屈強な従業員達を見上げていると、突然従業員達は姿を変え始めた。体はみるみるうちに膨張し、牙が生えて来た。それを見ていたアクアが声を荒らげる。
「みんな!気を付けて!トロールよ!このホテル中トロール臭いと思ったらみんなトロールだったのね!?」
トロールとは、巨大な体躯、かつ怪力で、深い傷を負っても体組織が再生出来、切られた腕を繋ぎ治せる。醜悪な容姿を持ち、あまり知能は高くない。凶暴、もしくは粗暴で大雑把、というものである。だが、この世界のトロールは人間に姿を変える事が出来るらしい。
「グオオオッ!!」
「ここはオラに任せて先に行け!」
マヒルが槍を握りしめて前に出た。カズマは慌ててマヒルを引き止める。
「1人じゃ無理だろ!」
「マヒルさん、あたしも残るよ!」
「なら、私達も残ります!皆さん、先に行って下さいっ!」
マヒルの他にクリス、アオイ、ゆんゆんも参加した。
クリス達もいるならここは問題無さそうだな。
「ここは任せたぞ!」
クリス達にロビーを任せて俺を含めてカズマ、ミツルギ、メリッサ、めぐみん、ダクネス、アクア、セシリーは階段を一気に駆け上がった。15階にたどり着き、廊下を見渡すとめぐみんが可愛らしい部屋を見付けた。
「この部屋でしょうか?鍵がかかってる様ですが?」
「あっ、なら俺が解錠させるか?」
俺が近付こうとすると、ダクネスが俺を止めた。
「いや、このホテルはトロールの巣窟だ。スキルを使うのはやめておけ、この程度の鍵ならば…………ふんっ!!」
バキッ!!
ダクネスの怪力でドアの破壊した。それを見ていたメリッサがクスクスと笑いながら声をかける。
「流石の怪力ね」
「か、怪力じゃない!!」
顔を真っ赤にさせながらダクネスは否定する。ダクネスを宥めながら俺達は部屋に入った。
「アイリス、コッコロ、無事か…………うっ!?」
カズマは異常な生臭さに思わず鼻を覆う。部屋の中は煙たく目を開けるのがやっとの程だった。
「な、何よコレ…………酷いわね」
「まさか、コッコロ達が襲われて激しく抵抗を…………!?」
「なんの目的があって誘拐したのか知らないが、我々に気付いて別の場所に連れて行かれたのだろうか…………?」
「くそっ、ダニエルめ…………」
悔しがるカズマの隣で俺は鼻をスンスンと部屋の臭いを嗅いでみた。
「スンスン…………なぁカズマ、ミツルギ」
「どうした?リュウジ?」
「生臭くね?なんつーか、サンマ焼いた様な臭いっていうか」
ミツルギも俺に言われて臭いを嗅ぎ始める。ミツルギも身に覚えのある臭いと気付く。
「おや?何やら騒がしいですね、誰か来たのでしょうか?」
煙の奥からコッコロが顔をススだらけにしながら現れた。
「コッコロ! 無事だったのか!?」
「コッコロ!?」
「リュウジさま?助けに来て下さったのですか?」
コッコロは丁度いい塩梅で焼かれたサンマをグイッと俺に押付けて来る。
焼き魚くせぇ…………。
「これは美味しそうですね、顔にススがついてますよ?」
「と、トロール達に酷いことをされたんじゃなかったのか?」
「なんでお前は残念そうに聞くんだよ」
コッコロはめぐみんにススを拭われ、ダクネスの質問に答えた。
「いえ、ここのトロールの皆様は特に危害を加えて来ません」
「だったら、なんでそんなに汚れてるの?」
メリッサが首を傾げていると、
「あっ、お兄さま!助けに来て下さったのですねモグモグ」
「アイリス!?」
「えっ、待って?2人でサンマ焼いてたの!?」
「はい。アイリス王女さまがサンマをご所望だったのでダニエルに用意して貰いました。サンマはやはりおろし醤油が一番かとモグモグ」
話をしながらサンマをモグモグと食べ続けるアイリスとコッコロ。
「か、感動の再会だというのになんとも言えないですね」
「心配して来てみれば2人でサンマを焼いてるなんてな」
「とにかく、ここから脱出しなければ」
「待って下さい、わたくしの装備が」
「コッコロたんの装備なら、ここにあるわよ?」
いつの間に手に入れていたのか、メリッサはコッコロの装備を持ち出してコッコロに手渡した。
「ありがとうございます、メリッサさま」
「よし!それじゃ、脱出す──────」
「待ちなさい、このままじゃ気が済まないわ。このホテルに隠されてるお宝でも頂かないと割に合わないわ」
「ったく、仕方ねえな」
「ワタシの宝感知スキルによると…………こっちよ!ついて来なさい!」
