激しい攻防戦の末に、最前線の砦での戦闘が終わった。ブギーマンことウィックとは決着はつけられなかったが、俺のパーティーに新たな仲間ウォルバクが加わった。最前線の砦は引き続き騎士団と数人の勇者候補が守るそうだ。騎士団に見送られてゆんゆんとウォルバクのテレポートによりアクセルの街に戻って来た俺達は家に戻ると、家にはコッコロとクリスが待っていた。
「ただいまぁ」
「おかえりなさいまし、リュウジさま」
「あっ、おかえり!大変だったね!」
クリスは敢えて知らないフリをしているのか、何も知らない感じで俺達に声を掛けてくる。俺はウォルバクに声をかける。
「いやはや大変だったよ。ってそんな事より………おーい、ウォルバク?そんな所で突っ立ってないで中に入りな?」
「おや?リュウジさま、お客さまですか?」
外で家に入りにくそうなウォルバクに声をかけると、ウォルバクは気まずそうに中に入って来た。
「えーっと、はじめまして…………ウォルバクっていうわ」
「あっこれはご丁寧に。わたくしはコッコロと申します」
「コッコロね。これからよろしくね?」
コッコロとウォルバクが握手を交わすと、それを黙って見ていたクリスを見て不思議と思ったのか、ペコリーヌがクリスに声を掛けた。
「どうしたんですかクリスちゃん?びっくりして声が出ないんですか?」
「えっ!?あ、いや、ま、まぁそうだね…………あはは」
あからさまにクリスが困った顔をしながら頬をポリポリとかいた。クリスはそのまま俺の顔を見て、
「リュウジ〜?ちょっと話があるんだけど〜?ちょっといい〜?」
おっと、怒ってらっしゃる?
「わ、分かった。んじゃペコリーヌ?ウォルバクを空いてる部屋に案内してやってくれ」
「はーい!了解しました!ウォルバクさん、わたしに付いてきて下さいね!」
「え、ええ」
ウォルバクはペコリーヌと共にキャルが使っていた部屋に向かう。俺はマリューに相槌を打ってクリスと共に俺の部屋に入った。入った途端、クリスは俺に近付いて、
「邪神を仲間にするなんて何考えてるの!?」
「い、いやだって…………ねぇ?」
グイグイと顔を近付けて来るクリスを前に、俺は両手でガードをしながらマリューに助け舟を出した。マリューは呆れながらクリスに声をかける。
「クリス様。天界でご覧になってたならご承知でしょう?リュウジ様はめぐみん様の手を汚したくない故に行った行為です。しかも、魔王軍の情報が得られるメリットもございますよ?」
「そっ、それは…………」
マリューに言われたクリスは吊り上げた眉毛を元に戻して穏やかな顔に戻った。
「これがリュウジらしい正義なのかもね。お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう」
甘い空気を感じ取ったマリューは、
「今回は疲れましたので少し休ませてもらいますね?」
「ああ、うん。お疲れ、マリュー」
「マリューさん、お疲れ様でした!」
マリューが部屋を後にした。俺は背を伸ばしながらベットに腰掛けるとクリスはどこか恥ずかしそうにしながら俺の隣に座り、頭をコツンと肩に寄りかけて来た。
「頑張ったね。怪我しなくて良かったよ」
「おっ、おう…………」
お?これはアレか?ご褒美タイムか!?
そんな淡い期待をしてると、クリスが上目遣いで言って来る。
「頑張ったご褒美欲しい?」
キターーーーーー!
俺は鼻穴を大きくしながら答えた。
「ほ、欲しいっす!」
「何が欲しいの?」
「一緒にお風呂入りたいっす!!」
そういった途端、クリスは頬を赤くさせながらポリポリ頬をかいた。だが、嫌そうな顔をぜずに俺の方を向いて、
「しょうがないなぁ〜」
YES!!
