俺がアクセルの街を歩き始めると、顔馴染みの冒険者達がまるで魔王を目の前にした様な顔をしながら逃げ惑い始めた。
「逃げろ!逃げろぉぉぉっ!!」
「みんな逃げろぉっ!鋼のリュウジが裏切ったぞ!」
おいおい人聞きが悪いな、納税は国民の義務じゃないか。
俺が逃げ遅れた冒険者を捕まえてロープで拘束すると、ギルド職員達が担いでえっほえっほと運んで行く。道の先を千里眼で見てみると、遠くにめぐみんとキャルを除くカズマ達と少し離れた所にダクネスが目に入った。
「そういえばダクネスは貴族だったな。あいつは元々免除か・・・・・って事は、ダクネスは味方って事だな。ん?あの中にめぐみんとキャルがいないな」
俺は懐から通信魔石を取り出して、マリューに応答を求めた。
「こちらリュウジ、マリュー?聞こえるか?」
《はい、こちらマリュー。どうしました?》
《ぎやぁぁぁぁっ!!》
通信魔石からマリューの声に混じってダストの断末魔が聞こえて来た。
マリュー、えげつないな。
「忙しい中悪いな。めぐみんとキャルを見なかったか?カズマ達と行動してないようなんだが?」
《あー、めぐみん様なら先程ルナ様に低所得者の手続きを申請して税金を免除して貰った様ですよ?めぐみん様は今リュウジ様が捕まえた冒険者の見張りを任されております》
めぐみんめ、賢いな・・・・・。
「わかった。となると、Adventuresからはミツルギ一行、カズマ、アクア、キャル、マヒルだな?」
《マヒル様なら先程自首して泣け無しの金額を支払ってました》
「そ、そうか。カズマ達はダクネスに任せて俺はミツルギを追う」
《あのミツルギ様まで税金未納者だとは思ってませんでしたね》
「あいつ、寄付はしてたけど税金は払ってなかった見たいだな。ルナさん曰く、「税金と寄付は別ですから」だとよ」
《ミツルギ様・・・・・。詰めが甘かった様ですね。では、私はメリッサ様、ゆんゆん様、アオイ様、セシリー様を追いますね》
「ああ、頼む」
マリューと通信を終えて通信魔石を懐にしまい、敵感知スキルを駆使しながら税金未納者を探し出した。すると、スキルに数人の反応を感知した。
ん?この先の路地に数人の反応があるな・・・・・・・・・・。
細い路地に進むと、1人の冒険者が行き止まりで慌てふためいていた。冒険者は剣士なのか、腰に下げている剣をガチャガチャ鳴らしていた。それを見ていた俺は、手をゴキゴキと鳴らしながら冒険者に近付いた。
「そこのあんた、鬼ごっこは終わりだ。大人しく降参しろ」
壁をなんとかしてよじ登ろうとしていた冒険者は肩越しに振り返り、
「は、鋼のリュウジ!?」
「あんたにゃ恨みはないが、こっちも仕事なんでね」
ゆっくり冒険者に近付こうとした瞬間、ピタッと足を止めて何かの気配を感じ取った。
「・・・・・・・・・・潜伏スキルを使ってる奴がいるな?」
「なっ!?」
冒険者は見抜かれたと言わんばかりの顔をした。開き直ったのか、冒険者は剣を抜いて、
「鋼のリュウジ、やはり誤魔化ないか・・・・・・・・・仕方ないっ!みんな!出て来いっ!鋼のリュウジを倒すぞっ!!」
冒険者が大声をあげた途端、物陰から数人の冒険者が現れた。アーチャー、盗賊、戦士、ランサーが俺を囲う様に武器を向けて来た。囲まれた俺はため息を吐いて冒険者達に声を掛ける。
「おいおい、何も武器を向けなくてもいいだろ」
「うるせえっ!!俺達は金がねぇんだ!来月の最終日、それも、役所の営業時間を過ぎたらそれまでの税は免除されるんだ!!。あんたさえ倒しちまえば逃げきれる!!」
ほう、大した自信だな。
まるで主人公の様な言い方をする冒険者に俺は敬意を表して戦闘態勢をとった。
「その心意気や良し、俺に勝てたらあんたら全員見逃してやるよ」
そう言いながら俺は右手で顎をガードしながら左肘を90度に曲げ、振り子のように左右に動かし始めた。挑発された冒険者はギョッとしながら驚いた。中にはムカついたのか、槍や剣をぎゅっと握っていた。
