アルカンレティアから帰って来てその翌日、俺は目を擦りながらベットから起き上がって辺りを見渡すと直ぐに異変に気が付いた。
白いゴミが少し大きくなってる…。
少し恐怖を感じ取った俺は浴室に向かい、鏡で自分の眼を見てみると、そこには…紫色に輝く瞳が少し白く濁っていた。
「なっ、何これ……視野が狭くなってる」
これってもしかして、『白内障』ってヤツじゃねぇか!?
【白内障とは。発症する原因によって、いくつかの種類に分類されるが、水晶体が年齢とともに白く濁って視力が低下する加齢性の老人性白内障は大半を占める。水晶体は、目の中でカメラのレンズのような役割を担っており、外から入ってきた光を網膜にピントを合わせる働きがある。もともとは透明な組織だが、このレンズの役割を果たしている水晶体が白く濁ってくる病気が白内障である。水晶体が白く濁ってしまうと、光が網膜に届けられなくなり、眩しさや視力低下と言った症状が現れ、水晶体の周囲から濁り始め、徐々に中心に向かって濁りが進行する。その為、白内障の初期段階では、ほとんど自覚症状がないが、白内障が進行するにつれて、徐々に自覚症状が現れる。】
日本にいた頃のドラマや医療系の番組で聞きかじった知識が頭に過り、ゾッと顔を青ざめた俺は慌ててコッコロを探し始めた。
コレはまずい非常にまずい、ってかヤバい。
「コッコロ!コッコロちゃんいる!?」
リビングに駆け込んで俺はコッコロを探し始める、大声を聞いたペコリーヌとマリューが近付いて来た。
「リュウジくん、どうしたんですか?」
「何をそんなに騒いでるんですか?おもらしでもしちゃったんですか?」
誰がおもらしなんかするかよ、いい歳して!
「ってふざけてる場合じゃねぇよ、コッコロちゃんは!?」
「わたくしならここにおりますが…?」
キッチンからひょっこりとコッコロが顔を出す。体半分見えてないが、コッコロの声が聞こえた方向を向く。
「コッコロちゃん、俺の眼にヒールかけてくれない!?」
「えっ?あっ、はい……」
「どうしたんですか?眼に何か入ったんですか?」
「それならどれだけ楽か…俺の目を見てくれよ…」
「えっ?どれどれ見ちゃいますよ〜?」
ペコリーヌが俺の顔をクイッと持ち上げて両目を観察し始めた。事の状況を把握したのか、ペコリーヌもゾッと顔を青ざめた。
「紫色に輝いてたリュウジくんの眼が…半分白くなってます……」
「えっ?……リュウジ様!?何があったんですか!?」
「俺にも分からない……あっ、まさか……アルカンレティアの魔王軍幹部と戦った時に何か関係があるのかも?」
記憶を辿って行くとこうだ。恐らくハンスとの戦闘で俺はハンスにこめかみを掴まれた時の事を話した。
「あっ、そのハンスって幹部に一騎打ちした時リュウジくん負けたんですよね?相手はデッドリーポイズンスライムって言ってましたけど?それに関係が?」
「恐らく…皆がハンスに触った途端溶けるって言ってたけど、俺は物理耐性スキル、状態異常耐性スキル、魔法耐性スキルも持ってるから大事には至らなかったんだけど、なんで今更…?」
「兎に角ヒールをかけませんと!リュウジさまの目が悪くなってしまいます!」
コッコロは目線を同じ高さにさせる為に俺に膝を付かせる。それと同時に俺の両目にヒールを掛け始めた。
数分後…。
「はっ、はっ…わたくしの魔力ではこれが限界でございます…いかかでしょうか?」
コッコロに尋ねられた俺は辺りを見渡すが白い濁りは取れなかった。ヒールが効かないという事態に見舞わられた俺は冷や汗を描き始める。
ウソだろ…ヒールが効いてねぇ!?
