トイレを済ませ、俺とペコリーヌがリビングに赴いて、
「それじゃ俺達は寝るけど、マジでマリューとコッコロは一緒に寝てくれないのか?」
「今日は二人で寝てください。先ほどからの様子だと、間違いなんて起こらないでしょう。と言うか、間違いの一つでも起こりかねない程度に仲良くなって欲しいですよ。二人共、ちょっと大人になってください」
喧嘩ばかりしていた俺とペコリーヌを呆れた表情で見ながら、マリューがそんな事を言い出した。
大人になれとか言われると、違う意味を考えてしまうのは俺が煩悩に蝕まれているからだろうか?
……と、隣のペコリーヌを見ると、平気なのかのほほんとしながら鼻歌を歌っている。ちなみに今の俺は、手枷と鎖の所為でシャツが着れない。
なので、右腕以外の上半身は裸の状態。今は真冬、いくら鍛えているとは言えども風邪を引いてはたまらないから布団をしっかり被って寝よう。ちなみに寝るのは俺の部屋のベッド。俺が右手、ペコリーヌが左手を枷に繋がれているので、ベッドでは俺が右手側となる。俺は早々とベッドに寝転び。
「……俺が上半身裸で傷だらけセクシーな裸体を晒しているからって、寝ている間にいたずらするなよ?」
「しませんよ! セクハラが皮を被って歩いている様なリュウジくんこそ、わたしが寝ている間におっぱい触らないで下さいよ!?」
「触るかこんな状況で!そういう時に限って誰か来るんだ、100パーセント俺が犯罪者になるオチなんだよ!」
そんな難癖を付けてくるペコリーヌに、ゴロンと背を向けて。
「あーねよねよ、おやすみー」
「本当に寝てしまうんですか? ……あ、あの……」
そんなペコリーヌの声を聞きながら、俺は頭から布団を被った。
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……一体どれほど眠ったのだろうか。俺はいつの間にか布団をはだけてペコリーヌの方へと寝返りを打ち、そちらへ向いて寝ていたらしい。寒さで目を開けると、すぐ近くには目を閉じた状態の、整ったペコリーヌの顔。俺はそのペコリーヌと、おでことおでこをピタリとくっつけ合っていた。その、ペコリーヌの顔が凄く間近まで迫っている。
と、言うかこれは……?
「…………ペコリーヌ?もしかして体触った?」
「────ッ!?」
眼前まで顔を寄せていたペコリーヌに、何の気無しに尋ねた。俺の言葉にペコリーヌが、ビクッと震えて目を閉じたまま動かなくなった。
「ね、ね、寝てますよ〜…………スー……スー……」
「いや起きてるじゃん。スースーじゃないよ」
言いながら、俺は自分の右の首筋に違和感を覚え、それに何となくベットに置いておいた手鏡を月の光を当てて見てみると、ポチッと赤くなっていた。
これはつまり………!?
「お前……! やったな?コレやったな!?吸ったな!? 俺の寝ている間に、俺の首筋を吸って、ねぶって、体中をまさぐったな!?このスケベッ!」
「ちちちち、違います! 待って下さい、違うんです! これは本当に違うんです!」
俺の言葉にペコリーヌが頬を染め、目に涙を浮かべながら跳ね起きた。俺は未だに手鏡を使って首筋に手をやりながら。
「何が違う! この首筋の赤いのは何だ! お前が食欲旺盛なのは知っていたが、まさか性欲まで旺盛だったとはな!?」
ペコリーヌが、それを聞いて必死に口の前に人差し指を立て。
「こ、声が大きいですよ! 違いますって……! ほ、本当にまだ何もしていません! その、目が覚めたらリュウジくんの首筋に顔を埋めていたんです! それで、リュウジくんの首にわたしのヨダレが垂れちゃって……! 」
いや、これどう見てもキスマークでしょ、アカンでしょこれ?
