クリス達を先に行かせ、『黒き夜の疾風』と呼ばれる人物と鍔迫り合いになった俺は争い事を避ける為に声を掛けた。
「大事にしたくない、話をさせてくれないか?」
「ぷふー……侵入者ってあんたかー。ってかまたかよ、またあんたかよ、もはや運命かよ」
こっこの声、なんか聞いた事があるんだけど……
「あーごめ、顔隠してるから分かンないか」
「まっまさか……」
「うちだよ、金兄さん」
黒き夜の疾風は顔を隠していたローブと口元の布を外した。すると、そこに居たのは以前何度か会った事のあるクロエだった。
「クックロエちゃん!?」
「うぃっす、てか正義の味方が堂々と泥棒っすか?」
「ちっ違うんだ!これには訳が──」
ドガッ!
俺は訳を説明しようとしたその時、油断した俺は膝蹴りを繰り出され、バランスを崩されてそのままマウントを取られた。
「正直……見損なった、あんたにゃガッカリだわ」
「待ってくれクロエちゃん、ここの屋敷にはとんでもない物があるんだ」
「そんなのうちにはどーでもいいンだけど、あんたはどんだけうちのバイト先潰す気なん?」
「そうではないっ!たまたまだっ!我は君とは争いたくない、頼む、ここは退いてくれ!」
「いや無理っしょ、ここ守るのがうちの仕事だし」
そう言ってクロエは武器を納めるどころか突き付けて来た。彼女はどうあっても退かないらしい。
致し方ない…クロエちゃん、ごめん!
俺は何とか手をかざし、手のひらをクロエの顔に向けた。
「ごめん!『フラッシュ』!!」
「きゃぁっ!」
フラッシュの閃光により体勢を崩しながら可愛い声を出したクロエを押し退け、クロエを抑え込む事に成功した。
「こんな事はしたくないのだが……」
「ちっ!ぷー、やるじゃん…わーった、うちの負け、先に行きなよ」
「なに?」
「いやだから、うちの負けにしてあげるから先に行きなよって、抵抗虚しくやられちゃいましたって言えば依頼人も文句ないっしょ」
「いやまぁ、そうだが…」
「大丈夫だって、ほら早く行き」
良いのか?これで良いのか?
「行かせてもらえるなら遠慮なく行かせて貰う…本当にすまない」
「謝るくらいならやんなし、うちから見てあんたの評価はこれ以上下がんないから大丈夫、最低どころか、地獄の底まで下がってるから」
評価が最低を超えて地獄!?……えぇ、めちゃくちゃ嫌われた…。
若干へこみながら俺はクロエを正門に残し、クリス達を追った。そのままアイギスの部屋に辿り着くと、こっちもこっちでめちゃくちゃ盛り上がっていた。近付いて見ると、変な結界が張られてる部屋の中でアイギスとカズマ達が言い争っている所だった。
あれ?なんで音や声が聞こえないんだろう?この結界のお陰かな?
俺はとりあえず結界の中に入り、喋る鎧とクリス達のやり取りを黙って見つめた。
《ちょ!待て!分かった!取引だ!取引をしようじゃないか!お前らは俺の力が欲しいんだろ?だったら俺に相応しい持ち主を見つけてくれ!、そしたら黙って協力してやるからよ!な?多少妥協はするから、頼むよホント!》
「それは俺達が最初に来た時に言うべきだったな!もうおせーんだよ!バーカ!お前の持ち主は男に決まってんだろ!素人童貞で殴る蹴るで無双している男がてめぇの持ち主だ!覚悟しとけよ!」
いやそれ俺じゃん
《ざっけんなよゴラァ!おい止めてくれ、お前も鎧だったらボンキュッボンのお姉ちゃんが良いんだろ?男より可愛い女の子の方が守りがいがあるだろ?》
「そりゃまぁ……すごく同意出来るけど、お前のせいでエラい目に遭わされてんだからな?都合良くお前の要求が聞いてもらえると思うなよ!ばーか ばーか」
「じょ、助手くん、落ち着いて?あたしが言う事じゃないけど、鎧相手に大人気ないよ……」
