
めぐみんとマヒルがソレを見て、狼狽えた。
「コレは不味いわねぇ」
「嘘でしょ!?こ、こんな所に、なんで!?」
「大ドクマンドラゴラより遥かに大きい!?」
名が通ってるメリッサですら、様子をうかがい喉を鳴らす。
「早くセシリーとアクアを起こしなさい」
俺達は目の前に立ちはだかるソレを見上げる。
「グガァォァォォォァァッ!!」
耳を塞ぎたくなるほどの音が闇夜に響く。咆哮を上げたのだろうが、喉が既に腐り落ちているためまともな発声が出来ないのだろう。
「わぁっ!おっきいドラゴンゾンビですね!ヤバいですね☆」
「くっそぉぉっ!ゾンビじゃなければ欲しかったですねぇ!」
「皆、来るぞ!」
ダクネス、ペコリーヌが剣を抜き身構える。
「グガァォァォォォァァッ!!」
ダクネスとペコリーヌからの敵意を感じ取ったのか、不気味な咆哮を響かせ、巨体を引きずりこちらに向かって……!
「ミツルギ、ペコリーヌ、ダクネス!足だっ!ドラゴンゾンビの足を切り落とせっ!」
「分かった!」
「はいっ!やっつけちゃいますよ〜!」
「わ、私も行っていいのか!?分かった、任せろ!」
3人は同時に前足を同時に攻撃すると、ドラゴンゾンビはバランスを崩して倒れ込んだ。
「メリッサ!アオイ!今だっ!」
「任せなさいキョウヤ、『バインド』!!」
「植物の皆さん、力を貸して下さいっ!」
ミツルギの指示によってアオイとメリッサにより拘束され、ドラゴンゾンビは動きを封じられた。そんな中、たった1人だけ、闇夜の木々に身を潜めながら通信魔石を使っていた。
「こちら、キャル。ウィック?聞こえる?」
《聞こえている。こんな時間にどうした?》
そう、その1人というのは、キャルだった。
「今Adventuresはオーエドに向かってるの。今は野営中よ」
キャルは辺りを見渡しながら通信相手のウィックに話しかける。
《そうか、後どれ位で到着するんだ?》
「明日の朝方には到着する予定よ。まったくアイツら、山賊に絡んだから予定が狂ったわ」
《ふっ、おかしな連中だな》
「まったくよ」
《それで?今連絡して感づかれないのか?》
「今はあたしが大きくしたドラゴンゾンビを相手にしてるわ、気付かれる前に戻らないとね」
キャルは爆発音や衝撃音が聞こえる方向に顔を向けながら様子を伺う。
《腹いせにモンスターの襲撃か?意地悪なヤツだな》
「うるさい」
《ふんっ、まぁいい。朝方に到着する予定なら明日一番にオーエドにも軍を派遣させよう》
ウィックがそう言うと、キャルは顔を引き攣らせる。
「あんた、そんな事勝手にして良いの?ウォルバクに怒られるんじゃないの?」
《問題ない。勇者候補を何人か仕留めたからな、多少は優遇されている》
「あっそ。んじゃ、そろそろ戻るわね」
《ああ、分かった》
そうして、キャルはスカートのポケットに通信魔石をしまい、バレないように眠そうな顔を装いながら戻って行った。
「ちょっと〜。何を騒いでんのよぉ」
「キャル!?今までどこに行ってたんですか!?ドラゴンゾンビですよ!早く加勢して下さいっ!」
慌てふためくめぐみんに言われるとキャルはダルそうに、
「ドラゴンゾンビなんだからアクアにやらせればいいじゃない!浄化魔法を使えるんでしょ!?」
「そ、それが」
めぐみんが指さす方向を見てみると、
「アクアーっ!アクア様ぁぁー!早くなんとかしろぉぉぉっ!」
「んー……。ドラゴンゾンビぐらい……ゼル帝の手にかかれば……」
カズマが必死に起こそうとしている中、アクアがうるさそうに寝返りを打っていた。
「あー、なるほどね。ならあたしとめぐみんでぶっ飛ばすわよ!」
「分かりました!」
キャルとめぐみんは呪文を詠唱を始めた途端。
「『ターン・アンデッド』!!」
アクアとセシリーの魔法を受けたドラゴンゾンビが、声にならない悲鳴を上げ光と共に浄化された。