不機嫌顔をしながらクリスがカチャカチャと解錠スキルを使って手枷を外していく。
「これで良しと。全く、こんな夜中に近所迷惑な……!」
そんなクリスの説教を聞きながら。ペコリーヌは、部屋の絨毯の上に正座していた。
「……ご、ごめんなさい……」
仁王立ちで腕組みしているクリスに、ペコリーヌが正座したまま頭を下げた。
「私、もう眠いんですけど。どっかの誰かさんと大喧嘩してヘトヘトだから休ませて欲しいんですけど?」
「うん。けど、決着はまだだからね?」
「はいはい、分かってるわ」
眠そうに言うウォルバクに、クリスがおやすみと告げてやると、ウォルバクはそのままフラフラと部屋を出て行く。
枷を外された俺はと言えば、ベッドの縁に腰掛けて、足をブラブラさせてクリスの説教を聞いていた。クリスに、頭を下げるペコリーヌに。
「まったく、とんだ女だよお前は。寝ている俺の体に欲情していたずらしたばかりか、激しく抵抗する俺にあんな事を……!」
「あっ! わ、わたしだけが悪い訳じゃないじゃないですか!」
俺がそんな事を言うと、ペコリーヌが正座したままこちらを見る。もちろん…………クリスも。
「ふーん…………」
なんだか、全て分かっているとでもいう様なクリスの視線に耐えかねて、俺はベッドから降り、ペコリーヌの隣に自ら正座した。
「やっぱり……俺も何となく正座しときますね」
「うん。良い心がけだと思うよ?」
クリスのそんな返事に、ペコリーヌが俺の横目で見ながらざまあみろとばかりにほくそ笑む。
こんちくしょ!!
そんな俺とペコリーヌを見て、クリスがため息を吐いた。
「まったく。ちょっと目を離したらいっつも何かをしでかすんだから……。それで……ペコリーヌは、ちゃんと想いは伝えられた?」
「「!?」」
クリスの言葉に、俺とペコリーヌは二人揃ってギョッとする。
こいつはどこまで見ていたのだろう。
「そ……その……。クリスちゃん、ごめんなさい……」
ペコリーヌが、正座したままシュンとなり。そんなペコリーヌに対し、クリスが、
「……? 何を謝るの? 確かにあたしもリュウジが好きだけど、あたしはリュウジと付き合っている訳ではないし、リュウジが誰を選ぼうがあたしがとやかくは言えないよ?。ペコリーヌは、ちゃんとリュウジに想いを伝えられたの?」
そんな大人な意見を言いながら、ペコリーヌに優しく微笑み掛けた。そんなクリスに、ペコリーヌが両手の拳をギュッと握ったまま正座した膝に置き、クリスを見上げてコクコク頷く。それを見て、クリスは一層嬉しそうに微笑んだ。その姿は、俺には何だか、一人で何かをやり遂げて、それを神に悔い改める人間と、それを優しく見守る女神を思わせた。
そんなクリスを見ていると、少しだけ胸が苦しくなる。俺が誰を選ぼうがとやかく言えないって言葉が地味に痛かったのかもしれない。俺は自分でも、なんて面倒臭いヤツだと思う。下手をすればカズマよりクズなのかも知れない。
複雑な心境の俺に、クリスが、そんな俺の気持ちも全て分かってるとでも言う様に笑い掛けてきた。
「まぁ、コレに懲りたら。あたしやコッコロちゃんに愛想尽かされない様に。たまには、派手にモンスター退治する格好良い所を見せてね?」
クリスの言葉に、ペコリーヌが追従するようにコクコクと頷く。クリスとペコリーヌが嬉しげに笑い。やがて……。
「そう言えば。一応聞いてはおきたいんだけど、何も無かったんだよね?」
クリスが、ちょっとだけソワソワしながらそんな事を聞いてくる。
……あれっ、ちょっとは妬いてくれてたりする?
そんなクリスに、
「はい。わたしがちょっとからかったらリュウジくんが怒った所にクリスちゃんが来たので何も無いですよ?」
ペコリーヌは、しれっとそんな事を言いながら、俺に対してイタズラっぽい視線を投げ掛けてきた。
何だか手玉に取られているみたいなんだけど?