「なっ、なんだと!?」
「なめやがって、やっちまえ!!」
「やっちまえやっちまえ!鋼のリュウジを倒せば俺達は自由だ!」
「税金なんてクソ喰らえぇぇっ!!」
3人の冒険者は右、真ん中、左に横に並びながら俺に襲いかかって来た。いまだに振り子運動をさせていた俺は、
ブギーマン使おうと思っていた新技、ここで使ってみるか。
徐々に振り子運動のスピードを上げた。上げたと同時に左ジャブを繰り出した。その左ジャブは鞭の様にしなり、破裂音と共に3人の顔面に直撃した。3人の冒険者は何が起こったのか、理解出来てなかった。
「なっ、なんだ!?」
「何が起こった!?」
「リュウジが離れた場所から殴って来たぞ!?」
冒険者の反応を見た俺は、
いい感じだ。もっとだ、もっと思い出せ、勇者だった頃を・・・・・。
更に振り子運動のペースを上げて3人同時に仕掛けた。ギュンと腕を振るい、冒険者達に向かって。
「『ウィップラッシュ』!!」
スパンスパンと鞭を打つ様に冒険者達へ攻撃を仕掛けると、防御が追いつかず冒険者達の顔は見る見るうちに蜂に刺された様に腫れ上がって行った。冒険者達は堪らず声を上げた。
「ま、参った!降参する!」
「あっ!ごめんごめん、夢中になり過ぎた『ヒール』!!」
あまりにも上手く当たったしまったので3人の冒険者の顔はパンパンに腫れ上がってしまった。慌てて回復魔法で手当したが、アーチャーの冒険者は無言で武器を捨てて降伏し、ギルド職員に連行されて行った。
「ふぅ、新技もなかなか出来がいいな。もうちょいスナップを効かせれば蹴りでも出せるかな?」
そんな事をブツブツ呟いていると、
「なんだ、リュウジじゃないか。もう数人捕まえたのか?」
ダクネスが偶然通りかかった。俺は振り子運動を止めて振り返った。
「ダクネスじゃねぇか。お前さっきカズマ達と一緒じゃなかったのか?」
「そうなんだが、一旦別れてコレを借りて来たのだ」
ダクネスがそう言って手にしていた2つの鎖の付いた鉄製の枷を俺に見せて来た。俺は一つの手枷を手にして、
「手錠じゃん。なにコレどうすんの?誰捕まえようとしてんの?」
「もちろんカズマに決まっているだろ?この街でお前より高取得冒険者なのだからな」
「そういえばシルビアの賞金入ったんだってな?それでか?」
「そうだ。ウォルバクの件はあくまでも討伐が対象だから賞金は貰えないかも知れないぞ?本当に仲間にして良かったのか?」
「当たり前だろ。賞金なんて今更いらねぇよ。ダクネスはめぐみんに辛い思いさせたいのか?」
俺がそう言うと、ダクネスは苦虫を噛み潰したように顔を背けた。
「そうだな。お前の言う通りだな」
「だろ?手枷2つもいらないよな?1つ貸してくれよ」
「まぁ良いだろう。カズマより厄介な魔剣もまだ捕まって無いようだからな」
ダクネスはそう言って俺に鎖付き鉄製の枷を渡した。だが、何かが物足りない感じがした俺はダクネスに尋ねた。
「で、この鍵は?」
「えっ?」
「えっ?じゃねぇよ。鍵なきゃ外せねぇじゃねぇかよ『解錠スキル』は両手じゃないと使えないし。ほら、早く出せよ」
俺が手をクイクイと手招きして鍵を催促するとダクネスが、
「捨てた」
は?
俺は耳の穴をかっぽじってダクネスにもう一度確認した。
「・・・・・・・・・・ごめん、もう一回言ってくれる?」
「捨てたと言っている」
コイツ何やってんの?バカなのかな?。この子は、たまにアクア並のバカをやらかす脳筋だから困る。
「何で捨てたか聞いても良いかな?ララティーナお嬢様」
「カズマは運だけはズバ抜けているだろ?もし鍵を持っていたらスティールで奪われてしまうと思ってな?」
「まぁ、そうだな。けどさ?実家に置いておくとか考えなかったの?」
俺がそう言うと、その発想が思い付かなかったのかララティーナお嬢様は顔を真っ赤にさせながら顔を逸らした。
なんか怪しいなぁ〜?
