「新型クラーケンのアームだよ。これがクラーケンの強みだな」
俺はアームをマリューに向けながら答えた。だが、占い師は右手をかざして俺にボトムレス・スワンプを繰り出し、左手を動かしてカースド・ライトニングをウォルバクに放った。ウォルバクは魔法陣を広げてそれを防ぐ。
「ここは人が多いわ、場所を変えましょ」
アームで這い上がった俺はウォルバクと一緒に近くにあった荷車を占い師に向けて飛ばした。占い師は、再びさっと手を動かし、飛んで来た荷車を真っ二つにしてしまった。
「ウォルバク、ごめんなさいって言ってみたら?」
「謝って済むなら戦争なんて起らないわよ」
「それもそうだな。俺が先に行く」
俺はそう言って、占い師が投げつける瓦礫を避けながら魔王軍に向かって行くが、背後から突然呪々ガエルが舌を伸ばし、一撃を食らわす。
「リュウジ様ご無事ですか!?」
木にぶち当たって止まった俺に、マリューが駆け付ける。
「あのカエルは我々がやりましょう!」
「そうだな、このカエルさえやっちまえば」
ガシャン!
その瞬間呪々ガエルが建物を壊して出てくると、刺股を俺達に向かって投げつけた。
「やばい!」
俺はアームでマリューを押しのけて間一髪逃れる。
「この野郎!『クリムゾン・レーザー』!!」
「はぁぁっ!!『マリュー・スマッシュ』!」
巨大な敵は俺とマリューから攻撃を受けるが、刺股を振り回して阻止する。それに構わず呪々ガエルに向かって行くが、弾き飛ばされてしまう。人間の言葉を話せないが純粋に戦闘力に特化してる呪々ガエル。この強力な敵は倒れ込んだ俺に刺股を振り下ろそうとするが、すんでのところで何者かによって止められた。
「何事かと思って来てみたら、凄いことになってるわね!」
「なんでここに!?」
突然出てきたメリクリウス財団のミフユさんに、俺は尋ねた。
「夜勤明けの帰り道に…………」
そう答えた瞬間、ミフユさんは敵に飛ばされてしまう。
「こいつら一体なんなの、リュウジくん?」
華麗な槍さばきで再び立ち向かいながら俺に尋ねた。
「裏切り者のアークウィザードを殺しに来たんですって!」
俺もそう答えながら応戦する。ミフユさんは呪々ガエルに飛びかかるが、巨大な武器に捕えられてブンブン振り回される。
「『エレクトロ』、『カースド・ライトニング』!!」
「どなたか知りませんが、助太刀感謝します!」
「えっ!?モンスターが2匹!?」
「あっ、そいつは仲間なんでお気になさらず」
そう言いながら俺が背後から己を強化してからカースド・ライトニングを放ってミフユさんを援護しようとするが、慌ただしい冒険者は遠くに飛ばされてしまう。
同じ頃、ウォルバクは占い師の攻撃を受けていた。薄気味悪い顔をしているこの骸骨の様な魔物は左手を持ち上げてファイヤーボールを数個創り出して両手を押し出してその全てをウォルバクに向けて飛ばした。ウォルバクは大きな光るサークルを開けてそれらを全て吸い込んでどこかに飛ばしてしまうと同時に、ライトオブセイバーを放つ。
「ぐぅっ!!」
「元々魔王軍屈指の魔術師よ?私に勝てると思ってたのかしら?」
「小癪な!」
占い師は顔を歪めてウォルバクをにらみつけると、念力をつかえるのか
近くの建物へ飛ばし、貼り付けてしまう。ウォルバクは体に瓦礫がたくさん貼り付いて動けない。
「流石はウォルバク殿、一筋縄では行きませんな」
占い師がウォルバクに近付いて言う。
「それはどうもありがとう、貴方に言われても全くうれしくないわ」