力強くガッツポーズをすると、クリスは上に指を指した。
「ここじゃ高確率で邪魔が入りそうだからね。天界に行ってお風呂入ろっか?」
「そ、そうだな!うん!そうだな!そうしよう!」
「ペコリーヌもコッコロちゃんもいるしね、今から行こう?」
「うん!行く!」
ブンブンと首を縦に振る中、クリスはエリスの姿に変えて天界に行く準備を始めた。俺も着替えとタオルを持って今か今かと待ち構える。準備を終えたエリスが俺に声をかける。
「準備出来たよ?」
「こっちも出来た!」
エリスが指パッチンをした。光の柱に包まれて着いた先はエリスの家の前だった。エリスは家の鍵を開けて中に入ってカーテンを創造し、カーテンの向こう側でエリスは頭の飾りを外し始めた。
「んじゃ、入ろっか?」
「お、おう」
カーテン越しで俺がチェストブレイクを外そうとしたその時。俺の後ろからオレンジ色のサークルが突然現れた。
「ん?なんだ?これ?」
肩越しからそのサークルを見ると、サークルの中には俺の家が見えた。
「えっ!?俺の家!?」
「ん?どうしたの?そんなに騒いで」
「見てみろよこのサークル!!」
「サークル?」
エリスが半分服を脱いでいたエリスがカーテンをシャッと開けて俺を覗き始めた。すると、そのサークルの中から。
「あら、こんな所にいたの?」
「ウォルバク何してんの!?」
サークルの中からウォルバクが現れた。ウォルバクはエリスの部屋を見渡して、
「ここは統一神界よね?なぜあなたがここにいるの?」
「い、いやコレは…………その」
「え!?ちょっと、なんですか貴方は!?どうやってここに来たんですか!?」
脱ぎかけた法衣のままエリスはウォルバクに声をかける。ウォルバクはエリスの格好をしげしげと見返した。
「…………あなたこそ、人間と何をしようとしてるのかしら?」
「な、なにをしようとあたしの勝手でしょ!?質問に答えて下さいっ!」
「どうやってって、このマントのおかげかしらね?リュウジの場所をイメージしたらこの部屋が見えたのよ」
「マント!?」
エリスはウォルバクのマントを見ると、フワフワと靡かせていた。一目で神器と分かったのか、エリスは浮遊マントに指を指す。
「なぜ貴方が神器を持ってるんですか!?」
「あーコレ?リュウジから貰ったのよ。彼のおかけで私は生き延びていられるんだけどね?」
「はぁ!?リュウジどういう事!?」
いや。どうと言われてもな…………。
「見てたんだったら分かるだろ?浮遊マントの効果でウォルバクは生まれ変わったんだよ。怠惰と暴虐の女神だったみたいだけど、今は怠惰を司る女神って事でいいんじゃないか?」
「そ、そうだけど!無闇に神器を渡しちゃダメだよ!返して!神器を返しなさいっ!」
神器を奪い取ろうとエリスが怒り、ウォルバクに掴みかかっていく。
「ちょっ、止めなさい無礼者、天罰を与えるわよ!たまの休日に目覚めても、やる気が起こらず布団の中でゴロゴロし、せっかくの休みを無駄にする罰とかを!」
「上等だよ!やれるものならやってみなよ!こっちだってあなたがトイレに入った際に、トイレットペーパーが無くなってる罰とか与えてあげるから!」
「女神はトイレなんて行かないからそんな罰怖くないわよ。ならそこを動くんじゃないわよ?今すぐ罰を与えてあげるわ!」
「やってみなよ!毎日仕事漬けだから休みが欲しいくらいだよ!。キミの罰なんか怖くないもん!」
なんだこのやり取りは。初対面なのに大人げなく掴み合いの喧嘩をしているこの2人は、一応女神なんだよね?