「ダメだ、濁りが消えてない……マリュー、今すぐアクアを呼んできてくれ、マジでヤバい」
「わかりました、寝てても叩き起してでも連れてくるので待ってて下さいね!?絶対目を擦ったりしちゃダメですからね!?」
そう言い残し、マリューは家から飛び出してアクアを呼びに出て行った。ペコリーヌは心配そうにしながら俺に声を掛ける。
「大丈夫ですよ!きっと良くなりますから!」
「あはは、気休め程度で受け止めておくよ…今日も美食殿に行くんでしょ?俺は大丈夫だから行ってきなよ。コッコロちゃんも気にしなくて良いから、アクア呼んだし、大丈夫だから」
「はい…お役に立てず申し訳ございません…」
コッコロは今にも泣きそうな顔をしながら何度も頭を下げる。だが俺はコッコロを責めずにコッコロの頭を撫でた。
「気にしなくていいって、コッコロちゃんが悪い訳じゃないから、ね?ほらほらー、今日も子供達が腹空かせて待ってるから美食殿は頼んだよ?」
「リュウジくん……」
3人で重苦しい雰囲気を醸し出していると、玄関がノックされた。
「おざーす、面接に来たんですけど〜?」
ん?誰か来たな。
「あの、ペコリーヌ?今玄関から聞き覚えのある声がしたんだけど?」
「あっ!そうなんですか!?実は、リュウジくんがアルカンレティアに出発した日に新しいアルバイトしたいって子が来たんですよ」
「マジで!?、コッコロちゃん、俺は良いから入れてあげて」
「はい、かしこまりました」
コッコロが玄関のドアを開けるとそこには、黒き夜の疾風こと、クロエが立っていた。クロエを見た途端ペコリーヌはクロエの手を引いてリビングに招き入れる。
「リュウジくん、この子が新しく入りたいと言っていた子です!」
「はじめまして、クロエ…で…すぅ?」
「はいはい。はじめまして、鋼のリュウ…──!?」
「「あぁ!?」」
「むむっ!?リュウジさま?どうされました?」
「奇跡の再会ですか?ヤバいですね☆」
クロエと俺は互いに指を差し合い、声を上げた。ペコリーヌとコッコロは首を傾げる。
「また女の子のお知り合いですか、リュウジさまはお知り合いが多い様ですね」
「ちょ待って待って、え?何?オーナーってあんたなの?」
「あはは…そうです」
「マジか〜、これは運命か?運命なのか?もはや青春ブタ野郎なのか?」
「青春ブタ野郎って何!?、まぁまず座りなよ?」
「さぁーさぁークロエちゃん!座って下さい☆」
「あっはぁ…」
ペコリーヌに促されてクロエは椅子に座った。俺もコッコロの手を借りて椅子に座る。その光景が不思議だったのか、クロエは首を傾げる。
「えっちょ…あんた眼…良くないの?」
「うん、ちょっと魔王軍幹部とやり合ってねぇ、その影響あって目の調子が悪いんだ。けど、クロエちゃんのバイト代には悪影響はないから大丈夫だよ?」
「いや別にそこは心配してないけど…ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!今日から働いてくれるのかな?」
「まぁ、そうっスね」
「んじゃ、バイトは初めてじゃないだろうから色々省くね?。手短な面接になっちゃったけど、分からない事があったらペコリーヌやコッコロちゃんに聞いてくれる?」
「うぃーっす」
「んじゃ、ペコリーヌ、コッコロちゃん。エルフ同士仲良くやってね?」
「承りました」
「はーい♪だけど、リュウジくんも無茶せずにしてて下さいね?」
「分かった分かった」
空返事をしながらエルフ3人組を送り出し、マリューの帰りを待った。それから1時間後、寝起きだったのかボサボサ頭のアクアが眠そうな顔をしながらマリューに担がれながらやって来た。
「リュウジ様、お待たせしました!」
「ちょおっと〜私まだ眠いんですけどぉ〜?」
「ごめん、アクア。悪いんだけど最大威力の『ヒール』を掛けてくれないか?ちょっと目が悪くなってさ……」
「えぇ?何ぃ?ちょっとそこに座って見せてご覧なさいよ」
そうアクアに言われて俺は椅子に座りアクアの診察が始まった。指でまぶたを広げたり、引っ張ったり、フッーと息を掛けてみたりされると診察が終わった。だが、アクアの言葉からありえない結果が出た。
「これは不味いわね、水晶体の一部が溶けててスポンジみたいに穴が空いてるわ」
え?どゆこと?
