雪がちらつく中新年が明け、初日の出が登る前に俺達Adventures、勇者候補、騎士団が会議室に集まって明日に始まる戦いの軍議を始めようとしていた。ペコリーヌを上座に座らせて俺はその隣でピリピリと張り詰めた雰囲気の中口を開いた。
「今から明日の総力戦に向けて軍議を始める」
俺は、連合軍一同を見回した。
「こっちの数こそ少ないけど、地の利、人の利はこっちにある。様々な可能性を駆使し、俺達にしか取れない軍略で勝利を掴む!。そこで門を守るには……東門には俺とカズマ。西門にはめぐみん、ゆんゆん、キャル、ダクネス。南門には王都勇者候補。北門にはミツルギ、アオイ、メリッサ。そしえ荷車搬入口にはマリュー、マヒル、騎士団だ。兵士達はそれぞれの門に配置してくれ。外壁を直したアクアとセシリーは治療に専念してくれ」
軍議の最中、作戦会議室で突然めぐみんが手を挙げて、
「私達には兵士は必要ありません。その代わりに、爆裂魔法を撃たせて下さい」
流石はめぐみん、爆裂魔法で仕留めたいのか。
「俺との約束だからな、良いぞ」
だが、ここでペコリーヌが手を挙げた。
「あの、わたしはどこを守れば良いんですか?」
何言ってんのこの子。
騎士団の兵士や隊長がぎょっとした。王女様を最前線で戦わせたら流石にえらいことになるのを悟った皆は一斉に顔を逸らした。
「今回ばっかりはペコリーヌは大人しく本陣にいなさい」
「はーい……」
ペコリーヌはしょんぼりしながらしぶしぶ頷いた。
「では、皆さん。配置に付きましょう!」
「「「おうっ!」」」
Adventures、勇者候補、騎士団はそれぞれの持ち場に付き、西門を担当するダクネスが外壁の上からめぐみん、キャル、ゆんゆん共に眺めていた。
「これが、邪神の兵か……」
ダクネスの視界いっぱいに、敵が広がっている。ダクネスは呪われた聖剣を握りしめ、敵の大軍を凝視した。魔王軍の精鋭部隊の距離はわずか数百メートル程だった。初日の出が現れたと同時に、魔王軍の精鋭部隊が遂に動き出した。
「かかれぇっ!」
号令が響き渡った途端、魔王軍の精鋭部隊が一斉に歩き始め、積もった雪をどんどん押し潰して行った。
「私が囮になる。めぐみん、キャル、ゆんゆんは詠唱を頼んだぞ!」
「分かりました!ただ、ヨダレは拭いて下さいね?」
「ヨ、ヨダレなんか垂らしてないっ!」
「どの口が言ってんのよ!出してるじゃない!」
「あ、あの。どうしてそんなに興奮してるんですか?」
「こ、興奮なんかしてないっ!さぁっ、早く門を開けるんだ!」
兵士が慌てて門を開けると、ダクネスが呪われた聖剣を振り回し、奇声を上げながら飛び出して行った。
「な、なんだあの女騎士は!?」
魔王軍の兵隊が奇声を上げる姿が目に入った。西門を攻め込もうとする魔王軍の隊長は、
「気味の悪い奴めっ、魔法だ!魔法を撃てぇっ!!」
「お待ちくださいっ!まだ撃たせてはなりません!!」
奇声を上げるダクネスがよほど不気味だったのか動揺してしまい、思わず命令してしまった。ダクネスは頬を真っ赤にしながら両手を広げて立ち止まると、無数の上級魔法は、ダクネスに直撃した。だが、土煙が晴れると。
「さあっ!もっと、もっとだ!弱りきった私を捕虜にして鎧を剥いで見ろ!寧ろやって見せろ!ここを攻め落とすのが目的のようだが、どうせそれだけでは収まらないのだろう?私達を見るその視線で分かるとも、捕虜にした貴様らはきっとこう言うのだ!「おい、よく見ればコイツら上玉ばかりじゃねぇか!へへへ、コイツは高く売れるぜ!」もちろんここで終わるはずもない!「ウォルバク様、売り飛ばす前に俺達にも味見させて下さいよ」と!そしてウォルバクはニヤニヤしながらこう言うのだ!「もちろんよ。楽しんでらっしゃい」と!」
