ブギーマンが襲撃して来た朝、爆睡していた俺は昨晩の騒動をカズマと共に聞いた。
「ブギーマンが!?」
「もう1人の魔王軍幹部って奴か?」
「ああ、金獅子はそいつと戦ってる厄介な奴だ」
「あの金獅子さんと!?マジかよっ!?」
と言っても俺なんだけどね。
アクアの話によると、酒のつまみが欲しくなって夜中歩いていた時にブギーマンが忍び込んでちょむすけの奪還と、勇者候補達を暗殺しに来たらしい。その後、ミツルギと戦闘になってる間に殺された勇者候補達を蘇生したという。
「あいつ何しに来たんだろう?」
「なんでちょむすけを奪いに来たんだろうな?」
知らず知らずのうちにカチコミにあっていたのはまずかったな。向こうも奇襲を掛けてくるなら、俺達もやり返すか。
カズマも同じ事を考えていたのか、俺と顔を見合わせてカズマが言ってきた。
「なぁ、もしかして同じ事考えてないか?」
「奇遇だな。多分同じ事を考えてる」
その後、俺達は集まって作戦を立てた。
「よし、当作戦の最終確認だ。これより俺、めぐみん、キャル、ゆんゆんは潜伏スキルを使いながらリュウジ達が攻め込んだ敵本陣に接近し、その後魔法の射程圏内に敵を捉えた後、爆裂魔法を叩き込んでテレポートで帰還する。リュウジとミツルギは他の勇者候補達と共に反撃に備えていて欲しい」
俺とミツルギは頷き、聞いていた騎士達と勇者候補達は歓声を上げた。
やられたら、やり返す。倍返しだ!
「今回はめぐみんちゃんとキャルちゃんがメインなんですね!ヤバいですね☆」
「えちょっ、待って!?あたしも行くの!?」
いつの間にか数に入れられていたキャルが顔を引き攣らせて言い出す。
「当たり前だろ。エクスプロージョンと同じ位のアビスバーストを持ってるんだから」
「そっそうだけど!?そうだけども!?」
キャルはどこか気まずそうな顔をしながら俺の意見を頑なに拒んでいた。
なんでそんなに嫌なんだろう?
「リュウジがこの間襲撃したのにも関わらずまた嫌らしい手を……けど、こちらの方が被害が大きかったのは確かだが…………」
この砦で俺より防御力が高いダクネスと、植物で補強できるアオイ、支援と回復が出来る上に外壁修理が可能なアクアとセシリーは俺とミツルギと一緒に待機だ。砦で殺られた勇者候補や兵士達は腹に据えかねているのか、カズマに激励を送っている。その後、攻撃部隊のカズマ達を見送った俺達は砦から見守っていると、爆裂魔法が降り注いだ。千里眼で様子を伺っていると、魔王軍が蜘蛛の子を散らすよう逃げ惑っていた。
「俺達が苦労して倒した数を一瞬で超えた…………」
「すごいですね、めぐみん様の爆裂魔法は…………」
俺とマリューが唖然として見ていると、ゆんゆんとキャルのテレポートで戻って来た。
「────大戦果だっ!」
テレポートで戻って来たカズマ達は、砦に着くなり俺達皆に聞こえる様に報告した。勝利を喜んでる中、俺が外を見てみると。
「ミツルギ」
「予想通り、来たね」
「おい、野郎ども!配置につけっ!」
向こうも先程の攻撃がよほど頭に来たのか、ブギーマンの姿も見えた。俺とミツルギはそのまま外に出て、迎撃を始めた。ブギーマンに殺られた勇者候補達も殺気立ってブギーマンに向かって行った。
──────それからというもの…………。
「『エクスプロージョン』ッッ!」
「『アビスバースト』ッッ!」
「わぁぁぁぁぁっ!?」
「また来たぞ!逃がすな、捕まえろ!」
「ウィック様が残機を減らしていない時来やがって!生かして帰すな、囲め囲め!」
魔王軍の精鋭たる、鬼やら悪魔やら色んな姿形の連中の、そんな声を聞きながら。
「『テレポート』!」
────毎日バラバラの時間に敵陣へと襲撃を続けたカズマ達は。
「『エクスプロージョン』ッッ!」
「『アビスバースト』ッッ!」
「食料庫が!食料置き場が消し飛ばされたぞ!?」