俺とマリューはアクアの答えに納得がいかない為、アクアに詳しく聞く。
「アクア様、それはホントなんですか!?」
「おい、どういうこった!?お前のヒールなら治せるだろ?」
「無理よ」
なんでよ!
「ふざけんな、テメェ女神だろ!?ちゃんと説明しろ緊急事態なんだぞ!?」
「そうじゃないわよ!女神は女神でも私はあくまでも水の女神、いくら私でも中途半端に消化されて溶けたものは元の形を知らないと治せないのよ!」
「マジかよ!?んじゃ俺このままって事か!?」
「そっそうなるわね…、けど簡単よ!眼が見えなくなる前に魔王を倒しちゃえば後は目が見てなくなってものんびり隠居生活してればいいじゃない!」
んな事出来るかぁ!
俺は絶望を感じ、頭をぐしゃぐしゃに掻きむしる。アクアはとばっちりを食らう前に退散したいのか、コソコソと帰ろうとしていた。
「んじゃ、私は…そろそろ帰るわね?ごめんね?」
「あっ…はい、アクア様…わざわざありがとうございました……」
「怒鳴って悪かった、後は自分でなんとかする」
「多分だけど、目を擦ったりすると目の細胞が壊れちゃうかも知れないからね?」
「分かった、ありがとな」
アクアは気まずそうに家を後にした。取り残された俺とマリューは重苦しい雰囲気になった。
「リュウジ様……」
「あははは…まさかこうなるとはねぇ」
「これからどうするんですか?盲目のリュウジと名乗るつもりですか?」
「いや、日本にいた頃”座頭市”っていう剣士がいたけども俺はもう剣は握らないって決めたんだ……この際冒険者なんか辞めて鎧屋さんにでもなろうかな……」
流石に目が見えなくなるって現実を叩きつけられると、なんかどうでも良くなってきたな
ほぼ投げやり気味に考えていると、マリューが胸ぐらを掴んで俺の顔を殴った。殴られた衝撃で俺は壁まで吹っ飛ばされた。
「情けない事言わないで下さい!過去の話ですが貴方は私の主でもあり、正義を司る魔王だったではありませんか!この世界の魔王軍幹部にやられたくらいでなんですか?もう魔王討伐を諦めるんですか!?」
「簡単に言うな、今の俺はただの人間、かつての力も消された今は歴戦の冒険者に毛が生えた程度の実力しかねぇんだぞ?」
「だからと言って不貞腐れるおつもりですか!?見損ないましたよ!」
マリュー反発され、ぐうの音も出なくなった俺は苛立ちを隠しきれず、いても立ってもいられず、財布を持って玄関に向かった。
「なんとでもいえ、しばらく帰って来ねぇからな」
「お好きになさって下さい!もう知りませんよ!バカッ!バカッ!」
俺はバンと激しく扉を閉めると、マリューは椅子を扉をに投げ付けた。
俺は着の身着のまま出て来た俺は、むしゃくしゃして冒険者ギルドの酒場にやって来た。どっかりと椅子に座り、昼間から酒を注文しヤケ酒を始める。滅多に見ない俺の荒れた状態を見かけたルナは心配そうに見つめていた。
「はぁ〜…またやっちまった……」
頭を冷やしながら色々考えていると、同じように昼間から1人で酒を飲んで泥酔していたダストが俺に絡んで来た。
「よぉ〜?リュウジ様じゃねぇか?どうした〜?今日は可愛い女子達とは別行動なのかぁ〜?」
1人にして欲しいってのにコイツは……
「なんだよダスト、今俺はすこぶる機嫌悪ぃんだ、ほっといてくれ」
「つれねぇなぁ、お前はいいよなぁ、可愛いちゃん達に囲まれてハーレム気取ってて毎日楽しいだろ?」
あ?
