オーエドの街で激しい攻防戦があった後、直ぐに復興が始まりあっという間に元通りになった。俺達はその後、街の人達から街を守ってくれたお礼として大きな宿を用意してくれた。全てが落ち着いた頃には深夜を過ぎており、カズマ達は疲れたのか温泉入った途端直ぐに寝てしまった。俺はそんな中、ブツブツ文句を言いながら温泉に入ろうとしていた。
「クソが、ペコリーヌと一緒に入ろうと思ったらいつの間にか寝てるし、結局混浴出来てねぇじゃねぇか!こうなったら帰ったらサキュバスを使ってペコリーヌとお風呂で……ぐふふふふふ」
そう決めた俺は気を取り直して、引き戸に手を掛けガラリと開けると。そこでは赤髪のお姉さんが風呂に入っていた。
「……あら?誰かと思えば随分懐かしい顔ね。お姉さんの事覚えてる?以前アルカンレティアの温泉であった……」
柔らかな笑みを浮かべ何かを言いかけた人に向けて、俺は迷うことなく言い放った。
「jack pot!!」
「今なんて言ったの!?」
───未だ怯えるお姉さんから距離を取られ、温泉へとゆっくり浸かる。
「ふぅ、温泉は何回入ってもいいもんだなぁ……」
「そ、そうね……」
「そんな変な人を見る目で見ないで下さいよ。綺麗な人が入ってたから喜んだだけですから」
「そ、そう?ていうか、ほとんど初対面に近い相手に意味不明な言葉を発せられたら、怖がるのも仕方ないと思うの。なんていうか、目が血走ってるし……」
お姉さんはネコ科を思わせる特徴的な黄色い瞳に怯えた色を漂わせている。
キャルみたいに猫の獣人なのかな?いや、猫耳ねぇしなぁ。
「あの、聞いてる?」
「あっ、ごめんなさい!俺も思い出すのに時間かかってしまって。アルカンレティアの時は失礼しました」
俺はお姉さんにぺこりと頭を下げた。
「あの時はこっちも悪いのよ、ごめんなさいね。ところで、あなたはどうしてオーエドに?この辺りは強力なモンスターが多いわよ?」
「俺ですか?俺は仲間と一緒にこの先にある砦に向かうんですよ。そう言うお姉さんはどうしてここに?」
「私?……そうねぇ。私は、日々頑張っている自分へのご褒美に、大好きな温泉をってところかしらね?後は、そう簡単に見付かるとは思ってないけど、自分の大切なパートナー探しってとこかしら?」
と、そんな意識の高そうな事を言い出した。
「パートナー?相棒探しってところですか?」
「まぁ相棒っていうか、力を封じられたもう1人の私っていうか……まぁ、今では半分諦めてるんだけどね?」
お姉さんはそう言って、少し寂しそうな表情を浮かべた。
「諦めちゃうんですか?俺の仲間に紅魔族やエルフ族がいますから聞いてみましょうか?これも何かの縁ですし」
「ええと……紅魔族は遠慮しておくわ……大丈夫、そういう系じゃないから気にしないで」
引きつった顔をしながらも、お姉さんは笑みを浮かべた。
「そ、そうですか?まぁそういうならいいんですけど……。俺、お姉さんの事嫌いじゃないんですよね?恋愛的な意味じゃなく、なんていうか、フィーリング的な意味なんですけど」
俺がそうあっけらかんとした顔で言うと、お姉さんは何だか楽しそうに。
「あら、嬉しい事を言ってくれるのね。なんだか奇遇ね、私も同じ事を考えていたわ。私達なにか共通するものがあるのかもね?」
「共通……なんでしょうね?」
俺が首を傾げているとお姉さんは、巻いたタオルからお湯を滴らせながら立ち上がった。
「それじゃあ、私はもう行くわね。この辺りは魔王軍との激戦地に近いから出来れば王都に引き返した方がいいわよ?」
「ご忠告ありがとうございます。大丈夫っすよ、こう見えても俺もそれなりに名が通ってるんでね?」
「そうなのね。なら、また会えると思うわよ?」
お姉さんは冗談めかしてそう言うと、楽しげに笑いながら出て行った。俺はお姉さんが出て行ったしばらくした後、こう叫んだ。
「あっ!、仲間に勧誘しとけば良かった!!」
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翌朝。ゆっくり休んだ俺達は、意気揚々と砦に向かっていた。
「なんだよリュウジ、バカみてぇに機嫌が良いな?」
砦の道を行きながら、カズマが言ってきた。
「聞いちゃう?カズマさん、それ聞いちゃう?聞きたい?」