「ちくしょう、またかよっ!寝起きに襲撃とか勘弁してくれ!」
「ウィック様とウォルバク様を呼んでこいっ!あいつらを迎撃してもらおう!」
「ウォルバク様は既に爆裂魔法で攻撃を仕掛けた後だし、ウィック様は残り残機がないから戦線を離脱した!」
「もうしばらく!もうしばらくの辛抱だ、あと少しで砦の壁が打ち破れる!そうしたらウィック様と共に一気に雪崩れ込んでそれで終わりだ!」
「今日こそは逃がすな、テレポートを使わせるんじゃ…………」
「『テレポート』ッ!」
────日夜、嫌がらせの様に爆裂魔法と雷光魔法を撃ち込み続け。
「わははははははは、我こそはアクセル随一の大魔法使い、めぐみん!さぁ、今日も私の経験値になってもらおうか!」
「めぐみんあんた、目的変わって来てるわよ!?ちょっと気持ちいいのは認めるけど!?」
「出たあぁぁぁぁ!」
「逃げろ!逃げろぉぉぉぉぉぉ!」
「密集するな!あの紅魔族と裏切り者は数が多い所に撃ち込むんだぞ!向こうへいけ!」
「違う、そっちじゃない!もっと散らばってバラバラに!!」
「『エクスプロージョン』──────ッッ!」
「『アビスバースト』───────ッッ!」
────2人のレベルが面白い様にどんどん上がり、毎日の様に魔力と爆裂魔法と雷光魔法の威力が上昇していく事に快感を覚えためぐみんとキャルが、おかしな笑い声を上げながら魔法を撃ち放ち始めた頃。
「ふはははははは、わはははははは!さぁ、今日も私が来ましたよ!」
「うひゃひゃひゃ、わひゃひゃひゃ!あたしも来たわよー!」
「よし分かった、降参だ!ほら、こんがり肉をあげよう!」
「俺にはまだ小さい子供がいるんだ!命だけは助けてくれ!」
「あーくそっ!一時休戦してる時に降伏してれば良かった!」
「その通りだ!鋼のリュウジはこれを見越してたから一時休戦を申し込んだんだ!争うなんてバカげてた事だ!」
「降伏する!頼む!武器を捨てたぞ!まさか無抵抗の相手を」
「『エクスプロージョン』────ッッ!」
「『アビスバースト』────ッッ!」
─────敵はカズマ達の姿を見るだけで。
「めぐみんキャル、あっちだ!あいつらバラバラに逃げてる様で、一つの方向に向かってるぞ!」
「了解です!さぁ、誰一人として逃がしませんよ!」
「あったりまえよ!ネズミ一匹逃がさないわよっ!」
「うわぁぁぁぁ、ウィック様、ウォルバク様ぁぁぁ!」
「俺、生まれ変わったら魔族じゃなくて猫になるんだ……。それで
毎日美人のご主人様に餌をもらって可愛がられて……」
「これは夢だ。そう、目覚めたらいつも通りに散歩に出掛けて、帰って来る頃には母さんが狩りたてのブラッドファングでステーキを……」
「おおお、俺は魔王軍幹部候補と目されている男だぞ!?俺を生かしてくれれば、きっと魔王様が身代金を…………!」
「『エクスプロージョン』─────ッッ!」
「『アビスバースト』───────ッッ!」
─────泣いて逃げ回る様になっていた。
「逃がしませんよ!逃がすもんですか!…………ああっ、待てっ!」
「おーっと、逃がさないわよっ!」
「…………よし、もう十分だ。今日のところは帰るとしよう」
カズマ達が魔王軍を襲撃し始め、何日が過ぎたのだろう。最初の内こそ爆裂魔法と雷光魔法を撃ち込まれると反撃とばかりに砦に攻め寄せていたのだが、俺達が迎え撃ち続けた為、今ではすっかり士気も失い、陣を捨てて魔王領に逃げ帰らないのが不思議なくらいの状態になった。
「あの、リュウジさんが考えたこの作戦なんですけど……もうどっちが魔王軍なのか分からないんだけど…………」
カズマ達に付き合わされたゆんゆんが、引きながら呟いていた。ここ最近では、めぐみんとキャルの姿を見るだけで土下座してきたり、地面に寝転がって目を閉じて祈りだしたり、もはや逃げる事すら敵わないとばがりに様々な反応があった。
