翌日、俺とクリスは何故かデートする事になった。本来なら嬉しい筈なのだが、俺は腑に落ちない事だらけで考え込んでいた。
(いや、可笑しくね?俺…魔王だよ?今は人間だけど”元”魔王だよ?どうしたら幸福の女神とデートする事になるんだろ?何?俺はそんなにひもじい男に見えたのかな?それとも俺、近々死ぬのかな?)
モンモン1人で考えていると、クリスが俺の顔を覗いてきた。
「ねぇ?キミ?何をそんなに考えてるの?」
「ふぇ!?あっいや、不思議な光景だなぁって思ってさ…」
歩きながらもクリスは首を傾げている
「不思議な光景?どこが?」
「いやだって魔王と女が」
「しっー!静かにしてよ!こんな所でそんな事言ったら変な目で見られちゃうじゃないのさ!それに何度も言うけど今はあたしら人間だなんだよ?」
「いや分かるよ?分かるけど、俺とで嫌じゃないの?もうちょい男前の男捕まえたら?」
そう言い放つとクリスは笑いながら肩をバンバンっと叩いて来た。
「あはは!何言ってんの?リュウジが良いから誘ったんだよ、相棒なんだからその辺気付いてよ〜!」
「おっおう…ならいいんだけど……」
コイツ恥じらいもなくサラッと嬉しいこと言いやがったな。なら今日は忘れられないくらい…”恥ずかしい思い出”にしてやんよ!なっ何がデートだ!女神と魔王がデデデデートだなんて有り得ねぇんだよ!ファンタジールールを破りに破ってるじゃねぇか!そうと決まれば…プランを立てねばな……?。
「クリスどこか行きたい所あるか?」
「んー、何処がいいかなぁ〜?せっかくの王都だしね?」
「武器屋?」
「うーん、それは後で!」
「甘いお菓子が売りの喫茶店的な所?」
「んーまだお腹空いてないかな〜?」
「防具屋さん?」
「あっ、ちょっと気になるかも!」
「んじゃ防具屋行くか」
「うん!」
2人は防具屋さんに向かって行った。
流石は王都、最新式の鎧がズラーッと並んでいる…欲しいなぁ
店の中を2人でキョロキョロ眺めているとの店主らしきおじさんに声を掛けられた。
「らっしゃい、おや?男前のお兄ちゃん、弟と一緒に買い物かい?」
「おっ弟!?」
おじさんに男と間違えられたクリスさんはちょっと凹んでいた。ここぞとばかりにリュウジは店のおじさんに言い放つ。
「はい、弟です!」
「!?」
クリスはリュウジを2度見していると、店主のおじさんは大笑いをしている。
「ガハハ!そうかいそうかい!兄弟仲良くクエストかい?」
「ええ、弟に新しい装備買おうかなぁと思って!コイツはクラスが盗賊なんですけどオススメありますか?」
リュウジはこれみよがしにクリスと手を繋いた。手を握った瞬間クリスは顔を真っ赤にして俯き始めた。店主のおじさんは店の奥の方に指を指した。
「ほれ!そこの奥に冒険者用や盗賊用の装備があるから見てみな!」
「はーい、ありがとうございます」
「ほら行くよ?クリス〜?」
「あっうん……」
俺はクリスの手を引き、奥の方に向かった。
奥に着いた途端クリスに肩パンチされ、ヒソヒソと文句を言い出した。
「ちょっと!弟ってなに!?あたし女だよ!?」
「いった!んじゃ自分で否定すれば良かったでしょ〜!?」
「だっだって……」
モジモジと急に顔を赤らめるクリス、俺はクリスのサイズに合う装備を探していた。
(あんまりねぇな……仕方ない、素材屋さんに行って装備作るしかねぇな)
「ねぇ?何か買わないの?」
「ん?う〜ん、気に入ったのは無いんだよね、素材屋に行ってみない?この際自分で作るわ」
「そうだねぇ、ん?何を作るの?」
「秘密〜♪」
「ま〜た鎧作るの〜?キミ鎧マニア?」
やかましいわ!
