翌日。世界会議当日、俺達は護衛の為に実戦同様と同じ服装でペコリーヌと共に会場にやって来た。会場はエルロードの宰相という偉い人の別荘を貸切りにするという。辺りを見渡すと、様々な国の国王とその護衛の冒険者が何人もいた。その中には、アイリス王女とカズマ達。ウィスタリア家のご令嬢のアキノさんとミツルギ達を見掛けた。いざ、本番となると俺はペコリーヌと同様に緊張して、落ち着かない様子で立っていた。それをクリスに見抜かれ、肘でこづかれる。
「ねぇ?、もしかして緊張してるの?」
「い、いや…………こんな大規模の護衛は初めてで」
「それもそうだね、まっ、リラックスしていこう?」
確かに、カチコチの動きをしてネフェリア国王とペコリーヌに恥をかかせるわけにはいかない。しっかりしなきゃ。
「今のうちトイレに行ってくるわ」
「早く行ってきなよ?もうすぐ始まるんだから」
「はいはい」
トイレに向かうと、1人の女性が立っていた。
「お疲れ様です。随分武装していますね」
「い、いえ、万が一の用心ですよ」
「そうね。あなたは冒険者だから、なんでもやりたい放題ね。でしょ?」
「えっ?それってどういう意味ですか?」
女性の言葉にトゲを感じた俺は、女性に尋ねた。
「貴方に用があったの」
そう言って女性がポーチに突っ込んだ手を、危険を察知した俺は咄嗟に掴んでしまった。
「何のつもりですか?」
しかし、そこから武器が取り出されることは無かった。
「…………あっ、すいません。神経質なもので」
「わたしは王都の者です。クレア様、レイン様と共に王城で働いています。激務ですが、おかげで娘を育てられたわ。立派に育って…………自慢の娘でした」
そう言うと、ポーチから娘の写真を取り出し、俺の胸元に押し付けた。
えっ………?
「名前はアロエリーナ。王都警察署署長…………あなたが捕まえた魔王軍に殺された。厳密に言えば、捕まえた魔王軍の仲間によって殺された。あなたは魔王軍を捕まえて満足しているでしょうけど、あの子は死んだ、あなたのせいで」
何も返せない俺に背を向け、女性は戻って行った。俺は用を足し、持ち場に戻ると、クリスが声を掛けてくる。
「随分遅かったね。どうしたの?」
「…………なぁ?、俺に何か黙ってる事ねぇか?」
俺がクリスにそう言うと思い当たる節があるのか、俺の目から視線を外した。
「あるんだったらいい。今夜聞く」
「ね、ねぇ?怒ってるの?」
「……………………」
俺はクリスの顔を見るのを止めると、会場が騒がしくなって来た。
《皆様、間もなく世界会議が開始されます。護衛の皆様方は、お手数ですがお下がり下さい。ご出席の皆様、ご着席下さい》
アナウンスが流れ始めた。護衛の冒険者達は依頼者から離れて会場の壁際に配置された。無論、俺達もペコリーヌと別れた。
会議が始まり、様々の国王のスピーチに出席全員が耳を傾ける。俺は他のメンバーが気になりカズマ達に目を向けると、アクアは器用に立って眠っていた。
こんな時に…………イラつく奴だ。
溜め息を吐くと、遂にペコリーヌの出番となった。ペコリーヌは礼儀正しくお辞儀をしてスピーチを始めた。
「わたくし達の国、エルフの森は魔王軍の襲撃に見舞われました。悲しい出来事でしたが、これで後戻りするのではなく、世界を良くする為に一緒に魔王軍と戦いましょう。我々の国を守って下さったAdventuresの皆様に心より感謝します。エルフの森は誇りを胸に、みなに手を差し伸べ…………」
その時、会場のすぐ外で異変が起きた。ハーレイが静寂な会場内で突然騒ぎ出す。
《ぽーん!攻撃魔法を探知!》
「ペコリーヌ!ふせろ!」
「えっ?」
「ユースティアナ!伏せなさいっ!」
突然爆発が起きた。会場は瞬時に瓦礫と化し、多くの人がその場に倒れた。
「ペコリーヌさま!お怪我は!?」
「お父様!お父様! 返事をして下さいっ!!」
ペコリーヌは急いでネフェリア国王のもとにかけよるが、すでに国王は息をしていなかった。
「お兄さま!お兄さまはどこですか!?」
「アイリスー!アイリスどこだー!」
遠くからカズマの声が聞こえて来る。俺はコッコロに声をかける。
「コッコロ!アクアを呼んでこいっ!まだ助かる!」
「承りました!ペコリーヌさま!もう少しお持ちを!」
「リュウジ!あたし達は怪我人を避難させよ!」
「ああっ!その前に国王が先だっ!」
コッコロがアクアを探していると、
「おや?ここにも可愛らしいお嬢さんがいらっしゃいますね」
「えっ?」
コッコロが土煙の中振り向くと、老紳士がアイリス王女を抱き抱えていた。コッコロは勘が働いたのか、槍を突き出した。
「あなたさまは護衛の方ではありませんね!?アイリス王女さまをおはなし下さいっ!」
「それは出来ない相談ですねぇ」
ドスッ!