「困りましたね。これでは効率の良いレベルアップが出来ません」
「そうよね?、ちょっとカズマ、なんとかしなさいよ」
「いや一応言っとくが、お前らのレベルアップするためにやってるんじゃないからな?」
「さて。ではゆんゆん、今日のところは帰りましょうか。キャルとの決着を付けられないのが残念ですが、連中がリュウジ達にボコボコにされて陣に戻ってきた夜中にでも襲撃してやりましょう。テレポートの準備をお願いします」
「そうね、今日のところは勘弁してあげるわ」
めぐみんがそう言ってキャルが疲れた顔をしながら、杖を下ろして肩に乗せた、その時だった。
「探したわよあなた達。やっと会えたわね?」
ここ最近は砦の外壁の破壊する事を諦めたのか、すっかり攻めてくる事もなくなったウォルバクが、苦々しい顔をしてそこにいた。
「鋼のリュウジは一緒じゃないの?」
ウォルバクはカズマを真っ直ぐ見つめ、くすりと小さく笑い掛けた。ウォルバクは黄色い瞳をスっと細め。
「あなた達は暴れ過ぎたわね。…………これ以上見過ごすわけにもいかないのよ。彼とはこれ以上戦いたくないんだけど、仕方ないわね」
「ちょ、ちょっと待った!俺もあんたと戦いたくないんだよ、聞いたぞ?リュウジと風呂に入った仲なんだろ!?」
「「「えっ!?」」」
カズマの言葉にめぐみん、キャル、ゆんゆんの3人がハモる。
「…………この状況で、あの時の事はあまりいい広めて欲しくないんだけど…………彼は案外口が軽いのね」
「「「えっ!?」」」
カズマが必死に説得しようとしてるのに3人がうるさい。
「あ、あの、何だかその子達に誤解されてるみたいなんだけど…………」
「誤解って言っても、リュウジは裸を2回目も見てる訳ですし…………」
「見せたけど!いや、正確には見られたけれど!!」
と、ウォルバクは空気を変えようと目を細め、キッとカズマ達を睨み付ける。
「ここ最近ウチの子達を頻繁に襲いに来るあなた達の事、調べさせてもらったわ。ベルディア、チャーリー、ハンス、バニル、セレスディナ、シルビア。この6人の名前に覚えがあるわね?」
ウォルバクがAdventuresに関わって来た幹部達の名前を挙げる。
「ウォルバクさん耳赤いですよ」
「おだまり!」
リュウジとの混浴云々のくだりが恥ずかしかったのか、カズマの指摘にウォルバクが、耳だけでなくほんのりと頬を赤くした。
「確かに2人を除いて4人には覚えがある。けど、リュウジはここぞという時は冗談を言わない。あんたと戦いたくないってさ」
「彼なりの正義があるんだろうけど、私にも正義があるの。それに私の半身を返してもらわないといけなし、6人の幹部を倒すだなんて、まるでお伽話の勇者見たいじゃない?」
「きっとそれは人違いです」
カズマが否定するが、それも虚しく。
「それはどうかしらね?鋼のリュウジといい、魔剣のミツルギといい、ますます見過ごせなくなったわ。知ってる?お伽話の勇者の名前を」
そう言ってウォルバクは勝ち誇った顔を見せてきた。
「……勇者の話は知らないけど、一応名前を聞いてみても?」
「あなたと同じサトウという名よ」
「あの、サトウというのは俺の国で一番多い名前なんですが…………」
ウォルバクはカズマの事を勇者の末裔と勘違いしているらしい。隅の方でキャルは小さく顔を横に振っている。
と、その時。
「あの」
構えていた杖を下ろしためぐみんが。
「私の事、やっぱり思い出せませんか?」
頬を赤くし、瞳を赤く輝かせながら。だがウォルバクは、そんなめぐみんを一瞥すると。
「前にも言ったけど、覚えてないわ。…………でも大丈夫。これからは、あなた達の事はよく覚えておくわ。多くの部下を葬った敵対者として」
「ッ!?」
そう言って、話は終わりだと言わんばかりに魔法の詠唱を開始した!