「鎧着てるけどマニアじゃねぇよ!ほら!行くよ!」
俺はグイッとクリスの手を引っ張った。クリスは恥ずかしそうに付いて来る。
「うっうん……」
「おじさん、参考になりました!また来ますね!」
「あいよ!」
────────────────────────
2人はその足で素材屋に向かい、店内を見て回った。
流石は王都、ドラゴンや鉱石などの希少素材が沢山目に付いた。
「おー!あるある!」
「うひゃー、お宝レベルの素材ばっかりだね」
「いらっしゃいませー、何をお探しですか?」
様々な素材を見て回っていると、店主らしきおばさんがエプロンを付けて近付いて来た。俺は買い物カゴを片手におばさんに尋ねた。
「すいません、ミスリルが含まれてる布地はありますか?」
「はいはい、ミスリル製のならコッチにありますよ?」
俺とクリスは案内されて反物状態の商品を見せて貰った。
「コレ1つで女性分の装備が作れますよ?」
「うわ〜黒いのに綺麗な素材だね〜キラキラしてるよ!」
「ほほぅ、コレいくらですか?」
「10万エリスです!」
「じゅっ、10万!?」
クリスは触ろうとしたが、ビクッとなり手を引っ込めた。俺は気にせずバックから10万エリスを取り出した。
「はい、10万エリス、あと〜アダマンタイトとアダマンチウムありますか?」
「はいはい、1キロあたり、5万エリスです」
「ほうほう、んじゃ10キロずつ下さい!」
「えぇ!?ちょっと!買いすぎじゃない!?」
クリスはびっくりしながら俺の手を掴む、俺は首を傾げてクリスに尋ねた。
「なんで?装備強化しないと今後どんなモンスター出て来るかわかんないんだよ?実際ブラックナイトがめぐみんの爆裂魔法で壊されてるし、もっと強化しないと厳しいもん」
「そっそうだけど……無駄遣いしないでよ?」
「子供かっ!ちゃんと考えて買ってるわ!」
梱包が終わり、おばさんが俺達に声を掛ける。
「お客さん、どうします?お持ち帰りにしますか?それとも何処かにお泊まりでしたら宿に配達しましょうか?」
おばさんは王都の地図を開いて俺に尋ねてくる。
王都では配達までしてくれるのか!?都会だけあってアクセルの街には無いすごいサービスだな、こんなに荷物持ったまま歩きたくないし、お願いするか。
「んじゃ、ここの宿に泊まってたので配達して下さい」
「はい、かしこまりました」
「はーい、お願いします!」
俺はとりあえず、買い物を済ませた。
店から出ると、クリスのグゥーっとお腹が鳴り始めた。
「ん?腹減ったか?」
「うっうん……丁度お昼だし、何か食べない?」
「何食べたいの?」
「うーん、何にしようかなぁ〜?」
飲食店の並ぶ街並みをキョロキョロと見渡すクリス、そして一件のお店に目をとめた。
「ねぇリュウジ?あそこにしない?」
「ん?……えぇっ!?」
クリスが指さした店の看板には『カップル半額』と書かれていた。
見た目はオシャレな店だけど、俺はカップルと言うのに違和感を感じた。
「マジでか!?」
「マジだよ、半額だし?オシャレな感じが良いなぁと思ってさ!」
「やだよ!なんだよ『カップル半額』って!俺らそんなんじゃないでしょ!?ヤダヤダ!」
「いいじゃん!行こうよ!ちょっとだけだから!」
「他にしてくれよ!なっ?頼むから!」
「もう!時間勿体ないから早くしてよ!」
魔王と女神は店の前で腕の引っ張り合いになり、店の中にいた他のお客さん達に変な目で見られた。
(((うるせぇカップルだなぁ、入るなら入れよ!!)))
痛い視線を感じた俺は根負けしてクリスについて行った。店内に入り、ウェイターに案内され、クリスはメニューを開いて食べる料理を選んでいた。
「うーん、どれにしようかなぁ」
「まぁ好きな物食べたら良いじゃん?」
「良いの?」
「良いけど?」
「やったー!んじゃ〜コレ!」
「ん?」
俺はクリスの指差す料理を見た。メニューを読んでみると『カップル限定メニュー・パンケーキDX』と記されていた。そのパンケーキは…座布団並にデカかった。
「クリスさん、1人で食うの!?」
「まさか!リュウジもだよ!」
「俺も!?」
「なにー?あたしとじゃ嫌なの〜?」
ムスッとしながらクリスは俺を見つめてくる。
パンケーキを2人で食べろと!?女神と魔王でパンケーキをシェアしろと!?マジで言ってんのこの子!?上等だよ、やややってやろうじゃねぇかよ!見てろよパット入り盗賊がぁ!
リュウジは口笛を吹き、店員を呼び寄せた。
「ピュ〜イ♪テーンインさぁん!」
「えっ!?なに!?」
クリスは急に口笛を吹き始めたリュウジに驚きザワザワし始めた辺りを気にし始めた、クリスとリュウジに痛い視線が突き刺さる。
「ピュ〜イ♪テーンインさぁ〜ん?」
「えちょっやめて!?みんな見てるから、周りめっちゃ見てるから!」
「ピュ〜イ♪テーンイン」
「やめろぉ!!」
スパァン!
