チェストブレイクの鎧が砕け散って上半身裸の状態になった俺は、息を切らしながら大の字になってホテルの床に落下した。そして、無情にも雨が降り始めた。息を切らしていると、クリスが階段を駆け上がって来て俺に駆け寄った。
どうやらメンバー代表でクリスが来たらしい。
「リュウジ!?無事!?」
「はぁ、はぁ…………ダニエルは?」
「そこで倒れてる。首を斬られてるから起き上がる事はないよ」
クリスに手を借りて起き上がると、ダニエルの死体の側に青白く輝くハンマーが床にめり込んでいた。俺はクリスに尋ねた。
「あのハンマー、神器か?」
「うん。あれは『トールハンマー』高潔な心の持ち主か、トールハンマーから選ばれる者しか持てないと言われてるよ。ダニエルは魔王軍だったけど、高潔な性格だったみたいだね」
「ダニエルが使えるなら…………俺にも使えるかな?」
俺はトールハンマーに近付いて、トールハンマーの柄を掴んで持ち上げようとした。
「うおおおおっ!!」
だが、トールハンマーは巨大な岩のように重く、床から離れる事は無かった。雨が降り注ぐ中、俺は叫び続ける。
「ふざけんなぁぁぁぁっ!!あがれぇぇっ!!」
俺を拒む様に雷が鳴り響き、トールハンマーは上がる事は無かった。クリスも複雑な顔をしながら俺の肩を叩く。
「リュウジ…………諦めよ?トールハンマーはあたしが統一神界で他の神器と一緒に保管するから」
「…………分かった」
─────クリスがトールハンマーを天界に持って帰ったその後、アイリス王女とコッコロは無事に保護されてダニエルの誘拐事件は幕を閉じた。事件から翌日、俺達Adventuresはエルロードの最高権力者の会議室に呼び出された。俺達の目の前には、目鼻立ちは普通だが、細かな意匠を凝らした服を着た男が座っていた。
「Adventuresの皆様、お初にお目にかかります。私は宰相を務めているラグクラフトと申します、以後、よろしくお願いします致します」
俺や、カズマとミツルギは同時に頭を下げ、ラグクラフト宰相に尋ねた。
「宰相殿、どうして我々が呼ばれたのでしょうか?」
「その質問にお答えします。先のダニエルの誘拐事件はご苦労さまでした。最近の世間はAdventuresに返しきれないほどの借りを作りました。君達は我々を守る為に戦ってくれている、命を懸けて。だが、君達を勇者だという者もいれば、ただの『冒険者の自警団』だと言う者もいる」
「あの、ちなみに宰相様はどちらの呼び名を使いたいんでしょうか?」
クリスが恐る恐る尋ねる。
「『危険な冒険者集団』かな?考えもみたまえ。アクセルの街を本拠地とする冒険者集団が、国境などまるでお構い無しに、自分達の正義をふりかざす。自分達が暴れたあとのことには知らん顔をしてな」
そういいながら、ラグクラフト宰相は水晶玉で映像を映し出す。
「アクセルの街、アルカンレティア、エルフの森、聖テレサ女学院、紅魔の里、オーエド…………そして、我が国エルロード」
それぞれの街の惨状が流れ、思わずカズマやアクアが目を逸らした。隅に座っていた俺でさえも、一言も発しない。
「も、もういいです…………止めてください」
カズマの言葉で、ようやく映像は止められた。
「この約1年、君達はギルドのみに管理されて好き放題やって来た。だがそんなやり方では、もう各国の政府が黙っていない。そこで対応策だ」
そう言って、ラグクラフト宰相は家臣に分厚い文書をテーブルに運ばせて置かせた。
「冒険者ギルド協定だ。すでに117箇所の冒険者ギルドが同意した。これにより、Adventuresはもはや一般的な冒険者ではなくなる。これからは、君達は政府とギルドの監視の元で動く。政府とギルドが必要と認めた場合のみ、出動を許可する」
と、その時だった。ラグクラフト宰相の後ろに近寄ったアクアが無造作にペタペタとその背を触る。
「な、なんだね、このプリーストは?私に何か?今大事な話をしてるのだが?」
思わず尋ねるラグクラフト宰相に、当のアクアは首を傾げ。
「よく分からないんだけど、なんとなくおじさんが気になるんですけど。でも悪魔臭くないしアンデッドの気配もしないのよね。…………ねぇおじさん、友達に悪魔の知り合いはいないかしら?それとも、野良アンデッドを飼ってるとか」
「申し訳ないラグクラフト殿!この者は変わり者で知られるアクシズ教徒でして!」
いきなり失礼な事を言い出したアクアをダクネスが慌てて引っ張り頭を下げる。それを聞いたアクアが自分を掴んでいたダクネスの手をバシバシと叩き出す中。
「いや、アクシズ教徒なら仕方がない。話を戻そうか」
「なんですって!?アクア様になんて事を!?」
「セシリー!!頼むから大人しくしててくれ!」
「ミツルギさん!だってこのおじさんが!!」
アクアとセシリーにちょっかいを出されたラグクラフト宰相は、引きつった表情を浮かべていた。
「コホン…………では、仕切り直して…………なのでこれからは」
「ちょっと待って下さい。冒険者は魔王軍を倒す事です。その役目を果たしてると思うのですが?」
カズマが珍しく反論した。