俺は念の為に自分の身体を触ってみる。
「……なんだ。まだベルトも付いたままじゃないか……。本当にまだ何もしていないのか……」
「ど、どうしてちょっと残念そうなんですか……」
余程慌てていたのか、ペコリーヌは上気して肌をほんのり赤く染め、軽く息が荒くなっていた。
「……まったくお前ってヤツは、明るく陽気で誰にでもフレンドリーに接する性格でスキンシップも激しいのは理解しいたが、まさか寝込みを襲うまでとは思わなかったぞ。これからエロリーヌとか呼ぶからな」
「そ、それはさすがに止めて下さいっ!コッコロちゃんやキャルちゃん達にガッカリされちゃいますよぉっ!!」
「今更そんな心配しなくても、俺はもう既にガッカリしてるよ」
俺は言いながら、乱れた布団を直し、ベッドへとモソモソ寝直す。その俺の隣に、ペコリーヌが恥ずかしそうにしながらも横たわった。
「……思えば、出会った時はこんなバカな事を言い合う間柄になるとは思いもしませんでしたね。タケキノコの里山で初めて出会ったあの頃は、わたしは一人で背負ってがむしゃらに修行してて、周りが見えなくなって実は、意志の疎通がヘタだったんですよ?」
暗く静かな部屋の中。ペコリーヌがそんな事を言ってきた。
「まあお前はお姫様だし、食い物に釣られてホイホイと誰とでも距離を縮めてたらそれはそれで問題だろうよ。……出会った当初のお前は、もっと無口で寡黙で、大人しいイメージだったんだがなあ……蓋を開けて見れば飯はみんなの数倍は食うし、強いし、面白いし」
仰向けに寝転びながら言う俺の言葉に、ペコリーヌが可笑しそうに含み笑いをしながら。
「わたしは、出会った当初のリュウジくんとクリスちゃんは、直ぐに分かりましたよ?悪事に誠実で真面目で優しい人達だと思いましたよ?」
そんな事を、ベッドの上でこちらにゴロンと向きを変え、俺の横顔を見ながら言ってきた。
「けど、蓋を開けて見れば元魔王でトラブルメーカーだっただろ?」
「ふふふふ……。そんなの気にしませんよ」
俺の言葉に、ペコリーヌが可笑しそうに笑いながら。
「……あの、リュウジくん」
世間話でもするかの様に。
「ん?どうした?」
寝転がった体勢で、何気なくペコリーヌの方に首だけを向けた俺に。
「……わたしじゃ、リュウジくんの彼女になれませんか?」
外はとても寒いだろう。満月だったはずだが、今、窓から射しているのはとても淡い月の光。そんな淡い光の為か、ペコリーヌの細やかな表情まではうかがえない。だが…………。
「……ごめんなさい、変な事聞いちゃいましたね……」
そんな事を照れながら言うペコリーヌの、滑らかな白い肌がほんのりと赤く染まっていくのはよく分かった。
いきなりこんな流れで、そんな事を言われても……。
「お、おう……」
「負けたくないです」
ペコリーヌが、そんな事を呟いた。どう言う意味だ? とか。がそんな事を聞く前に、ペコリーヌが背を向けたまま。
「……負けたくないです。クリスちゃん、ウィズさん、時々来るあるえちゃんに負けたくないんです」
そんな、意味の分からない独白を、ペコリーヌは背を向けたまま並べていく。
「クリスちゃんと話してるリュウジくんを見たり、あるえちゃんと真剣な話をしている姿を見かけたり、ウィズさんに魔法を教わってるリュウジくんを見ててわたし、悔しいんです……」
そんなペコリーヌの声が少しずつ震え声になっていく。
「わたしだって……リュウジくんのそばにいたいのに……」
俺は、ペコリーヌの肩に手を伸ばし、
「お、おい。どうしたんだよ、ちょっと落ち着けって」
言いながら、こちらを振り向かせようと力を入れるが。
「……気付いてると思いますけど、この手枷を付けたのはわざとです。こうでもしないと、リュウジくんと2人っきりになれませんから……」
頑なにこちらを向こうとしないペコリーヌは、そんな独白を続けていた。
……そして。
「……恋人は、クリスちゃんじゃないとダメなんですか?」
こちらを向こうとはしないまま、ペコリーヌが静かに言った。
「い、いや……。恋人が欲しいって言うか……クリスは」
「好きなんですよね?」
「好きだけど……この前振られちゃったんだよね」
「フラれた?この前、コソコソ2人で話してませんでした?この部屋で」
ヤバい、気付いてたのか……。
「フラれたけど、話はするよ。でなきゃ2人っきりでなんか話せない」
「そうですか……なんの話をしてたんですか?」
「あの時は……」