クリスはメニュー表で思い切り俺の頭を引っぱたいた。
「いったぁ〜」
「いったぁ〜じゃないよ!何してるのさぁ!恥ずかしいからやめてよ!なんなの?バカなの!?」
「バカじゃないよ!店員さん呼ぼうとしただけだもん!」
「普通に呼んでよ!なにカッコつけて口笛吹いてんのさ!」
「カッコイイでしょ?」
スパァン!またクリスに引っぱたかれた。
このメニュー表結構固くて痛いんだけど……。
「いっつ〜」
「カッコつける所間違えてるから!早くパンケーキ頼んでよ!」
「はいはい、すいませーん!」
ウェイターさんはさっきの口笛を聞いていたのか、とても嫌そうに俺達に近付いて来た。
「このパンケーキ下さい」
「はい、お飲み物は如何しますか?」
「アイスコーヒー1つと、クリスなにか飲む?」
「んー、後で頼むから良いや!」
「とりあえず、この2つでお願いします」
「はい、少々お待ちください」
──────────────────────
「お待たせしました〜パンケーキDXでーす」
「「でかっ!」」
クリスと俺の間には座布団並にデカいパンケーキが現れた。
「うわ〜おっきいねぇ〜!」
「2人で食えるかコレ!?ネフェリアちゃん呼んで来いよ!」
「とりあえず食べよーよ、いただきまーす!」
「いっ……いただきます」
俺はナイフとフォークを使い、クリスと自分の分を切り分けた。クリスは目をキラキラ輝かせていた。
「モグモグ……んふぅ〜♪おいひ〜♪」
「マジ?モグモグ……たひかにうまい」
クリスの口の中にいっぱいにして嬉しそうに食べいた。俺はアイスコーヒーを飲みながらクリスを眺めていた。モグモグとクリスは食べ、俺はチラッと外を眺めた。ふと、再びクリスの方を見ると……奴は俺のアイスコーヒーを飲んでいた。
「おいっ!何で飲んでんの!?」
「ズズ……喉乾いちゃってさ、あはは!」
「あはは!じゃねぇよ!飲みたいなら頼みなさいよ!あっ……」
俺は気付いてしまったコップに刺さってるストローは一つだけ、テーブルにも他にストローは無い事に……。クリスさん、また無意識に関節キスしてるんですけど……?ここで言ったらどうなんだろう……。
「ねぇねぇ?」
「チューチュー……何?」
「弁当の時から気になってたんだけどさ?クリスって気にしないの?」
「ん?何を?」
クリスはストローをチューチューしながら首を傾げた。
まだ気付いて居ないご様子。
「かんちゅーとか気にしないタイプ?」
「かんちゅー?」
「関節キスね?略してかんちゅ〜」
それを聞いた途端クリスさんは顔を真っ赤にし、無言でアイスコーヒーを俺に返して来た。
(今気付いたのかよこのタコォ!、こっちまで恥ずかしいじゃん!)
────────────────────────
1時間後、巨大パンケーキを食べ終え、クリスは俺の顔を1度も見ずに店から逃げる様に出て行った。
「何も逃げる事ないじゃん……」
「だっだっだって……」
クリスは恥ずかしそうに俺から目を逸らし、俺はとりあえず気を紛らわす為に次に行く所を決めた。
「んじゃ〜今日最後に映画でも見る?」
「え……えいが?」
「あっそっか、知らないかぁ〜、えーっと劇って言えば良いかな?どう?時間も時間だから行かない?」
「劇かぁ〜、うん!行く〜!」
ホッ…テンションが戻った様だな、これで締めくくればまぁ良い方かな
そして、劇場に辿り着いた2人は何を見ようか劇を選んでいた。
まぁここは普通なら恋愛物を観るべきなんだろうけどぉ……またさっきのぶり返しそうだからなぁ……ん?
リュウジはとある劇に目を止めた。
「『殴って解決ポチョムキン男爵』…ってなに!?」
「あー!なんかカズマさんとめぐみんが見て楽しかったって言ってたよ?」
えっ待って?カズマとめぐみんってそんな仲なの!?
「カズマとめぐみんの仲が気になるけど、見てみる?」
「うん!見てみる!」
2人はチケット、ポップコーンを買って席に着いた。数分後、劇が始まった。
なんだろう……男爵のあのしゃくれ具合い…見た事あるような?