俺達がサンマの臭いが漂う部屋を後にした数分後。ダニエルは慌てた様子で、コッコロとアイリス王女の監禁部屋を訪れていた。
「アイリス王女様!コッコロ様はどこです!?鍵が壊されていますが壊されていましたが、逃げ出したのですか!?」
ダニエルはサンマの食いかけを見つけ手に取り、
「まさか…………私の選りすぐりのサンマが気に入らず逃げ出した!?ああっ!!なんてことを!!」
「ダニエル…………様…………」
監禁部屋にボロボロのトロールが入って来た。
「どうしたんですか!?その傷は…………?」
「まことに申し訳ありません…………。Adventuresの連中が、アイリス王女様達を取り戻しに来たのです。下の階で全従業員で迎え撃ったのですが、なにぶん厄介な連中で…………くっ!!」
「な、なんと言うことだ…………来るとは思ってたがこんなにも早く麗しの王女達を攫いに来るなんて…………おのれAdventures!!」
「まぁ、最初に攫ったのはダニエル様ですけどね…………」
「逃がしませんよ…………私はトールハンマーを持って来ます。あなたはホテルの中を探しなさい!」
「分かりました!!」
一方その頃。12階まで下がっていた俺達は客室を全てこじ開けて調度品等を物色していた。
「この燭台は純金ね…………それなりの額にはなるかしら。あとこの魔道具も、冒険者に高額で売れそうだわ」
メリッサがゲスな笑みを浮かべながら物色しているのを呆れながら見ていた俺が声を掛けた。
「なぁ、もういいだろ?下で戦ってるクリス達に申し訳ないからさ、そろそろ脱出しようぜ?」
「分かってる…………。金目の物は袋に詰め終わったし、もう大丈夫よ」
アイリス王女は楽しそうにメリッサを見つめて、
「こうやって大きな袋を抱えていると…………なんだか、まるで泥ぼ」
「違いますよ王女様。ワタシはトレジャーハンターです。お間違えなく」
「トレジャーハンター!!なんて楽しそうなんでしょう!今度、王城で詳しく聞かせて下さいね!」
「やめろコラ!アイリスに変なもん植え付けんな!!」
カズマがメリッサに文句を言うとアクアが騒ぎ出す。
「どうでもいいけど早く脱出しましょうよ。さっきのサンマの匂いが服に染み付いちゃったわ!早く帰って洗濯したいんですけど!?」
「そうですね。お見舞いの件も中止でしょうから、皆さんで王城にいらして下さい。助けて頂いたお礼もしたいので」
「程々にして下さいね?カズマがまた住み着きますから」
ピンポンパンポーン♪
ホテル内の各所に設置されたスピーカーから、ノイズ交じりに音声が流れる。
《マイクテスマイクテス…………鋼のリュウジさん。聞こえますか?》
「この声は…………ダニエルね!?」
「俺を名指しで呼んでやがる…………」
《従業員がお世話になりました、そろそろ私と決着を付けましょう。最上階でお待ちしております》
最上階?コッコロ達がいたのが最上階じゃなかったのか?
思い当たることがあるのか、コッコロが首を傾げている。
「そういえば、わたくし達がいた部屋の上から時々物音が聞こえてました。もしかするとそこかも知れませんね」
「リュウジ、どうするんだ?」
ミツルギは俺に尋ねてくる。
「どうするって、アイツは魔王軍だ。ケリをつけたい」
「はぁ…………せっかく親玉と鉢合わずに済むと思ったのに、しょうがねぇなぁっ!!」
「セシリー、コッコロ達と一緒に降りてクリス達を呼んでくれ。そのまま脱出してクレアさん達にアイリス王女を送り届けるんだ」
「分かったわ!任せて下さいっ!」
「お兄さま、お気を付けて!」
アイリス王女達と別れてクリス達と合流し、俺達はダニエルの待つ最上階のドアを蹴破った。
「うらぁっ!!出て来いダニエル!!」
「…………ようこそ、鋼のリュウジ。自分から来てくださって感謝しますよ」
「あの頃と同じと思うなよ?『ライトニングフィールド』!!」
俺はライトニングフィールドを部屋全体に張り巡らせた。ダニエルはハンマーを掲げて、
「それはこちらも同じです!おぉぉぉぉっ!!」
ダニエルは突然姿を変えて天井を突き破り、壁を破壊し、今までのトロール達とは比べ物にならないくらい巨大なトロールと変身した。それを目の当たりにしたアクアとクリスが身構える。
「トロールロードよ!みんな、気を付けて!」
「それにあの変なハンマーには気をつけて!」
俺達はトロールロード向かって構え出した。