「お、おい2人とも落ち着けよ。何もこんな所で喧嘩しなくたっていいじゃん。ここは落ち着いて」
「うるさいっ!キミはそこに座ってて!」
「おだまり!あなたはそこに座ってなさい!」
すんごいとばっちり!。
俺が椅子に座ろうとした時、掴み掛かっていたエリスがとうとう堪えきれなくなったのか、右手の拳に光を纏わせ始めた。
「幸福の女神の力を思い知らせなきゃダメ見たいだね!怠惰の女神のくせに!あたしの信者見たいに前向きで清く正しい信者もいないくせに!だからアクア先輩達に邪神呼ばわりされるんだよ!」
「私だって好きで邪神と呼ばれてた訳じゃないわよ!アクシズ教とか変な信者のせいよ!それに魔王軍の中には一応信者がいたわ!通貨の名前が自分の名前だからって調子乗ってんじゃないわよ!」
ウォルバクも我慢が出来なくなったのか、左手の拳にエリスと同じ様に光を纏わせ始めた。
「『ゴッドブロー』!!」
エリスとウォルバクは同時にゴッドブローを繰り出した。俺は咄嗟に2人の間に入ってゴッドブローを顔面で受け止めた。
「ぶふぇっ!?」
俺は左右からの衝撃で脳震とうを起こし、糸を切られた操り人形のようにカクンッと膝から崩れ落ちた。我に返ったエリスとウォルバクは、
「あっ!リュウジちょっと大丈夫!?」
「エリスが悪いのよ!ムキになって殴るから!」
「そういうウォルバクだって殴ってたじゃん!」
エリスは慌ててキッチンから濡れたタオルを持って来て俺の顔を冷やし始めた。ウォルバクは膝に俺の頭を乗せて介抱し始める。ウォルバクの行動が気に入らなかったのか、エリスが俺の体を引っ張り始めた。
「キミはもう戻りなよ!ここはあたしがやるから!」
「あなたこそ仕事に戻りなさいよ、ここは私がやるわ!」
グイグイと俺を綱引きの綱の様に2人は引っ張り始めた。俺は痛みで意識を取り戻し、悲鳴を上げた。
「いでででで!ちぎれる!ちぎれるぅぅぅ!」
「ほら!リュウジが泣いちゃうでしょ!離してよ!」
「いい加減あんたも離してさっさと仕事してなさいよ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!もういやだぁぁぁぁぁ!」
俺は半べそかきながら無我夢中でテレポートを唱えて自分の家に戻って行った。ぐしゃぐしゃになりながら帰ると、マリューが慌てて部屋に入って来た。
「どうしたんですか!?なぜ泣いてらっしゃるのですか!?」
「うぇぇぇん!エリスとウォルバクがぁぁぁっ!!」
「ウォルバク様が!?いつの間に・・・・・・・まず、落ち着いて下さい」
マリューに慰められていると、先程と同じオレンジ色のサークルが現れた。その先には、ウォルバクが顔を覗かせていた。
「家に戻って居たのね?待ってなさい。私も戻るから」
「ちょっと!まだ話が終わってないでしょ!」
「ちょっ、離しなさいっ!」
サークルの向こう側からウォルバクがエリスに捕まってまた取っ組み合いを始めると、サークルが消えてしまった。
「なんなの!仲悪すぎだよあの2人!!」
「のんびり屋のウォルバク様と働き者のエリス様ですからね。相性は良くないかと思われますね」
「あーあ、せっかくのご褒美が台無しだよ」
俺がブツブツと文句を言うと、
「あらあら、大胆な事を言いますね」
「からかうんじゃないよ!」
マリューに八つ当たりをしていると、
《緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!》
鳴り響くのは冒険者ギルドからの緊急事態のアナウンス。これを聞くのも久しぶりだ。それだけで、この街に帰って来たと実感出来る。
「久しぶりにルナさんのアナウンス聞いたな」
「このところアクセルの街にいませんでしたからね。ウォルバク様とクリス様がいませんが我々だけで行きましょう」
「そうだな。ペコリーヌとコッコロちゃんにも声を掛けて行こう」
俺はペコリーヌとコッコロに声を掛けて冒険者ギルドに向かった。その、冒険者ギルド前には忙しそうにルナさんが。
「さあ冒険者の皆さん、こちらに並んでくださいね。緊急です。緊急のお呼び出しです。申し訳ありません冒険者の皆様方」
ルナさんは何度もペコペコと頭を下げ、そんな事を言いながら冒険者達を並ばせていた。その中にはカズマやミツルギ達の姿も見えた。リーンやダストの冒険者達がザワつく中、ルナさんが話し始めた。
「皆さん新年明けましておめでとうございます。新年早々緊急のクエストです。というのも、新年早々大変申し訳ないのですが、魔王軍の進行により中止になっていた納税ようやくやって来ました」
納税!?