「なんなんだあの女騎士は!?変な妄想してるぞ!ウォルバク様はそんな事言わねぇよ!!さっさと撃ち殺せ!」
魔王軍の隊長は上級魔法を催促したのだが、たったいま放ってしまったので魔法が撃てなくなっていた。
「何をしている!早く撃てぇっ!!」
チャンスと思ったのか、めぐみんとゆんゆんがダクネスの隣に立って、
「『エクスプロージョン』!!」
「『アビスバースト』!!」
「『ライトオブセイバー』!!」
めぐみん、キャル、ゆんゆんは上級魔法を放ち、西門の迫り来るモンスターや、魔王軍はあっという間に全滅した。
その頃、俺とカズマが守る東門は、苦戦していた。というより、この東門を守る総勢150人は手も足も出ない状態だった。絶え間なく続く中級魔法の中、俺は門の前で椅子に座ってぼーっと見ていた。
「やれやれ、好きなだけ撃たせておけ」
「おい、どうすんだよ!門が破られちまうぞ!!」
カズマが狼狽えながら俺の肩を揺さぶるが、俺は微動だにせずに。
「さっき作戦立てただろ?その通りにやればいいんだよ」
俺は不気味に微笑むと、外から魔王軍が騒ぎ出した。
「そろそろ良いだろう!門を打ち破れ!!」
魔王軍の隊長が采を振った。先頭の群れを割って、砦の門を破るための巨大な丸太があらわれた。丸太は、近くの森の大木を切り倒して来たものらしい。丸太は轟音をたてて砦の門に激突した。ズシンと、門が揺らいだところで、俺は椅子から立ち上がった。
「さて、そろそろかな?」
「門が破られます!!」
何度目かの激突ののち、丸太が遂に東門の門を打ち破った。東門に1番乗りした魔王軍の隊長が大声で叫んだ。
「東門、1番乗りぃぃっ!!」
隊長が大声で叫ぶと、
「うぉりゃぁぁぁっ!!」
俺は事前にエレクトロを唱えており、強化した状態で隊長を門の外まで殴り飛ばした。吹っ飛ばされた隊長は群れに倒れ込むと、俺は門の外まで躍り出た。
「残念だったな、ここはハズレだぜ?」
ゴキゴキと両手を鳴らして俺は敵を見回した。魔王軍は突然の出来事に度肝を抜かれたのか、その場にへたり込み、ある者は驚愕の悲鳴を上げながら後ずさりした。
「かかって来ねぇなら、こっちから行くぞ!!」
俺が駆け出したと同時に、他の魔王軍が一気に押し寄せて来た。1人2人と殴り蹴り、20匹の精鋭部隊と俺とで押し合いになった。
「人間如きに何を手間取っている!相手は1人だぞ、押し返せ!」
陣太鼓を叩きながら鼓舞する魔王軍に対して、門の方からは、竜人化したカズマがやって来て、
「おーい、リュウジ〜。そろそろ限界かぁ〜?」
あん?
カズマに発破を掛けられた。頭に血管を浮き立たせながら俺は、
「う、る、せ、ぇぇっ!!まだだぁっ!!」
地面をえぐりながら魔王軍を押し返した。カズマは唖然としながら、
「魔王ってすげぇんだなぁ……」
俺は暴れ回りながら突き進むと、魔王軍が突然下がり始めた。
なんだ?
不審に思った俺は、ピタッと足を止めると、突如空に赤い魔法陣が現れた。カズマは空の魔法陣に指をさして、
「爆裂魔法が来るぞっ!?」
「くっそ、チェストブレイクじゃ歯が立たねぇっ!」
「もう良いだろリュウジ、戻って来いっ!」
「くっそぉぉっ!!カズマ、作戦Bだ!」
爆裂魔法が放たれる前に俺は砦の中に慌てて逃げ込み、再び門を閉めた。それと同時に、爆裂魔法が外壁に直撃した。爆風が落ち着くと、魔王軍の群れの中から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「どういう事なの!?」
ん?