「お、おい待てよ!、リュウジに手を出すなって言われてるのに!!」
「まずいわカズマ!アイツ、本気よ!!爆裂魔法を撃つ気よ!」
「やっぱりな!ゆんゆん、テレポートの詠唱を!!」
「わわ、分かりました、い、今すぐっ!」
爆裂魔法を唱えだしたウォルバクに、ゆんゆんが慌てて魔法を唱える。
「めぐみん!何してるの!?逃げるわよ!?めぐみん!!」
「……………………」
キャルが声をかけるが、めぐみんは覚えていないと言われたのがショックだったのか、それとも別の理由なのか、逃げることも無く。カズマは慌ててポケットを探り、何かを取り出した。
「『ティンダー』ッッッッ!!」
コンパクト化されたダイナマイトに魔法を唱え、ウォルバクに向かって投げつけた。投げつけられたウォルバクはそれを見て、魔法を中断すべきか、避けるべきか一瞬だけ動きを止め。それが爆発するのを見届けることなく、カズマは惚けているめぐみんの腕を掴み、ゆんゆんの傍に引き寄せた。
「『テレポート』ッッッッ!!」
ゆんゆんの声を聞きながらカズマは目を閉じた。
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俺がミツルギと共に次の手を考えている時に、カズマ達が会議室のど真ん中に転移されて来て崩れ落ちた。
「な、なんだよその慌てよう…………なんかあったのか!?」
俺は床の上に座り込んだカズマ達に、尋ねた。
「危うく爆裂魔法を喰らうとこだったんだよ。ポケットに入ってたダイナマイトを投げつけて逃げて来た。俺の運がいいって話を、初めて実感したよ」
「あのダイナマイトを投げつけた!?」
「すごいな、カズマ。一矢報いたのか」
「少し休んでろ。見張りは俺達が」
─────とその時。
「お、おい、あれってウォルバクじゃないのか!?」
それは誰かの声だった。砦内の窓を見ていた勇者候補の一言に、皆がこぞって窓に張り付いた。そこには、砦に向かって真っ直ぐ歩いて来る、あちこちから血を滲ませたウォルバクの姿。
「あのウォルバクが傷だらけだ!」
「サトウカズマって言ったよな。やるなぁ…………」
「アクア様から聞いたぞ、あんた、俺達みたいな特典貰ってないんだろ?」
カズマがそう言われて複雑な顔をしている時、誰かが言った。
「なぁ、何か弱ってるみたいだし、今なら倒せるんじゃないか?」
それを聞いた勇者候補達は、顔を見合わせ。
「よし、行くか!魔王軍の精鋭だって壊滅状態だしな!」
「見た目は綺麗なお姉ちゃんなんだけどなぁ。そうも言ってられないしな」
「甘い事言ってると俺らが死ぬしな。おい、戦えるやつは準備しろ!ウォルバクが倒れたら、そのまま魔王軍の残党に仕掛けるぞ!」
勇者候補達が息巻いて外に出ようとした時。
「待て!」
俺は大声で勇者候補達を呼び止めた。俺はそのまま歩き出し、
「ここは俺にやらせてくれ。最後に説得してくる」
「鋼のリュウジ…………」
数多の勇者候補と騎士達は黙って俺が通る道を開けて見守った。めぐみんはちょむすけを抱き抱えたまま俯いて黙っていた。すると、浮遊マントが俺の背中にくっついて来てウォルバクに向かって歩き始めた。すると、ウォルバクは。
「サトウカズマ…………やっぱり勇者の末裔なんじゃないの?変な爆発魔法なんて使うだなんて」
あちこちから血を滲ませローブをボロボロにしたウォルバクから、皮肉じみた言葉を受けた。
「あれは俺達の国にある産物だよ。まさかそこまでダメージを追わせるとは俺も思ってなかった」
俺は浮遊マントを靡かせながら皮肉を返すと。
「なぁ、もういいだろ?これ以上無駄な争いはしたくない。半身がなくても生きていけるんだろ?」
「あの子を見逃すってのは無理ね。だってあの子の力をもらえないと、このままだと私消えちゃうもの」
そう言って、ウォルバクは俺に薄くなった右手を見せた。
「消えるのか!?なんでだよ!!」
「酷く力を失ったから、このままだとやがて自分の半身に取り込まれちゃうのよ」
って事は…………?
「このままだと、ちょむすけに取り込まれるって事か?もし、仮にちょむすけを渡したら力を取り戻すのか?それとも、合体とかするのか?」
「いいえ、自らの手であの子を消滅させるのよ。私は怠惰を司り、あのこは暴虐を司るの」
「なるほどな、封印を解かれた時に別れたって訳か」
俺がそう言うと、ウォルバクはこくりと頷く中。浮遊マントはウォルバクに近付きたいのか、グイグイと俺を引っ張った。俺はエルフの森の国王が言ってた事を思い出した。『魔力が上昇し、”神秘的”な力を宿す』と。
そうか、最近浮遊マントが騒いでいたのは新しい主を見付けたからか。
全てを理解した俺はウォルバクに言った。
「なぁ、ウォルバク」
「なに?」
「ちょむすけはやれないけど、助かる方法があるぞ」
俺がそう言うと、ウォルバクは目を見開いて、
「嘘よ!?そんなの、ある訳がないわ!」
「あるんだよなぁ、これが」
「随分な自信ね、聞くだけ聞いて良いかしら?」
ウォルバクは苦しそうにしながらもくすりと小さく笑った。俺はそのままウォルバクの手を取って、
「俺の仲間になれ」