「もしかして、アレか?めぐみんに先を越されたくないからトラブルを装ってカズマと一線越えようとかいやらしい事考えてんじゃないの?」
「ちっ、違う!わ、わ、私は断じてその様な事は考えていない!どさくさに紛れてめぐみんを出し抜こうとなんて断じてないっ!」
ララティーナお嬢様は図星だったのか激しく目を泳がせた。
「お前が羨ましいよ、ホント。んじゃ、とりあえずコレ借りとくな」
「ああ、分かった」
ダクネスはそのまま走って行き、俺と別れた。
「さて、次はあっちに行こうかな」
別の場所に向かう為に歩きだそうとした時、後ろから声を掛けられた。
「あれ?リュウジくんじゃないですか!」
振り返るとそこには、ペコリーヌがいた。
「なんだペコリーヌか。あれから何人捕まえたんだ?」
「えーっと、ですね。アオイちゃん、メリッサさん、ユイちゃん、リーンちゃんですかね?」
「もうそんなに捕まえたのか!?」
「はいっ!ヤバいですね☆ん?リュウジくん、その鎖の付いた鉄製の枷どうしたんですか?」
ペコリーヌは俺が手に持っていた鎖付き鉄製の枷を指さした。
「あっコレ?さっきダクネスから借りたんだよ。なんでもカズマを捕まえる為に警察から借りて来たんだとよ」
「ほうほうなるほどぉ・・・・・」
ペコリーヌはうんうんと頷くと、
ガチャ!
「何やってんの?」
突然ペコリーヌは何を血迷ったのか、自分の右手に嵌めた鎖付きの枷の反対側を、事もあろうに俺の左の手首に嵌めた。
「おー、こうなるんですね!」
「「こうなるんですね!」じゃねぇよっ!何やってんの!?」
「えへへ、鍵あるんですよね?早く外しちゃいましょう」
「い、いや・・・・・・・・・・ダクネスが捨てちまったらしくて」
「えっ!?け、けどリュウジくんは解錠スキル持ってますよね?」
「解錠スキルは両手じゃないと使えないんだよね・・・・・・・・・・」
「えぇっ!?」
ペコリーヌは鍵があると思っていたらしくふざけて枷を付けて見たらしい。鍵がないと分かった途端、慌て始めた。
「どどどどどどどーしましょー!」
「落ち着けペコリーヌ。後でダクネスに鍵を何処で捨てたか聞けば良いだけの話しさ」
「そ、そうですね!なら早くララティーナちゃんを探さないと!」
「あんた達、こんな所で何やってんの?」
俺とペコリーヌの前に上手く逃げ回っていたキャルが目の前に現れた。
「キャルちゃん!?」
「キャル、助かった!見逃してやるから『ロック』を唱えてくれ!」
鎖付きの枷をガチャガチャならしながら俺とペコリーヌはキャルに枷を見せるとキャルは申し訳無さそうに、
「あー、実はもう逃げ回ってたから魔力が切れそうなのよね、ごめんね」
「ふざけんなよ!てめぇ!ギルドに突き出してやる!!」
「わわっ!あいたっー!」
俺がキャルを捕まえようとした瞬間、ペコリーヌと繋がっていた鎖がビンと引っ張った。驚いたペコリーヌはつまづき転んでしまった。その為俺の腕も鎖に引っ張られて転んでしまった。
「ぐへっ!ペコリーヌ!!」
「ごっ、ごめんなさいっ!」
「何やってんのよ。捕まりたくないからあたしはアクセルの街から脱出させてもらうわ」
「ま、まて!キャル!!」
キャルは俺の静止を無視してその場を後にした。
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それからダクネスを探したがどこに身を潜めたのか全く分からず、諦めて家に戻って来た。リビングにはコッコロとマリューがお茶をのんでくつろいでいた。
「おかえりなさい、ってなんですかそれ!?」
「いやぁ〜えらい目にあったよ。なぁ、マリュー?ダクネスを見なかったか?」
「ダクネス様ですか?あー、そういえばカズマ様と警察に捕まった様ですよ?罪名は分かりませんが」
なるほどね、ギルド職員の手から逃れる為にわざと捕まったのか。
「それで?その枷とダクネス様が何の関係があるんですか?」
俺とペコリーヌは顔を見合わせて、
「「実は…………」」
俺とペコリーヌが事情をマリューとコッコロに話すと、コッコロが口を開いた。
「……なるほど、事情は分かりました。ではリュウジさまとペコリーヌさまは、今晩はお風呂も一緒、トイレも一緒、寝るのも一緒と言う訳ですか」
「…………あっ」
「そ、そうなりますねぇ」
「あーあ、ウォルバク様とクリス様に知られたら大変ですよ?」
マリューまでそんな事を、そんな……事……を……?
「…………」
「…………」
俺とペコリーヌは、無言でお互いの顔を見た。ペコリーヌは事の重大さな気付いたのか、恥ずかしそうに顔を逸らした。