まじまじと見ていると、ポチョムキン男爵が観客をイジり始めた。
「元気ですかー!元気があれば何でもできる!、今から全員1度ずつ殴ります!」
「お願いしひます!」
「お願いしゃす!」
「よーし、行くぞっ!ダッシャ!ダッシャ!」
ポチョムキン男爵は観客の男女を殴り始め、女子供関係なく殴り続ける。
カズマとめぐみんはこんな劇が面白いと思ってたのだろうか?そして観客の人達も何故しゃくれてるのだろうか?
ポチョムキン男爵は遂に俺達の所までやって来た。
「リュウジリュウジ!こっち来た!」
「むっ?お前いい面構えしてるな!」
「えっ俺……!?」
ポチョムキン男爵は俺を立たせて、真正面に立った。
「お前はいい面構えをしているから3発殴ります!」
「えちょ、待って!?なんで俺だけ3発!?」
「あははははは!リュウジだけ3発〜!」
クリスはポップコーン片手にゲラゲラ大笑いしている。
笑ってないで止めてくれ!何この理不尽!?
「青年よ、準備は良いか!」
「マジで!?マジで殴んの!?ちょっと待っ──」
「ダッシャ!」
バチーン!
「いったぁ!まって!地味に痛いんだけど!?」
「あと2発行くぞっ!いっちょ前にデートなんて生意気だ!」
「デートだらかって3発──」
「ダッシャ!」
バチーン!
「ってぇ……」
「さぁ最後の1発いくぞっ!お腹に力を入れて!」
「あーあ、頬っぺ赤くなって来ちゃったよ〜?逃げよっと」
クリスは俺の声のトーンが低くなったのに気付いてそそくさとその場から離れて様子を伺う。
すいません、流石の俺も我慢に限界があるんだけど……、普通の王道的イケメン主人公なら我慢するだろうけどさ、俺……魔王だよ?我慢しないよ?
観客もやり過ぎだろって感じで見ている中、ポチョムキン男爵は手を振りかざした。
「さぁいくぞっ!ダッシャ!」
バチーン!
俺は遂に我慢の限界が来てしまった。
「………………」
「これで1年間健康に過せますからね!最後にお客さん、1発俺を殴りなさい!」
「え?良いんすか?」
「流石に3発はやり過ぎた、サービスしてやる!さぁこい!」
俺は首をコキコキ鳴らし、拳を構え、ポチョムキン男爵の顔面目掛けて殴った。
「ふんっ!」
ドゴンッ!メキメキ……ドカーン!
俺の拳がポチョムキン男爵の顔面にめり込み、そのまま床に叩き付けた。クリスはやっちゃった〜という顔をしながら顔を隠していた。
───────────────────────
その後、劇は無事に終了し、俺達は劇場から出て来た。現在、劇場のエントランスの隅で正座してクリスに頭をポコポコ叩かれながらお説教をされていた。
「本気で殴っちゃダメでしょ!?ポチョムキン男爵の人「調子に乗ってすいませんでした」ってガタガタ震えて怯えてたじゃん!」
「だって地味に痛かったんだもん!俺はダクネスじゃねぇぞ!?俺TUEEEE主人公じゃねぇんだぞ!!」
「もう!……そろそろ夕方だね、今日は色々あったけど退屈しないで楽しかったよ!」
「そうか?なら良かった」
街中を歩いていると、クリスはキリッと顔を切り替えた。
「デートも楽しかったし、気合い入れてベルゼルグ城に忍び込まないとね、なんとかカズマさんを説得してみるよ」
「うん、分かった、俺も一旦アクセルの街に戻って金獅子を探してみるよ」
「え?戻れるの?」
「うん、ゆんゆんに『テレポート』教わったからね」
(本当はアルダープの執事の人に教わったんだけどね)
クリスは驚きながら俺を揺すぶって大声で叫び出した。
「え!?いつ!?いつそんな便利な魔法覚えたのさ!」
「大分前だよ、用が済んだら戻って来るから、なっ?」
「うん、分かった、金獅子くんによろしくね?」
「おう、任せとけ!」
正直つらい……相棒のクリスには正体を言うつもりだったけど、まさか城にまで潜入しようとしてるなんてな、もし捕まったりしたら処刑だよな…ここはクリスだって分からない様な”装備”を作ってやるか……。
そう心に決めた俺はクリスと別れ、宿に戻って素材屋の荷物を受け取り、アクセルの街へ一旦帰った。
今回登場したポチョムキン男爵と言うのはドラマCDに収録されていたカズマとめぐみんが一緒に見た劇のキャラクターです。大御所プロレスラーを意識してたのが分かったので爆笑していまいました。