キャルの淫夢を堪能した朝。俺は夜に備えて簡単なクエストをいくつか受けていた。主に街の人のお使いや、屋根の修理などだが思いのほか悪くない仕事だった。そして夕方になり、ハイテンションの状態で家に帰ると、クリス達が忙しそうに夕食の支度をしていた。
「あっ、おかえり!クエストどうだった?」
クリスが笑顔で出迎えてくれた。
「ただいまー。いやぁ街の人との触れ合いっていうのも悪くないね」
「そうそう。Adventuresの1人なら街に貢献しないとね!」
クリスはそう言い放ちながら料理をテーブルに置く。いつもとは違って豪勢な酒や料理を見て俺はクリスに尋ねた。
「きょ、今日はヤケに豪勢だな。一体どういう風の吹き回しだ?」
「え?ウォルバクが新たにあたし達のパーティーに入ったんだから歓迎会しなきゃと思ってね。︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎それがどうかした?」
「いや?別に?」
それもそうだ。ウォルバクは正式に俺の仲間になったんだ。歓迎会の一つでもしてやらないとな。けど、今日じゃなくても…………。
「さぁリュウジさまも、手を洗って来て下さいまし」
「なんだか悪いわね。私なんかの為にここまでしてくれるなんて」
「気にしないで下さい!ウォルバクさんはわたし達の仲間なんですから」
「その通りですよ。さ、食事にしましょう」
コッコロに促された俺は手を洗いに行って来て席に着いた。そして、ジョッキを片手に、
「んじゃ、ウォルバクの歓迎を祝して」
「「「カンパーイ!!」」」
俺達は乾杯して食事を楽しんだ。
豪勢な食事な上に今夜はサキュバスサービスが受ける。なんて最高な日だ!
あまり飲み過ぎると淫夢に影響が出てしまう為、俺はそそくさと食事を終えた。
「んじゃ、俺はちょっとお先に風呂に行かせてもらうよ?食器は朝に洗うから」
「どうしたの?具合いでも悪いの?」
クリスは心配そうに俺を見つめる。
「いや、ちょっと今日はちょっと疲れただけだから大丈夫だよ。んじゃ」
バタンとドアを閉めると、俺は素早く着替えを取って風呂場に向かった。脱衣所に入る同時に服を脱ぎ捨て、湯船に浸かった。
今夜は気合いを入れないとダメだ。なんせ、相手はペコリーヌ。油断ならない相手だ。
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ハッと目を開けて辺りを見渡した。いつの間にか風呂場の灯りが消えており、窓から入る満月の光だけだった。
どうやら淫夢に突入したらしいな。風呂に入った状態なのは今までに無いケースだな。
すると、風呂場の扉がガラリと開いた。ヒタヒタと裸足で歩く音が近付いて来るとそこには、
「今夜の月はとても綺麗でヤバいですねぇ〜 おや?」
「やぁ、ペコリーヌ。待ってたよ」
「あっ、えっ!?リュウジくん!?」
俺の前には薄いタオル一枚で前を隠すペコリーヌが現れた。俺が湯船から挨拶をすると、ペタンと座り込んだ。
夢なのに随分リアルだな、まぁいいや。
「ほら、ペコリーヌ?とりあえず背中洗ってくれるかな?」
「えっ!?え、ちょっ…………」
「あっ、ゴシゴシタオル使わないで体使ってね?」
「ええぇっ!?タオル使わないでですか!?」
「そうだよ!寒いから早くしてくれ!現実で一緒に入る約束しといてひよってんじゃあないよ」
肩越しで俺はペコリーヌに言うと、ペコリーヌは顔を真っ赤にさせてモジモジとしていた。
「そ、それはそ、そうですけど!こ、こんな感じじゃなくて」
「やかましい!さぁ、洗え!洗うがいい!!バッチコーイ!」
「うぅぅ…………」
ペコリーヌは覚悟を決めたのか、体に泡を纏わせて俺の体に密着して来た。ペコリーヌがぎこちない動きで洗い始めると…………、
「くうっ!!やっべぇ、たまんねぇなちくしょう!」
「こ、こんな感じで良いですか?」
「いいよ!たまんねぇよ!次は前ね」
俺はくるりと回ってペコリーヌに顔を向けた。反り立つモノを目の当たりにしたペコリーヌは咄嗟に顔を隠す。
「は、恥ずかしいですよぉ…………」
「シャラップ!!さぁ、続けてくれ!」
「うぅぅ……ぐすっ」
ペコリーヌが密着しようとしたその時だった。
「この曲者ー! 出会え出会え! 皆、曲者よーっ!!」
それは家に響くウォルバクの声。
「今の声は…………ウォルバクさん?」
「あんの、ボケェ!!こんな時にも邪魔しやがって!!許さん!!」
「えっ!?あっ、ちょっとリュウジくん!?」
俺は腰にタオルを巻いた姿のまま、声の元へと飛び出した。
「うらぁっ!!人の夢にまで土足で上がり込んで来んじゃ…………お?」
屋敷の広間には幼げな、小柄なサキュバスの女の子がクリスのバインドによって取り押さえられていた。それを、ウォルバク、マリュー、コッコロが取り囲んでいる。
あ、あれ?ロリーサちゃん!?
