俺がそう言い放った途端、ウォルバクは目を点にした。
「な、何を言ってるの!?私を仲間にするですって!?」
「うん。見た感じウチの爆裂魔法使いの子と顔見知り見たいだしな?俺としては顔見知り同士戦わせたくないのもある」
「知らないって言ってるじゃない!。あなた、正気!?魔王軍幹部を仲間に引き入れるなんて何を考えてるの!?」
ウォルバクは血を腕から滴らせ、体は徐々に薄くなっていた。
時間が無い、早く助けなきゃ!!
「お前もう限界なんだろ?俺が助けてやるから仲間になれって言ってるんだ」
「…………無理よ。私は怠惰を司るのよ?」
「それがどうした?俺は前の世界で怠惰の呪いにかかってるし、統一神界では怠惰の魔王にも会った事あるし、暴虐の魔王にも会った。今更驚かねぇし、怖くねぇ」
「け、けど!!」
ウォルバクは崩れ落ち、その場に座り込んだ。俺はウォルバクの手を取って抱き抱えた。
「あんたは十分戦った。別に魔王軍と戦えとは言わない。あんたの弟子もあんなに立派になってんだしさ、今後はアイツが暴走しないように面倒見て欲しいし、ウィズが立ち直れるように毎日お茶飲みしてくれると助かる」
優しく言うと、次第にウォルバクの目からは涙がこぼれ始めた。
「めぐみん…………」
「やっぱり知り合いなんじゃねぇかよ。ほら、言えよ」
「…………わ、私は…………」
ウォルバクが何かを言いかけた途端、何かが落下してきたような衝撃音があり、地面が激しく揺れた。
「!?」
俺はウォルバクを抱き抱えながら肩越しに振り返る。弱り切ったウォルバクはその場で首を動かした。俺達からそう離れていない場所にもうもうと土煙が立ち上がっている。煙の奥に人影が見えた。
この殺気…………まさか!?
俺達の前には、ブギーマンことウィックがゆっくりと顔を上げた。
「ウォルバク、なんだその無様な姿は?」
「ウィック…………ごめんなさい。私はもう、降りるわ」
ブギーマンが両目を細めると、ふっと消えた。─────次の瞬間には、ウォルバクの眼前にブギーマンのダガーが迫っていた。あまりの速さに身動ぎも出来なかったウォルバクの横で、俺は反応した。
「『ブルーインパルス』!!」
青い稲妻が突きぬけるようにブギーマンの顔面を狙ったが、ブギーマンは素早く避けて大きく飛び下がった。だが、ブギーマンの頬に擦れた傷が出来ていた。ブギーマンはニヤリと笑って、
「腕を上げたな、呼吸法を習得したか」
「浮遊マント、ウォルバクと逃げろ!その間、俺が時間を稼ぐ」
浮遊マントは頷く様に動き、俺から離れてウォルバクを包む様にして飛び去って行った。俺はブギーマンを睨み付けた。
「なんで俺じゃなくウォルバクを狙った?あそこで俺を狙えば殺せたのに」
俺はそう告げると、ブギーマンは不気味に笑って。
「何故かだと?裏切り者を始末したまでだ」
「裏切り者を始末だと?今する事か?」
「ああ、降伏した者には命はない。たとえそれが魔王軍幹部屈指の魔術師だとしてもな」
対するブギーマンの声は淡々としたものだった。
「お前、昔の俺と似てるな。ざっくり言うと、お前大っ嫌いだ」
「そうか……俺も裏切り者や弱い奴は大嫌いだ」
さも気が合うなと言わんばかりにブギーマンが笑う。口調はむしろ郎らかですらあるのに、ぞっとする程冷たい声だった。
「どうやら、俺とお前とでは基準が違うようだな」
「そのようだな」
「そろそろいい加減、かかって来い」
「そうだな。いいだろう!本気で貴様を殺してやる!」
ブギーマンが右足を強く踏み込むと同時に俺も左足を強く踏み込んだ。
