その頃、アイリス王女とコッコロは。
「コッコロさん、今度はサンマというものをを食べてみませんか?」
「サンマですか?承りました。ダニエルに頼んでみましょう」
コッコロが立ち上がってドアをノックすると、
「はぁ、はぁ、コッコロさん。なんの御用ですか?」
上の階から走って来たのか、ダニエルは息を切らしながらやって来た。コッコロは申し訳無さそうに、
「申し訳ありません。アイリス王女が今度はサンマを食べたいと申しているのですが…………」
「サ、サンマ…………ですか?。焼いてお届けするのに時間がかかりますが?」
ダニエルが顔を引き攣らせながらコッコロに答えると、アイリス王女が近付いて来てダニエルを上目遣いで言い放つ。
「ダニエルと言う者、私はサンマという物を焼いて食べた事がありません。どうかお願い出来ませんか?」
ダニエルはドキッとしながら頬を赤くさせて、
「で、ですが、室内でサンマを焼いてしまうと部屋に匂いが付いてしまいます。なので焼くのは私に任せて貰えませんか?」
「…………ダニエル…………」
アイリス王女は目をウルウルさせて呟く。すると、コッコロが手を上げる。
「わたくしは浄化魔法も使えるのでお部屋の匂い消しはお任せ下さい」
「致し方ありません今回だけ特別に許可しましょう。今からエルロード一の魚屋でサンマを用意して参ります。では」
ダニエルはドアをゆっくりと閉めてドタバタと走って出かけて行った。コッコロはアイリス王女に向かって、
「アイリスさま。このような我儘を言ってはいけませんよ?」
「いえいえ、コレも作戦の内ですよ?」
「作戦…………でごさいますか?」
アイリス王女はくすくすと笑っていると、ドアが激しく開かれた。
「お、お、お、お待たせ致しました。七輪とサンマでございます!!」
額に汗をかいてスーツを乱しながらダニエルが入って来た。
「まぁ、こんなに早く届くなんて凄いですね!」
「アイリス王女様にお褒めのお言葉を頂けるなんて感激でございます!」
「後はわたくしがやりますので」
「コッコロさん、火傷などしないようにして下さいね?」
「はい、かしこまりました」
「では、ごゆっくり」
褒められて満足気なダニエルはそのまま部屋を後にした。それと同時にコッコロは七輪の炭に火をつける。ぱちぱちと炭に火が入ると、コッコロはサンマを七輪の網にサンマを置いた。
「では、これからサンマを焼きます」
「楽しみですね!あっ!窓を開けますね!」
アイリス王女が窓を開けると、モクモクとサンマの煙が上がり始めた。
────────────────────────
その頃、俺達は一旦宿泊している宿に戻ってクレアとレインと共にアイリス王女の行方を探していた。
「おそらくダニエルという者はエルロードから出ていない可能性がある」
「確かに、王都に向かうとしてもリスクを背負う事になるからな」
「となると、アイリス王女はこの街のどこかに…………」
俺、ミツルギ、クレア、レインと共に地図を睨みつけていると、作戦会議室のドアが開かれた。
「どうだ?アイリスは見つかったか!?」
キャルを捜索していたカズマ達がやって来た。どうやらキャルの捜索を中断してこっち合流するらしい。俺はカズマに顔を向けて、
「カズマ、キャルは見つかったか?」
「いや、何処を探しても見当たらない。もうエルロードにいないかもしれないな」
「そうか…………」
信じたくないけど、やっぱりキャルも誘拐事件に関係してるのか…………。
葛藤していると、慌てた様子で兵士が入って来た。
「クレア様!失礼します!」
「なんだ!騒々しいっ!作戦会議中だぞっ!!」
クレアが兵士に一喝すると、兵士が息を切らしながら話し出す。
「も、申し訳ありません!ですが、お耳に入れたい情報が」
「なんだ!」
「はい。ここから西にあるコンチネンタル・ホテル・エルロードのVIPルームから煙が上がってると近隣住民から通報を受けまして」
なんだ火事か。
「火事なんてエルロードの警察に任せればいいんじゃないか?」
「カズマの言う通りだな。今は余計な情報は入れないで欲しいですね」
カズマとミツルギが兵士にあしらう様に言うと、
「で、ですが、万が一アイリス王女様が居場所を知らせる為に上げた可能性もあるかと…………」