《ア゛ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!イヤァァァァ!イヤダァァ!女女女!着られるならぜ〜ったい女が良い!ツンデレでもヤンデレでもロリでもこの際良いから女がイイ!分かってんの!?俺を着るって事は汗かくんだよ?汗まみれの野郎を包む俺の気持ちを考えてくれよ!》
悲痛に叫ぶアイギス。ここまでくれば大人しくするだろうと思い、俺は2人に声を掛けた。
「随分盛り上がってるな」
「金獅子くん!?あの人は大丈夫だったの!?」
「あっああ、問題ない」
黒き夜の疾風と顔見知りだなんて言ったら、2人はなんて言うだろう…
そうモヤモヤしているとカズマが俺を指さす。
「金獅子さん無事だったか!ほら、アイギス、お前の持ち主になる男の知り合いが来たぞ?だからもう諦めろ、ちなみに帰る途中に騒いでも無駄だぞ?クリスが持っているのは弱い魔法を通さない風呂敷だ。こいつでお前を包み込んでテイクアウトしてやるからな!注文多いんだよ!金獅子さん鎖を外すのを手伝ってくれ」
「あい分かった」
俺とカズマは拘束具の鎖を外しに掛かる。そしてアイギスを縛っていた最後の鎖を取り外したその時……。
《ウラァッ!オラァッ!》
アイギスが一瞬の隙を突いてカズマの顎に渾身のワン・ツーを繰り出し、カズマを吹っ飛ばした。それを目の当たりにした俺とクリスは慌ててカズマに駆け寄る。
「おいっ大丈夫か!?」
「いつつ……今日は殴られっぱなしだな」
「助手くん大丈夫!?って、ちょっと!キミ、なんで動けるのさ!?」
カズマはフラフラ顔を擦りながらアイギスを見つめる。
《決めた、今決めた。俺、旅に出るわ。俺を着られる美女を求める為に旅に出る事にしたわ。屋敷のメイドさん達に毎日ピカピカに磨いてくれる日々も悪くなかったが、またお前らに来られても困るしな。俺は……自分のご主人様は自分で探すわ》
「なんだと!?」
「旅に出るったって……」
クイクイと準備運動をし始めるアイギスを見てクリスは必死に頼み込む。
「ちょっと待ってよアイギスくん、この世界にはキミの力が必要なんだよ!新しいご主人様が見つかるまででも良いなら、あたしが着るから……お願い、協力して!」
《Fuck you!男なのか女なのか区別もつかん盗賊に着られて何が嬉しいってんだ!俺は自分のご主人様は自分で探すって言ったばかりだぞ?……そんなに言うなら俺との相性チェックしようか?》
「え?相性チェック……?」
アイギスはそう言うと、舐め回す様にクリスを見つめた。
「ふむふむ……顔の造形Aランク、職業適性Cランク、胸のランクは……論外ですわ。残念ですが今回はご縁が無かったという事で」
おおぅ……怒涛の煽りラッシュ
それを聞いたクリスはプルプル震え始め、手をかざした。
「むっかぁっー!こっちが下手で出てれば!それなら実力行使で行くからね!『バインド』!!」
「おっおい!銀髪っ!待てっ!」
俺の静止に聞く耳も持たず、マジ切れしたクリスはバインドを放ってアイギスを拘束しようとした。アイギスはそのワイヤーを黙って見つめる。
「お?このワイヤーで何するつもりなの?なんなの?これで縛り上げて欲しいんすか?あらあら、顔に似合わずお盛んな趣味だねぇ?」
どうしたと言うのだろうか?、クリスが放ったバインドがスルッと落ちた。アイギスはそのまま首を傾げるクリスをさらに呷る。
「おい、銀髪?何を遊んでいるのだ?」
「遊んでいないよ!、もう一度!『バインド』!!」
「お頭、手伝います!『バインド』!!」
カズマもクリスに続いてバインドを放った。だが、またスルッと落ちた。
《性懲りも無くこんなもん投げ付けて来んなよ。まだ分かんねぇのか?俺をなんだと思ってんの?伝説級の聖鎧アイギスさんですよ?この世で最も強度を誇るんだよ?魔法も効かないし、スキルも効かない。更には持ち主の傷を自動で癒す事も出来るんだよ?最強なんだよ?おめーら見たいなコソ泥に負ける要素がねぇなぁ!はーっはっはっはっー!》
この野郎……ペラペラとやかましい!!