「『暗殺術ババヤガ』」
「『エレクトロ』」
俺の足元に青緑色の稲妻が迸り始め、ブギーマンの足元からは黒い渦が浮かび上がった。
「鋼のリュウジ、貴様を殺す」
「奇遇だな。俺もお前をぶっ潰す」
俺とブギーマンがにいっと嗤う。互いの体から目に見える程の闘気が立ち上った。
「さぁ、始めようか───────」
言葉通り、ブギーマンがこちらへ向かって来る。繰り出されるダガーを、俺はチェストブレイクの小手で迎え撃った。ブギーマンは俺の鋭いパンチを紙一重でよけ、再び攻撃に転じた。間髪入れずに繰り出されるブギーマンのダガーを、俺は振り向きざまに小手で受け流す。
「貴様も魔族なんだろう?裏切り者を始末するくらいなんだというのだ!」
ブギーマンのダガーの斬撃が一つ、俺の右腕を掠めた。俺は痛みを堪えると、体を捻って左回し蹴りを繰り出した。青緑色の稲妻が横切る打撃を平然と受け流したブギーマンは、ダガーを振るいながらなおも叫んだ。
「鋭い蹴りだ!もっと全力を見せてみろ!」
「ぐっ」
顔面に繰り出されたブギーマンの蹴りを俺はガードする。鉄のように重い蹴りは俺のガードをこじ開け、左目にダメージを追った。俺は少しよろめいたが、直ぐに攻撃に転じた。
「暗殺術」
「『ライトニングフィールド』!!」
俺は辺りに青緑色の巨大なドームを創り出し、ライトニングフィールドの稲妻とエレクトロの稲妻を反発させて体をフワッと浮かせ、そのまま猛スピードでブギーマンに突っ込んだ。
「『ファントム・グラディウス』!!」
対するブギーマンはダガーでそれを迎え撃った。幾重のドス黒い斬撃は俺のチェストブレイクにぶつかり合う。そのあまりの激しさに周囲に土煙が舞う。ここでようやくカズマ達が俺の元へやって来た。カズマは息を切らせながらたどり着くと、両者の動きを目で追うのがやっとだった。
俺の右ストレートがブギーマンの腹に当たると、ブギーマンは血を吐きながら膝を着く。それに、アクアが興奮した声で叫ぶ。
「喰らったわ!、やったの!?勝ったの!?」
「お前って奴は!どうしてこういうバトル展開でもそんなフラグ的な事を言うんだ!!」
「カズマ!アレを見てくださいっ!」
カズマは何かを見つけためぐみんが、ウォルバクを包んだ状態の浮遊マントが岩に寄り添っている所を指しながらカズマに言った。
「アレは確か、リュウジの空飛ぶマントだよな?なんであそこに!?」
カズマ達はウォルバクを包んだ浮遊マントに近付くと、浮遊マントは脈打つようにドクンドクンと音を立てていた。
「何かしら?まるで繭のようね?」
「浮遊マントは何を包んでるんだ?おい、お前言葉が分かるんだよな?何を守ってるんだ?」
カズマは浮遊マントに声を掛けるがピクリとも動かなかった。すると、めぐみんが杖をギュッと握りながら浮遊マントに手を触れた。
「この中に…………”あの人”がいるんですね?」
「めぐみん、分かるの!?」
ゆんゆんが驚いた様にめぐみんに言うと、めぐみんは。
「分かりませんが、何か感じるんです」
「めぐみんさんがそういうなら私は信じます!」
「なら私も信じよう。こっちに気付かれないようにめぐみんと浮遊マントを囲もう」
覚悟を決めたダクネスは聖剣を抜いてめぐみんと浮遊マントを守る様にした。それをみたメリッサやアオイ、マリューとペコリーヌも真似をして、
「めぐみん様。我々が守るので今のうち言いたいことを言ってはどうです?今なら話しを聞いてくれるかも知れませんよ?」
「そうですよめぐみんちゃん!」