それを聞き、どこかホッとした様なクリスと、ちょっと勝ち誇った様にチラチラこちらを見てくるペコリーヌ。
そんな二人になんとなく。
「……あのさ、クリス?寝てる間に起きた事なんだけど、ここ見てくれ。これキスマークだよね?寝込み襲われても俺が悪いのかな?」
「「!?」」
俺が首を見せるとクリスの顔が引きつり、ペコリーヌがバッと顔を伏せた。
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それから一週間が経った、ある日の事。俺の家に郵便屋さんが来た。
「フクヤマさーん、お手紙でーす」
「はーい。誰からだろう………」
俺が手紙を見ると、エルフの森の刻印がされており、手紙はペコリーヌ宛になっていた。
「ペコリーヌ、エルフの森から手紙が届いてるぞ?」
「え?わたしにですか?」
「ペコリーヌさまにお手紙という事は、国王さまからでしょうか?」
「何かあったのでしょうか?」
「開けてみたらどう?」
ウォルバクに促されたペコリーヌがペコリーヌを開いて中身を確認した。ペコリーヌが黙々と手紙を読んで行くと、
「どうやら、エルロードで各国の国王が集まって会議を行うそうです。それで国の代表としてわたしも出席するようにとの事ですね」
となると……?
「って事は、俺達はペコリーヌを護衛しながらエルロードに行くって事だよな?」
「そうなるねぇ」
「まためんどくさい事が起きそうね」
クリスとウォルバクが頭を抱え込むと、コッコロが思いついた様に口を開いた。
「という事は、ベルセルグ城のアイリス王女さまも行くと言う事ですよね?」
その言葉を聞いた途端、俺達は顔を見合わせて…………。
「カズマ!カズマはいるかぁっ!!」
俺が慌ててカズマの屋敷を訪れると、カズマが手紙を引き裂いていた。その周りには項垂れているダクネスがいた。
遅かったか!!
「お、おい。そのビリビリに破いている手紙はアイリス王女からか?」
恐る恐るカズマに聞くと、カズマがニッコリと笑って、
「なぁ?死の宣告のスキルってどのくらいかかるかな?」
「何をする気だお前!!」
それから理由を聞いてみると、アイリス王女が世界会議が終わった後にお見合いをするらしい。それを聞いたカズマがキレて手紙をビリビリと破り捨てたと言う。死の宣告を覚えようとしたのは、お見合い相手を始末しようとしたらしい。
そして、その日が訪れた。
俺達はカズマ達とは別行動で蒼き稲妻のコートを装備してカタカタと軽い振動を感じながら、エルフの森を出てペコリーヌの護衛に着いていた。今回、ペコリーヌは王女として出席する為、武器は腰から離している。ちなみに、カズマ達はアイリス王女の護衛に就くために王都へ向かった様だ。
後から聞いた話だが、ミツルギ達もアキノさんに護衛を依頼されてミツルギ達も王都から出発するという。
「世界会議、一体なにを話すんだろうかねぇ」
「そうですねぇ、おそらくわたし達Adventuresの件は出ると思いますよ?なんせ魔王軍幹部をほとんど倒しちゃったんですから」
「ベルディア、ハンス、シルビア、チャーリー、セレスディナ、レオン、ウィック。ウォルバクやウィズさんを抜かしてもお釣りが来るくらいあたし達は有名になっちゃうのも無理がないよ」
確かに、これだけ倒せば政府だって目を止めるだろうな。
腕組みをして考えていると、ペコリーヌが。
「ウォルバクさんと、マリューちゃんは来なくて良かったんですか?」
「そりゃ無理だろう。魔王軍の幹部を仲間にしたんだ、エルロードで何を言われるか分かったもんじゃないだろ?マリューだってモンスターだし、大騒ぎになるからな」
「ウォルバクさまも、マリューさまはクエストなどをしてのんびりしていると仰っておりました」
コッコロも緊張した様子で槍をギュッと握りながら会話に混じって来る。コッコロとは何度かクエストに同行して貰っているが、今回の様な重要クエストは初めてらしい。すると、クリスが思い出したかのようにバックから封筒を取り出した。
「あっ、そうそう。リュウジに渡すものあったんだ」
