プロローグ
2日後。その国は他国からこう呼ばれていた。カジノ大国エルロード。エルロードの王都に辿り着いた俺達は、その賑わいと人の多さに圧倒されていた。
「すっげぇ人だな」
「まぁ、カジノ大国だからね。貴族や腕利きの冒険者が集まるらしいからね」
大通りという事で人が歩く程度の速さで竜車を進める中、俺が街をキョロキョロとしていると冒険者らしき人達は俺の顔を見てヒソヒソと話していた。
「ちょっとリュウジ?今回は遊びに来たんじゃないからね?あくまでもペコリーヌの護衛として来てるんだから」
クリスに釘を刺されるものの、俺より向こうが興味津々にこちらを見ているにしか思えなかった。
「えっ?何?俺何かした?」
「Adventuresだからではありませんか?リュウジさまは少し隠れて下さいまし、今絡まれたら堪りません」
コッコロに促されて俺は屈んで身を隠した。宿は事前に手配していたのか、大通りに面した一際大きな建物の前で竜車が止まる。
「皆さま、ここが手配しておいたお宿です。まずは部屋に行き荷物を置いて来るといいでしょう。ペコリーヌさまやアイリスさまがご出席される世界会議は明日になります。今日はごゆっくりと観光でもして旅のお疲れを癒しましょう」
宿の従業員に竜車を預けたコッコロが説明する。コッコロの話によるとカズマとミツルギ達は既に到着して観光しているという。俺とクリスが浮かれている中、ペコリーヌが一つ首を振り、
「わたしはお父様と明日の会議の準備があります。なのでコッコロちゃんと3人で観光して来てください☆」
そう言って、自分の荷物を手に取った。
「ペコリーヌさま、ここに来る事を楽しみにしておられましたよね?わたくし達は護衛です、ペコリーヌさまが残るというのであれば…………」
「いえいえ、皆さんはちゃんと体を休めてください。せっかくのカジノの国なのですから、楽しんで来て下さい!」
ペコリーヌはなんだかんだで周りへの気配りをするタイプだ、俺達が残れば気疲れして休めないだろう。
「だってさコッコロ。ペコリーヌがこう言ってるんだし、ちょっとだけ俺達も遊んでこよう?」
「は、はい…………分かりました」
未だに納得がいってなさそうなコッコロは、ニコニコしながらも何か強い決意を秘めた目をしたペコリーヌに、半ば気圧されるように頷いた。用意された部屋に荷物を置いた俺達は。
「ねぇねぇ!カジノ行こうよ!あたしが行けば大勝ち間違いないよ!」
「幸運値マイナスの人間連れてどうするんだ?結局プラマイゼロだろうが」
「ならばここは武器防具屋さんに行きましょう。ウォルバクさまとマリュー様にお土産を買いませんと」
早速街へと繰り出していた。
「あの、ペコリーヌさまを置いて来てしまっても良かったのでしょうか?」
ただ1人コッコロだけが、後ろ髪を引かれている様だが。ペコリーヌは今回の世界会議とやらに気負い気味だ。いずれはエルフの森を束ねる女王になるんだ、1人でスピーチの練習をしているのだろう。
可哀想だから後で美味そうなものがあれば買って行ってやろう。
────そう考えているその時だった。
「そこの冒険者の方、ちょっとよろしいでしょうか?」
「近隣から少女を連れ回している不審者がいると通報があったのですが」
「身分証を拝見させて頂きませんか?」
それは一言でいえば屈強な、堅苦しい雰囲気の3人の警察達。
そう、職務質問です。
警察官達は怪しそうに俺を見ていた。
「あの、少女というのはわたくしの事でしょうか?」
「あっはいはい。冒険者カードでいいんですよね?」
「なんであたしら誘拐犯扱いされてるの!?」
クリスとコッコロは途端に挙動不審になりオロオロしだす。俺は面倒事を避ける為に冒険者カードを提示した。
「アクセルの街からやって来たフクヤマリュウジです。冒険者で巷では鋼のリュウジと呼ばれています。後ろにいるのはエルフの森のプリーストのコッコロと、盗賊のクリスと言います。我々は明日の世界会議に出席するエルフの森のユースティアナ第一王女の護衛としてやって参りました」
「こっ、これは大変失礼しました!」
俺達の冒険者カードを確認した3人の警察官の1人が頭を下げた。それに続いて他の警察官達も頭を下げた。
「ご協力ありがとうございました」
「あの、どうして職務質問なんてしてるんですか?そんなにエルロードは物騒なんですか?」
クリスの質問に警察官が答えた。
「実は最近小さい女の子を誘拐する輩がいまして」
「小さい女の子を誘拐…………カズマじゃない?」
「キツい冗談やめてあげなよ、助手君捕まっちゃうじゃん」
「明日は世界会議なのに面倒なのがいるんですね」
「そうなんだ。だからエルフのお嬢さんも1人で出歩かないように」
「はい。承りました」
警察官に警告されたコッコロは礼儀正しくお辞儀をする。警察官達から冒険者カードを受け取り警察官達はパトロールに戻って行った。
「で?どうする?カジノに行って大損しに行く?」
「嫌だよ!だったら観光した方がマシだよ!」
「リュウジさま、クリスさま。あれはいかがでしょうか?」
俺とクリスが言い合う中。コッコロが指す方向に闘技場の様な施設があった。
「へぇ〜。こんなのもあるんだねぇ!」
「闘技場か。なんだか懐かしいな」
「では、ここから観光して見ましょうか?」
まだ小さいコッコロを連れて行っていいものか考えものだったが、クリスが何かを閃いたのか目をまん丸くさせる。
「ねぇねぇ?ここでなら大稼ぎ出来るんじゃない?」
ほう?