俺とカズマが砦から顔を覗かせて見ると、プルプルと震えているウォルバクが見えた。
「おい、何の話だ?」
1番の顔見知りで会話もした事がある俺が、兵士達に見守られながら声を掛けた。そんな俺の態度が気に入らなかったのか、ウォルバクがバンバンと足踏みし。
「壁よ、壁!直ってるじゃないのよ!。この前まで崩壊寸前まで追い込んだのに砦の壁にアートが加えられ、私が来る前よりさらに分厚くなってるじゃない!」
「あー、コレ?ウチの補修隊長の仕業でな?」
「誰よそれ!?まぁいいわ、爆裂魔法が効かないならこの期を逃すことは無いわ。さぁ、突撃しなさいっ!」
ウォルバクの号令により、魔王軍は再び進軍し始めて突撃を開始した。門を再び打ち破るかと思いきや、
「今だっ!開けろ!」
カズマが命令を下した途端、呆気なく門が開いた。全力疾走で突撃した魔王軍は滑る様にバランスを崩して転び始める。魔王軍は滑る原因となった黒い液体を両手ですくって、
「こ、これはなんじゃあ!?」
「コレはあ、油だっ!!」
「な、なんだと!?」
魔王軍は顔をゾッとさせていると、砦の小窓から火のついた矢を構えたカズマがニヤリと笑って、
「『狙撃』っ!」
火矢が地面に突き刺さり、雪景色の中、一気に辺りを火の海にさせた。それを一部始終見ていたウォルバクが、
「どういう事なの!?」
「ウォルバク様、罠にかかりました!!」
「見れば分かるわよっ!」
魔王軍の兵隊が火だるまになりながらウォルバクに報告すると、悔しそうな顔をしながら、
「これ以上は危険ね、一時撤退するわよっ!」
ウォルバクが燃え盛る門に背を向けると、俺は仁王立ちしながら言い放った。
「邪神様が尻尾を巻いて逃げるのか?今度はもっと強い奴を寄越すんだな!!」
俺は、大声でわめいた。ウォルバクは何を思ったのか、
「あなたはホントに面白いわね。いいわ、新入りを連れて来るから首を洗って待ってなさい」
ウォルバクは大声を出して返答すると、小さく笑い、
「ウィックに出撃の準備をするように伝えなさい」
そう命令すると、ウォルバクはテレポートを唱えて撤退して行った。それにつられる様に、兵士達も来た道を戻って行った。それを見届けた俺とカズマはハイタッチをして勝利を確信した。
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その後俺達は、皆が待っている広間に戻ると、騎士団の歓声が迎えた。俺とカズマはドヤ顔をしながら歓声に応えた。やがて各方向から歓声が聞こえて来た。俺は周囲を見渡した。そこには、めぐみん、ゆんゆん、キャル、ダクネス、ミツルギ、アオイ、マヒル、メリッサ、マリュー、騎士団隊長、勇者候補がぞろぞろと現れる。
全員無事に戻って来たな……。
ペコリーヌに顔を見せようとしたその時、
「あ!リュウジくん、カズマさん、おいっす〜☆」
エプロンを身につけて、拳より大きなおにぎりをお盆に載せながら歩き回るペコリーヌがいた。
「ペコリーヌ、おにぎりを握ってくれたのか?」
「はいっ!こんな寒い中皆さん戦ってますし、わたしにも何か出来るか考えたんです」
「それでこそペコリーヌだな。俺にもひとつくれないかな?」
俺がペコリーヌに頼んでみると、
「はいっ☆東門を守ってくれてありがとうございます!」
「ありがと。うほっ、超美味そう〜!いただきまーす」
俺は、おにぎりを掴み上げた。
「俺にもくれっ!」
「俺にも!」
「私にも!!私にも下さいっ!」
「あわわっ!慌てないで下さいっ!たくさんありますから!」
途端に、ペコリーヌの前には長蛇の列が出来上がった。ペコリーヌのおにぎりを食べた兵士達や勇者候補は、みなぎってくる様な顔をして気力を取り戻し、しだいに笑いがこぼれ始めた。俺は皆の反応に満足すると、歩き始める。
「士気は高い。これなら勝てるな」
俺はおにぎりにかじり付いた。だが、この時……、俺達はキャルが姿を隠してウォルバクの元に向かっていたのに気が付かなかった。