「スキルも魔法も効かないなら自力で拘束すれば良いだろ」
そう言って俺はワイヤーをカウボーイの様にブンブン振り回し、投げ縄状態にした。アイギスは俺に向かって空手の様なポーズを構える。
《お?なんだ?お前もやんのか?俺の拳は文字通り鉄拳なんだぜ?正しく全身武器なの───うぇっ!?》
喋ってる間に俺はワイヤーを投げ、締め付けた。
「ふんっ、減らず口を……なら我1人で貴様の相手をしてやろう」
《てってめぇ!》
ワイヤーを投げ縄の様に投げてアイギスを捕まえた。俺はギリギリとワイヤーを引っ張り始めた。
「貴様ら、我が抑えておく、早く他のワイヤーで拘束してしまえ!」
「おっおう!金獅子さん!お頭!腕を引っこ抜いてバラバラにしてやりましょう!この際頭以外持って帰ればリュウジも着れるっしょ!」
《おい!コラ!物騒な事言ってんじゃねぇよ!継ぎ目ひとつ無いこの純白なボディーは分解不可能、ご主人様が鎧を装着する際には『キーワード』を唱えて装備すんだよ。俺を運びたいなら着てった方が無難じゃねぇか?ちなみに、鎧を装着するキーワードは『鎧少女にあたしはなるっ!』だ!。さぁ!言ってごらん!リピートアフターミー!》
「よっ鎧少女にあたしは……」
「銀髪、やめておけ……騙されてるぞ?そんな陳腐な言葉なわけが無いだろ?早くしろ、コイツ何気に力が……!!」
ワイヤーを引っ張る俺や、押さえ付けるカズマ達をズルズルと引きずり始めるアイギスは無理矢理部屋から出ようとしている。
「このままでは不味いぞ!?」
「お頭、結界から出たら消音効果の魔道具が効かなくなる!」
「ああっもう!いい加減にしなさいアイギス!私はエリス。この世界を管理する女神エリスです!私にはあなたを管理する義務があります、一緒に来なさい!」
俺はエリスの怒鳴り声を聞いて無意識にビクッと体をさせる。
ひぇぇぇ!エリスが激おこだよ!
アイギスはピタッと立ち止まり、振り向いた。
《これはこれはわざわざ自己紹介ありがとうございます。可愛い顔してるのに残念な性格してんなぁ、妄想癖のある人って怖いよね、やっぱり人間中身も大事だって分かったわ、気を付けます》
「なぁにおおおおおお!」
女神だと信じて貰えず、挙句の果てには妄想癖のある人と思われたクリスは激昴する。
「銀髪落ち着つけ!挑発に乗るな!」
「鉄くず野郎は2人もいらないんですけどぉ!?なんなのコイツ!!リュウジより口悪いんだけど!?」
《はぁーあーあ、さてと御三方、お別れだ。そんなに俺が欲しいなら、まず男を引き留められる魅力を付けるこったなお嬢さん。具体的な事を言うと、胸だな。貧乳はステータスとか言うけど、俺に言わせれば寂しい言い訳だぜ?》
「ウキィィィーー!」
「落ち着いけって言ってる──ブフッ!」
「笑った!金獅子くん今笑ったよね!?キミもアレか、デカい方が良いのか!?」
クリスはアイギスにしがみつきながら顔を真っ赤にして俺に八つ当たりをしてくる。アイギスはと言うと引きずったまま隠し扉を通り、部屋から出てしまった。
《アンダイン家の諸君!長い間クソお世話になりました!誠に勝手ながら聖鎧アイギスさんは新たな
なんちゅうデカい声!頭が割れそうだ!
アイギスは耳を塞ぎたくなる程の強烈な念話を轟かせる。
《どけどけ邪魔だ!────やった!自由だ!俺は自由だ!俺ちゃん今日から羽ばたくよ!アイギスキィーック!!》
俺達を振りほどき、アイギスは宝物庫を駆け抜け、窓から飛び蹴りを放って逃げ出した。外にいたクロエもびっくりして駆け抜けるアイギスを呆然と見ていた。それと同時に屋敷に中に明かりが灯り、住民が騒ぎ出した。
「何事だ!?また賊が現れたのか!?警備の連中は何をしている!」
「今のは聖鎧アイギスの声です!宝物庫のご確認を!」
不味いぞ!?クロエや住人がこっちに来る!
俺達が前回侵入した窓から脱出しようと試みた所、窓は厳重に塞がれており、壊せそうに無かった。
「お頭!金獅子さん!不味いぞ!?」
「窓が塞がれている!こうなったら正面突破しか……」
「そうっすね、なら本気出した俺と金獅子さんで正面突破するしか」
そう言って俺とカズマは戦闘態勢を取っていると。
「まだ慌てる事ないよ。大丈夫、何とかなるから。あたしを誰だと思ってるのさ!幸運を司る女神だよ?」
クスクス笑うクリス。
そりゃ分かるけど……。それとも何か起こるのだろうか?