握っていたコップに力が入る。
「ダスト、お前何が言いたいんだ?ハッキリ言えば良いだろ?」
「分かんねぇか?お前はカズマと同じ最弱の冒険者の癖に周りの女の子達は上級職クラス、なのにおんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずでよろしいこったな! なぁ?、たまには俺と代わってくれよ、鋼のリュウジ様よぉ?」
落ち着け、落ち着け俺、ダストはアレだ、酔ってるからああ言ってるんだ、キレるな、キレるな俺!
と自分に言い聞かせるもコップには既にヒビが入っている。
「飲み過ぎだぞ?ダスト、それにな?、俺は自分のパーティーがハーレムだなんてこれっぽっちも思った事はないぞ?」
そうダストに促すが、ダストは聞く耳を持たない。
「おいおい、鋼のリュウジさん。カマトトぶってんじゃねぇぞ?どこからどう見てもいい女ばっか引き連れてハーレム気取りだろうが?巨乳の女騎士、マジックショップの美人店主、盗賊のクリス、それに変なクマまで、しかも全員上級クラスの実力ときてやがる。さぞかし毎日、このお姉ちゃん達相手に良い思いしてんだろうなぁ?ほらっ!酒でも飲めよ!」
そう言ってたダストは俺の頭からシュワシュワをかけ始める。遂に俺はバキンとコップを握り潰した。
もう我慢出来ん!
「ハーレムハーレムうるせぇよ、代わりてぇなら代わってやるよ」
俺は立ち上がってダストに詰め寄って壁に追い込んだ。
「おうおう?なんだ?やろうってのか?最弱の冒険者、鋼のリュウ──」
「俺がどんな気持ちでやってるから知ってんのか?あ?クエストでりゃ腹ぺこ騎士が立ってて、反対の隣には目にも留まらぬ素早さの盗賊、後ろを振り替えりゃ氷の魔女と呼ばれた美人店主と怪力無双の熊、その先頭に立ってる俺のプレッシャーがどんだけのものか分かってんのか!?クソ野郎、おんぶにだっこだぁ?何処に目ェ付けてんだよテメー、おんぶにだっこしてんのはどデカいプレッシャーじゃボケコラカス!人の事情も知らねぇクセにぺちゃくちゃく騒いでんじゃねぇよこのド三流冒険者がっ!なんならテメェはこのプレッシャー耐えられんのか!?あぁん!?耐えられんならこのパーティー譲ったるわ!」
「おっおう、よっよーし、分かった!やってやんよ!後で後悔すんじゃねぇぞ!?」
「てめぇこそ、出来なかったら街中土下座させて引きずり回してやるからな!」
そう言って俺は代金を支払い、ギルドを飛び出した。
若干白くなった風景を眺めながら歩き出すと、いつの間にかいつもお世話になってるサキュバスの喫茶店に辿り着いた。
むしゃくしゃしてたし、家にも帰りたくねぇからなぁ…お世話になるか
俺は喫茶店のドアを開けると、サキュバス達がゾロゾロ出て来て出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、VIP会員のフクヤマ様、お久しぶりです」
「どもっす、今夜お願いします」
「かしこまりました。こちらへ」
セクシーサキュバスに案内されてテーブルに座り、いつも同じ様に記入し始める。記入している途中で俺はペンを止めた。
「あの、お姉さん、ちょっと良いですか?」
「はい?なんでしょうか?」
「あの、俺ちょっと目が悪くなってるんですよ」
「あっ、代筆すれば宜しいですか?」
「あっいえ、今夜も合わせてふた晩分料金前払いするんで明日の晩のアンケート用紙も書いて良いですか?」
「あっそういう事でしたか、構いませんよ?では、こちらをどうぞ?」
セクシーサキュバスは2枚目のアンケート用紙を俺に寄越した。1枚目は既に相手やシチュエーションなどをきめ細かく記入していおり、2枚目の記入を始めた。
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「はい、では今晩のアンケートはこちら、明日の晩は2枚目のアンケートですね?、今夜からご宿泊するお宿を確認しました。フクヤマ様、ありがとうございます」
「はーい、今夜もよろしくお願いします」
深々とお辞儀をして俺は店を後にした。