そう、俺の目の前には日頃お世話になっているお店のサキュバスの店員、ロリーサちゃんが拘束されていた。
「リュウジ、見て見て! 実はこの屋敷にはウォルバクの強力な結界を張ってあるんだけどね? 結界に反応があったから外に出て見れば、このサキュバスが屋敷に入ろうとしてたみたいで、結界に引っかかって庭で動けなくなってたの! きっと、リュウジを狙ってやってきたんだよ! でも、もう大丈夫だよ。今こいつを、退治してあげるから!」
クリスの言葉に、ロリーサちゃんがヒッと小さく声を上げ、クリス以外の3人は、戦闘用の服こそ着ていないものの、全員武器を持っていた。
って事は…………。
ゆっくり後ろを振り返るとバスタオル1枚で恥ずかしそうにペコリーヌがこちらの様子を伺っていた。
ウソ…………。
焦る俺に気付かずにクリスが、全員がロリーサちゃんを取り囲んだ事を確認し、ロリーサちゃんにビシッと人指し指を突きつけた。
「さあ、観念しなさい! っとその前にリュウジ、男のキミはこっち来ない方がいいよ? でないとサキュバスに操られて……」
俺は無言でロリーサちゃんの前に立つと、その手を取り、そのまま玄関に向かって連れていく。
「ちょちょちょ! リュウジ、そのサキュバスをどうするつもり?ひょっとして操られちゃったかしら?」
ウォルバクが俺に鋭く叫ぶ。ウォルバク以外の3人も、最初はあっけに取られていた様だが、武器を構えてロリーサちゃんに鋭い視線を送っていた。ロリーサちゃんが、俺にだけ聞こえる小さな声で。
「お、お客さんすいません! 私の事はいいです、どうせモンスターですから! ウォルバク様の結界は予想外でしたが、油断した私が悪いんです。お客さんに恥をかかせる訳にはいきません、私は街に迷い込んだ野良サキュバスって事で退治されますから、お客さんは、何も知らないフリをしてください!」
俺はそんな事を言ってくるロリーサちゃんを背中に庇う様にして、クリス達に対して向き直った。そのままロリーサちゃんを、玄関に向けて後ろ手にドンと押し。そして、クリス達に向かって拳を構え、そのままファィティングポーズを取る。
「お、お客さん!?何を!?」
ロリーサちゃんが小さな悲鳴じみた声を上げる中。
「……ちょっと、一体何のつもり? あたしとしては、そこの悪魔を見逃す訳には行かないよ? リュウジ、ボコボコにされたくなかったら、そこを退いて!」
クリスが眉根を寄せて、チンピラみたいな事を言ってきた。
さすがエリス、悪魔には容赦がない。
更にはウォルバクがズイと前に出て、威圧するような声で言ってくる。
「リュウジ、私としても、この子も元部下だけど、ここに居ることを見られたからにはを生かしては帰せないわ。……さあ、そこを退きなさい」
その言葉に、俺は思わず後ずさりそうになる。
「リュウジさま、可愛くてもそれは悪魔、モンスターでございます。しっかりして下さい、それは倒すべき敵でございます」
「そうですよ。その子は悪魔、危険です。リュウジ様は女子の魔族には優しいのは存じてます。なのでここは我々がやりますから」
コッコロとマリュー呆れた様に。そして、冷たい目線で突き放す様な声で言った。
コッコロのその視線が心にくるが、それでも俺は引き下がらない。後ろ手に、ロリーサちゃんに早く行けとばかりに手を振った。それを見たクリスとウォルバクが一歩前に出て、腰を落として身構えた。
「キミは本気でその子を逃がすつもりの様だね。なら、先にキミを倒すまでだよ。全力で叩き潰すからね!」
「流石にちょっとおいたが過ぎるわね、遠慮なく行くわよ!」
叫ぶと同時に、俺に向かって飛び掛ってきた。
それを見たロリーサちゃんが、小さな声ながらも悲痛に叫ぶ。
「お、お客さーん!!」
絶対に裏切ってはいけない物がある。それは、自分を信じて秘密を話してくれた、友人達の信頼だ。絶対に守るべき物がある。それは、寂しい男達の哀しい欲望を満たしてあげようとする、俺の背中に隠れる優しい悪魔。
俺は拳を握り締め。
「俺は鋼のリュウジ。最強を目指す冒険者だ!。退かぬ!媚びぬ!省みぬぅぅぅぅっ!!」
屋敷中に響く大声で、熱く、熱く、叫んでいた。
「『バインド』!!」
「はぁっ!!」
クリスのバインドとウォルバクの手から放たれた赤く光るロープの様な魔法が俺を縛り付けた。コッコロとマリューはすかさず俺をタコ殴りにする。だが、その隙にロリーサちゃんは窓を突き破って脱出して行った。
「あー!逃げられた!!」
「不味いわね、あの子を見つけ出して消さないと魔王軍に知られるわ」
「今更じゃないですか?最前線の砦でブギーマンなどが動いてましたし?」
「確かに……それもそうね」
「それより、この生ゴミはいかがいたしましょうか?」
「コッコロちゃん、触っちゃダメだよ?汚いから」
「ペコリーヌ〜?そんな所にいたら風邪ひくわよ?皆でお風呂に入りましょ?」
女たちは俺をゴミのようにして見下ろしながらペコリーヌの元へ行く中、クリスが真顔で俺の耳元で囁いた。
「付き合ってなくて良かったね」
その言葉を残してクリスもペコリーヌの元へ向かって行った。この時俺はもう二度とサキュバスのお店に行かないと心に誓った。