ギルドの前に並ぶ俺達の、一番前に立っていたルナさんがそんな事をにこやかに言ってきた。
「毎年年末に行われる筈だったのですが、魔王軍の襲撃などが度々重なってしまいまして遅れてしまいました……そして、大変申し訳に言い難いのですか、この冒険者の中にまだ税金を納めていない人がいます」
その場に居た冒険者達の顔が引きつった。
そう言えば、俺、税金5億エリス払ったっけな。
「どどどーしよっ!あたし税金なんて払ってないよ!」
「落ち着けリーン!俺だってびた一文払ってねぇよ!」
「落ち着いてリーンちゃん、ダストくん!」
ダスト、ユイ、リーンが狼狽え始める。ルナさんの言葉に、逃げようとする冒険者達を、壁の様に周囲を取り囲んでいたギルドの職員と公務員達が押し留めていた。逃げようとする者、泣く者、怒る者。その表情は様々だが、唯一つ共通して言えるのは、その場の冒険者達は皆悲痛な叫びを上げている事。
「今までは、こんな事はお願いしてきてはおりませんでした。冒険者の皆様は、不安定の職で貧乏ですから。今までは免除では無く。温情と言う形で見逃してきただけなんです」
それは、冒険者達の並ぶ最前列の前に立っていたルナさん。ルナさんは、更に淡々と言葉を続けた。
「この冒険者ギルドは、もちろんこの街の皆様の血税で賄われております。そして、そのギルドから出る報酬も。モンスターを退治しているからと言って、本来は特別扱いはなされません。それでも温情として、見逃されていたのです。そんな中、今年度は皆様には大きな収入があったはずです。……そう、大物賞金首のクーロンズ・ヒュドラ、機動要塞デストロイヤー、大量発生した昆虫などの賞金です。今までは、温情で税金を見逃してきて貰ったのですから、大金が転がり込んだ時ぐらいは、キチンと義務を果たしませんか?」
ルナさんがそういった途端、アクセルの街中の冒険者達が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。あの魔剣のミツルギですらそそくさと逃げていた。ポツンと残された俺、ペコリーヌ、コッコロ、マリューはルナさんに声を掛けられた。
「リュウジさん御一行は既に5億エリスをお支払いが済んでいますので今回は特別免除となります」
「あっはい。それで、俺達はどうすればいいんですか?帰っていいんですか?」
俺がルナさんにそう尋ねると、ルナさんは。
「いえ、リュウジさん達には未納者の方を捕獲して貰います」
鬼だなルナさん。
「わぁ〜、皆さんを捕まえるなんてヤバいですね☆」
「どうしましょう?相手はアクセルの街中の冒険者さま方ですし」
「必死に抵抗してくるから私達が代わりに捕まえてこいという事ですね?」
「はいっ!ちなみに今回は特別に、1人あたり1000エリス報酬が支払われます!」
マジか!!
「これは本気で捕まえないとなぁ?」
「お金が貰えるなんて太っ腹ですねぇ!」
「少し罪悪感がありますが、頑張りましょう」
「では、リュウジ様、ペコリーヌ様、コッコロ様。参りましょう」
冒険者ギルドに雇われた俺達は未納者を捕まえる為に四方に駆け出した。