ペコリーヌに促されためぐみんは覚悟を決めて浮遊マントに声を掛け始めた。
「あの時、助けてくれてありがとうございます。あなたのおかげで私は強くなりました」
俯きながら話しを始めためぐみんは、ぐっと涙を堪えてながら更に続ける。
「今度は…………私があなたを守ります」
そう呟いた、その時だった。
浮遊マントが反応したかのように、突然脈打つ音が少しずつ早くなっていた。突然の出来事にアクアとマヒルが騒ぎ出した。
「ちょっとちょっと!なんか音が早くなってるんですけど!?」
「めぐめぐの声が届いたんだべか!?」
そして遂に、浮遊マントが動き出した。スルスルと包んだマントを解いて行くと、眠っているウォルバクが浮遊マントを身に付けた状態で現れた。血を滴らせる程の傷を癒し、薄くなっていた体も元に戻っているウォルバクはゆっくりと目を開いて、目を覚ました。
「ちゃんと聞こえてたわよ。めぐみん」
「───────っ!?」
名前を呼ばれためぐみんはどっと堪えていた涙を流し始めた。ウォルバクはめぐみんの頭を撫でると、アクアが呟いた。
「感動してるところ悪いんですけど、この人から神格を感じるんですけど?」
アクアが感動する空気をぶち壊し、突然そんな事を言い出した。
「えっ?どう言う事だよそれ!?」
「私は怠惰と暴虐なんて印象良くない感情を司ってるけど、れっきとした女神なのよ?」
「嘘ついた!ねぇカズマ、今この自称女神が嘘ついたわ!」
「この嘘つき!嘘つきは泥棒の始まりなんですからね!」
目覚めたばかりだったウォルバクが、きりきりと眉を吊り上げた。
「ちょ、ちょっといきなりどういう事?私は確かにその昔、れっきとした女神だったわ。魔王軍に所属してからは、アクシズ教団とかいうおかしな連中に勝手に邪神認定されて以来、仕方なく邪神を名乗ったりもしたけど!」
「今なんて言いました!?聞きましたかアクア様!?この人今アクシズ教団を頭のおかしな連中って言いましたよ!?」
「確かにあんた、今ウチの子達をおかしな連中って言ったわね!この世界では知らない人なんていないアクシズ教団をバカにするだなんて、あなた本当に神なの?そもそも信者だってちゃんといるの?プークスクス」
初対面にも関わらず、煽りに煽るアクアとセシリーに対し、ウォルバクがプルプルと震え出した。
「ひ、ひ、人の身でありながら神をバカにするなんて、ただで済むと思わない事ね!仮にもあなたも女神だというなら、他宗派の神とはいえ礼を尽くすものよ!」
フワフワと浮かびながら激昂するウォルバクに、アクアがファサッと髪をかき上げた。
「人の身?この私が人の身ですって?そんな節穴な目をしているから自称女神呼ばわりなんてされるのよ!」
「お前だって鶏の卵売りつけられた節穴な目をしてるじゃないか」
アクアは身に纏っていた羽衣をこれみよがしに強調し堂々と胸を張る。そしていつになく強気のアクアは、浮遊マントを纏ったウォルバクの前に名乗り上げた。
「私の名はアクア。そう、アクシズ教団が崇める御神体にして水の女神、アクア!この私に意見するなんておこがましいわよ!」
「えっ!?あなたがあのアクア!?」
ドヤ顔を決めるアクアを、驚き固まっていたウォルバクがしげしげと見返した。
「神格を感じないんだけど…………あなた、神の名を騙ると罰が当たるわよ?」
「謝って!騙りとか言った事を謝って!」
「いい加減にしろっ!」
我慢に耐えかねたカズマがアクアの頭をイージスでこずいた。
「だってカズマ!」
「状況考えろバカッ!リュウジがもう1人の魔王軍と戦ってんだろうが!」
