ペコリーヌ以外の6人は、ラグクラフト宰相達に連れられて城の廊下を歩いている。
「ユースティアナ王女には独房ではなく部屋を用意します。そこにいていただけますか?」
ラグクラフト宰相がペコリーヌに言う。
「キャルちゃんとお話は出来ませんか?」
「残念ですが、それは出来ません」
カズマのわきを歩くのはクリス。
「助手くん、これからどうするつもり?このままだと事態が悪化するだけだよ?」
「キャルはテロを起こしてない」
カズマにとっては、それだけで十分だった。城の会議室に着くと、俺は貴族達と話していた。
「鋼のリュウジ殿、さっそく協定違反ですかな?」
「ええ、確かに協定違反です。魔剣のミツルギが処理します」
「誰が責任をとるのかね?」
「責任ですか?もちろんとらせます。俺がそう言ったと言ってもらっても結構です。他には?」
「いえ、ありません。では」
「ありがとうございます、それでは」
「もしかして、俺が責任をとらされるのか?」
貴族達と別れた俺にカズマが問う。
「貴族達が6人を起訴しろって騒いでるんだよ」
俺はそう言ってカズマのメンバーを示した。
「イージスも相棒の刀も取られたんだけど?」
「ちゅんちゅん丸です」
「違う!」
めぐみんの言葉に首を横に振るカズマを、俺が振り返る。
「けど、アクセルの街の牢屋よりはあったかいだろ?」
キャルが尋問室に入れられる様子を、会議室で映像化させながらカズマが見つめる。その背中に俺は話しかけた。
「なぁ、見てくれよこのペン。1本10万エリスするペンだってよ」
机に置かれたのは、気品のある装飾されてる2本のペン。
「ラグクラフト宰相が貸してくれたんだ」
「…………め、面倒を起こすつもりはなかったんだぞ?」
「分かってるよ。お前はキャルの為に動いただけだろ?」
「面倒くさいって分かってても、なんつーか………な?」
「ふーん」
カズマが顔を引き攣らせながら笑う。
「時々お前をぶっ飛ばしたくなるんだよ。だけど、居なくなられても困る。お前が必要なんだよ、カズマ。今ならまだ間に合う、協定にサインすれば、出動も政府のお墨付きで報酬は確実に貰える。キャルもアクセルの留置所に移せる」
俺の説得を受け、遂にカズマがペンを手に取った。しかし、すべてを受け入れるにはまだ抵抗があった。
「協定自体は悪くない。けど、改善しなきゃダメだ」
「分かった。まずはこのバカ騒ぎを治めてから、協定の修正をラグクラフト宰相に提案しよう」
「そういえば、ゆんゆん、アオイ、セシリーは?」
「王都で休ませてる。メリッサと一緒にな」
途端に、カズマが顔をしかめる。
「おい、リュウジ!勝手に決めるなよ!」
「だって、守るにはいい場所だろ?」
「守る?今守るって言ったか?監禁の間違いだろ!?」
「ゆんゆん達はまだ悩んでるんだ。自分の意思で決めさせたいからな」
「だからって王都に追いやるのは間違いだ!」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
大人しく聞いてれば調子に乗りやがって。
俺は感情的になって声を荒らげてしまった。
「…………出来るだけの事はしてるんだ、最悪のパターンを避ける為に」
「自分への言い訳か?そんな理由じゃ、俺は書きたくねぇ」
そう言ってカズマは足早に出て行った。その頃、閉じ込められたままのキャルがいる地下の尋問室に、一人の女プリーストが入って来た。
「こんにちは、アークウィザードのキャルさん。私はラグクラフト宰相様から依頼されてここにやって来ました。座っても?」
プリーストは穏やかな声でそう話しかけ、キャルの正面に腰を下ろした。その様子を、会議室で映し出さた乱れた映像でみなが見守る。尋問室ではプリーストが話を続ける。そして、突然。映像が消えた。
「映像がおかしいぞ、何があった?」
「分かりません、何か妨害魔法でも掛かってるのかも知れません」
「アークウィザードから目を離すな!」
クレアさんが指示を出す。
「アークウィザードは地下に居ます!」
レインさんが尋問室の場所を伝えると、カズマとダクネスがすぐさまその場に向かった。
「私は貴方を裁きに来たのではありません。治療といくつか質問をさせて頂きたいのです。ここがどこだか分かりますか?」
キャルはゆっくりと頷く。