ウォルバクが皮肉を言うと、ウォルバクは空に赤い魔法陣を浮かび上がらせる。
「爆裂魔法はネタ魔法じゃないって事を教えてあげるわ」
「何!?そうはさせん!」
占い師はウォルバクの詠唱を止めようとするが、高速詠唱出来るウォルバクが勝った。
「『エクスプロージョン』!!」
ものすごい爆発が起こった。その一方、俺とマリューとミフユさんは呪々ガエルに苦しめられていた。
「ウォルバク、爆裂魔法使ったのか!?」
「リュウジ様、どうしますか!?」
煙が上がった方向を向いて俺は呪々ガエルの攻撃に耐えながらミフユさんに言った。
「ミフユさん、赤いマント付けてるアークウィザードが向こうに居るんですけど、お願い出来ますか!?」
「えっ!?私!?、良く分からないけど、任せて!」
ミフユさんは槍を担いでものすごいスピードでウォルバクの元に向かった。爆裂魔法の跡を目の当たりにしたミフユさんはクレーターを覗くと占い師は跡形もなくなっていた。
「そこの貴女、助けてくれる?」
「えっ?あっ、大丈夫ですか!?」
クレーターの真上を見上げると、今にも崩れそうな建物にミフユさんは瓦礫で貼り付けられていたウォルバクを救出した。
「カエルはどうなの?」
「まだリュウジくんが戦ってます。あっ、私メリクリウス財団のミフユって言います」
「よろしくねミフユ。リュウジに加勢するわよ!」
ミフユさんとウォルバクが俺の元に駆け付けようとする時、俺は未だに呪々ガエルに苦闘を強いられていた。元々打撃につよいジャイアント・トードに加えてその親玉とされている呪々ガエルに何度も投げ飛ばされ、遂には刺股で押さえ付けられて動けなくなってしまう。呪々ガエルに押し潰されそうになったその瞬間、クラーケンのアーム4本が呪々ガエルの頭を掴んでこう言った。
「打撃にめちゃくちゃ強いようだけど、電撃はどうかな?」
「ゲロロロ!?」
「最大出力『スパーク』!!」
モンスターと言えど、頭に電撃をすれば脳みそにダメージを負う。頭に直接食らった呪々ガエルは次第に口や鼻から煙を出し、大の字になって倒れた。俺はアームで死体を退かし、立ち上がった。
言葉を話せる知性は無かったが、攻撃力と防御力ってだけならベルディアより強かったかも知れない。
「リュウジ様!?ご無事で!?」
マリューが瓦礫から現れた。それと同時に、ミフユさんとウォルバクとも合流する。
「こっちも片付いたようね。これからどうする?」
「あの占い師は?倒したのか?」
「ええ、なんとかね」
「それにしても、この惨状どうしよう…………」
ミフユさんが破壊された街を見渡す。
「これは俺の貯金で弁償します」
「そ、そう?ならいいんだけど」
魔王軍幹部候補でこのざまだ。悠長なことをしていたらまた厄介なやつが現れるかも知れない。今なら魔王軍幹部はほぼ機能していないはず、なら結界が弱まってるかもしれない。
悩んだ末、俺はウォルバクとマリューに声をかける。
「魔王軍の城に殴り込みに行くぞ」
「えっ!?正気ですか!?」
マリューが俺に言ってくる。俺は真剣な顔をしながら答えた。
「何も1人で行こうだなんて思ってねぇよ。アクアを連れて行く」
「あの子を?なんで?私じゃ不満かしら?」
ウォルバクが頬を膨らませて拗ねる。だが、俺はウォルバクに訂正した。
「あいつは元々天界に帰りたがってたらしいからな。今回の事で騒いでる筈、だったら俺達が連れて行った方が好都合だろ?回復魔法だって使えるんだからな」
「それもそうね、後は誰を連れて行く?」
ウォルバクは機嫌を直し、俺の方に向き直す。俺はミフユさんに声を掛けた。
