「カズマ!」
薄暗い廃屋の中、キャルが目を覚ましたのを確認しためぐみんが、外の様子を伺いながらカズマを呼ぶ。カズマがやって来ると、キャルが顔を上げた。
「…………カズマ?」
「ねぇ、キャル?なんで傀儡化とかマイナーな状態異常にかかってたの?キャルを川から引き上げた時にスペルブレイク掛けておいたんだけど?」
「アクアが言うなら大丈夫だと思うけど、キャルなんだよな?」
「…………アルカンレティアで覗きした。お風呂に入ってる時にパンツを見られた、それから」
その言葉にカズマは顔を引き攣らせる。
「も、もういい。俺達が知ってるキャルだな」
「まさか、キャルにもそんなことしてたんですね」
「クズニートは見境なしなのね」
「そんな事言ってる場合じゃねぇべ!それで信じるのだか!?」
マヒルはそういうが、仲間としてはそれで十分だった。
「あたしは何をしたの?」
「色々だな。話せば長くなるぞ」
「もう…………隠しきれないわね、あたしは魔王軍幹部なの。あんた達を暗殺する為に潜入したスパイよ」
「スパイ!?あんたスパイだったの!?」
「そうよ。リュウジが宿で暗殺された事あったでしょ?その暗殺したのも…………あたし」
驚くアクアを前に、キャルは淡々と話し始める。
「それは後で聞くとして、尋問室に来たあのプリーストは誰なんだ?」
「あいつは魔王軍幹部のセレスディナ。傀儡化を得意とするダークプリーストなの。あいつに感謝すると抵抗出来なくなるわ」
「魔王軍幹部だったのか。なら、罪を着せたのはそのセレスディナってやつなのか?」
語気を強めるカズマに、キャルは何もかも諦めたかのように自白し始めた。
「あたしに罪を着せたのはラグクラフト宰相よ」
「何!?ラグクラフト宰相殿だと!?」
「あいつは魔王軍諜報部隊隊長のドッペルゲンガーなのよ」
「ドッペルゲンガーですって!?通りであのおじさん気になったのよ!女神である私の直感は間違ってなかったのね!」
「という事は…………エルロードは魔王軍の手によって落ちてるという事ですか!?ギルド協定も、全て仕組まれたことなんじゃ!?」
事態の深刻さを把握しためぐみんが、カズマに近寄る。
「くそっ!!こんな事ならもっと早くに気付けば…………!!」
「リュウジと魔剣に知らせなければ」
「オラ達の言う事なんて信じないべ。信じたとしても協定が枷になって動けないんでねぇか?」
「どうするのカズマさん?」
「どうしますカズマ?」
「カズマ!」
「カズマ!!」
カズマが頭を抱えて考えている時、キャルは潤んだ瞳でカズマに言い放った。
「カズマ…………助けて」
「しょうがねぇなぁぁぁっ!!」
────────────────────────
「で、彼らがどこにいるか見当もつかないのですか?」
キャルに荒らされた後の会議室では、クレアさんが俺に詰め寄っていた。
「探します。信頼出来る盗賊を走らせてるので見つけ次第、対処します」
「鋼のリュウジ殿、対処するのは貴方じゃない。貴方じゃ客観的になれない。王都から勇者候補を要請します」
「あの、戦いになったら助手くんを殺すつもりなんですか?」
クリスが尋ねる。
「状況によってはな、サトウカズマがいなければ、猫の獣人をあの場で始末出来た。重症を負ったエルフの国王も、今頃は無事だったはずだ。私の言っている事は間違っていますか?」
それでも俺は説得を諦めなかった。
「お言葉ですが、魔法だけじゃあいつらに太刀打ち出来ませんよ。我々が行かないと」
「どうせこの前と同じ結果になるだろう」
「いいえ、次はちゃんと鎧を着て行きますから。3日で、必ず」
「…………1日半だ。猫の獣人、サトウカズマ一行もだ」
「ありがとうございます」
去っていくクレアさんの背中にそう声をかけた俺は、クリスに振り向く。
「キャルにはキッチリ借りを返す」
「大丈夫なの?向こうはアクア先輩、めぐみんさん、ダクネス、マヒルさん、キャルさん、セシリーさんが付いてるんだよ?…………人手が足りなすぎるよ」
「こんな事なら、ウォルバクとマリューを連れてくるべきだったな」
「あの二人がこっち側につくとは限らないじゃん」
「…………そうだな」
ウォルバクとマリューだとしても協定にサインするかは分からない。
「あっ!あたし、アテがあるよ!」
「奇遇だな、俺もだ。お前のアテはだれ?」
「ペコリーヌ。キミは?」
