アクアと別れた俺は、屋敷の外に置いて置いたトランクを片手にその足でそのままウィズの店に向かった。店のドアに手をかけると、鍵は空いていた。
「へいらっしゃい!小僧とツンギレ猫娘とのいざこざで気まずくて声が掛けられないヘボ魔王よ!」
「おう」
そう。俺はバニルに会いに来たのだ。俺はカウンターにトランクを置いてバニルに言い放つ。
「俺が何しに来たか分かってんだろ?」
「うむ。貴様はこれから魔王の元へカチ込む気なのだろう?それでこの先の未来をこの金で見通して欲しいという…………。それと他にもあるようだが?」
バニルはニヤリと笑いながらトランクに手をかけた。
「今回は客として来たんだ。真面目に見通せよ?」
「心外な事を言うでない。我輩は客との契約は絶対である」
「んじゃ、早速頼むわ。【犠牲者を出さずに魔王を倒す確率】を見てくれ」
「うむ、分かった。少し待っていろ」
バニルは首を激しく動かし、仮面の目を不気味に光らせながら瞑想し始めた。
「くはっ!」
数分後、バニルは瞑想から目覚めた。
「早かったな」
「それ程可能性が無いという事だ。犠牲者を出さずに魔王を倒すという確率は0だ」
やはり、犠牲者を出さないと厳しいか…………。
俺は、苦虫を噛み潰したような顔をしながらさらに尋ねた。
「なら、【最低限の犠牲者で魔王を倒す確率】ならどうだ?」
「それは時間がかかりそうだな」
再びバニルは瞑想を始めた。その間、俺はトランクから現金1億エリスを取り出していた。
1時間後。バニルは息を切らしながら目覚めた。
「ぐはっ!ぜぇー、ぜぇー」
「今回は長かったな。何通り見えたんだ?」
「1400万605だ」
「それで?1番最低限の犠牲で勝ったのは?」
俺がそう尋ねると、バニルは俺の目をじっと見つめて。
「ひとつだ」
ひとつ、か…………。
「そうか、分かった。んじゃ、達者でな?ウィズによろしく伝えてくれ」
そう言って空のトランクを手に店を出ようとしたその時。
「待て。マン・オブ・スティール」
バニルが初めて俺の名前を呼んだ。振り返ると、俺に何かを投げて来た。俺は慌ててキャッチする。
「コレ、ウィズが仕入れた危ないネックレスじゃん」
「売れ残りだ。ここに置いていても売れないのでな?1億エリスから差し引いて置いてやる」
「使わないと思うけど、持ってくわ」
「ふん!さっさと行くが良い!」
バニルにしっしと追い払われながら店を後にした。俺は”用事”を終わらせた。
あとは、あそこだな。
「あとは天界だけだな。『テレポート』!」
俺はそのままテレポートでエリスがいる天界に向かった。エリスの部屋に行くと中にはエリスはいなかった。だが、俺は机に備えられた受話器を手に取ってネメシスにかけた。
《はい、ネメシスです》
「もしもし?ネメシスか?俺だけど?」
《えっ?リュウジさん!?どうしたんですか?》
「残りの3つの願いの1つを頼みに来た。今から叶えてくれないか?」
俺がそう言うとネメシスは受話器越しに上擦った声を出しながら、
《い、今ですか!?ま、まぁ、分かりました。エリスの部屋にいるんですか?》
「ああ、外で待ってるよ」
そう言いながら受話器を戻し、外で待っていると、ものすごく勢いで走って来るネメシス。
「お、お待たせしてしまい申し訳ございません!」
「いいよ、いいよ」
「けど、どうして急に?下界で何かあったんですか?」
肩で息をするネメシスの問に、俺は答えた。
「これから魔王を倒しに行く」
「えっ!?あ、あの…………エリスは知ってるんですよね!?」
「いや?今日行くとは伝えてない」
「どうしてですか!?」
ネメシスに理由を尋ねられたが、俺は理由を答えなかった。