その時、窓の外が突然光り、それと同時にとてつもない衝撃が走り、屋敷の窓という窓が砕け散った。
「なっなんだアレは!?」
「ほら!今のうちだよ!2人とも逃げるよ!」
「コレは紛れも無くめぐみんの爆裂魔法だ!よくわからないけど助かった!今のうちに逃げましょう!」
アレ……外にクロエ居たよな?大丈夫だったかな……
カズマ、クリスの順に脱出し、最後の俺はスピードを緩めて立ち止まった。クリスは振り返り、声を掛ける。
「金獅子くん!?どうしたの!?早く逃げなきゃ捕まるよ!?」
「先に行け銀髪、我は先程の黒き夜の疾風が気になる、様子を見てから脱出する」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ!捕まっちゃうよ!?」
「問題ない、行け!」
「うっうん……気をつけてね!」
クリス達を見送り、俺はそのまま正門に向かった。そこには、爆風で吹き飛ばされたクロエが横たわっていた。
「クロエ!おい、クロエ!」
「うっ……ん……」
良かった、気を失ってるだけの様だな…。幸い住人は爆裂魔法に気を取られてる、中に運んで置けば大丈夫だろう。
俺はそのままクロエをお姫様抱っこをして運び、破片が落ちてない場所へ寝かせた。クロエを安全を確認した俺は遅れて屋敷から脱出した。家に辿り着くと、クリスの部屋に灯りが付いていた。
やべっ!今回はクリスの方が早かったかっ!どうしよっ、どうしよっ!
屋根から様子を伺っていると、ネグリジェ姿のペコリーヌが窓を開け、こっちから入って来いと言わんばかりに手招きをしている。
色々気になる事があるけど今は金獅子の正体をバレる訳には行かない!別に、ペコリーヌの部屋が気になる訳とかじゃないから!緊急事態なだけだから!
俺はシュババッとペコリーヌの部屋に転がり込んだ。
「はぁ……はぁ……助かったよ、ペコリーヌ」
「おかえりなさい、クリスちゃんは今着替えてる所のようですよ?」
「俺の部屋に来た?入ったりしてない?」
「はい、早々と寝床に付いたと言ってあるので大丈夫ですよ?」
「そうか……良かったぁ〜」
ヘナヘナとへたり込むと、ドアがノックされた。俺は慌ててベッドの下に隠れて潜伏を発動させ身を隠し、ペコリーヌが対応し始めた。
「ペコリーヌ?なんか凄い音したけど?どーかした?」
ドアからはクリスの声が聞こえて来た。
「あっ!いえ!ちょっとベッドから転げ落ちただけです!大きな音立ててごめんなさい、クリスちゃん」
「そっか!んじゃ、あたしも寝るね?」
「あっはい!おやすみなさい!」
「おやすみ〜」
クリスはパタパタと自分の部屋に戻って行った。それと同時に俺は潜伏スキルを解除し、ホッと胸を撫で下ろしベッドの下から這い出て来た。
「焦った〜」
「どうやらまた失敗した見たいですね、やばいですね☆」
「うん、聖鎧アイギスは意志を持ってる奴でさ、男の主人は嫌だって駄々こねるんだよ」
「そうなんですか〜、ならわたしが着ちゃいますか?」
そりゃペコリーヌが鎧着れば俺やカズマなんて目じゃないしね?
「けど、クラスはソードマスターが必須なんだってさぁ〜」
「えぇ!?ルーンナイトじゃだめなんですか!?」
「うーん、実際本人に聞いてみないとね、こちとら聖盾イージスを持ってんのになぁ……どーしたもんかね」
俺はやれやれと言う感じで呆れた顔をしながらペコリーヌに愚痴を零す。
「さて、クリスに見つからなかった事だし、自分の部屋に戻るね」
「あっ、もう戻っちゃうんですか?」
「うん。戻るよ?」
ペコリーヌはニヤッといたずらっ子の様な笑顔を浮かべる。
「助けてあげたんですから、何かお礼してください♪」
「えぇ!?お礼って言われてもなぁ……」
俺が困った顔をしながら考えていると、ペコリーヌは耳元で囁いた。
「今夜……わたしと一緒に寝てくれませんか?」
「ふえぇ!?」
俺は今まで出した事のないくらいに上擦った声を出した。
若干クロエっぽくないと思いますがご了承ください!アイギスの口調はデッドプールをイメージして見ました。