「もったいぶらずに早く言えよ!なんだよ!」
「いやぁ、お前が寝てる間に温泉にまた入りに行こうとしたら、以前アルカンレティアの街で話した美人のお姉さんに再会してな?」
「はぁ!?マジかよ!?」
「おう、いやぁ有意義な時間でしたわ!」
俺が機嫌良くカズマに自慢していると、ペコリーヌが動きを止める。
「へ、へぇ〜……それは良かったですね。ということは、リュウジくんは私とじゃなく知らない人と混浴をしたんですか?」
「そうなりますね。だってペコリーヌ寝てたじゃん?」
聞き耳を立てていたらしいマリューが俺の言葉を聞いて、
「あの騒動のあとだというのに女が1人というのは何だか怪しいですね?魔王軍の手先だったのでは?」
「その辺は大丈夫じゃないかな?そのお姉さんは色々忠告してくれるくらいだから」
気楽に言う俺に向け、俺達の会話に興味津々だったアオイとゆんゆんが首を傾げ。
「あの、山賊なんかに出会ってその人は大丈夫だったんですか?」
「多分ですけど、私達が絡まれたあの時の山賊じゃ?もしそうだとしたら無事では済まなそうですけど……」
「ほう。ボッチコンビは大人しそうな顔をしているわりに、相変わらずいかがわしい妄想だけはたくましいですね」
足下をちょろちょろ駆け回るちょむすけを避けながら、ゆんゆんとアオイの疑問をめぐみんが混ぜっかえすと、ゆんゆんが突然キレた。
「ちょっと待ちなさいよ!相手が山賊なら普通考えるでしょ!?大体、めぐみんにだけはいかがわしいだとか絶対言われたくないわよ!あんた、カズマさんと一緒にお風呂入ったり布団で寝たりしてるんでしょ!?めぐみんこそとんだビッチよ!」
「おい、それを自分で言うのはいいけれど、人からあらためて言われると恥ずかしいので止めてもらおうか!」
「知ったこっちゃないわよ!」
以前、紅魔の里で妙な見栄を張ったせいでゆんゆんから逆襲を受けるめぐみんを見ながら、俺はあのお姉さんの事を思い出していた。
あのお姉さん……仲間にしたいなぁ。
─────その後、俺達は薄暗くなる頃には、目的としていた砦に到着した。
「でっけぇな」
「ああ、日本で言うところの大阪城くらいだな」
そして今、俺達は王城と変わらない大きさの砦を見上げていた。最前線を維持する砦なだけはあり、その頑丈そうな外壁は易々と破壊できるものではない。
「この砦がたった1人の魔王軍幹部に落とされそうだってのか?いくら魔王軍幹部だからってさすがに無理じゃないのか?」
「1人とは限らねぇぞ?数人の勇者候補が殺されてるんだ、油断出来ねぇぞ」
「魔王軍幹部が……2人もいたら……ゴクリ……」
カズマが怖気ついていると、砦の見張りが俺達を見付け、中から数人の騎士が現れた。
「そこの冒険者。ここは魔王軍を食い止めるための砦だ。一体この地に何の用で来た?」
真冬の中ノコノコと現れた俺達に、警戒しながら騎士の1人が近付く。すると、ミツルギが前に出た。
「ボク達はこの国の危機を知り、援軍に来た冒険者です。僕はソードマスターで、クルセイダーやアークウィザードの上級職もいます」
「上級職……。なるほど、それはありがたい。だが、身元を証明出来る物を拝見させてら頂きたい。魔王軍幹部により数名が犠牲なってしまったので、どうかご協力を。えっとまずは……」
ミツルギが冒険者カードを差し出すと、それを受け取った騎士が固まった。
「魔剣のミツルギ殿!?まさか、ここでお会い出来るとは……それに、鋼のリュウジ殿に、トレジャーハンターのメリッサ殿まで!?お会いできて光栄です!!」
俺やミツルギに慌ててカードを返した騎士は、カズマのカードを確認し訝しげな顔をした。
「サトウ……カズマ……。サトウカズマ!!あの、悪名高いサトウカズマか!王都ではアイリス様に余計な事を吹き込み、クレア様やレイン様に散々迷惑を掛け追い出された、あの凶悪な!?」
「おい待ってくれ」
お前どんだけ評判悪いんだよ。
「申し訳ありません。その、この砦は魔王軍との最前線を守る拠点なんです。ですので、知らない人物を中に入れるわけには……」
「あんた、さっき俺の名前知ってたじゃねぇかよ!」
おっと、思わぬところで足止めなんだが?。
と、それまで後ろに控えていた隊長と覚しき男が前に出た。