「紅魔の里と聖テレサ女学院」
俺はわずかに笑みを浮かべた。俺はその足で王都にテレポートし、ある人物の家にやって来た。家族は俺を直ぐに招き入れて部屋で待つように言われた。その1時間後、探していた人物が帰って来た。
「ただまー」
「おかえりクロエねーちゃん。お客さん来てるよ」
「客?誰?チエル?」
「リュウジにーちゃん!なんか難しい話があるって言ってたよ!」
クロエが部屋に向かうと、かつての学友がくつろいでいた。
「やぁ、クロエ。久しぶりだな」
「久しぶりー、何〜?遊びに来たん?」
「いや、頼みたい事があるんだけどいいか?別に聞いてから断ったって構わない…………その前に」
俺は水晶玉を取り出して映像を映し出す。そこには、アイギスを盗み出す時の映像が映し出されていた。
「流石はクロエ、容赦ないな」
「え?いや、な、なんそれ?は?ウチ知らんし」
「隠さなくたっていいよ。説教しに来た訳じゃない」
「は?なら何なの?ウチ宿題しなきゃ──────」
クロエがカバンを机に置こうとしたその時、俺はその隙を突いて金獅子で使っていた手裏剣をクロエ目掛けて投げ飛ばした。だが、クロエは太ももに隠していたククリナイフで弾き飛ばす。
「伊達に黒き夜の疾風と呼ばれてないね」
「…………ねぇ?あんた、もしかして金獅子?」
「ご名答、今から危険な旅になる。新しい装備を渡すから手伝ってくれ」
「ちょーちょー、話が行方不明すぎんだけど?何?拉致?」
「今からちょっとテロリストと戦わなきゃないんだ。それには手が足りない。頼むクロエ、力を貸して欲しい…………」
俺が深々と頭を下げると、クロエは呆れた様子で。
「ぷー、まぁ手伝ってもいいけど、チエルとパイセンを巻き込まないって約束出来る?」
「当たり前だ」
「んじゃ、行きますか」
クロエはククリナイフを納めて、俺と共にエルロードに向かった。
あとは…………あの子だけだな。
─────その頃。ゆんゆん、アオイ、セシリー、メリッサのいる王都の宿では、花瓶の水を取り替えたアオイがまいぶれもなくゆんゆんに話しかけた。
「ゆんゆん、協定のサインどうするの?本気でやらないの?」
「う、うん。私はあのサインはちょっと嫌だからね、もしまた紅魔の里が襲われても許可が出るか分からないもん」
アオイとゆんゆんが話している中、出掛けていたセシリーとメリッサが宿に戻って来た。買い物袋を片手に持って部屋に入って来る。
「遅くなって悪かったわね、そろそろご飯でも食べに行く?」
「それともこの入信書にサインする?」
メリッサの誘いに反応したアオイがメリッサに言い放つ。
「メリッサさん、セシリーさん、すいません。私はサイン出来ないです」
「…………そう、残念ね。けど、行かせる訳には行かないわ」
メリッサが腰からダガーを抜いてアオイに向けると、ゆんゆんがメリッサに手をかざした。
「メリッサさん、私達は決めました。ここを出て行きます」
「ゆんゆん、アナタまで…………」
「えっ!?ちょ、ゆんゆんさん!?」
「ごめんなさい…………『スリープ』」
ゆんゆんはメリッサとセシリーを眠らせ、アオイと共に向かった。ゆんゆんは事前にめぐみんがゆんゆんに手紙を送っており、そのまま待ち合わせの場所のエルロードの馬車乗り場の待合室に行くとそこにはカズマ達がいた。
「遅くなってすみません、カズマさん」
「別にゆんゆんは呼んでませんよ?」
ゆんゆんとアオイが来た途端、めぐみんがツンとした態度でゆんゆんに言い放つ。ゆんゆんは涙目になりながら言い返した。
「えぇっ!?んじゃこの手紙はなんなのよ!?心配して来たのに!?」
「こんな所で喧嘩するな。2人共、巻き込んで済まない」
「いえ、そんな事ないですよ」
「ゆんゆん、アオイ。これから何をするか聞いてるか?」
カズマがゆんゆんとアオイに尋ねる。
「リュウジさんと」
「ミツルギさん達と戦うことになるんですね…………」
「ゆんゆんもアオイも犯罪者になるぞ」
「里を守るためですから、大丈夫です!」
ゆんゆんの覚悟を確認したところで、キャルが呼び掛ける。
「そろそろ行くわよ」
「竜車を用意してあるわ!しかも飛びっ切り頑丈なやつよ!」
アクアがそう言うと、待合室のスピーカーからアナウンスが流れ始める。
「…………封鎖されたな。リュウジの仕業か」
カズマが全員を見回す。
「みんな、準備しろ」