兵士が理由を言った。それを聞いた俺はクレアに向かって、
「クレアさん、可能性はゼロじゃなさそうですよ?」
「アイリスは頭が良いですからね、有り得ますよ?」
俺とめぐみんが兵士の意見に賛成した。ダクネスとマヒルもそれに頷くが、クレアは釈然としていなかった。
「だ、だが、もし万が一間違いだったとしたらそれこそ問題だ。これ以上問題を増やしたくない」
「もし間違ってたら素直に謝ればいい。こっちは緊急事態なんだからな」
クレアを説得すると、クレアは遂に答えを出した。
「わかった、責任は私が取る」
「そう来なくっちゃな。メリッサ、クリス」
俺は作戦会議に参加していたメリッサとクリスに顔を向ける。
「ワタシ達が偵察してくればいいのね?」
「任せて、コッコロちゃんを見つけて見せるから!」
「ミツルギはアキノさんに頼んで近隣住民に声をかけてもらえ」
「分かった。行ってくる!」
「ね、ね、あたしらはどうすればいい!?」
アクアが楽しそうに手を挙げて俺に聞いてくる。
コイツはほんとに幸せな奴だな。
「アクア、セシリー、めぐみん、ダクネス、マヒルは俺やカズマと一緒にホテルの近くで待機だ。メリッサ達の合図を聞いたら突撃しよう」
「では、リュウジ殿。その時が来たら我々にも報告して欲しい」
「分かった。ペコリーヌやマリュー達が欠けてるけど、Adventures。行くぞ!!」
各々自分の配置に付いた。兵士の言う通り、ホテルの最上階あたりからモクモクと煙が上がっているのが分かった。千里眼で確認したがアイリス王女とコッコロの姿は確認出来なかった。メリッサとクリスはホテルに侵入し、潜伏スキルを使ってアイリス王女とコッコロの情報を集め始めた。俺達はホテルが見える物陰に身を潜めながらクリス達の情報を待っていた。
「ほんとに煙が上がってるな」
「何かを燃やしてるのか?副流煙にならなきゃいいんだが…………」
物陰から様子を伺っていると、通信魔石から応答があった。
「こちらメリッサ。聞こえるかしら?」
「聞こえてるぞ」
メリッサから通信が来た途端、全員が耳を傾ける。俺は通信魔石に向かって声を掛けた。
「どうだ?何か分かったか?」
「ええ、さっきダニエルが忙しそうに買い物袋を持って駆け上がって行ったわ。アイリス王女様に醤油とか大根がどうとか言ってたけど?」
大根?醤油?
「大根と醤油は意味がわからないが、アイリス王女って言ってたんだな?」
「ええ、間違いないわ」
「民間人は中にいるのか?」
「どうかしら?ロビーにはいないわよ?」
「分かった、今から突入する」
メリッサとの通信を終わらせ、今度はクレアに応答を求めた。
「こちら鋼のリュウジ、クレアさん。聞こえますか?」
「聞こえている。アイリス王女は発見出来ましたか?」
「ええ、やはりコンチネンタル・ホテルにいるそうです。我々は今から突入します」
「了解した。私達も今から向かう」
クレアとの通信を終わらせ、通信魔石をチェストブレイクの懐にしまった。そして、
「よし…………行くぞ」
その場にいた皆は頷き、俺達は動き始めた。周辺はアキノの働きによって近隣住民のいなくなっており、道路には俺達しかいなかった。俺達は横一列に並びながらコンチネンタル・ホテルを目指す。ホテルにはいると、メリッサとクリスが待ち構えていた。
「アイリス王女様は15階に居るようだよ」
「分かった」
クリスは俺達が来る前にダニエルの後を追ってアイリス王女達の部屋を探し当てた様だ。俺は受け付けにいる男に近付いた。
「アイリス王女を連れ戻しに来た。返してもらおうか?」
フロントの受け付けはチラッと俺の顔を見て、
「アイリス王女様は大事なお客様です。お引き取り下さ────」
受け付けが言い終わる前にダクネスが突然胸ぐらを掴んだ。
「アイリス王女様を返して貰えないかと言っている。もうすぐ王都の者もここへ来るぞ」
受け付けの男は掴まれながらも平然としながらダクネスに答える。
「暴力は好きじゃありませんが…………仕方ありませんね」
受け付けの男は机の引き出しから呼び鈴を取り出し、リンリンと鳴らした。すると、スタッフルームと階段から黒いスーツを身に纏う屈強な従業員の男達がぞろぞろと現れた。