「いいから、願いを叶えてくれ」
「わ、分かりましたよぉ」
「その前に、聞きたい事があるんだけどいい?」
「はい?なんですか?」
「この願いって、神にも通用するのか?」
「ええ、まぁ。通用しますよ?」
そうか、なら良かった。
吉報を聞けた俺は覚悟を決めて、
「【傀儡と復讐を司る邪神レジーナ】っているよな?」
「ええ、居ますよ?」
「そいつを【パンを司る女神レジーナ】に改名してくれ」
メモを取っていたネメシスが手を止めて俺を見つめた。
「はい?」
「だから、パンを司る女神レジーナにしろって言ってんの。あいつの能力で煮え湯を飲まされたからな」
「はぁ…………けど、なんでパンなんですか?」
「ただ消したらセレスディナが可哀想だからな。パンを崇拝してたら食いっぱぐれないだろ?」
「え、えぇまぁ…………」
「やれんのか?」
俺はギロリとネメシスを見つめる。
「もちろん可能ですよ。早速やっちゃいますか?」
「ああ。なんかお前、楽しそうにしてないか?」
「私もレジーナは気に入りませんでしたからね。いい気味と思ってます」
ネメシスはメモとりながらニヤリと笑った。そのままブツブツと唱える。
「はい!願いは叶えましたよ?これで残りは2つ。後悔のない願いを考えて下さいね?」
「おう。んじゃ、元気でな?ネメシス」
「え?や、だなぁ。なんかもう、会えなくなる見たいな言い方じゃないですか!」
ネメシスは悲しそうな顔で俺に尋ねるが、俺はニコッと笑ってテレポートでアクセルの街に向かった。アクセルの街に戻ると、用事を済ませていたアクアが門の前でウォルバク、マリュー、ミツルギ、ゆんゆん、アオイ、メリッサ、セシリーと共に待っていた。アクアは俺を見た途端、
「おっそいわよ!一体どこで油売ってたのよ!?」
「わりわり、俺も用事を済ませてたんだよ」
アクアと喋っていると、ゆんゆんが俺に声を掛けてきた。
「あ、あの。リュウジさん?魔王の城にはどうやって向かうんですか?」
ゆんゆんの質問に答えようとした瞬間、夜空に大きな影が突然現れた。アオイがふと空を見上げると、謎の飛行物体が飛んでいた。
「な、な、な、なんですかアレは!?」
「飛空挺じゃない。初めて見たわ。もう実用化されてたのね?」
「なるほど、あの飛空挺で魔王の城に行こうと言うんだな!」
「だれか乗ってるよ?」
ゆんゆんが指を指すと、甲板にはメリクリウス財団のアキノさんとミフユさんが立っていた。
「リュウジ様ぁぁっ!お迎えに上がりましたわよー!」
「ウィスタリア家のご令嬢あ、アキノ様!?」
「時間ピッタリに着いたわね!」
「流石はメリクリウス財団。時間ピッタリだな」
驚くミツルギを他所に、飛空挺はアクセルの街の門の前に静かに着陸し、アキノとミフユが降りて来る。
「さぁ、皆さん。魔王の城までお送りしますわ!」
「すっごぉぉい!勿論、私が船長よね!?」
「そうに決まってますよアクア様!」
アクアとセシリーが走って飛空挺の中へと入って行く中。俺はアキノに声を掛ける。
「助かりました、アキノさん」
「ミフユさんから話は伺ってますわ!。ウィスタリア家の力を駆使して応援を必ず派遣します。それまで持ち堪えて下さいまし!」
「さぁ、リュウジ様。行きましょう!」
「行くわよ、リュウジ」
ウォルバクとマリューに促された俺は気合いを入れて、
「よし、行くぞ!魔王の城に!」
俺達が乗り込むと、飛空挺のハッチは閉じて上昇し、ウォルバクの指示で魔王の城へと向かって行った。その道中、フラタ村の真上を飛行していると、高原から突然花火の様な火の文字で【頑張れ!】と記された。俺とミツルギは豆粒の様に見えるアズサさんに手を振った。