「てば、君に聞くが、エルロードの復旧資金は誰が出すのかね?我々か?冒険者ギルドか?それともまた借金生活に戻りたいのかね?受け入れろ、これが一番いい着地点だ」
「で、この協定に従えと仰るのですか?」
セシリーを宥めていたミツルギが顔を濁らせながら宰相の言葉を要約する。
「ワタシ達の返事がラグクラフト宰相様の望まないものだったら?」
そう尋ねたメリッサを見すえて、ラグクラフト宰相はキッパリと言った。
「冒険者を一生辞めてもらう」
「分かりました。少し考えさせて下さい」
「分かった。では、私はこれで失礼する。あっ、鋼のリュウジ殿は後で謁見の間に来てください」
「えっ、あ、はい。分かりました」
ラグクラフト宰相が去った会議室では、ペコリーヌ、ウォルバク、マリューを除くAdventuresが話し合いを進めていた。
「ラグクラフト宰相はエルロードの最高権力者だ。アイリス王女様より上だぞ」
そう言うミツルギにダクネスが返す。
「もしこれに同意したら、政府と冒険者ギルドが我々を犯罪者の様に監視するのか」
「117箇所のギルドが賛成ですよ?。はいって言うしか」
「魔剣、貴様はどっちの味方なんだ?」
「あの、ワタシ個人の意見なんだけど、いいかしら?」
二人の言い合いを止めるように、メリッサが口を挟む。
「Adventuresとして活動してもうすぐ1年経つけど、魔王軍の戦力激増したわよね?そしてその間に、街一つを滅ぼす程の事件も起きてるのは事実よ」
「お、俺達のせいだって言いたいのか!?」
カズマが顔を引きつった表情で言う。
「因果関係があるって言ってんのよ。ワタシ達が魔王軍を呼び寄せる。敵が来れば、争いが生じる。争えば…………面倒が起きるって事よ。結論として、政府の管理下に入る事も検討すべきよ」
そこで、クリスが一人のメンバーの異変に気付いた。
「リュウジ、どうしたの?世界会議からちょっと変だよ?」
「もうリュウジは決めてるからだろ?」
「さすがカズマ、よく分かってらっしゃる」
椅子にもたれかかっていた俺は立ち上がった。
「ダニエルの戦いで筋肉痛がしてたんだよ。それで黙ってただけさ…………まったく、アクアを誰も叱らないのはなんなんだよ。ここは保育園じゃねぇんだぞ」
俺は椅子をガンと蹴っ飛ばしながらテーブルに小さい水晶玉を置いた。
「ハーレイ、写してくれ」
《ぽーん!再生を開始します!》
ハーレイが話すと同時に、映像が映し出した。
「ところで、この人はアロエリーナ署長。王都の女警察官で聖テレサ女学院を首席で卒業し、卒業後は王都の警察署に就職。で、彼女は聖テレサ女学院に侵入して来た魔王軍幹部のセレスディナを逮捕した。だが、拘留中に殺されてしまった。ブギーマンに」
そこで、クリスを筆頭にAdventures達は俺が言いたいことを察知する。
「彼女は優秀で部下からも慕われていだそうだ。結婚願望もあったんだけど、今になっては分からないが。めぐみんとウォルバクが倒した魔王軍ブギーマンによって殺されてしまった。ここには意思決定がない。監査を受けるべきだ。受け入れる覚悟は出来てる。輪にはめられたくない、自由でいたいっていうなら魔王軍と同じだ」
「リュウジ、自分のせいで誰かが死んだからって諦めるなよ」
カズマが口を開く。
「別に諦めてなんかいないよ」
「自分の行動に責任を持たなくなるって事だろ?責任転嫁するだけだ」
それにはミツルギが反論する。
「悪いがカズマ、その物言いは傲慢すぎないか?政府と冒険者ギルドが監督してくれるって言ってるんだ。薄汚い領主でも、冒険者でもない」
「ああ、だが組織なんてもんは状況によって裏切ったりする」
カズマがそう言うと、俺は言い返した。
「良いじゃん、俺だって変わった。世界征服しても何も変わらないって知って、足を洗ったんだからな」
「おい、リュウジ。お前は自分の意思で選んだけど、俺達は選ぶ権利すら無くなるんだぞ。行きたくない所にいけと命じられたら?逆に行かなきゃない所を禁じられたら?なら俺達が自身で判断した方が、まだ安全じゃないか?」
「今サインに応じないと、後で強要されるだけだぞ?政府とケンカする気か?」
「仮に、もし紅魔の里が襲われたとしても行くなと言われたら行けないんですね。なら私はサインしませんよ」
「めぐみんがそう言うなら私もサインしません!」
めぐみんの問にはすぐさまゆんゆんが答えた。ここで、クリスが周りを驚かせる発言をする。
「リュウジの言う通りかも。手網を手放しさえしなければ、馬車は動かせるよ」
「王都で大立ち回りした人間の発言とは思えないな」
信じられないと言ったふうにダクネスが言う。
カズマの顔に焦りが見えたな。
「あたしはただ、情勢を読んでるの。あたし達は目をつけられたんだから信頼を取り戻さなきゃ」
俺も思わぬ発言に耳をかいてもう一度尋ねた。
「ちょいまち、聞き間違いか?俺に賛成するってのか?」
「あー…………」
「だめだめ、もうダメ。久しぶりに意見が合ったな。討議はここまでだ各自サインするかしないか決めておいてくれ」
俺はそそくさと会議室から出てラグクラフト宰相の元へ向かった。