「貴様があの悪名高いサトウカズマか。冒険者の分際で、なんだその態度は?不審人物としてここで斬って捨ててもいんだぞ?」
隊長は、剣の柄に手をかけながら威圧するように脅してきた。カズマが悪く言われたのにカチンと来たのか、めぐみんとダクネスが前に出る。
はぁ、めんどくせぇ……仕方ない。
俺はため息を吐いてペコリーヌの方を向いて、
「ペコリーヌ。ちょっと脅かしてやれ」
「そうですねぇ、ここは寒いですからね」
ペコリーヌはそう言いながら前に出ると、ペコリーヌの動きを見て、周囲の騎士達がこぞって剣の柄に手をかけた。
「なんの真似だエルフの女騎士、我々に歯向かう気か!?」
ペコリーヌはスっと真顔になって貴族らしく丁寧な自己紹介を始めた。
「お初にお目にかかります。私はエルフの森の第一王女、ユースティアナ・フォン・ネフェリアと申します」
「「なっ!?」」
ペコリーヌの言葉に騎士達が、途端に青ざめ跪いた。いきなりそんな事を言われたダクネスやめぐみん、ゆんゆん、アオイ、カズマまでもが騎士達と一緒に跪いている。
「お前らまで何ビビってんだよ」
「ペコリーヌが王女だっての忘れてた……」
「す、すいません。不意打ちだったもので、場の雰囲気に流されました」
「わ、私は、ペコリーヌさんがエルフの森の王族だったとは知らなかったもので……」
皆が膝を払いながら立ち上がる中、隊長がおそるおそるといった感じで問いかけた。
「ほ、本当にユースティアナ様ですか……?いえその、申し訳ありませんユースティアナ様、我々は貴方様のお顔を存じ上げておらず、とんだご無礼を……その、疑う訳でもないのですが、これも仕事なので一応確認を取らせて頂いても……」
その言葉に、ペコリーヌは鎧の紋章を見せ、それと一緒にカードを見せた。それを見て、隊長の顔面が青から蒼白に変わった。
「もももももも、申し訳ありませんっ!ユースティアナ王女とはつゆ知らず、貴方様とお連れの方にとんだ無礼をっ!」
「おおっと?これはとんだ手の平返しですな!いやー、あとちょっとで斬られるとこだったかと思うと心が痛むわー。一生物のトラウマ植え付けられた気分だわー。魔剣のミツルギ、鋼のリュウジより弱くてすいませんっ!ああっ、胸が苦しい……」
好機を逃さんとカズマが途端に強気になり、わざとらしく胸を押さえる。そしてめぐみんが、カズマね意図を察したのか────
「おっと、これはいけませんね!まったく、鋼のリュウジのお供によくもまぁ随分なら態度を取ってくれましたね!」
言いながら、先程の鬱憤を晴らす様にオラオラと杖の先っちょで隊長の腹をゴンゴンと突く。
「謝って!私達を攻撃しかけた事を謝って!ほら早く、ごめんなさいって謝って!」
「そうよ!謝りなさいよ!謝らないならこの入信書にサインしなさいよ!」
めぐみんに腹をつつかれアクアとセシリーにはチンピラの様に絡まれ、隊長はこめかみをひくつかせながら無抵抗のまま静かに目を閉じて頭を下げた。
気の毒に……。
「も、申し訳ない……。本当に、申し訳ない。ユースティアナ王女のお連れ様に危害を加えそうになった事、本来ならばこの行為は打首ものです。しかしながら、その……」
言い淀む隊長の肩に調子に乗ったカズマは馴れ馴れしく手を置くと。
「いやいや、俺達もそこまで求めてないですよ。そちらさんもお仕事なんでしょうしね。ですが、俺達もここまでの旅で疲れてましてね?誠意を見せろとは言いませんが、ここに留まる間部屋を用意して欲しいなーなんて……」
「それはもちろんご用意させて頂きますとも!ユースティアナ王女とそのお供の方に相応しいお部屋を!」
顔をひきつらせながら頷く隊長達に、ペコリーヌはニコリと笑った。カズマ達が堂々と砦に入って行く中、俺とミツルギは隊長達に声をかけた。
「すいませんねぇ……ウチのチンピラ達が無理を言って……」
「後でボクらが叱って置くのでここは耐えて下さい……」
「いえ……」
「それでなんですけど、時間が惜しいのでこの砦の見取り図などを用意して頂けませんか?」
俺がそう言うと、隊長が首を傾げる。
「それは構いませんが……何をするのです?」
「総力戦になる可能性があります。なので少しでもこの砦と兵力を把握したいんです」
隊長は察したのか、慌て始める。
「分かりました!見取り図を用意し、直ちに軍議を始めましょう!」