「俺に?なんかあったっけ?」
首を傾げると、クリスが俺の顔を見ながら封筒を手渡した。
「ほら、アレだよ。アレ」
「アレ…………?」
「まぁ、見てみれば分かるよ」
「リュウジくん、なんですかその封筒?」
クリスから受け取り、俺は中身を確認した。
あー、はいはい……ネメシスは仕事が早いな。
封筒の中には1枚の写真が入っており、写真には若干カールした紅茶色の背中まであるロングヘアーと澄んだ紅茶色の瞳、芸術的に整った容貌の獣人が写っていた。俺は懐かしさを感じてじっと見つめてると、クリスとペコリーヌも写真を覗くと、
「綺麗な人だねぇ、歳はペコリーヌくらいかな?」
「ほんとですねぇ、お名前はなんて言うんですか?」
「この子の名前はラフタリア。刀の勇者に選ばれた子なんだよ」
「この人も勇者なの!?キミがいた世界には何人勇者がいるの!?」
「何人だろう。10人以上は居たよ」
「10人も勇者さまが…………それだけ混沌とした国だったのですね」
「ま、まぁねぇ〜。なんだか懐かしいなぁ」
しんみりと過去の事を思い出していると、クリスとペコリーヌがムッと顔を歪める。
「ふーん、こういう人が好みなんだねぇ」
「この前、屋敷に小さいサキュバスがやって来ましたけどねぇ。こっちが本命だったんですねぇ」
「あ、アレは…………その…………」
俺は一昨日の晩に起きた事を思い出し、両手で顔を隠す。すると、突然竜車が止まった。
「どうかしたのか?」
「どうやらモンスターが現れたようです」
コッコロが窓から指を指すと、薄暗い道のど真ん中にミノタウロスが立ちはだかっていた。エルフの兵士達がゾロゾロ現れると、クリスが立ち上がった。
「さて、あたし達の仕事だよ?」
「そうだな。では、王女様。暫しお待ちください」
俺はペコリーヌに貴族の様な振る舞いで頭を下げながらクリスと共に竜車から降りてミノタウロスに近付くと、
「『ブルーインパルス』!!」
「『クロスハリケーン』!!」
青い閃光とクロス状の斬撃がミノタウロスに直撃すると、ミノタウロスはあっという間に倒れた。それを目の当たりにした兵士達は、
「流石は鋼のリュウジ殿!お見事です!」
「そちらの盗賊の少年も大した腕だ!」
「あ、あの、あたし女なんですけど…………」
それから何度もモンスターに出くわし、薙ぎ払いながら進んで行くと外は真っ暗になっていた。これ以上進むのは危険と判断したのか、野営の準備を開始した。そこへ、コッコロが魔道具らしき物を持って来た。
「それでは宿泊の準備をしますので、ペコリーヌさま、お下がり下さい」
そう言って四角形の物体を開けた場所に放り投げる。と、その物体が一瞬光を放つと同時、開けた場所に小さめの貴族の屋敷が建っていた。
「なにこれ」
「リュウジは知らなくて当然だよ。特別な魔道具だからね、王族や貴族達が所有している最高級の魔道具だよ」
「そんなのあんの!?え?これ一般人でも買えるのか?」
「まぁ、買えると思うけどものすごく高いよ?」
「いやコレ欲しいっしょ。クリスだってコレあれば安心だろ?」
ご丁寧に竜車用の小屋まで備え付けられた屋敷に入ると、俺達は荷物を置いて休息をとる事にした。
「ペコリーヌ様!お待ちください!」
何やら外が騒がしくなっていた。俺とクリスが外にでると、ペコリーヌが純白のドレスの上からエプロンを付けて料理をしようとしていた。それに耐えかねた兵士達が慌てて止めているところだった。
「大丈夫ですよ〜。慣れてますからね!」
「料理の支度は我々が致しますから!お休みになってて下さい!」
「そのような事は我々下々がやりますから!」
「リュウジくーん!クリスちゃーん!晩御飯は何がいいですかー?」
ペコリーヌが俺達を見付けて声を掛けて来た。無論、俺達は。
「ミノタンロースのステーキ!!」
「あたしは野菜炒めでいいよー!」
「はーい☆」
「鋼のリュウジ殿!ユースティアナ様を焚き付けないで下さいっ!」
エルロードまであと2日。この時、俺はエルロードで起きる事を考えもしていなかった。