「ミフユさん」
「何かしら?」
「一緒に魔王を倒しに行きませんか?1億エリスで貴方を雇いたい」
そう言った途端、ミフユさんは俺を2度見する。
「い、1億エリス!?、アルバイト何ヶ月分!?」
「それは分かんないですけど、今は強い人が何人も欲しいです。それと、魔王の城に行く為の飛空挺をアキノさんから借りて欲しいってのもありますが」
「余程急ぐのね、分かったわ。私も行くわ!飛空挺は私が用意して置くから人手を集めて置いて頂戴」
「任せて下さい。待ち合わせは、アクセルの街で」
「分かったわ!」
ミフユさんは慌ただしい様子でアキノさんの元に向かって行った。残された俺達はウォルバクのサークルでアクセルの街に戻った。仲間集めはマリュー達に任せ、冒険者ギルドに立ち寄り、カズマの情報を探り始める。ダストの話しによれば、アクアが毎朝カズマに魔王を倒そうとあの手この手で説得しているらしい。
仕方ない、やる気が起きるようしてやるか。
数時間後。
夜になり、大荷物を担ぎながら俺はカズマの屋敷にやってきた。 バルコニーに目を向けると、アクアが1人寂しく黄昏ていた。アクアは、いつもの淡い水色の羽衣を身に纏い、体育座りの体勢でぼーっと満月を見上げていた。一気にジャンプしてバルコニーに降りると、こちらに気付いた。
「あら、王都の暮らしに飽きちゃったの?」
アクアの言葉に俺は大荷物を置いて答える。
「違う。迎えに来た」
「迎え?」
「噂で聞いたぞ、毎日毎日魔王を倒しに行くぞって言ってるらしいな?」
「ええ、けど、カズマさんったら全くその気がなくって困ってたのよ」
やっぱりな。
「だと思ってたよ。今朝方俺達は魔王軍と戦ってな?」
「へー、大変だったわね」
コイツ…………。
埒が明かない為、俺はアクアに近付いて本音を漏らした。
「本来俺はお前を連れ戻す為に寄越されたんだ。だから単刀直入に言う。この世界に来て1年が経つ。やつらは想像以上に力を持っていた。正直舐めてた、これ以上先延ばしにしても埒が明かない。だが今なら奇襲をかけられる。こっちから魔王を倒しに行こう」
俺はアクアに共に戦おうと言った。
「もう一度聞く。アクア、一緒に行くか?」
「…………分かったわ、リュウジ。私も一緒に行くわ」
「待って下さいっ!」
バルコニーの暗闇から突然声が聞こえた。声の主はめぐみんだった。
「めぐみん起きちゃったの?」
「リュウジ、アクアだけ連れて行くつもりですか?なら、私も」
「ダメだ」
ヒタヒタと裸足で近付いて来るめぐみんの言葉に俺は冷静に答えた。
「なんでですか!?」
俺はめぐみんの肩を掴んで言い放った。
「カズマは俺やアクアがどんなに説得してもやる気が出さない。こうなったらめぐみん、お前がカズマを説得するんだ」
「わ、私がですか!?」
「そして、カズマがやる気を起こしたらアレを渡してやれ。アレにはカズマ、めぐみん、ダクネス、キャル、マヒルの俺が作れる最強の装備が入ってる。それらを装備して俺らを追ってこい。出来るか?」
俺が大きな荷物に指をさしてそう言うと、めぐみんはゆっくりと頷いた。
「分かりました。カズマにはアクアが家出したと伝えておきます」
「そう言って貰えると助かる。まだカズマに顔を合わせるのが気まずくてな」
「私はもう気にしてませんよ」
「ありがとう、んじゃ、俺達は先に魔王の城に行く。行くぞアクア」
「んじゃ、準備するから冒険者ギルドで待ってて!」
「分かった」
そう言って俺はバルコニーから飛び降りて暗闇に消えていった。