コッコロの後頭部に老紳士の手が当たってしまい、コッコロは気を失ってしまった。老紳士はコッコロも抱き抱えて、
「目標は果たしました。後はキャルさんに任せましょうか」
壁に空いた穴から出ようとしたその時、
「待て!」
老紳士が振り返ると、ミツルギが剣を構えていた。
「貴様は…………ダニエル!?貴様、アイリス王女とコッコロちゃんをどうするつもりだ!?」
「やれやれ、邪魔が入りましたね…………キャルさん?」
「えっ?」
壁の穴の先にはキャルが立っていた。キャルが杖を構えた瞬間、一瞬の閃光がミツルギを吹っ飛ばした。
「これで邪魔は入らないでしょう。ワイバーンで逃げますよ」
ワイバーンに乗ったダニエルはアイリス王女とコッコロを連れてどこかに飛び去って行ってしまった。
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消火作業が続く会場では、エルロードの警察官達が忙しく動いていた。レインやクレア達も忙しく部下に指示を出している。
「アイリス王女の捜索を最優先で動くんだ!エルフの森の護衛も拉致されている。ここから正念場だぞ」
その近くで呆然と座り込むペコリーヌに、クリスが声をかける。
「ペコリーヌ、大丈夫だよ。きっと助かる」
「そうですね…………。お父様はヤワな体はしていませんから」
「リュウジ、ちょっといいか?」
俺はミツルギとカズマに声を掛けられ、その場を離れた。俺はミツルギに顔を向けて、
「なにか分かったのか?」
「ああ、実はアイリス王女とコッコロちゃんを誘拐したのは以前アクセルの街にやって来たダニエルだ」
「ダニエルだと!?」
俺がダニエルと叫んだ途端、ペコリーヌが俯いていた顔を上げた。カズマは慌てて俺の口を抑える。
「声でけぇよ!しかも、ミツルギが言うにはその場にキャルがいたって」
「キャルが!?」
「しーっ!!今めぐみんとダクネスとマヒルがキャルの行方を追ってる。もしキャル本人だったとしたら俺達も危ない」
「鋼のリュウジ殿、ここにおられたか!」
カズマ達と話していると、アイリス王女の側近のクレアとレインが水晶玉を片手にやって来た。
「クレアさん、レインさん。どうしたんですか?」
「この会場の防犯映像を入手しました。一緒にご覧下さい」
丁度良かった、キャル本人かどうか確かめられる。
レインは壁に水晶玉の映像を映し出した。ミツルギが対峙している映像が流れている時、俺はハーレイに指示を出した。
「ハーレイ、この写っている男はダニエルか?」
《ぽーん!識別結果、100%の確率で魔王軍のダニエルと断定》
「なら、隣に写っているのはキャルか?」
《ぽーん!顔認証の結果、冒険者キャルの確率…………98%》
「ほぼ高確率でキャルだな」
俺とミツルギが頷くと、カズマだけは信じていなかった。
「嘘だっ!何かの間違いだって、キャルに化けた偽物かも知れないだろ?」
「キャルちゃん…………なんですか?」
後ろを振り向くとペコリーヌが認めたくないのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「な、何かの間違いですよね?」
「だろ?ペコリーヌもそう思うだろ?」
「ペコリーヌ、この件は俺達がなんとかするから、ペコリーヌは」
「それには及びません。わたしが本人に確かめて見せます」
ペコリーヌはそう言って、エルフの森の兵士の元へ去って行った。すると、カズマが俺とミツルギに言い放つ。
「キャルは俺のパーティーだ、ここは俺に任せてくれないか?」
「構わないが、もし本人だったらお前犯罪者だぞ?その覚悟はあるのか?」
「必ず証拠を見付けて見せる!少し時間をくれ!」
そう言い放ち、カズマはアクアを置いてめぐみん、ダクネス、マヒルを探しに向かった。