「運が良ければ弱いやつと戦って大稼ぎ。運が悪けりゃ強い奴が出て来て大稼ぎって訳か」
「でしょでしょ?」
「なるほど。それならわたくし達にも勝機はありますね」
闘技場の参加を決めた俺はクリスとコッコロの掛け金を元手にして。
「おんどりゃぁっ!!」
「ぐぁぁぁぁぁっ!!」
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
武闘家限定のバトルロイヤル大会に飛び入りで参加し、蒼き稲妻のコートを靡かせながら快進撃を見せていた。
「あいつ、鋼のリュウジじゃないか!?」
「間違いない!勇者殺しのベルディアを倒したって噂の男だ!」
「見ろ!『ドラゴン拳のゴウ』があっという間にやられたぞ!!」
何だよドラゴン拳って。
「向こうの壁には『ブラッドファング拳のシュウ』がめり込んでるぞ!」
だからなんだよブラッドファング拳って。
ここは有名な冒険者に二つ名が付く事がある異世界だ。俺やミツルギのように付けられたのかもしれない。観客席では掛け金が数倍になって戻って来た現金数えているクリスとコッコロが見える。
そういえば、前の異世界の闘技場でストームブリンガーを手に入れたんだっけな。
…………と、俺が昔の事を思い出していると目の前に1人の女が立っていた。
「次は私の相手をしてくれるのかしら?ふふっ、鋼のリュウジ。お会いできて光栄よ?残念だけど、あなたの連勝もここまでよ。貴方はここで負ける事になる。この私、『ハトポッポ拳のモニカ』にね」
ハトポッポ拳のモニカ。もうちょい他にネーミングは無かったのか?。
鳥を真似していると思われる変な構えをしながら俺に襲い掛かってきた。
「オラッ!オラッ!オラォァッ!!」
「悪魔だ!なんだあいつは、女相手にケツキックしかしてないぞ!」
「もういいだろ!オーバーキルしてるぞ!!」
「おい、ハトポッポ拳のモニカが泣き出したぞ、もう止めてやれよ!嫁に行けなくなるぞ!?」
「リュウジさま、頑張って下さいまし!」
「いいぞ!いいぞ!もっと稼ごう!!」
そんな歓声を背に、俺はモニカという冒険者にガルーダ直伝のタイキックを繰り出していた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!もう蹴らないで!!」
ケツを擦りながらモニカは半泣きで謝ってくる。
「面白い流派だったけど、参考になったよ。また勝負しよう!」
「いえ、もう武闘家は辞めて剣士になります。さようなら」
バトルロイヤル対戦後の握手をしようと相手に手を差し出すも、逃げるように去って行く。クリス達の手には凄まじい大金が手にされていた。ここはカジノ大国エルロード。どんなゲームにも賭け事がついて回る。調子に乗った俺は、会場に向けて声を張り上げる。
「挑戦者求む!」
─────その頃、俺達の宿にこっそりと忍び寄る影があった。
「リュウジの部屋はここね?」
日光がその忍び寄る影に当たると、キャルの姿があった。キャルはおもむろに俺の荷物を漁り始めた。
「何か手土産になるようなものはないかしら…………ん?何よこれ?」
キャルは封筒を手にして中身を開けてみると、ラフタリアの写真が入っていた。
「誰よこれ。この辺の街には見ない顔ね?もしかしてリュウジに関する重要な人物かしら?。これは使えるわね」
キャルはポーチにその写真をしまって部屋から抜け出して行った。