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その頃、魔王軍の陣では……。敗走した魔王軍達が続々と集まって来た。ウォルバクはその中心に立っていた。
「問題は勇者候補とAdventuresね……。大軍を擁したところで今回の様な策を出されたら痛い目を見るだけだわ」
この指摘は、各門に共通することであった。いずれの攻める門も、勇者候補やAdventuresのために同時に攻めることが出来ず、そこを突かれた。
「ウォルバク様。あの鋼のリュウジは何者なんですか!?冒険者ごときにあのような策略が出来るでしょうか?」
と、魔王軍の兵士が言う。さらに別の兵士が、
「考えすぎだろ。敵ながら冒険者どもが粒揃いなんだ」
そう驚嘆の声を上げる。ウォルバクは椅子に座りながら策を考え始めると、
「お困りの様ね?」
「なんだ貴様はっ!?」
軍の群れの中を割って入って来たのは……キャルだった。魔王軍の兵士達は武器を構えてキャルを囲むと、
「やめなさい。彼女は私達の仲間よ」
「な、なんと!?」
「全員武器を下ろしなさい、彼女も魔王軍幹部の1人よ」
「───────っ!?」
魔王軍の兵士達は慌てて武器を下ろし、頭を下げ始める。キャルはツンとした態度を取りながらウォルバクの隣に座った。座ったキャルは、ウォルバクを向きながらテーブルに肘をつけて、
「どう?あいつら強いでしょ?」
「そうね、流石だわ」
「で?、何が知りたいの?」
キャルがそう言うと、ウォルバクは足を組み換えして、
「あの外壁を直したのは誰なの?」
「外壁を直したのは青い髪をしたアークプリーストのアクアって奴よ。あいつが手を加えるとなんでも器用に直しちゃうのよ」
「そう……補修隊長とか言ってたけど、その子が直したのね」
「ええ、そうよ」
「相手の総大将は誰なの?」
ウォルバクがそう言うと、キャルは口を開いた。
「エルフの王女が今総大将を請け負ってるわ」
「エルフの王女まで来てたの!?、てっきり私は鋼のリュウジが総大将だと思ってたわよ!?」
ウォルバクが驚きながらキャルに言うと、キャルは口を歪ませて、
「ペコリーヌはあくまでもお飾りなのよ!実質兵士達を動かしているのは、鋼のリュウジとサトウカズマよ」
カズマの名前を聞いた途端、ウォルバクは首を傾げた。
「サトウカズマ……どこかで聞いた事があるわね」
キャルも思い当たる節があるのか、ウォルバクに。
「あー、おとぎ話の勇者でしょ?確か、サトウだったわね」
「そう!それよ!まさか彼が」
「ないない!有り得ないわよっ!あたしが聞いた話だと、サトウって名前はあいつの国で1番多い名前らしいわよ」
「どういう事なの!?」
余計に訳が分からなくなってきたウォルバクは頭を抱え込んだ。
「そう言えば、紅魔族の子達に黒猫が居たわね?」
「え?ちょむすけの事?可愛いわよね」
「別に可愛いとか聞いてないわよ。いえまあ可愛いと言えば可愛いんだ……け……ど?」
と、そこまで言ったウォルバクが、突如として動きを止めた。
「ねぇあなた、今黒猫の事なんて?」
「ちょむすけよ?あたしも最初はヘンテコな名前だと思ってたけど、最近ではわりかし悪くないんじゃないかと思えて来てるわ」
「どういう事なの!?ねぇ?本当にどういう事なの!?私の半身がどうしてそんな目にあってるの!?」
「知らないわよっ!欲しいなら攫ってくればいいでしょ!」
騒ぎ出すウォルバクにキャルが食ってかかる。ウォルバクは落ち着きを取り戻して、
「そうね、正攻法が無理なら汚い手を使うしかないわ。ウィック?仕事よ」
「そう言えばアイツどこにいるの?」
「ここだ」
キャルが辺りを見渡した瞬間、ウォルバクの真後ろに立っていた。
「どっから出てきてんのよ!?」
「で?俺は何をすればいい?」
「そうね、1、アクアというアークプリーストの暗殺。2、勇者候補の暗殺。3、私の半身の黒猫の奪還よ」
「了解した」
ウォルバクがウィックにそう指示すると、ウィックはシュッと姿を消した。