お風呂一緒に入るって約束してたって言ったらヤバそうだな……。
俺はペコリーヌの肩から手を離して、答えた。
「ウォルバクの件の事だよ。特に特別な事は話してない」
俺がそこで言葉に詰まると。
「そうですか……分かりました」
ペコリーヌはムクリと起き上がって そしてそのまま、俺の手首を掴んだままでベッドに倒れ込むように俺ごと押し倒してくる。
「おい、ど、どうしたペコリーヌ! 待て! アカン、この流れはアカンって! 何がアカンって凄くアカン!そこに愛はあるんか!?」
ベッドの上に押し倒され、そのままペコリーヌにのしかかられながら、俺はこの状況をどうしたらいいかを考えた。そんな俺に、ペコリーヌが頬を染め、荒い息で言ってくる。
「実は最近、リュウジくんとクリスちゃんが良い感じになっている事を、ダストさんに話したらアドバイスを受けまして。……ダストさんはこう言いました。「……お前は仲間を守る誇り高きルーンナイトだろ? なら、自分の身を犠牲にして試してやれ、と。仲間の盗賊を案じるのなら、お前は遠慮なく迫ってやれ! と。それでお前に奪われる男なら、そんな男に仲間がたぶらかされなくて良かったと喜べ。……奪えなかったら、仲間が遊びではなく、本気で愛されてるんだと喜べ!」 ……って」
ペコリーヌに変な知識と根性を叩き込んだダストくん。必ずぶっ殺してやる。
「よし分かった落ち着け。こ、こんな流れでお互い初めてを失っちゃうってのはあんまりにもあんまりだと思うんだ、まあ落ち着……くけっ!?」
言いながら起き上がろうとした俺の、左手をペコリーヌがしっかりと右手で掴み、そのまま体重を掛けるようにベッドの枕元へと押さえつけた。当然俺は、上体が完全にベッドに横たわる体勢となる。ペコリーヌは、そのまま俺の左手を枕元に押さえつけたまま、俺の腰の上へとマウントを取るように跨ってきた。
これはヤバい。この体勢は本格的にヤバい。
「おい待てペコリーヌ、本気で落ち着け! 止めろって、マズイマズ……ふごふご!?」
尚も説得しようとする俺の顔のすぐ右脇に、ハアハアと上気した荒い息を吐きながら、暴走したペコリーヌが左手を添えて撫でてくる。そして俺の口にハンカチを突っ込んで来た。
「雷魔法を使うかも知れませんので口を封じました。高レベルのリュウジくんでもさすがにわたしの力には敵わないようですね」
マジでやばい。立っちゃう、俺の魔王様が立ってしまう!!
「あっ……体は正直者なんですね」
この子ったらなんて事を言うの!?
ペコリーヌは何をとち狂ったのか、突然ドレスの紐を解き始めた。
「それからわたし、考えたんですよ。こっちに振り向いてくれないならわたしの虜にしちゃえばいいんだって」
「───────っ!?」
な、なんだって!?ダメだ、流されるな、こんなエロ同人誌みたいな展開に流されるな!冷静になれ福山龍二、屈するな!!お前はクリスを裏切るのか?このまま流れに身を任せれば、健気に尽くしてくれたクリスへの気持ちを裏切る事に……!いかにペコリーヌに無理やり襲われ、抵抗が出来なかったという大義名分があるとはいえど……!
そんな思考をフル回転させている間に、ペコリーヌはスカートに手を入れてモゾモゾと何かをしていた。
「よいしょっと、パンツを脱いでと」
「ふごぉっ!?」
おい、もう脱ぐのか!?もうちょい雰囲気を出してからじゃないのか!?
ペコリーヌはそのまま再び俺の上に跨って俺を見下ろした。
「言いたい事は分かります。けど、リュウジくんは運が悪いですからね。のんびりしてられないんですよ」
おいマジか。
「カズマさんだったらどんな反応してますかねぇ?ヤバいですね☆」
「ふごふごっ!?」
「だって、カズマさんはヘタレですからねぇ、ビビっちゃいますかね。おっと、そろそろ始めちゃいますね」
ペコリーヌはそう言って俺のズボンを脱がし始めようとした時。俺の頭の中でプツンと音を立てて何かが切れた。そして、思い切り力を入れてペコリーヌを逆に押し倒した。俺は口からハンカチを取って、
「はぁ、はぁ、もう無理だ……」
「やっと本気になりましたね……来てください……」
俺がペコリーヌのドレスに手をかけた瞬間、バンとドアが開けられた。開けられたドアの前に立っていたのは、不機嫌そうな表情のクリスと、グッタリと疲れた顔のウォルバクの姿。
あっ……。
それを見た途端、機転を効かせたのかペコリーヌが突然悲鳴を上げた。
「助けて下さぁい!クリスちゃーん!!」
「ああっ!?てめぇっ!!ハメやがったな!?」