「では、まずは治療を致しましょう。怪我を見せて下さい」
キャルは傷を負った手をプリーストに見せると、プリーストは優しくヒールをかけた。
「…………終わった?」
「ええ、終わりましたよ。お礼の一つくらい言ってもバチは当たりませんよ?」
「はいはい。ありがとう…………これでいい?」
「…………言ったな」
「…………」
キャルは突然カクンッと首を下げて何も言わなくなった。プリーストは他者に聞こえない程の小さい声でキャルに話しかける。
「さぁ、キャル。あたしの為に働いてもらうよ?お前が受けてきた屈辱、理不尽、不当、嘲り……思い出せ。お前は魔王軍だと言うことを……。さぁ、もう我慢する事はない、復讐しよう」
ゆっくりとキャルが顔を上げた。
「分かりました。セレスディナ様」
キャルがロックで手錠を解除し、部屋を魔法で破壊し始めた。突然の爆発音にカズマは直ぐに尋問室に向かった。地下たどり着くと、そこには兵士達が倒れていたが、尋問室から声が聞こえる。
「誰かっ!助けて下さいっ!」
まだプリーストを装っているセレスディナにカズマが駆け寄る。怒りに任せて胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた。
「誰だあんた、キャルに何をした!?」
「キャルはもう止まらない」
その時、カズマの後をついて部屋に入ったダクネスを、キャルが背後から襲った。ダクネスをライトニングで吹っ飛ばしたキャルは、続けてカズマに襲いかかる。傀儡化状態のキャルにはカズマも歯が立たず、スリープで眠らされてしまった。上の階ではラグクラフト宰相が慌ただしく指示を出していた。
「兵を向かわせろ!門を封鎖、アークウィザードを寄越せ!」
「リュウジ、新しい鎧は出来てるの!?」
クリスが俺に尋ねる。
「いや、まだだ。けど、戦えない訳じゃない」
そう言いながらも、既に上の階に到着して兵士達を次々となぎ倒すキャルを見つけた俺は、蒼き稲妻のポケットから聖テレサ女学院で使っていたメタルフィストを取り出して装着した。
「『フラッシュ』!」
フラッシュでキャルを怯ませ、その隙にキャルを取り押さえる。
「キャル、てめぇ!遂に本性を出しやがったな!?」
それにしても、なんだこの力!?ほんとにアークウィザードか!?
「あたしに触れるなぁっ!!」
鎧を着ていない俺はダクネスより脆く、生身で魔法にはかなわず、メタルフィストで魔法を受け止めたものの、簡単に吹っ飛ばされてしまった。続いてクレアさんとクリスがキャルに挑む。
「スキルバイン──」
「『ライトニング』!!」
2人がかりで挑むが、『高速詠唱』のスキルが高いのかクリスのスキルバインドより早く放たれてしまい、止めることが出来ない。キャルがクリスにボトムレス・スワンプを放った。
「きゃ、キャルさん…………」
そこでクリスを救ったのは、ペコリーヌだ。
「キャルちゃん!どうしちゃったんですか!?」
「うるさいっ!セレスディナ様の邪魔をするなっ!」
「セレスディナ…………ペコリーヌ!キャルさんは操られてるかも!」
「ホントですか!?キャルちゃん。お願いだから正気に戻って下さい!」
ペコリーヌはキャルの魔法を素早くかわしてキャルに言い放つ。
「むっ、この距離をかわすか。けど、もう避けきれないわよ!」
キャルは連続で魔法を放つと、遂にペコリーヌは被弾してしまった。その一瞬の隙にキャルは姿を消してしまった。キャルが向かったのは厩舎だった。馬車に跨って走り出した丁度その時、アクアに起こしてもらったカズマ達が駆け付けた。
「キャル、待て!止まれ!」
「離せぇっ!!」
「ああっ!やってしまった、遂に私まで犯罪者になってしまった!父にどんな顔をすればいいんだ!」
「その割には随分嬉しそうだな…………」
ダクネスが満更でもない顔をしているのをマヒルが呆れている中、カズマ達は荷台に乗ったままキャルは逃走する。
「カズマさぁぁん!カズマさぁぁん!不味いんですけど!?このままじゃ私達指名手配犯なんですけどぉ!?」
「カズマ!このままでは川に落ちてしまいます!なんとかして下さいっ!」
「止めてけろカズマァァァァッ!!」
「くそったれぇぇっ!もうだめだぁぁぁぁっ!!」
その間にカズマはキャルを押さえ付けると、キャルは操作を誤り、馬車は川に転落してしまった。