そう言いながらカズマは竜人化すると、ウォルバクはブギーマンの方を向いた。
「もう私は魔王軍には戻れないわ。めぐみん、私に成長したのを見せてご覧なさい」
ウォルバクは両手にオレンジ色の魔法陣を浮かべた。呼ばれためぐみんは背筋をピンと伸ばして、
「分かりました師匠!リュウジからは”あなた以外”に爆裂魔法を撃つようにと言われているのでいつでも撃てますよ!」
「そっ、なら…………全力でやるわよ!」
「はいっ!」
ウォルバクとめぐみんは並んで爆裂魔法の詠唱を始めた。その頃俺は、土煙が晴れると、両者共々口から血を流しながら戦っていた。戦いが長引いたのが災し、ライトニングフィールドもエレクトロも時間切れを迎えていた。ブギーマンは息を切らしながら俺に声を掛ける。
「こんな戦いは生まれて初めてだ。認めよう、お前は俺のライバルとして相応しい」
「へへっ、奇遇だな。俺も似た様な事を考えてたぜ?魔王の頃にもっと早く出会いたかったよ」
「お互い満身創痍だ、そろそろ決着をつけよう」
ブギーマンはダガーを二刀流で構え、右足を強く踏み込む。それに対して俺は支援魔法を唱えた。すると、ハーレイが俺に声を掛けて来た。
《ぽーん!マスターリュウジに警告!魔力が尽きかけています!至急魔力の回復をして下さいっ!》
そうしたい所だけど…………させて貰えないようだ。
俺は最後の魔力を右手に注ぎ込み、呼吸を整えながら左足を強く踏み込んだ。ピリピリと張り詰めた空気の中、
「うおおおおおっ!」
「うおおおおおっ!」
両者が同時に動いた瞬間。
「『エクスプロージョン』!!」
とてつもない巨大な赤い閃光が突然降り注ぎ、耳をつんざく轟音と共に爆風が巻き起こった。俺は爆風に巻き込まれて吹き飛ばされると、地面から植物が現れて俺を捕まえてくれた。大きなキノコ雲を目の当たりにした俺は頭が真っ白になっていた。
えっ?なにこれ?えっなに?
何が何だか分からない状況の中、カズマ達が俺に駆け寄って来た。
「リュウジ、生きてるか!?」
「…………っえ?なに?」
耳鳴りが直ってないのか、カズマの声が遠く聞こえていた。ミツルギの指示によりセシリーが俺を回復してくれると、ようやく耳が聞こえるようになった。
「ちょっと、何?何なのこれ?ブギーマンは?」
「見ろよ、ウォルバクとめぐみんの合体爆裂魔法だぞ!?」
「えっ、何それ?ブギーマンは?」
辺りを見渡したが遠くに巨大なクレーターがあるだけだった。パニックになっている所に、めぐみんとウォルバクがやって来た。
「爆裂魔法に巻き込まれてなかったようね?」
「安心して下さい。ブギーマンとかいう魔王軍は私達が倒しましたよ。どうですリュウジ?私と師匠の爆裂魔法は?全てを消し飛ばしてしまう程の威力でしたでしょう?」
「…………えっ?爆裂魔法?待って待って?状況分かってた?俺、戦ってたんだけど?」
「ええ、分かりますとも。ねぇ師匠?」
「ええ、助けたんだからむしろ感謝して欲しいわね?」
ウォルバクとめぐみんが和気あいあいと話し出した。
「いやいや、あいつは俺のライバルなの。ずっと前から決着付けたかったの。分かる?ライバルを横取りで倒す奴がどこにいんだよ」
「おおっと、おかしな事を言いますね。リュウジは私に言いましたよね?師匠以外に爆裂魔法を使えと。約束しましたよね?」
…………あっ。
めぐみんに言われた事を聞いて自分で言った事を思い出した。
「あー…………約束したね。けど、けどさ?ねぇ?。え〜?ちょっと…………え〜?」
何とも言えない俺は煮えたぎらない状態だった。